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鳳凰劇場 12

 現場百遍。レオンの意向で、サーシャとレオンは再び鳳凰劇場を訪れた。

 ちょうどマーダンが調査に来ていて、合流する。

「それで、従業員についてはどうだった?」

 レオンは、再び例の階段を見ながら、マーダンに問いかけた。

「怪しい動きをしていた者はいないようですね。特に休んでいた者とかもいないようですし、制服の在庫も問題ありません」

 マーダンは息を継いだ。

「確認いたしましたが、あの時間にボックス席の点検に向かっていた従業員はおりません。あの時間はまだ、観客が残っていることが多く、出口付近や、馬車止めの方に人手を割いている時間だそうです」

 マーダンの話が本当ならば、あの時、二階のボックス席付近にいたのは従業員ではないことになる。

「従業員のふりをしたということはないでしょうか?」

 サーシャは口をはさむ。

「ここの制服は、シャツとベスト、そしてズボンという簡単な組み合わせです。特徴なのは、格子柄のベスト。とはいえ、奇抜というほどではありません」

「つまり、何者かが制服に似た服を着ていたと?」

「はい。それにここの制服はもう何年も変わっておりません。古くなったものならば、手に入りやすいかもしれません」

「やめた従業員の制服か。マーダン、どう思う?」

 レオンは顎に手を当てた。

「そうですね。ここの制服は三月ほど勤めるとオーダーで作るらしいのです。もちろんお仕着せもありますが、そちらは在庫がしっかり管理されております。オーダーですから、辞めるときは劇場に返すか、本人が始末するかどちらかになるようですので、現在勤めていない方が持っていても不思議はないでしょう」

「元従業員か?」

「元従業員から手に入れた、第三者の可能性もあります」

 サーシャは指摘する。

「しかしそうなると、ここに勤めていた人間を片っ端から調査する必要がありそうだな」

 レオンは大きくため息をついた。

「私の考えでは、それほどの人数にはならないかと。劇場の制服をわざわざ自分で持って帰る人数はそれほどいないと思います。その記録さえ残っていれば、かなり絞れるはずです」

「辞めたオーダーの制服はお仕着せの一つとして置いてあるようですので、その辺の記録もあるかもしれませんね」

 サーシャの指摘に、マーダンも頷いた。

「あとは、似たような服をあえて作るという方法もありますが、アリア・ソグラン伯爵令嬢が劇場に来ると決めてから三日です。そこまで用意周到にできるかどうかとなると、その線はないように思えます」

「確かに。念のため、いくつかの工房に話を聞きに行くくらいはしておこう」

 マーダンが頷く。

 実行犯は何らかの手を使って、制服を手に入れたのだろう。

 当たり前のことだが、制服を着ていれば、観客は従業員だと思って当然だ。違和感を感じるのは、どちらかといえば他の従業員のほうだが、その時間はまだ従業員たちはボックス席付近にはいなかった。

「要は、どうやって逃げるかですね」

 サーシャは首を振る。

 出口付近には他の従業員がおり、当然従業員に見られずに逃げるのは不可能だ。たとえ観客が立ち入らない階段等を使うにしても、階段の一番下は、従業員控室につながっている。

 見られないことは、不可能だ。

「たとえばモリア・セリン子爵令嬢が従業員服を着て、実行することは可能でしょうか?」

「モリア・セリン子爵令嬢?」

 マーダンが首を傾げる。突然出てきた名前に驚いたようだった。

「彼女は、芝居終了間際からしばらく、ビルノ夫人のボックスから離れている。着替えて、犯行に及んだ後、再び着替えて元のボックスに戻る、ということができれば可能だろうな」

 レオンは頷く。

「コルセットをするドレスでなければ、ですけれどね」

 サーシャは苦笑した。

 コルセットが必要なドレスであれば、着脱に時間がかかるし、しかも一人では無理だ。

「何を着ていたか、確認するのを忘れておりました」

 サーシャはしまったと思った。ビルノ夫人に聞けば、ウンチクつきで、語ってもらえただろうに。もっとも、そうなると先ほどの三倍近い時間、黙って聞かなければいけなかったに違いない。

 そう思うと、ちょっとだけ忘れていて良かったように思う。

「その件については、後で従業員に確認しよう。ビルノ夫人と一緒にいたのであれば、覚えているかもしれない」

「かすんでいなければいいのですが」

 サーシャは苦笑する。

「さて。あとは、従業員の階段を見てみるか」

「……そうですね」

 返事をしながら、サーシャは女が立っていたと思われる場所から階段を見上げた。ギリギリ階段の上の踊り場が見え、かつ通行人の邪魔にならない位置。侍女の姿であれば、何らかの理由で主人を待っているかのようにも見える絶妙な場所だ。

 その場所から、アリア・ソグラン伯爵令嬢の姿を確認した女は、ラビニアの名を叫ぶ。その声を聞いた実行犯が、風の魔術で突き落としたのだろう。

 アリアは飛行の魔術を使っていたから、通常よりもゆっくりと落下してきた。それを見るか見ないかくらいの時間で、女はその場から離脱した。

 このホールになっている場所を過ぎると通路があり、出口へと続いている。

 通路にはお手洗いもあり、そこに入ってしまえばしばらく人をやり過ごすことは簡単だ。

 侍女に見えたということは、ひょっとしたら主人役の共犯者もいて、出口前で合流することで、違和感なく退出したのかもしれない。

 眼鏡をかけた女性は眼鏡をとってしまえば、誰だかわからなくなってしまう。

──そちらを探すのは困難をきわめそうね。

 サーシャは思わずため息をついた。

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