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それぞれの衣装

区切りがうまくできません。個人的に短いのが嫌になり、次の話も加筆しました。


朝食時のロドリックの説明では、あと3時間もすれば父が王城に到着するらしい。


ドレスを着て髪を整えたらすぐだわ。お出迎えに遅れないようにしなくちゃ!


焦りが顔に出ていたのか食後の紅茶を一気飲みしていたのがバレたのか、侍女から焦らずとも間に合いますよ。と冷静に言われる。


クラーラは少し恥ずかしさから顔を赤らめて、準備のため自室に戻ることにした。

若き王である兄は一度も食堂に姿を現さなかった。聴けば早朝に起床してとっくに食事を摂ったそうだ。


今日はお兄さまは式典準備で朝から大忙しなのね。

おねえさまも来るのかしら。


侍女とは朝の身支度は自分でする代わりに、ドレスアップは侍女がやりたい放題して良い約束をしている。

本物のお人形さん扱いである。


自室に戻った瞬間、侍女のリゼッテは隠し持っていた櫛をいくつも取り出した。


「さあ、姫様、お座りくださいませ。」


侍女の目が光ってる。笑顔も不思議だわ、何故か怖いのよね。


ドレッサーの前の椅子に座らされると、待ち構えていた他の侍女も手に化粧道具を持っている。なんでみんな必殺ポーズなのかしら。


言われるがままにされるがままのあと、化粧と丁寧に編み込まれたハーフアップが出来上がっていた。そのあとも侍女達の言いなりになりドレスに着替えた。


侍女達の用意したドレスは白地が基調で大きくふんわりとしたフリルの縁は小さなレースで飾り立てられた上、濃色のリボンも多く使われてかわいらしく仕上げられており、クラーラによく似合っていた。


「今日のテーマは儚さと可憐。待ちわびた殿方に会える喜びとつい助けたくなる雰囲気を心がけましたわ」


「ファッ⁈」


侍女からのぶっ込みに振り返ると、リゼッテが両頬に手を添えてぶりぶり体を横に揺らしている。ぶりっ子やめて。


「な、なにを言い出すの⁈ま、待ちわびたとか殿方とかなんのことを言ってるのよ。」


「姫様を見ていればわかりますわ。夜会もご出席なさるようですから夜も気合い入れてお衣装を整えさせていただきますわ?」


うふふ。とクラーラを囲う侍女達はみな楽しそうだ。

うっ…。全てお見通しなのね。四面楚歌に勝ち目はない。


「よ、よろしくお願いします…。」




衣装を全て身につけ終えた時には父がもうすぐ到着する連絡が入った。

急いで玄関に駆けつければ一台の馬車が入ってくるところだった。


王族の乗る馬車にしてはオンボロ…こほん。質素な馬車で王城には似つかわしくなかったが、玄関前に停まると中から出てきたのは紛れも無い前王たる父であった。


「おとうさま!おかえりなさいませ。」


久しぶりの父に会えた喜びから大人気なく抱きついてしまった。


「今日はお久しぶりに城にお泊りになるのでしょう?明日も泊まっていってくださいな。」


「式典だけならともかく夜会に出ることになったからね。でも、明日にはお暇するよ。」


隠居生活とは思えない気品漂う父はクラーラを優しく抱き留めつつも、ニコリともう帰る話をする。

優しく笑いながら少し突き放す父は現役時代と変わっていなかった。だからと言ってクラーラも諦めが良いわけではない。


「どうしてそんなに急ぐのですか。娘をもっとかわいがってくださいませ。」


ぷうと頬を膨らませ父の片腕にしがみつく。


「ふふ。お前はいつだってかわいいと思っているよ。だけど、」


父王の目線はクラーラから離れ、さっきのボロ馬車の御者に向けられた。


「淑女が父親に抱きすがりついたままでいいのかな?」


父の視線の先にいた御者はつばの広い羽根つき三角帽を被っている。

先程は顔がよく見えなかったのだが、御者がつばを上げて顔が顕になった瞬間、クラーラの目に映ったのは昨晩から何度も頭に浮かんでしまい寝不足の原因になったヴァレリーその人であった。


「!!」


ヴァレリー!あっ、ちょっちょっと待って、いまこっち見ないでわたくしに気づかないで!!

