式典当日の朝
仄かな恋心が長すぎたので分けました。
ドキドキしてよく眠れなかったからか、いつの間にか天蓋の隙間から差す朝の光が眩しかった。
侍女のリゼッテに起こされると、身だしなみを自分で整えて食堂に向かった。
以前は侍女にされるがままだったが、父宅を訪れるにつれて夜遅くまで居てしまったときは泊めてもらい、やってもらうのが当然だったために身支度が出来なかったのをヴァレリーに見つかり叱られたのがきっかけだ。
クラーラは反省し、ヴァレリーの助言を受けて前日に自分で着る服を選び、朝に袖を通して髪に櫛を自分で入れられるようになった。
朝御飯は用意してくれる料理人や給仕係に感謝をして食事の感想を伝えるようになってから随分給仕係と会話が増えた。これも、ヴァレリーからの助言だった。
「自分で朝食用意するのは実力も身分も考えると難しいから味や量について感想を伝えるのと毎日感謝すればいいんじゃないか?」
クラーラはヴァレリーに言われたことをいちいち思い返すのが癖になっている気がした。
それからはたまに料理人が来て新しいメニューを食べてみてほしいなど新鮮なことが増えた。
こんなにも少しの努力で違うのね。
まだ会えないヴァレリーにそっと心の中で話しかけてしまう。
今朝も料理人から良い野菜が採れたのかサラダが随分とアレンジされていた。
「美味しい!」
一口食べた瞬間、声に出してしまった。
見たことない果物や卵、魚介が細切れになっていて、ソース、ソースかしら⁈朝から食欲をそそられる。
食事も美味しいと感じられるのが嬉しいしみじみ。気が緩みふにゃりとしてしまう。
クラーラが朝食を美味しく頬張っていると、執事が今日の予定を伝えてきた。
執事のロドリックは眼鏡をかけている。乱れ毛は1本もなく撫で付けが様になっている紳士中の紳士だ。執事服にシワは勿論無い。
そして紳士な分、マナーも厳しい。
「クラーラ様。昨晩はあまりよくお眠りになられなかったようですが、翌日に備えて休息を取るのも嗜みですよ。」
「うっ。」
かちゃん。手に持ったフォークを取り乱してしまい音が鳴った。
眠れなかったのがバレてる…。
「動揺を表に出してはなりませんよ。」
さらに怒られる。
普段は侍女から予定を聞かされるが、重要な行事はロドリックが来て伝えてくれる。
つまり、粗相するなよ。と言外に圧がビシビシ伝わってくる。眼鏡がどっかの光を反射して光ってませんか。
「おとうさまには何も言わないのに。」
「何か。」
ロドリックの眼鏡が間違いなく光る。
「な、なにも。」
うっかりぼそっと口から出てしまったらしい。
それからはロドリックからこんこんと説教が続いた。父は言われなくても完璧にこなしているとか、クラーラは全く身についていないなど小言ばかりでうんざりだが、さらりとクマを消すために熱いタオルを用意してくれるなどさすがは腐っても執事だった。
「クラーラ様、いま何か失礼なことをご想像なさりませんでしたか。」
「いいえ!滅相もございませんっ。」
何をしてもロドリックには筒抜けらしい。
クラーラは背筋を伸ばして耳だけロドリックに向け、目の前の朝食を淑女らしくいただくことに専念した。