第7話 スリッパにはかかとがない
今までの流れとは違い、今回盗まれたのは上履きではなかった。バーズルマックスが盗まれたのである。
なぜ、上履きではないのだ・・・・?
ダンはその不可解さに、納得のいく答えを見つけることができずに悩んでいた。
朝から何かとお世話になっていた先生が校門を出て帰宅していく姿が見えた。
「そう言えば、朝の先生はいつからこの学校にいるんだ?」
「緑革先生は2日目前に転校してきたばかりなんだ。でも、僕らの担任ではなくて、進路指導の先生として活躍しているんだよ」
ダンは先生が何か知っているのではないかと思い、走っていった。そして、学校を出て少ししたあたりで先生に追いついた。
「先生、今お帰りですか?」
「えぇ、そうなんですよ・・・・。どうかなさいましたか?
「先程また盗難事件がありました!!」
「まぁ、今度はどなたなんです?」
「ミツルくんです!!」
「まぁ!!」
先生は口に手を当てて驚いてみせた。
「ご存知ありませんでしたか?」
「はい・・・・。それはいつぐらいのことですの?」
「つい先程のことです!!」
ダンは神妙な面持ちで言った。
「あら、では時間的に私が帰るか帰らなかくらいのころですかね?ただ・・・・、物騒ですね・・・・。こう立て続けに盗難事故が起こってしまっては・・・・」
先生も神妙な面持ちで言った。
「それに上履きだけかと思ったら、ミツルくんは普通の靴だったなんて・・・・。全く犯人というのは見境がないのですね。物騒でなりません!!私たち教育者が何としても早く犯人を見つけなくては・・・・」
「ところで先生ご質問なのですが?」
突然、ダンが切り出した。
「何でしょう?」
先生も少し驚いた顔で聞き返す。
「先生はどうしてミツルくんの靴が普段の靴だなんてわかったのでしょうか?」
「え・・・・??それはあなたが今そうおっしゃったから・・・・」
先生は急に目の動きが白々しくなり、あたふたしはじめた。
「私は靴とは言いましたが、普通の靴とは言っていません!!今までの流れだと上履きを指す言葉と考えるのが一般的だと思うのですが、先程のあなたは違った・・・・。どうしてあなたはミツルくんが盗まれた靴が、上履きではなく普通の靴だとわかったのですか?」
ダンが真剣な眼差しで先生につめよる。
「それは・・・・、何だかあなたの伝え方が少しさっきと違っていたから、もしかしたらと思って言っただけですよ。勘で言ったのに当たっていたのですね。はははは・・・・。はは。ははは。不思議なこともあるものですね。私なんて男の子がどんな靴に興味があるのかだって何もわからないくらい知識が乏しいですのに・・・・」
先生はいびつな笑顔を浮かべた。
「そうですか・・・・、ちなみになのですが、そのカバンからはみ出しているバズールマックスは何ですか??」
「何??」
先生の目の色が変わった。そしてすぐさま先生は自分のカバンを見たのである。
「出てないですよ!!」
ダンが言った。
「今のは私の見間違いだったようです!!しかし先生??男の靴の知識はないのに、バズールマックスはご存知なんですね!!まぁ、あれだけ有名であれば先生も知っていて当然ですかね・・・・??でも、バズールマックスって聞いた途端に顔がグッと変わりましたね。何かお持ちなのですか??例えば、さっきミツルくんから盗んだバズールマックスとか・・・・??」
「貴様ぁぁぁぁ!!クソガキのくせに人のことをおちょくりやがってぇぇぇぇ!!朝から今まで、ずぅぅぅぅっとぉぉぉぉ鬱陶しいんだよぉぉぉぉ!!お前たちさえいなければ私の作戦は完璧だったのにぃぃぃぃ!!」
そう言ってなんと先生は本当の姿に変身したのである。
「リーッパリーッパ!!私はスリッパ星からきたスリッパ星人だ!!人々にスリッパの魅力を伝えるためにやってきた!!」
スリッパ星人は両手を広げてそれを曲げ、上下に動かした。
「私は怒っている!!あの学校は品行方正で、将来有望な子供が集まる神聖な場所であるはずだ!!そんな恵まれた環境で育ってきたはずなのに・・・・。かかとを踏んで上履きや普通の靴を履いているものが私は許せないのだ!!そこに年齢など関係ない!!子供だとうが大人だろうが平等に指導される馬鹿なのである!!だから私は、子供たちに伝えたかったのだ。スリッパならかかとがないから、もうかかとを踏んで使う必要がないのだと・・・・」
スリッパ星人は、怒りと寂しさを掛け合わせたような複雑な表情で語り続けた。