7.魔王城の門と六つの鍵
五分後。
「姫、着きました。こちらが魔王城です。」
「近いなー、思ってた以上に近いなー、コンビニに負けず劣らず近いなー」
二人の前には大きな大きな門があった。門の色は黒なのか紫なのかどっちつかずな薄気味悪い色であった。そして何よりも不気味なのが門に大きく刻まれた六芒星であった。六芒星の各頂点には六つの鍵穴……ではなく六つの鍵型のくぼみがあった。
「フハハハハ、よく来たな勇者……じゃなくて姫よ」
二人の遥か頭上から声がした。見上げた先には、お城のテラスとでもいうべき場所で高らかに笑う三つの黒いシルエットがあった。
「あれは四天王の御三方ですね」
「タイミング良すぎない?」
「台本はあちらにもありますので待ってたのでしょう」
「なんで敵側にも台本あるのよ! あとなんなのあのシルエット? ここからばっちし見えるはずなのに、なんで真っ黒なのよ」
「どんな敵かは後のお楽しみということか、あるいは単純にまだ考えられていないか、のどちらかです。あっ、回覧板は郵便ポストに入れておきますね」
「我らは四天王だぞ! 魔王軍最高幹部だぞ! 考えられてないわけないだろ! ……大丈夫だよね? いつもすみません、後でちゃんと目を通しておきます」
「ご近所付き合い大切にする魔王軍最高幹部ってなんなのよ。それで、あんたたちはわざわざ何しに出て来たのよ」
「そうだった、えーっと」
四天王の3人はパラパラと台本を捲る。その行為がイリーナをイラつかせた。
「フハハハッ、姫よ、せっかく遠路遥々ここまで来たところ悪いがその門は貴様には開けられない」
「いや、全然遠路遥々ではないけどね。まあ、この六芒星を見ればでかるわ、どうせ魔法か呪いなんかで開けられないようになってんでしょ?」
「いや、それはただのデザインだ」
「デザインかよ! 紛らわしいな!」
「その門を開けるには六つの鍵が必要だ……って聞いてます?」
イリーナは四天王を無視して木刀で門をガンガン殴り始めていた。
「いや、魔法とかじゃないなら力づくでいけるかなーと思って」
「フハハハッ、この脳筋メスゴリラが! 貴様がどんなに強くても無駄だ。その門は鍵なしじゃ開けられない」
イリーナの動きがピタッと止まる。
「今なんて言った?」
「はい?」
「今私のことなんて言った?」
イリーナが門以上に不気味なオーラを放ちながら四天王たちを睨みつける。
「ひいぃぃぃいい!」
四天王たちは互いに抱き合い恐怖の悲鳴をあげ台本を思わず落とした。そして、イリーナは先ほどの何倍もの力で一心不乱に門を殴り始めた。すぐに門からピシッピシッと悲鳴が聞こえてきた。
「ああっ、姫様やめてください!」
なぜか敵である四天王たちがイリーナを様付で呼ぶ。
「姫様? 私が? 何言ってんの? 私はただの脳筋メスブタゴリラよ」
「ひいいぃい、勝手になんか付け加えられてる。姫様、聞き間違いですよ! そんなこと言うわけないじゃないですか。可憐で麗しき姫様。どうかおやめください」
「姫、やめてください。このまま壊してしまっては真の脳筋メスブタゴリラは皆B型になってしまいますよ」
イリーナはピタッと動きを止め、放つオーラをどす黒いっ禍々しいものから、ふわふわしたピンク色の物に変えてから気持ち悪いほどの笑顔を作った。
「うーん、やっぱり壊すのは無理みたい、てへっ」
イリーナのぶりっ子に震えあがった四天王たちはひとりは泡を吹いて倒れ、ひとりは白目を剥いて倒れ、残されたひとりは停まりかけた心臓を何度も深呼吸して何とか正常に戻してから倒れた二体をペチペチと叩いて起こした。そして震える手で台本を拾った。
「えーっと、どこまで読みましたっけ? そうそう、門を開けるには六つの鍵が必要なんです」
「えらく低姿勢になりましたね」
「何をおっしゃっているんですか? 私たちは最初からこうであったじゃないですか」
「わかったから、さっさと話を進めてよ。それで、その六つの鍵はどこにあるのよ?」
「はい、六つの鍵はですね大陸全土に散らばる魔王軍幹部六天王が持っています」
「ちょっと待てーーー! なんでまた天王なのよ! だったら、あんたら合わせて十天王でいいじゃない」
「姫様の言う通り当初は十天王だったんですが、誰が内勤で誰が外勤かわかりにくいから内勤と外勤で分けてくれって部下たちから要望がありましてね、それで今の形になったんですよ」
「内勤、外勤って会社か! だったらせめて天王以外の呼称を使いなさいよ! 六将軍とか六武海とか」
「姫、私が知る限りこれでも大分ましになったんですよ。昔は内勤五体、外勤五体だったので五天王Aと五天王Bだったらしいですよ」
「AとB! 五天王AとB! まずあんたたち魔王軍はボキャブラリーを増やしましょうか!」
「さすがにそれはわかりにくいということで内勤の一体が外勤に異動することで今の形に落ち着いたようです」
「そんな理由で外勤になった幹部がいるのね、かわいそうに」
「えーっと、まあ、そういうことなので……ゴホンッ、魔王様の復活を阻止したければ、勇者を無事に返してほしければ、残り100日以内に六天王っから鍵を奪ってから再び来るがよい、まあ軟弱な貴様には無理だと思うがな、フハハハハッ」
「ああぁん?」
イリーナが睨むと四天王たちはぺこぺこと頭を下げて弁解する。
「姫様、台本です! 台本!」
「そういうことです、姫。これで魔王城のイベントは終了、これからどこに向かうべきかがはっきりするってことですよ。さあ、行きますよ」
コトネが魔王城から離れ歩き始めたので、仕方なくイリーナも後を追う。
「釈然としないわね。あの門あのまま殴っておけば壊せたのに」
「世界観的に破壊不能オブジェクトなんですけどね、姫なら普通に壊せそうで怖いです。でも、あの場で壊してしまったらイケメンたちとの冒険の日々がなくなってしまいますけどよろしいのですか」
「イケメン……よろしくないわね。そうよ、私にはこれからイケメンパラダイスアドベンチャーが待ってるのよ! さあ、コトネ! 次はどこに行くの? 今度こそ酒場? フェス? 泡パーティ?」
「ナンパでもされに行くんですか? せっかくここまで来たのでこのまま北上し魔法使いの宝庫、迷いの森にあると言われる『隠れ魔女の村』に行きます」
「は? 隠れ魔女の村? あんた今魔女って言った?」
「言いましたよ。それではレッツラゴー」
やはり、コトネは真顔のままテンション高そうな発言をする。
――イケメンの話はどこいった?
そう思いながらもイリーナはコトネに大人しくついていくのであった。
お読みいただきありがとうございます。今回で冒険の始まり編終了です。
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次話からは隠れ魔女の村編スタートです。引き続きお楽しみください。