第3話 ヤルキマン
そういえば説明がまだだったね。
この物語はヤルキ博士こと、
本名 爺路来 有三
年齢 63歳が、
地球を守る正義の戦士ヤルキマンとなり、
異星人たちをバッタバッタとなぎ倒していく物語なのである。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
と、思わずダンも女性も十八
じゅうはっ
ちゃんも驚いた。
「博士!!今の流れってどう考えても、オレが変身する流れになっていなかった??」
ダンは十八ちゃんに持ち上げられたまま博士にツッコんだ。
「どういうこと??ねぇ??どういうこと??この異星人の見た目より理解が追いつかないんだけど・・・・??」
さっきまで命のピンチだったはずの女性もあまりの驚きにツッコまざるをえなかった。
「待て待て待て待て!!一番驚いとるのワシじゃから!!なんでワシが変身したんじゃ??」
「博士・・・・!!自分で言うのも嫌なのですが、どうやらオレのやる気よりも、博士のやる気の方が強かったということではないでしょうか??」
「えぇぇぇぇぇぇぇ!!嘘じゃろ??ワシのやる気がダンよりも強かったじゃと??そんなにワシはギンギンなのか??」
「えぇ・・・・、多分、博士はギンギンなのです!!」
「ギンギンよ!!この老人ギンギンなのよ!!」
思わず女性が声をあげた。
どうしよう・・・・。まさかこんなことになるとは。ワシがヤルキマン??そういえば昔、プレゼンの時にやる気に満ち溢れた先方の新卒入社の若造に、ヤルキスーツを着てもらおうと思ってボタンを押したら、スーツがワシの方に飛んできたことがあったなぁ・・・・。別のプレゼンの時も、戦士志望の課長とかいうやつに試着してもらおうと思ってボタンを押したら、ワシの方に飛んできたことがあったなぁ・・・・。他にも何度かあって、その度にプレゼンが失敗しとったなぁ・・・・。
てっきりボタンの調子が悪いのじゃと思っておったが。今思えば、あれって正常に作動しとったんじゃな。いやいや、そんなことは今はいいんじゃ!!それよりも・・・・、どうしよう・・・・。
そう言って博士はポケットから紙を取り出した。
いつか誰かにヤルキスーツを着てもらった時のために、決めゼリフを考えておったのじゃが・・・・。これワシが自分で読むの??マジ??どうせ他の人が読むと思って書いたんだけど・・・・。はぁ・・・・。
博士は大きくため息をついた。
「パスパスパスパス!!何が起こるのかと思えば、ジジイがヒーローだとぉぉぉぉ??ボケなのか、ボケてんのか判断できねぇ!!お前いったい何なの??」
ほらほら、何かいい感じに決めゼリフ言えそうな流れになってんじゃん!!なんでこのタコの化け物はそんなフリするわけ??ここまでくるとパスパスっていう笑い方が、ワシに良いパスを渡したから上手くやれよっていう意味に聞こえてくるんですけど・・・・。
えぇぇぇぇい!!ウジウジしててもはじまらんわい!!
博士は決めゼリフを読む覚悟を決めた。
「ヤイヤイヤイヤイ!!地球に被害を加える異星人め!!貴様らの悪事は、このヤルキマンが許さない!!
」
意外とノリノリで博士は語る。
「元気がないなら俺を呼べ!!勇気がないなら俺を呼べ!!やる気がないなら俺を呼べ!!気持ち腹持ち力持ち、ヤルキマン参上!!」
「いや!!ずっと参上しとるがな!!」
思わず女性が使ったことのない関西弁でツッコんだ。
かぁぁぁぁぁぁ!!決めゼリフ言ってもうたぁぁぁぁ!!しかもだんだん乗り気になっていく自分に気づきながら言ってたぁぁぁぁぁぁ!!顔から火を噴きそうじゃぁぁぁぁぁぁぁ。高校生の時に大好きだった女の子に告白した時より恥ずかしいのじゃが??全然比じゃないのじゃが??比じゃないくらいに火なのじゃが??
まさか、自分で書いた決めゼリフを自分で読むことになるとは・・・・。はぁ〜〜〜〜、やる気なくすわぁぁぁぁ。
とはいえ、着てみてわかったのじゃが、このスーツかなり着心地がええぞ。今まで着たどんな服よりもフィットしておる気がするわい。やはり知らず知らずのうちに自分好みに作ってしまっていたんじゃな・・・・。じゃがそれが、今は吉と出ておるのう。ここは腹をくくって戦うしかなさそうじゃ!!
