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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第二章 誕生会

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誕生会 2

遅刻してしまい本当にすみません

 昼のような煌びやかな光の下、着飾った紳士淑女が『光の間』へと入ってくる。

 今日は第一皇子マルスの誕生会だ。

──何ごともなければいいのだけれど。

 白地に金糸の入った宮廷魔術師の『制服』に着替えたサーシャは、会場の片隅で周囲の様子を見回している。

 今日のサーシャの持ち場は、会場の片隅の料理コーナー付近。

 正直、ここで事件が起こるとしたら、宮廷魔術師よりせいぜい近衛兵の管轄だ。

 この『光の間』には巨大な結界を張っている。魔術を使うのは、困難を極めるだろう。

 そんな実力を持ち合わせた無謀な魔術師がいるというのなら、サーシャとしては手合わせを願いたいところだ。

 優雅な夜会の会場で繰り広げられる『戦い』は主として『舌戦』である。

 よほど目に余ることがない限り、警備は石と同様、見て見ぬふりをする決まりだ。

 ちなみに、皇室主催の夜会警備の花形は、なんといっても皇族の警備に他ならない。

 首席宮廷魔術師であるルーカス・ハダルはもちろん皇族の側に侍る。そのほかに各皇族に一人ずつ、ひっそりと護衛が付いて回るのだ。

 この場合『誰』につくかで、宮廷魔術師としての『格付け』になっていく。いつもならサーシャは、第二皇女につくことが多いのだが、今日は別の人間がついている。

 これはリズモンドの嫌がらせではなく、サーシャの意向によるものだ。

 先日、ハダルの代理を務めたサーシャは、周囲からハダルの後継者と目されている。

 第二皇女の護衛というのは、サーシャが『女性』だから任せているという経緯があるが、ハダルの後継者の仕事としては物足りない。

 本来ならば、皇太子、もしくは、皇妃。あえて言うならば、ハダルと並んで皇帝の護衛という立場が妥当であろう。

 が。サーシャは出世に興味がない。

 宮廷魔術師になったのは、『魔眼』持ちゆえ、通常の『令嬢』として暮らせないからだ。

 自分の力を発揮することは快感だが、権力闘争に巻き込まれるのは避けたい。まして、ハダルの後継者などとんでもないと思っている。

 出世欲はないが、サーシャは無能と謗られることは嫌いだ。

 ゆえに仕事はいつも全力で、だからこそ、ハダルに信用されている。

 この辺で皇族の護衛から離れて、サーシャに『野心』がないことを示しておきたいのだ。

「やあ。アルカイド君ではないか」

 不意に声をかけてきたのは、レオンだった。

 今日のレオンの上着は、金糸の刺繍が入っている礼服だ。

 豪奢で気品がありながらも、色目がこげ茶色と抑えめで、兄より目立たぬようにという配慮が見える。

「先日は君のおかげで助かった」

「その節はお世話になりました」

 サーシャは丁寧に頭を下げる。

 表情筋が死滅しているだけで、レオンは礼節を守る紳士だということはわかっていたが、警備中のサーシャにわざわざ挨拶をしてくれるとは思っていなかった。

「現在、例の件は取り調べの最中だ。詳しいことがわかったら、君にも報告を入れさせるよ」

「それは……」

「迷惑なら控えるが、君は、気になるのではないのかな?」

 少しだけ笑いを含んだ声音だ。どうやら、足を突っ込んだら、とことん突っ込みたくなるサーシャの性格を既に見抜いているらしい。

 レオンは感情が乏しいと思われているが、そうではない。表情が乏しいだけだ。

「では、守秘義務に引っかからない程度に教えて下さると、ありがたいです」

 死神皇子という名で呼ばれているが、彼は全く非道ではない。

 美形で優秀な皇子である。

 その悪意ある名前は、彼の表情筋が死滅しているところからだ。

 もっと尊重されるべき皇族のようにサーシャには思える。

 辺りを見回せば、サーシャとレオンの様子に興味を持っているかのような視線を感じて、サーシャは一つ咳払いをする。

 ルーカス・ハダルの愛弟子と第二皇子との結びつきを望ましく思わない者がいないとも言えない。

 特にマルス皇太子から見れば、不穏な印象を受けるかもしれないのだ。そのあたり、慎重に動かねばならない。

「あら。えっと、この前の魔術師さん?」

 声をかけてきたのは、ラビニア・エドンだった。胸元の大きく開いたセクシーな赤いドレスがとてもよく似合う。

 サーシャの姿に気づいて、というよりは、レオンとサーシャが一緒にいたから興味を覚えてのことだろう。

「これは、公女殿下。ご機嫌麗しく存じます」

「あなた本当に宮廷魔術師なのね。親衛隊に引き抜かれなかったの?」

 ラビニアは少しにやりとレオンの方を見る。

「そういうお話は、少なくとも私の方には頂いておりません」

「まあ。そうなの? 私の無実を証明してくれた優秀な魔術師は、親衛隊に置いておくべきじゃないの?」

「親衛隊と、宮廷魔術師なら、宮廷魔術師の方が格上で当然だろう?」

 レオンが呆れたような顔をする。

「それにハダル殿の右腕を私の側に置くと、周囲がうるさくなる」

「まあ、それはそうだろうけれど。殿下のその顔にビビらない若い娘っていうだけで、引き抜く価値はあると思うわ」

「……どういう基準なんだ」

 レオンは頭を抱えている。

 幼馴染らしいから、この二人の会話は随分と親しい。

 前に簡単ではないと言っていたが、アリア・ソグランが皇太子と結婚するなら、ラビニアはレオンと結婚すれば話が早いのではないかと、サーシャは思ってしまう。

 もっともそうすると、今度は、レオンと皇太子の力関係のバランスが崩れる可能性も出てくるのだろう。

「そうやってすぐに、政治的なことを気にして、譲ってしまいがちよ。とにかく、殿下はもっと自分を大事にすべきだわ」

ラビニアは真顔でため息をついた。

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