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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第一章 鳳凰劇場

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鳳凰劇場 22

 泥人形は重量感のある拳をレオンに向かって振り上げる。

 レオンは後方に飛び、その一撃を避けた。

──(コア)はどこだ?

 泥人形をはじめとするゴーレムには、核が存在する。核を破壊しない限り、その動きは止まらない。

 通常ならば、核は眉間か、胸だ。人体の急所に置く方が、術者の意図通りに動くとされている。

 泥人形は破壊力はあるようだが、足回りはそれほど早くはない。黙って殴られたならダメージは大きそうだが、避けようと思えば、なんなく避けられる程度のようだ。

 泥人形は、ゆっくりと歩を進め、レオンになぐりかかる。レオンは振り下ろした腕を、剣で切り落とした。

 どさりと、土塊で出来た腕が大地に落ちる。

 その時、泥人形の胸元が淡く光った。

──そこか!

 泥人形は石や木で作られるゴーレムの中で、最も低級だ。だが、そのぶん再生能力が高い。

 核以外の場所は破損しても、すぐに再生するが、その時、『核』の部分が発光する。

──アルカイド君なら、所詮は低級のゴーレムと言いそうだ。

 レオンは口の端を少し上げ、剣を構える。

 泥人形の腕を切り取られた肩がフルフルと震えている。腕を再生しようとしているのだ。

「今だ」

 再生の瞬間、泥人形の動きが止まる。

 レオンはそのまま、淡く光っている部分に剣を突き立てる。

 途端、泥人形は全身から光を放った。

「お見事です」

 ボロボロと崩れていく土人形から剣を回収するレオンに、声をかけてきたのはサーシャだった。

 振り返ると既に隊員たちは全て転移をおえたのだろう。岩窟の魔法陣は消えている。

「一部は逃げたようですが、ほぼ、制圧は終わったようです。ケルトス女史はいないようですが」

「ケルトスは逃げた」

 レオンは剣を鞘にしまい、前方の獣道をにらむ。既に、人の姿は見えない。

「なるほど。では、泥人形は、彼女が作成したものですか」

 サーシャはふんと鼻を鳴らした。

「私に喧嘩を売る割にはたいしたことないですね」

「……いや、君に喧嘩を売ったわけではないとは思うが」

 思わずレオンは状況も忘れて突っ込んだ。ただ、サーシャが相手をすれば敵ではないということは確かだろう。

「殿下、逃げた者を追いますか?」

「無論だ」

 少なくともケルトスを捕まえなければ、話にならない。

「わかりました」

 サーシャが再び探査の術を使う。

「前方に一人、右三十度の方角に二名、後方に一人ですね」

 前置きもなく、淡々とした答えである。

「マーダン!」

 レオンは大声をあげて、男と切り結んでいるマーダンを呼んだ。

「ここは頼む。右三十度に二名、後ろに一名

逃げた。俺はケルトスを追う」

「了解です!」

「アルカイド君は、私と一緒に来てくれ。他の誰がどうであれ、ケルトスを逃がすわけにはいかない」

「わかりました」

 レオンはそのまま獣道に入った。

「光よ」

 サーシャがかなり前方にレオンが出したよりも大きな光玉を放つ。

 真っ暗だった森の中が昼間のように明るくなった。

「やりすぎではないのか?」

 本来なら足元だけを照らせばいいのだ。先ほどのレオンの時と違って、移動する敵を追うのに、広範囲を照らす必要はあまりない。

「どうせ、こちらが追っているのは承知のはずです。それなら、どこに隠れても見つけてみせるというデモンストレーションとして、これは効果的です」

 にやりとサーシャは笑う。

「君は本当に規格外だ」

 転移の陣を開くという大技を使ってなお、魔術を出し惜しみしない。ルーカス・ハダルが自分の代理としてよこすだけのことはある。経験を積めば、将来、間違いなく彼女は首席宮廷魔術師になる実力だ。

 森の真上から照らす光玉のおかげで、道の奥まで明るいが、直進ではないためケルトスの背は見えない。

「まずいな」

 視界の先に川が見えてきた。

 対岸に人影はない。

 レオンは慎重に川のそばに近づく。

 大きな石ころが転がる川岸には舟がつながれていたと思われる杭があった。

 そして川下へと向かう舟がみえた。

「しまった」

 川岸を走っても、舟にはおいつけないだろう。

 川下で待つ部下にまかせるしかない──と、レオンが諦めた時だった。

「氷結せよ」

 川の水にむかって、サーシャが声を上げた。

 ぴしぴしと音を立て、川が凍っていき、舟を氷が捕らえた。

「あ」

 サーシャは声をあげる。

「すみません。たぶん、人間も凍らせてしまいました。あれくらいでは死なないと思いますけれど」

「派手過ぎだろう」

 レオンは肩をすくめる。

 舟のところにたどりつくと、ケルトスは舟と一緒に下半身を氷漬けにされて、気を失っていた。

「どうでもいいけれど、川の水ごと氷漬けでは、運びようがないな」

「では、凍っている身体を炎で少しあぶってみましょうか」

「随分と軽い口調だな」

「技術的には、たいしたことではありませんので」

「君は優秀だが、何かが欠けているような気がする」

 思わずレオンは苦笑する。

「……殿下には言われたくないです」

 サーシャはムッとしたようだった。




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