表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
100/125

神殿 19

 バーソローの村につくと、まず宿屋に向かった。

 泊まる泊まらないは別として、念のためだ。

 この村には、街道警備の事務所が一つあることはあるのだが、とにかく狭い。拠点にすることは可能だが、万が一、泊まらなければいけないとなった場合、狭すぎる。

 通常の場合、野宿だろうが、サーシャがいることで、周囲が気遣っているのは間違いない。

 サーシャは女性でしかも病み上がりだ。

 とはいえ。本人的には、かなり回復してきた自覚がある。

 肉体的なダメージがあったわけではない。必要なのは、『睡眠』だ。

 今なら、通常の九割くらいの術は使える。

 正直なところ、今のサーシャなら、よほど集団で攻めてこない限り、勝てない相手はいないだろう。

「バーソロー駐留のルドワどのです」

 宿に荷物を下ろしていると、カリドが、一人の男を連れてきた。

 もっさりとした雰囲気で、いかにも田舎に同化した感じだが、眼光に鋭さがある。

 年齢は二十代後半。一人で配属されているということはそれなりに優秀な人物だろう。もっとも、出世コースからは外れていそうだ。

 街道警備隊は、親衛隊とは別の組織ではあるが、治安維持という面でお互いに協力することになっている。

「レオン殿下。お初にお目にかかります」

 ルドワは丁寧に頭を下げた。

「ああ。とりあえず、中に入ろう」

 レオンは挨拶を軽く流して、宿の客室に入る。

 話を周囲に聞かれないようにするためだ。もっとも、親衛隊の馬車が村に入った時点で、既に村中のうわさになっているだろう。噂の速度は、街中よりも田舎の方が速い。

 できるだけ目立たないようにしては来たものの、そもそも来訪者が少ない地域なのだ。

「最近変わったことはないか?」

「一番は、殿下がお見えになったことですが……最近、魔物がよく騒いでいると言う話を聞きます」

「川向うのか?」

「はい。対岸なので、特に問題にはなっていないのですが。ひょっとしたら、何者かが魔獣狩りをしているのかもしれません」

 ルドワは肩をすくめる。

 魔獣を狩ること自体は違法ではない。魔獣を飼育するのは問題だが。

 魔獣を狩ることでしか得られない材料というものも存在する。

 とはいえ、魔獣を狩るには、武術だけでなく、魔術も極める必要があるため、実質上、全く無許可な人間が狩るということはない。

「このあたりの森には、あまり価値になるような魔獣はいないのですが」

 魔獣が育つには、エーテルの濃度が関係する。このあたりのエーテルは通常の森と大差がないため、強い魔力を持つ魔獣は育たないのだ。

「対岸にある神殿の様子はどうだ?」

「正直、あの神殿で何をやっているか、全く分からないのです。月に数回、舟で物を買いに来ることはありますが、それだけです。年はじめだけ、村人は詣でることを許されますが、普段は何をしているのか」

 ルドワは首を振る。

 村の人間もあえて、かかわりを持たないようにしているらしい。

「……しかし、物を買いに来るばかりでは、資金がつきてしまいそうだが」

「ある程度は自給自足をしているのでしょう。畑もあるようですし」

「年に一度の参拝客で、一年暮らせるほど、この村の人々は信心深いのですか?」

 サーシャが横から口をはさむ。

「……それは無理でしょう。おそらく、中央から予算が下りているのだと思います」

 ルドワは苦笑した。

 バーソローは貧しいわけではない。だが、村人たちの年収は、普通だ。どれだけ信心深いとしても、村の人間全員が寄付をしたとしても、それほど巨額にはならない。

「普段、彼らは何を買いに来る?」

「麦を。それから、油を買いに来ます」

「なるほど」

 どちらも生活に必要なものだ。

 特に不思議なこともない。

「かなり遅くまで明かりがついているので、油はかなり必要なようです」

「魔物対策か?」

「明かりをつけても魔物対策にはならないと思います」

 サーシャが口を挟む。

「この辺りの魔物はそれほど光を苦手としないはずです。余程水の方が」

「なるほど。だから、川のこちらは何ともないのだな」

 レオンが頷く。

「はい。ですから、夜遅くまで何らかの作業をしていると考えるべきかと」

 サーシャはそう言って考え込む。

 夜の方が効率が上がる魔術は確かにある。だが、それは禁忌のはずで神殿で行うことだろうか?

「直接聞くしかないな」

 レオンが静かに呟いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