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神殿 34

「終わったと連絡します」

 サーシャはレオンが頷くのを見て、大きな光玉を打ち上げた。

 先行することにはなっているが、レオンの安否を心配していない訳はない。レオンがギガースの相手をしたのは、レオンがあの場で一番の剣士で、レオンの意思で命令だったからだ。そうでないなら、サーシャを含め親衛隊の人間は全員、ブリックス伯爵とレオンの命だったら、間違いなくレオンの命を優先する。

「それにしてもどうして、私がここにいると?」

「ええと。わからない方がおかしいと思います」

 サーシャは苦笑する。

 ギガースは障害物をものともせずに、ひたすらまっすぐにレオンを追っていたせいで、枝葉が折れているだけでなく、木が倒れているところもある。

 どこを通ってきたかは明らかな状態だった。

「なるほど」

 レオンは頷く。

「とりあえず、このあとを辿れば、迷うことはないってことだな」

「はい」

 それほど大きくはない雑木林とはいえ、道から外れれば迷う危険がある。最短コースでないにせよ、道しるべ通りに歩く方が賢い。

「それにしても、このあたりにギガースが出るとは」

「……たぶん、黒魔術で召喚されたのでしょうね」

 ギガースが街を滅ぼしたという記録はかなりある。それなのにギガースがどこに生息しているのかはわからない。大陸の外なのか、はたまた、伝説通りに地底の世界なのか。なんにしても、ここではないどこかからやってきたものだ。

「奴らは暴れるだけ暴れて手が付けられませんが、この世界には適応できないのか、しばらくすると飢餓で死んでいくと記録されております」

「いずれ死ぬとわかっていても、あれがいくつも現れたら災害級だな」

 レオンが肩をすくめる。

「よくは存じませんが、召喚術を使うには贄が必要だとか。それも一人二人の話ではないそうですから」

「つまり、今回も誰かが犠牲になったということか」

 レオンの顔が険しくなる。

「そういうことになるかと」

 陣を行使する人間がどの程度の魔力を持っているかにもよるだろうが、少なくない人数が捧げられたことが想像できる。 

「召喚したのはどこかわかるか?」

「たぶんこの近くです……けれど、今は探しません」

 サーシャは首を振る。

「ブリックス伯爵を無事朱雀離宮に送り届けることのほうが大事です。痕跡を完全に消すことは不可能なので、慌てる必要はないでしょう」

 それに、と、サーシャは続ける。

「皆が殿下を心配しています。一度合流しましょう」

「アルカイド君に言われるとはね」

 レオンが首を振る。

「殿下がいなければ、親衛隊は機能しません」

 もしレオンがいなくなっても、親衛隊の仕事は当然あるだろうが、何に対しても怯えない姿勢は貫けないだろう。隊員たちは、仕事そのものよりも、レオンの持つカリスマと能力に忠誠を誓っているのだから。

「そんなことはないが」

「そんなことはあります」

 サーシャは強く否定する。

「アルカイド君にそう言われると、面はゆいな」

 言葉とは裏腹に、レオンの表情は全く動かない。だが、その声音には感情が含まれていて、レオンが照れているのだとサーシャにはわかった。



 やがて道にたどり着いたものの、馬車や騎士たちの姿はない。

「歩きましょうか」

「──いや」

 サーシャが歩き出そうとするのをレオンは止めた。

 レオンが口笛を吹く。するとレオンの愛馬が走ってきた。

「あの、ひょっとして、もしかすると」

「さあ、乗って」

 後ずさりしようとするサーシャを強引に乗せると、レオンはひらりと馬に飛び乗った。

「わ、私は歩いて」

「アルカイド君は私の護衛なのだろう? 私を一人にするつもりか?」

「そ、それは……」

 レオンを一人にさせるのはまずいが、馬に二人乗りもまずいようにサーシャには思える。

 そもそも護衛が、レオンの腕の中に守られるようにしている状況はかなりおかしい。

「存外、アルカイド君は馬の上だと少女のようだな」

「は、速いです!」

 レオンは容赦なく馬のスピードを上げていくため、サーシャは思わず声を上げた。

「……可愛い」

 耳元でレオンの声がしたような気がしたが、サーシャはそれどころではない。

「殿下、もう少しゆっくり!」

「ゆっくりだと追いつけない」

 それはそうかもしれないが、サーシャの体はこわばっていく。

 レオンは容赦なく馬を飛ばし続ける。

 やっと馬車の姿が見えてきたころには、サーシャはどんな魔術を使った時より青ざめてぐったりとしていた。

「アルカイド君は本当に馬に弱いな」

 合流して、ようやく馬から降りたサーシャだが体に力が入らず、大地に倒れ込む。レオンはサーシャに休むように言うと、報告を受けるために離れて行った。

「おい、サーシャ、どうした?」

 事情がよく分からないリズモンドが、水を手渡しながらサーシャを見下ろす。

「……もう二度と殿下と馬には乗りたくありません」

 サーシャは大きくため息をつく。

「お前、不敬だぞ」

 リズモンドが呆れたような顔をする。

「そもそも殿下と二人で馬に乗った感想がそれか?」

「しんどいので冗談はやめてください」

 サーシャは起き上がって水を口にしながら、首を振る。

「殿下は相手が誰でもああしたと思いますよ」

 サーシャでなくリズモンドが行ったなら、リズモンドと二人で乗ったのではないかとサーシャは思う。()()()()()()()ではない。

「……お前、本当に鈍い女だな」

 リズモンドはそっと肩をすくめ、レオンの方に目をやる。

「落ち着いたら、馬車の中に入れ。御者台には俺が座る」

「……助かります」

 サーシャは礼を言いながら、再び大地に寝転がった。

なんでこんなに甘さがでないのだろう……おかしい。

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