顔が熱くなっていくのがわかる。きっと耳まで真っ赤だわ。

ヴァレリーがすっとこちらを見る。彼の目が少し泳いだあと、父とクラーラに気づいたようだった。

思わず硬直してしまい余計に父の腕を掴む手に力が入る。


「おやおや。」


娘の力み具合は父も予想外であるようだった。

先程から子ども臭いクラーラの行動を気にする風もなく颯爽とヴァレリーはクラーラ(父)に近づいてくる。


ヴァレリーは御者帽を被りマントを羽織っていたものの、衣装は式典用の白い近衛騎士の制服を着ていた。

胸元のボタンも腰のベルトも肩の飾緒も煌びやかで気品漂い、とても似合っていた。


…いつもボロを着て農作業ばかりする野暮ったい印象だったのに。


首元の魔石宝飾がより一層彼を引き立てていた。黒色がたまに土色に光る魔石はおそらく土族の魔石だ。ヴァレリーは農作業のために土の魔法をよく使うからだろう。

白い近衛衣装に濃色の魔石は良く映える。


かっ、かっこいい…。


クラーラは思わず心の中で呟いた。

いつもは麻紐なんかで適当に括っていた髪も軽やかな藍色のリボンで綺麗に結ばれていた。

頭が真っ白なのにそんな観察ばかりしてしまう。

彼はもう目の前に来ていた。


「陛下。式典まで少し時間がありますが会場に向かわれますか。それともお休みに?」


わたくしは無視かよ!!おっと、最近覚えた下品な言葉が出てしまいましたわ。


「そうだねえ。少し寄りたいところがあるからお遣いを頼もうかな。」


そう言って父はヴァレリーに遣いを頼み、やんわりクラーラを腕から剥がす。


「お前はもう外していいよ。」


と言われてしまった。父から外して良いと言われれば、外さなければならない。父は上皇なのだから。


「かしこまりましたわ。おとうさま。それでは失礼いたします」


クラーラはドレスを両手で広げ淑女らしく退席のお辞儀をしてその場を辞した。





退席したクラーラの内心は荒んでいた。


…ヴァレリーをもっと見たかった!話もできなかったわ!!


なんだか、父は全てお見通しのようだったわ。

荒んだ内心をクラーラがおくびにも出さなかったのはこれまでの淑女教育の賜物である。だからと言って口惜しいものは口惜しい。


一旦式典までの時間調整のために自室へ戻ると、ソファに座り目の前のテーブルを両手でトントン叩いた。心の中でギャースカ叫びつつ、挨拶もできなかった自分に落ち込む。


リゼッテが主人であるクラーラにお茶を淹れてくれたので飲もうとすると、


「ヴァレリー様はご立派な近衛騎士様になられましたね!」


とかいきなりぶっ込んで来た。


「ごふっ。」


ちょっと茶を噴き出してしまった。筆頭侍女は主人の動揺を知りながら何事もなかったように話し続ける。


「ウィトガルデ男爵家は一時はどうなることかと思いましたが、無事建て直されましたよね。」


「そ、そうみたいね。昔は伯爵だったのよね?」


ヴァレリーの出身であるウィトガルデ男爵家は王家への忠誠が厚い一族で有名だ。王国創世記の第3代アルヴィン王の妻エルケは国と王に忠実であった賢母としてよく知られている。彼の方もウィトガルデ男爵家の出身だ。

かなり昔のご先祖様だが、クラーラとヴァレリーは遠縁ということになる。


「はい。第3代アルヴィン王妃エルケ様のご出身ですから。先代までは高位の爵位も持ってたんですが、例外の先代のせいで爵位も売って男爵位まで落とされてしまって。広大だった領地も今や3つ村があるのみ。唯一良かったことは直系の後継者がいなかったことですねー。」


リゼッテは子爵家の出身なので、貴族社会の話題も事欠かない。ウィトガルデ男爵位を現当主が継いで、借金まみれだった男爵家を子息であるヴァレリーとともに見事立て直したのは貴族中で有名な話だ。


「今じゃウィトガルデ男爵親子は領地経営や農作物産業じゃあ貴族中右に出る者がいないとまで言われております。」


姫様、とおかわりの茶を注ぎながらリゼッテは続ける。


「ウィトガルデ男爵家の先代ご当主様ははご存知ですか。」


「えーと。確か、現御当主のクラウド様の兄君で若いうちに亡くなられた方よね。」


「はい。男爵家は昔から質実剛健なご一家で有名だったのですが、先代男爵だけは少々変わっておられたようです。」


現男爵家当主クラウドも少ししか見たことはないが、華美ではないものの質素で物持ちの良さそうな仕立ての良い衣装を身に纏い、息子と同じく領地を直接耕しているのであろう、がっしりとしたガタイの良い紳士の印象だった。ヴァレリーも基本同じ印象だ。


「何が違うの?」


「ヴァレリー様の伯父にあたる先代ご当主様は稀に見る遊び人で有名だったのです。」


リゼッテによると、ウィトガルデ男爵家は伯爵位を併せ持っていたが、先代当主が遊びすぎて借金で伯爵位も売ってしまい、それでも借金まみれで破産寸前だった。

先代当主は遊びすぎが祟り、体を壊してぽっくり借金だけ当時20代だった現当主に残して死んでしまったそうだ。

「残された現当主親子は領民とともに二人三脚で領地の立て直しと借金返済に駆け回っているという訳です。」


ウィトガルデ男爵領の立て直しで、失った男爵家の信用も少しずつ戻ってきているようだ。


「男爵子息は剣技にも長けているとお聞きしましたが、近衛騎士になられたのはお父上の一存だったそうですよ。」


まだまだ苦労人な父を放って騎士として勤務するのは世話焼きのヴァレリーの性格ならできないだろう。


「没落した男爵家の立て直しは自分がするから畑なんぞ手伝ってないで王家に仕えろ、と有無を言わせずだったようです。」


とはいえ、隠居したクラーラの父に指名されて今は王城で騎士勤めではなく田舎の畑を耕す毎日だが。


「ずっと前から大変だったのね…。」


クラーラはヴァレリー親子の勤勉さに感心する。


「ところで、」


紅茶を飲みながらリゼッテに質問する。


「なんでそんなに詳しいの?」


「それは…。」


「それは?」


「侍従の井戸端ネットワークを舐めないでくださいよ!」


キラーーーン。リゼッテの顎に人差し指と親指が添えられたポーズが決まった。

おそるべし!侍従井戸端ネットワーク‼︎



だんだんクラーラが崩れてきました。次回の更新は少し開くと思います。

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