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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第二章 誕生会

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誕生会 23

 工房の扉を開くと、室内はまだ冷ややかに凍っていた。

 床も天井もすすけている。

 魔石が設置してあったのは、どうやら壁面に並べられた十ほどのゲージだ。

 かなりの量の魔石が仕掛けられていた様子が見て取れる。

 なんらかの動物を飼っていたのだろう。鉄製の檻の中に炭化した塊が転がっていた。大きさはさまざまで一種類ではなさそうだ。

 それらは例外なく焼かれて、黒焦げになっている。

「魔獣ですね」

 サーシャは呟く。

 ゲージには特殊結界が張られている。魔獣の魔力を封じるためのものだ。さらに躯には魔力抑制の器具がつけられていた。

「おそらくは、エーテルを取り出すために集められたものでしょう」

 自分が使えない『魔術』を使おうと思ったら、エーテルを高濃度で集める必要がある。

 方法はいろいろあるが、魔獣から抽出する方法は手っ取り早い。魔道塔が危険な黒魔術につながるとして、禁止している方法だ。

「魔獣を飼うことそのものが違法です。さらにエーテルを採取するためとなれば、重大な犯罪行為ですね」

「確かにな」

 リズモンドにレオンは答える。

 エーテルについてはともかくとして、少なくとも帝都内で魔獣を飼う場合は、魔術省への届け出が必要だ。

「ちょっと、待ってください。これ、生きてます」

 サーシャはゲージの中を覗き込む。

 かなり弱ってはいるが、一匹だけ呼吸しているようだ。

 見たことのない魔獣だがおそらく、水辺のものだろう。鳥に似ているが、鱗を持っていて、水と氷のエーテルを多く蓄えている。大きさはリスくらいだ。

 魔獣は普通の生き物に比べ魔術耐性がある。ただし、その分『苦手』な魔術で攻撃されると普通の生物より弱い。

 炎の魔術を使用したのは、ここで飼われていた魔獣のほとんどが炎に弱かったということだろう。

「これは、合成獣(キメラ)だな」

 リズモンドが眉根をよせた。

「水魔蛇と氷鳥の特徴を両方持っています。生き延びたのは、氷結の魔術を体内に取り込めたからでしょう」

「合成獣?」

「魔獣の脳に『標的情報』を埋め込み、暗殺に使うものです。現在は禁止されていますが、隣国エドランで熱心に研究されていたとか」

「そいつは物騒だな」

 レオンは少しだけ眉間に皺を寄せる。

「どうします? これ」

 生き延びた魔獣は完全に違法なものだ。

「標的情報を組み込まれているかどうかは確認すべきだと思います。魔道塔に運ぶべきかと」

「しかし、エドランか」

 レオンの顔は険しい。

「魔術薬剤一つで、ここまで証拠を消そうとはしないとは思ったが、合成獣とは厄介だな」

「魔術薬剤そのものは、合法ですからね」

 サーシャは頷いてから、部屋全体を見回した。

 魔術による火災をさらに魔術で強引に消化したこともあり、エーテルの状態は荒れている。

 そこら中に降り積もった魔素。

 無論、サーシャもリズモンドも魔素が比較的残らない魔術師であるが、圧倒的な魔力で制したのだから二人の魔素が環境を圧倒するのは当然のことだ。

 ゲージ以外にも魔石仕掛けられていたようだが、書棚と薬品棚は燃えてはいるものの完全に燃え尽きてはいない。

 幸い、というべきか。

 薬品棚の薬瓶は、すすけてひび割れていたものの、薬剤中の魔素はまだ感じられた。

「ダラス氏、そしてグランドール氏のものですね。そこにあるのは全て眠りの魔術薬剤です」

 サーシャは棚を指さした。

「期限切れの魔術薬剤を使用していたというのは、『事実』だったな」

 レオンが頷く。

「ここで魔術薬剤の『実験』をしていたという証拠は見つかりそうもないが」

 人に服用させて実験していたという証拠は現時点ではダラスの記録のみだ。

「ただ……今回の事件。エドランが噛んでいるのは間違いなさそうだ」

 レオンは大きく息を吐いた。



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