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仄かな恋心

区切りよくできずすみません。


その後もクラーラは何度も父宅を訪ねた。


ヴァレリーはなんでも出来て父に褒められるので、嫉妬したクラーラは訪ねる度にヴァレリーに勝負を挑み、惨敗していた。


初回で敢え無く熱中症にかかって散った草むしり、洗濯をしていた父を手伝おうとして干した洗濯物を取りこぼして泥んこにし、料理の腕に負けじと挑んだ野菜サラダで指を切りまくり、事も無げに火起こしするヴァレリーを見て自分がやろうとしたら全くできず、やっとできた時には危うく髪が燃えるところだった。


すべて後始末はクラーラのかかった時間の半分以下でヴァレリーがやってのけた。


今日もまた、父に小言を言いながらヴァレリーは父の畑仕事を手伝っている。

その都度父は、


「ありがとう。ヴァレリー、助かるよ」


とヴァレリーを褒める。

対するクラーラは鋏を持つ手が危うすぎて草むしりしか任せてもらえず見ているだけ。


いまもまた、花畑で父が摘んだ花が籠いっぱいになったのを見計らってヴァレリーは空の籠と交換していた。


気が利いていて羨ましい。

クラーラも父から褒めて欲しくなった。


「お父さま、わたくしもお手伝いします。」


「おや。いいのかい?」


大丈夫かと言わんばかりに父は目をまんまるにして娘を見る。


「もちろんですわ。なんでもおっしゃってくださいな。」


そうだなあ。と父は顎に手を当て思案する。


「…。」


「お父さま、わたくしが失敗ばかりしてるからって頼みごとを諦めないでくださいませ。」


たとえ父でも物申しますよ。

結局そのあと父から頼みごとが出てこず、じれたクラーラはヴァレリーがしていた昼食の支度の手伝いを買って出た。


「火起こしは最近成功率も上がってきたし、きっとできる!」


グッと拳を握る。


「めんどくせー。…正直邪魔なんだけど。」


ヴァレリーは迷惑そうだ。

食事の支度で火起こしはできた。ヴァレリーから指示を受けて野菜も切れた。指も沢山切ったが。


クラーラにとって包丁の使い方が分からなかった時と比べれば片手で握れるようになった進歩は大きい。

クラーラは目標が達成できた嬉しさから笑みがこぼれた。

ヴァレリーに次の手伝いの指示をもらおう。気分はニコニコだ。


「ねえ、次の手伝いはないかしら。」


「うへえ、まだやるんですか。」


「もちろん。出来ることを増やしたいわ。」


ヴァレリーはわたくしが切った野菜を水で洗っていた。なんでかしら。

人が手伝うと言うのにもう手伝ってほしくなさそうだ。


「そうですね…、じゃあそこの鍋見ていてください。」


「鍋を見ていればいいの?」


「はい。俺はその間ちょっと別の作業してますんで。」


何かあったら大声で呼んでください。

そう言い残してヴァレリーは調理場をクラーラに任せたわけで、クラーラはヴァレリーの言いつけを()()()()()()()()


つまり、鍋は焦げた。


戻ってきたヴァレリーが焦げた鍋を見付けてクラーラが怒られたのは言うまでもない。


「鍋が焦げないよう見ていてくださいとお願いしたのに焦げるのを見ていたなんて。焦げそうだったら火から鍋をあげて下さい!」


クラーラは律儀にただ鍋を見ていたので鍋の中はもう真っ黒くなっていた。ヴァレリーがひとしきりクラーラを叱った後、死んだ魚のような目で鍋の中を見ながら呟いた。


「何もできないあんたにちゃんと説明しなかった俺も悪かったわ。」


もういいから出て行ってくれ。とヴァレリーに調理場を追い出され、クラーラは途方に暮れた。


わたくしはなんにもできない。自分はなんにもわかってない。

ヴァレリーに悪いことをした。

涙がポロポロ溢れてきた。

聞けばよかったのだ。鍋を見ているとはどういうことかと。

察すればよかったのだ。食事を用意しているのだから焦げた匂いがした時点で料理がダメになってしまうことを。

考えればわかること。

考えない自分が愚かで浅ましい。

そう考えたら涙が止まらなかった。


ヴァレリーが昼食を作り直して父がクラーラを呼んだが、室内にクラーラの姿は見当たらなかった。


クラーラは屋敷の外壁にしゃがんでいた。昼食の用意ができたと父の声がしたが、行きたくなかった。

そのまま泣き崩れていると、いつの間にかヴァレリーが横に来ていた。


「先程は言い過ぎました。失礼しました。」


「いいえ。わたくしがちゃんとできなかっただけよ。」


クラーラは恥ずかしくて顔を更に膝の内側に埋めた。


「初めはそんなもんですよ。」


ヴァレリーがクラーラの横に座る。彼はクラーラが失敗して落ち込むといつもそう言ってそっと横に居てくれる。


「亀並みのトロさですけど、できるようにはなってるじゃないですか。」


「励ましになってない!」


鼻水と涙でデロデロになりながらクラーラは反論する。


「晩御飯にオニオンスープ作りをお願いしますから、作ってみて下さい。鍋、見てたくなりますから。」


ポンとクラーラの頭にヴァレリーが手を置いた。それから頭ごとグリグリしてくる。


「…もちろんよ。次は出来るようになるわ。」


ヴァレリーはいつもクラーラが失敗すると、もう一回チャンスをくれる。

また失敗すれば、またチャンスをくれる。出来るまで、クラーラが諦めない限り付き合ってくれる。邪険に扱うけれど、とても優しい。


「そんなに頭を下げていると息がつまるぞ。」


ヴァレリーはそっとクラーラの肩を抱き寄せてくれ、また頭を撫でてくれた。

彼の肩に寄りかかるのは心地良くて、撫でられる頭のてっぺんが彼の手の体温で少し熱く感じた。


もう少し、このままでいたいわ。


クラーラはヴァレリーの優しさにどぎまぎしつつ、父が2人を呼びに来るまで頭を撫で続けてもらった。


頭のてっぺんの熱さはそのままクラーラの中で片想いに変わっていった。


それからしばらく、王都で事件が起きたりして外出できず、父宅に行けない日々が続いた。



そんな折に隠居していた父が王城に招待される。

父の隠居理由は公表されていないため、大きな夜会や式典は父も招待される。

それでもほとんどの招待を父は欠席していたが、明日は年に一度の国の功労者を祝う式典であったため、隠居した父も式典に出席し、夜会にも参加するらしい。


先だって反省心から泣き顔を晒したことは恥ずかしかったが、数ヶ月ぶりにまたヴァレリーに会えることにクラーラの胸が膨らんだ。以前は父にひさびさに会えることに胸が膨らんだはずなのに。


それになにより夜会だ。王女のクラーラが出席するような夜会は、男爵子息であるヴァレリーは身分が低すぎて招待されないことが大半だ。

父の付き人として、ヴァレリーも明日の夜は夜会に出るのだ。


クラーラは曲がりなりにも王女なので社交についてはヴァレリーに負けないと思う。ダンスも先生から褒められるくらいに得意だ。


「ヴァレリーとダンスを踊れたらいいな。」


クラーラはベッドの中でそう呟くと、明日に淡い期待を寄せて就寝した。



クラーラは素直な頑張り屋だなと感心します。

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