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神殿41

遅刻 すみません

「神殿内で黒魔術に関与していたことが確実な祭司はメルダーとハックマンの二人です。ハックマンが研究をしていたことは有名ですが、メルダー祭司も研究をしていたことは秘密になっていたようです」

 頭を抱えたマルスをよそに、マーダンが話を続けた。

「また黒魔術に関与していなくても、孤児院の経営に携わっていた者、魔石の取引をしていたものなど、信者も交えて、かなりの人数になることが予想されます」

「朱雀離宮の牢では足りないことになりそうですね」

 ハダルが苦笑する。

「それよりも、現実問題として捜査員の数が足りない」

 レオンは首を振る。がさ入れにしろ、聞き込みをするにしろ、とにかく人がいる。まして、神殿の捜査は信者への配慮も必要だ。

「ええと。それから経営にかかわっていたブリックス伯爵を口封じに殺そうとしたクレア・ランバートですが、大祭司の愛人だったようです」

 マーダンに続いて、カリドが報告を始めた。

「ブリックス伯爵に睡眠薬の入った酒を飲ませ、御者に毒物を渡すように指示されたと答えております」

「さらに加えて、遠距離の魔術攻撃をしました……おそらくは、メルダー祭司の黒魔術召喚に参加した神官の一人のようです」

 リズモンドが続ける。召喚の陣の魔素の中に同じものがあったのだ。もっとも、生きている二人のものではないので、あの場で死んでいた神官だろう。

「要するに一連の事件は、神殿の人間とその周囲の人間が行ったものなのだな」

 マルスは大きくため息をついた。

「普通に考えれば、現在の神殿は解散させ、皇族が大祭司となるのがいいだろうが……」

「念のため申し上げますが私には無理です」

 レオンは首を振った。

「ここは素直に陛下が大祭司になり、その下の祭司に事実上の神殿活動は任せるのがよろしいかと。その祭司は当然、現在の神殿内の反主流派がいいでしょう」

「確かに、ルーカスの言う通り、そのあたりが落としどころかもしれないな」

 マルスが頷く。神殿というのは『力』がある。神の名のもとに、人民を先導することもできるのだ。だからこそ、たとえ皇族でもグレック・ゲイルブのように野心を抱かない保証はない。神殿の野心を削ぐには、国家が見張るしかない。

「あの」

 マーベリックが手を挙げた。

「神殿を聖女であるアリア・ソグラン嬢が束ねるのはいかがでしょうか?」

「え? 私?」

 突然話を振られて、アリアは素っ頓狂な声を上げる。

「大祭司が罪を犯したとなれば、民は動揺します。陛下が上にお立ちになれば、大祭司を陥れたのではないかと暴動がおこりかねません。聖女であるソグラン嬢が立つとなれば、民はある程度納得するはずです。神殿が罪を犯さないようにするための監視は、大祭司の役職とは別に設けたほうがいいでしょう」

「ちょっと待って。私は無理よ、そんなこと。大体、あなたは私が聖女と呼ばれるのは嫌いだったでしょう?」

 アリアは抗議した。

「なるほど。確かにソグラン嬢は看板に適している」

 レオンが頷くと、アリアはぎろりとレオンを睨んだ。

「二年でいい。その後は好きに生きて構わん」

 二年あれば、再編は進んでいるだろう。その後は二年に一度、大祭司の座を選挙などで決めるようにすればいい。任期が決まっていないと独裁になりがちだ。

「頼まれてくれるか? ソグラン嬢」

「殿下まで……」

 マルスに言われ、アリアは手を額に当て、がっくりと肩を落とした。

「わかりました。お受けします。ただし、マーベリック祭司、祭司として復帰してください。私にだけ苦労をさせるのは、さすがにずるいです」

「……承知いたしました」

 マーベリックは頭を下げる。

「よし。神殿の方はそういう方向でいこう。レオン、捜査を引き続き頼む。それから、ルーカスは黒魔術について調査をするように」

「わかりました。レオン殿下、サーシャとリズモンドをとりあえず、こちらにお返しいただいてよろしいでしょうか?」

 ハダルはにこりと微笑む。二人は宮廷魔術師の中でも抜きんでている。調査を引き受けるなら、当然二人は大切な戦力だ。

「……ああ。今まで助かった。アルカイド君、ガナック君、ありがとう」

 レオンはそういって、微笑んだ。その微笑みは、柔らかな春の日差しのようで、サーシャとリズモンドは動揺した。その微笑みを見るのは初めてではないはずのサーシャだったが、それでも胸の音が大きく跳ねる。見慣れるというものではない。そもそも普段の無表情なレオンとは全くの別人のようだ。

「……こちらこそありがとうございます」

 ようやく二人が我に返ったころには、レオンの表情はいつものような無表情に戻っていた。

 

 


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