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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第二章 誕生会

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誕生会 6

 塔に戻ると、サーシャはレオンと別れて、自分の実験室に戻った。

 魔素というものは、放置しておけば自然にエーテルに吸収されてしまう。『証拠』とするには、薬品で固定しておかねばならない。

 そもそもグラスの中に残った魔素はとても少なく、早急な作業が必要だ。

 倒れて塔の病棟にいるラビニアの様子なども気にはなったが、意識は戻ったと聞いているし、サーシャは今自分にできることをすべきである。

 この辺りの優先順位の付け方が、サーシャが同僚などに遠巻きにされる理由の一つではあるのだが、レオンや上司のハダルからみれば、仕事相手としてはこの上もなく信頼できる部下だと思わているところだ。

 サーシャは持ってきたグラスに、魔素固定用の薬剤を流し込む。そして、安定させてから魔力遮蔽の特殊ガラスの瓶に保存した。

「さて、と」

 サーシャはゆっくりと色、形を観察する。

 かなり高位の魔術師が作った魔術薬剤に違いない。

「魔術省の登録を見ればわかるレベルかも?」

 高位の魔術師は、国で『魔素』登録が行われている。

 宮廷魔術師や軍の魔術師は、ほぼ全員、あとは、いわゆる上級と言われる魔術が使える人間は、五年に一度は、自らの『魔素』を役所に提出しないといけないのだ。

 強力な魔術の使い手は、国にとっても脅威である。

──潜りはいつの時代でもいるものだけれど。

 魔術師として登録すれば、生活の安定が見込める。潜りだとわかれば、それなりの罰則規定もある。

 ただ、魔素の提出が必要となるのは、公務員と上級者のみ。

 アリア・ソグランなどは登録があるけれども、ラビニア・エドンは登録がない。

 中級者と上級者の分かれ目は微妙な線だ。全体的には中級と呼べる者でも、一つの分野に関しては上級並みの能力を持っていることもあり、その辺の見極めは難しい。

「まあ、私も潜りになっていた可能性はゼロではないからなあ」

 サーシャは大きく息をついた。

 アルカイド家は、子爵家、少し前までは傾きかけた貴族とは名ばかりの家だった。

 それをなんとか黒字にまで持っていったのは、婿養子だったサーシャの父、ローク・アルカイドだ。

 ロークは商才のある男で、優秀なのは間違いない。

 それまで無価値のように思われていた領地にいくらでもあるキノコ『ミテチコタケ』が、隣国では高級食材として扱われていることに目を付け、国内外に宣伝し一大ブームを引き起こしたのである。

 そんな父であったから、生まれた子供である、兄も姉も貴族の子でありながら、商売人としての知識も教え込まれた。

 両親が娘に期待したのは、領地経営をさらに盤石とすることだったのに、なぜかサーシャだけは凡庸とは程遠い魔力を持って生まれたのだった。

 少し能力が高いだけであれば、貴族の婚姻には有利となる。魔力の大きさということは一種のステータスにはなるのだから。

 ただ、上級魔術師レベルになれば、かえって結婚相手は少なくなる。それだけでなく、国家に登録を義務付けられ、干渉され、職業を限定されてしまうのだ。

 両親はサーシャに魔術の専門教育を受けさせることに消極的だった。公の教育現場に出せば、間違いなくサーシャの未来が決まってしまうとわかっていたからだ。

 娘に平凡で幸せな未来を願ったのか、それとも、アルカイド家の駒として育てたかったのか、両親の意図はサーシャにはよくわからない。

 ただ、本来なら幼少期に済ませておくべき『能力コントロール』を中途半端にしか学べなかったせいで、サーシャは十歳の時、自身の魔力が暴走して死にかけた。

 その事故を経て、サーシャは『塔』に引き取られる形で教育を受けて、現在に至っている。

「令嬢としてうまくやれた自信はないけれど、商売の方なら、それなりにやっていけた気がするのよね」

 サーシャはメモを手にしながら独り言つ。

 魔力暴走がおこらなければ、あのままサーシャはアルカイド家で令嬢の礼儀作法と、商売人の知識を叩き込まれただろう。

 実家には、一年に一度帰るか帰らないかだが、特に仲が悪いわけではない。

 サーシャの適性を無視して育てようとしていたのは事実だが、両親は、サーシャを愛していなかったわけではないことを、サーシャは理解している。

 それに、結果論で言えば、サーシャが宮廷魔術師になったことで、アルカイド家に箔をつけたことにもなっているのだ。

 とりわけ姉の縁談には、良い方に転がったと聞く。

「まあ、このレベルの魔術薬剤を作れる術者が登録していないとなると、完全に違法だって理解しているやつだろうけれど」

 サーシャは肩をすくめる。

「どのみち、資料室に入れないわね」

 資料室に入るには、上司の許可がいる。

 サーシャの上司、ルーカス・ハダルは、まだ誕生会の会場にいるはずだ。

「ああ、そうか」

 もし、レオンがまだ塔にいるならば、レオンに許可してもらえばいい。何といってもレオンは第二皇子で、親衛隊を率いているのだ。ルーカス・ハダル以上の権限があることに、サーシャは思い至る。

「先に頼んでおけば良かったわ」

 自分の要領の悪さに、サーシャはため息をついた。

 サーシャは道具を片付けると、大慌てでラビニアがいるはずの病棟へと向かった。

 


 

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