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魔眼の宮廷魔術師は眼鏡を外し、謎解きを嗜む  作者: 秋月 忍
第一章 鳳凰劇場

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鳳凰劇場 16

 モリア・セリンに会いに行くため、サーシャはレオンと共に馬車に乗り込んだ。

 マーダンは、馬で並走しており、数名騎士も同行している。

 表向きはレオンの護衛であるが、実際は、モリア・セリンが実行犯だった時、人手がいるとの判断なのだろう。

「すまんな、若い女性の君に遅くまで」

「若い女性に会いに行く仕事で、私だけ気遣われるのもおかしいでしょう」

 サーシャは肩をすぼめる。

「ですが、男も女もなく、親衛隊のみなさまは、働き方をお考えになった方が良いとは思います」

 警備業務の方は交代制がきちんと行き届いているようだが、捜査部門は、常に仕事があるわけではないこともあって、そのような体制ができていないようだ。

「言いたいことはわかる」

 レオンは頷いた。

「親衛隊の人間が全て、捜査に向いているわけではないのが問題でな」

 親衛隊はもともとは近衛の騎士である。

 文武両道でないとなれない職だが、事件の捜査で必要な技能と、治安を維持するために必要な技能は同じではない。両方の技能を備えた人物というのは、希少だとレオンは話す。

「アルカイド君は、捜査に非常に向いているな」

「私は、捜査よりも実験室が似合う人間ですよ」

 サーシャは苦笑した。

 もちろん宮廷魔術師なので、護衛の任務などもするが、魔術の実験をしている方が性に合っている。捜査に向いた技能持ちであるのは確かだが、サーシャは人と関わるのはどちらかといえば苦手だ。

「宮廷魔術師は魔眼持ちが多いのか?」

「半分くらいですよ。それに両眼は私とハダルさまだけです。片眼は何人かおりますが、別段、魔眼でなくとも仕事は出来ますから」

 魔素を直接視られなくても、実力が高ければ、問題ない。魔眼は実力を裏付けするものではなく、特性の一つでしかないのだ。

「宮廷魔術師において大事なのは、魔力量と、加護精霊の多さ、技術などがあげられます」

「つまり一つの加護を持つより、複数の方がいいということか?」

「一概にそうとも言えませんが、仕事の範囲が広くなります。基本、宮廷魔術師は便利屋ですから」

 加護が複数ではないにしろ、とにかく行使できる魔術が広い方が、出来る仕事が増える。魔道具の修理から護衛まで、宮廷魔術師の仕事は多岐にわたっているため、一つに秀でた者より、多少劣るとしても広くこなせる者の方が多い。

「親衛隊所属の魔術師に魔眼持ちはいなくてな」

 レオンはため息をついた。

「もともと、親衛隊は治安維持に重きを置いている。魔術師も攻撃系を極めた者の方が多い」

「マーダン氏は、火の魔術の使い手ですよね?」

「……よくわかったな」

「なんとなくわかりますよ」

 少なくとも魔眼を通してみれば、魔術師としてのおおよその力と加護精霊がわかる。

 マーダンは優秀な攻撃系だ。

「ところで、例の『目くらましの術』に触れた感触はどうだった?」

「そうですね、そこそこ優秀な使い手だと思います」

 サーシャはふっと口元を緩める。

「同一だと確信は持てませんが、おそらく実行犯と同程度のレベルの使い手でしょう」

「つまり、アルカイド君ほどではないと?」

 レオンの口元がわずかに緩む。どうやら笑っているらしかった。

「正直、私と同程度のレベルの使い手はこの国に数えるほどしかおりません」

 首席宮廷魔術師はルーカス・ハダルだが、サーシャはハダルと比べて劣っているというわけではない。実力として劣るのは、経験値の違いの部分だけだ。

 魔力量、魔術の豊富さなどはほぼ変わらない。

「まあ、アルカイド君の自信はハッタリでないことが分かった。ルーカスが推薦するだけのことはある」

「ハダルさまは、人を酷使するのがお上手ですから」

 サーシャは息を継ぐ。

「魔素をみるだけなら、私の方が向いていたのは確かです」

 馬車は子爵家に着いたようだった。

「なんにせよ、お役に立ちますよ」

 サーシャはにやりと笑って見せた。



 先ぶれは出してあったものの、有無を言わせぬ訪問のため、子爵家の使用人たちはあわただしくしていた。

 案内された応接室は、質素だが品の良い部屋だった。

──ビルノ侯爵家よりは、趣味がいいわ。

 サーシャはソファに腰かけたレオンの後ろに立ちながら、そんなことを思う。

 サーシャの隣にはマーダンも立っている。表向きはレオンの護衛だ。

 セリン子爵家は非常に信心深いらしく、暖炉の上には光の神フレイシアの像が飾られている。

 レオンの前に座っているのは、セリン子爵と、娘のモリア・セリンだ。

 子爵は突然の第二皇子の訪問に緊張を隠せないでいる。娘のモリアの方は、単純に緊張しているというよりは、何かを恐れているかのように青ざめていた。

「アルカイド君、どうだね?」

 開口一番にレオンはサーシャに声をかけた。

 つまり、先にサーシャに判定をしてほしいということだろう。

「失礼いたします」

 サーシャは軽く会釈して、眼鏡を外した。

 セリン子爵もモリアも魔術の使い手のようだった。モリアは光の魔術も使えるようだが、アリアほど大きな加護があるわけではない。ただ、それなりに優秀な使い手である。

 そして、彼女の身体に流れる力の色は間違いなく『目くらまし』の術と同じものだった。

「間違いありません。一致しております」

 サーシャは言葉少なに答える。

「そうか」

 レオンが言葉少なに頷くと、目の前のモリアはさらに顔を青くした。

「あの、いったい?」

 セリン子爵が怯えた顔で尋ねる。

「アルカイド君は、見ての通りの魔眼の持ち主でね。例の鳳凰劇場で起きたアリア・ソグラン伯爵令嬢の転落事件についての魔素を視てもらっている。どうやら、劇場で使われた魔術が君のものだったようだが」

 モリアが目に見えて震えはじめた。

「モリア・セリン子爵令嬢、素直に告白すれば、罪は軽くなるが、どうする?」

「ああっ」

 レオンに追い詰められたモリアは、突然頭を抱えて泣きだした。

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