博士は覚悟を決めた。
「パスパスパスパス!!こんなジジイ、相手にするだけ無駄無駄!!それよりもずっと宙ぶらりんのこいつから息の根を止めてやる!!」
そう言って、十八ちゃんがダンを力でひねり潰そうとした時である。
「いいから早く離さんかい!!」
「何??」
気配どころか音もなかった。それは常人では目で追えないほどのスピードだった。気が付いたら博士は、ダンを持ち上げている十八ちゃんの手に自分の手を置いていたのである。
「バカな!!どうやってここまで来た??」
「はぁ??歩いてじゃ!!」
ボンッ!!!!
博士のかぁぁぁぁぁぁぁぁるめに放ったパンチがダンを持ち上げている十八ちゃんの手を打ち砕いた。
ドサッ!!
ダンはそのまま地面に落ちた。
「ゲホッ!!ゲホッ!!」
ずっと口を半分以上塞がれていたダンは思わず咳き込む。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!手がぁぁぁぁ!!俺の手がぁぁぁぁ!!貴様ぁぁぁぁぁぁ!!許さん!!許さんぞぉぉぉぉ!!」
「ほほほほ!!仲間が辛そうにしとったのを助けただけじゃろうが!!ぎゃあぎゃあ言うでない!!」
「はぁ、はぁ、どうやら謝る気はねぇようだな!!しょうがねぇ、ジジイをいたぶるのは気がひけるが、そんなことはもうどうでもいい!!寿命なんて待たずにあの世へ行けぇぇぇぇ!!くらえ!!タコタコ真拳 十八番パンチ」
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ドンッ!!ドンッ!!ドンッ!!
ドンッ!!ドンッ!!
十八ちゃんの必殺技が博士を襲う。
「お主間違っておるぞ!!だって、お主さっき腕を1本無くしておるんじゃから、正確には十七番パンチじゃろうがい!!」
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
パンッ!!パンッ!!パンッ!!
パンッ!!パンッ!!
なんと博士は十八ちゃんの攻撃をさばきながら、腕を1本1本破壊していったのである。
「ギィィィィヤァァァァァァァァ!!!!」
十八ちゃんは悲鳴を上げた。そんな十八ちゃんを横目に博士が構える。
「いいか若造!!パンチというのは、こうやって打つんじゃ!!」
ヤルキパーーーーーーンチ!!!!
ドッゴォォォォォォォォォォォォ!!!!!!!
十八ちゃんは跡形もなく消し飛んだ。
ポカーーーーンンンン!!
助けられた女性は口をあんぐりとさせて驚いていた。そしてハッと我にかえり博士のもとへと駆け寄る。
「あ・・・・、あの・・・・ありがとうございました」
「いやいや!!礼には及ばんよ!!当然のことをしたまでじゃ!!」
博士のその言葉で女性は笑顔になった。
「気をつけて帰るんじゃぞ!!」
「はいっ!!本当にありがとうございました」
女性は博士に深々と頭を下げた後、自宅へと帰って行った。
シュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン!!!!
博士はスーツを脱いだ。そしてダンのもとへ歩み寄った。
「ダンよ!!すまんかったな!!お前にスーツをプレゼントしてやれなくて!!」
「はははは!!今の博士が言うとただの皮肉ですよ・・・・!!大丈夫です!!俺がスーツに選ばれなかったのは単純に力不足!!もっともっと自分を鍛えます!!そして、もっとやる気を持てるように努力します。・・・・そうだ博士!!もしよかったら博士の研究所で居候
いそうろう
させてくれませんか??博士どうせ一人で住んでるんでしょ??」
「"どうせ"がめちゃくちゃムカつくが図星だからしょうがない!!う〜〜ん、そうじゃなぁぁぁぁ・・・・。まぁ、いろいろと手伝ってくれるのなら構わんぞ!!」
「本当ですか!!ありがとうございます!!では・・・・」
そう言ってダンは右手を差し出した。
「ふんっ!!」
軽く笑った後、博士はダンと握手をした。
そんな2人を陰からじっと見つめる少年がいた。