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父の側役は生意気な男爵子息


魔法が日常的にあるこの国の若き王には15歳になる妹姫がいる。


王女クラーラは人形のような可愛らしさで白金の髪に赤の瞳。

彼女は突如隠居した大好きな父に会うため、王都の外れにある片田舎を訪れる。

父は田舎の一軒家で畑を耕して暮らしていた。

側役には身分が低すぎる男爵子息を父が指名したという。

畑の先生だと父は晴れやかに笑うが、自分より3つ歳上なだけで偉大な王であった父の何が先生か。


「そこの貴方、またわたくしのおとうさまを泥だらけにして!おとうさまを泥だらけにしないで!」


「構ってるだけ、無駄」


クラーラは父宅を訪ねるごとに男爵子息に食ってかかったが、ウィトガルデ男爵子息ヴァレリー・ランズベリーはいつも鍬を振り回して畑を一心不乱に耕しクラーラのことは無視した。


彼は家庭菜園にしては広すぎる父宅の畑を耕すほか山羊や鶏、馬小屋の世話もし、家事もできる超人だった。彼の畑の手入れと父への農作指導でしっかりと実った野菜で父のほぼ自給自足が成り立っている。


「ヴァレリーは料理や家事も出来るんだよ。ごはんはもう絶品。」


父はこの掘っ建て小屋のような田舎の屋敷に隠居してからとても笑顔だ。

それがまた腹立たしい。王城でクラーラが近くにいるだけでは父は晴れやかに笑うことはなかった。

この片田舎で父を自然と笑顔にさせているのが自分ではなくヴァレリーなのが妬ましい。

対抗していくら真似しても草むしり一つ彼のようには上手くいかず、終いには体力不足で熱中症になり肩に担がれて父のベッドで休ませてもらったときは、自分が情けなくて涙が出た。


ヴァレリーのことは最初は少し歳上でほぼ同じ年頃なのに父のそばにずっといられる羨ましさや彼だけずるいとムカつき、気に食わなかった。

外見もちょっと野暮ったいし、髪ボサボサだし。いつもボロボロの作業着で話し方も雑だ。


父のもとに何度も通ううちに、(父は毎回出迎え時に優しく抱きしめてくれた。)

父の不得手にしているものを彼がそっと補いつつ、父がしたいことを叶えていることを知った。



父の屋敷を3回目に訪ねた時、父は作業着姿で小脇にナスがたんまり載ったざるを抱え、部屋の真ん中で突っ立っていた。


「おや、いらっしゃい。クラーラ。」


「おとうさま、お元気そうで何よりですわ。」


ふわりと笑顔で出迎えてくれた父と談笑していると、農作業をしていたヴァレリーが外から帰ってきた。さっと部屋の様子を見て父をじとりと睨む。


「あー、また。陛下、部屋の中が散らかりっぱなしですよ。今度は何探していたんですか。」


「ごめんごめん。ナスがまるまる太って美味しそうだったから鋏を探してたんだ。」


「散らかしたらちゃんと片付けてください。鋏はいまどこに。」


「鋏は…作業台の上…?かも。」


あはは。とごまかし笑いする父。


「はあ。」


ヴァレリーはため息を一つした後、奥の部屋に消えた。

少しして、ドカドカと音を立てながら小さなチェストを持って戻ってきた。


「陛下の農作業用の道具一式をここにまとめましょう。」


そう言って、父の愛用する鋏や麦わら帽子、手袋諸々の品を手際よく見つけて小さなチェストにまとめてしまった。


「この棚だけ探して使ったら置いとけばなんとかなるでしょ。」


「いつも助かるよ、ヴァレリー。」


知らなかった。父は探しものと片付けが苦手だったらしい。

ごまかしも上手だったため、一見したところ特段室内は荒れてなかったのだがヴァレリーにはお見通しだったようだ。

それからナスを籠ごと父から奪うと、淡々と調理場に消えた。

しばらくすると、調理場から美味しそうな香りが漂ってくる。


父とクラーラは顔を見合わせる。


「美味しそうな香りだね。ヴァレリーに怒られる前に手を洗って着替えてくるよ。」


クラーラも手を洗わないと怒られるよ。と言いながら父は自室に消えてしまい、1人残ったクラーラはそのままぼうっとしていたので父の予言通りあとでヴァレリーに叱られた。


ヴァレリーの作ったナス料理はトマトソース仕立てで挽肉とチーズが絡まったナスがジューシーでこれも父の言った通り絶品だった。



4回目に訪ねた時は、ヴァレリーが父に注意している時だった。


「面倒くさがらずにちゃんと身に着てください!」


「ちょっと作業するだけなんだからいいじゃないか〜。」


「まあ、お父さま。その腕の腫れはなんです?」


父の片腕が赤く腫れていた。少し畑に野菜を採りに行ったらいつのまにか虫に刺されたのだと言う。

父はヴァレリーから畑に出るときは慣れるまで長袖や長手袋を身に付けて腕を覆うよう怒られていた。

クラーラがちょっと虫に刺されたくらいでそんなに怒らなくてもいいのにと思っていたら、ヴァレリーは父の腕を手当てしながら真剣に諭していた。


「畑には毒虫も沢山いて触れただけで被れます。ここはすぐ裏が森ですから、森の虫は尚更強い毒虫もいます。夜は視界が悪くなりますから少しも手は抜いてはいけません。わかりましたか。」


「…はい。気をつけます。」


結構本気で怒っている。父を心配しているのだ。怒られた父はしょんぼりしていた。


「あんたも。ぼうっと聞いてないで、外に出る時はちゃんと肌隠せよ。」


クラーラが父を心配するヴァレリーに感心していたら、くるりと向き直り、同じ注意をされた。


「あんたって…!」


やっぱムカつく!




「おかえりなさいませ。姫様。」


父宅から王城に帰ると、大勢の宮廷侍従達が出迎えてくれる。

すぐに侍女の案内でサロンに通された。

ソファに座れば何も言わずとも手拭きと共に茶が出てくる。

いつもと変わらない光景だが、至れり尽くせりだ。

父宅で食事を摂ったこともすでに伝わっているらしく、入浴の準備ができていた。


促されるがままにクラーラは浴室に行き侍女に洗われると、そのまま湯船に浸かり、父とヴァレリーのことをぼんやり考えた。


「おとうさまって、ちょっとガサツだったのね。意外だわ。」


父は完璧な人だと思っていた。ちょっとくらいと甘く見積もって虫に刺されるなんて、クラーラと大して変わらない。


「ヴァレリーはおとうさまのことをよく見てるのに、わたくしって何も見てないのね。」


湯に口を浸けてぶくぶくする。侍女は先刻下がらせたから、咎める者はいない。

最初はヴァレリーのことを父に小言を言うとはなんてやつ!と思っていたが、全て父を心配していたからだった。

クラーラは、自分が如何に父のことも、何も見えていなかったかを反省した。


「これからはもっと気をつけよう…!」


クラーラは湯船の中で拳をそっと突き上げた。次はいつリベンジに行けるだろうか、そう思うとクラーラは父とヴァレリーにまたすぐ会いたくなった。


クラーラは能力的には平均のどんくさい女の子です。

まだまだ本題に入れてませんがよろしくお願いします。

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