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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第一章 鳳凰劇場

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鳳凰劇場 26

本日2回更新(同時間更新です。ご注意ください)  1/2

「ところで、ケルトスの護送中、彼女を狙った魔術攻撃があってね」

 レオンは泣き崩れたままのマーベリックに話しかける。

「優秀なアルカイド君のおかげで、事なきを得たわけだが」

 レオンは、まるでケルトスが無傷だったかのような口調で話す。

 マーベリックは肩を震わせていたが、その話には関心がないようだった。

「アルカイド君、眼鏡を外してその()()で、マーベリックを視てくれたまえ。それではっきりするだろう」

 レオンは大袈裟に、サーシャが魔眼持ちであることを強調する。

 マーベリックの様子に変わりはない。

「わかっています。私には必ずわかりますから」

 言いながらサーシャはゆっくりと、眼鏡を外した。

 そして泣き崩れたマーベリックに歩み寄る。

 そして、その瞳を見せつけるようにマーベリックの顔を正面から見つめた。

「何を?」

 マーベリックの顔はやや引きつり気味だが、暴かれる何かを恐れているという感じではない。

 それに。ケルトスを襲った魔力の色とは明らかに違うようだ。無論、断定はできないが。

「どうだ?」

 レオンはサーシャに問う。

「違うと思います」

「そうだな」

 サーシャの答えに、レオンも同調するように頷いた。

「なんにせよ、影狼の首魁と親しくしていたのは間違いない。ゆっくり離宮で話を聞こう。マーダン」

「……影狼」

 マーベリックの顔が青ざめる。

 どうやら、ケルトスが影狼であることを知らなかったようだ。

「知らなかったのかね? 知らなければ、許されるわけではない。責任は取ってもらう」

 にやりと笑うレオンに、マーベリックは声も出ないようだった。

「終わりませんでしたね」

 マーダンに連れて行かれるマーベリックの背をみながら、サーシャはため息をつく。

「まあ、影狼の黒幕がこんなに簡単に見つかるわけはないさ」

 レオンは肩をすくめる。

「なんにせよ、エドン公爵家の無実は証明できた」

「そうですね」

 噂は簡単に消えないかもしれないが。

「とりあえず、私は宮廷に戻ってもよろしいですよね?」

「ああ。アルカイド君には大変世話になった」

 レオンは、破顔一笑した。

 いつもは強面の顔が、柔らかな春の日差しのように変わる。

 予期せぬことに、サーシャの心臓が激しい音を立てた。 

「い、いえ」

 サーシャは慌てて顔を背ける。

 死神皇子の笑みは、心臓を殴りつけるような破壊力だ。

──さすが、死神。笑顔で人を殺せるなんて、なんて恐ろしい。

 サーシャの心臓はまるで破れてしまいそうである。

「……どうかしたのか?」

 レオンはサーシャの顔を覗き込んだ。いつの間にか、その顔はいつもの無表情に戻っていた。

「いえ。なんでもありません」

 サーシャは慌てて首を振った。



 サーシャは宮廷の離れにある自分の研究室に戻り、報告書を書いていた。

 出張をしていた時にした仕事の報告など聞いてどうするのか。そんなものは、宮廷魔術師の仕事には全くかかわりがないはずなのに、とサーシャは思う。

 仕事をしたかどうか確認するなら、出向先に聞けばいいはずだ。サーシャはさぼっていたわけではない。

「あー面倒だわー」

「真面目に書きなさい。サーシャ」

 サーシャが不平の声を上げると、それをたしなめる声が降ってきた。

「ハダルさま?」

「ノックはしたからな」

 呆れたという顔をしていたのは、ルーカス・ハダル。サーシャの上司である。

 最年少で首席宮廷魔術師に任命された男だ。今年で三十歳。色素が薄く、髪は白く、目は赤い。

 整った顔立ちだが、女性のような柔弱な印象を受ける。

 もっとも彼は、この国最強の魔術師だ。

「どうだった、レオン殿下の印象は?」

 ハダルはサーシャの書いていた報告書を覗き込んだ。

「有能な方ですね。不愛想なのが玉に傷ですが」

「サーシャが、他人の愛想に言及するとは」

 くすくすとハダルが笑う。

「失礼な。ハダル様は、私をなんだと思っていらっしゃるので?」

 サーシャは思わず頬を膨らました。

「こうみえても、最低限の愛想は備えております」

 確かにサーシャは社交的ではない。だが、礼儀は備えているつもりだし、なにより表情筋はきちんと生きている。無表情(ポーカーフェイス)の権化のレオンとは違うのだ。

「いや。まあ、お前のことだ。殿下にも、平常運転だったのだろうな」

 ハダルは言いながら、胸元から手紙を取り出した。

「殿下から、礼状が届いたぞ」

「礼状?」

 サーシャは首をひねる。サーシャは職務を果たしただけだ。

「そんな顔をするな。真相に近づけたのは、サーシャのおかげだと喜んでおられるようだ」

 ハダルはサーシャの肩を軽くたたく。

「お前を紹介した私も鼻が高いよ」

「……お役に立てたなら何よりです」

 サーシャは頭を下げる。

「とはいえ、報告書はきちんと書くように」

 ハダルの駄目出しに、サーシャはため息をつく。

「親衛隊から報告してもらうわけにはいかないんですかね」

「それはそれ、これはこれ、だ」

 ハダルはサーシャの頭をポンと叩いた。


 この時はまだ、サーシャは『次』があることを知らなかった。


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