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19.決勝トーナメント

 時刻は午後2時、再び闘技場に立つのは一人の男。ファンキーな司会者である。こんなに明るい真昼間からなのに当てて意味のあるとは思えないスポットライトがファンキー司会者に集まる。

「ヘイヘイーイ、野郎ども、まだまだ熱は冷めてないよな?」

 熱しやすく冷めずらい観客たちは熱々の雄叫びで答えた。


「そうかい、そうかい、ではその熱が冷めないうちに始めちまうぜ! 準決勝第一試合! まずは赤コーナー、闇の戦士アン・リクネーーー!」

 大量のスモークと共にアン・リクネが東側の出入り口から観客の声援など気にすることなく入場してきた。


「続いて、青コーナー、謎の竜巻仮面、ジャック・ジャアアアアック!」

 火花が打ちあがりジャック・ジャックが西側出入り口からこれまた静かに入場してきた。

 盛り上がっている観客と比べとても静かな入場であった。プロレスならもう少し盛り上げてくれただろう。


 二人は闘技場で相まみえた。しかし、アン・リクネは表情を変えず、ジャック・ジャックは仮面のせいで表情が見えない。お陰様で煽りにくい。この感想はファンキーな司会者のものである。それでもなんとか盛り上げなきゃいけないのが彼の辛いところである。


「見える、見えるぞ俺には静かに燃える二人の闘志が!! そして、今、両者闘技場中央で睨みあう!」

 とファンキー司会者は大袈裟に言うが、どう見ても睨みあってなどいない。なんなら互いに取引先企業のサラリーマンのようにぺこぺこしていた。


「二人ともゴングの鐘が待てないって顔だな! よーし、わかったぜ、もう始めちゃうぜ!」

 カーンとゴングの鐘の音が鳴り響いた。


「なぜ準決勝からゴング方式に?」

 イリーナの疑問に誰かが答える間もなく闇の剣士がジャックに斬りかかり試合が開始した。そして、終わった。


 斬られたはずのジャックが霧散しいつの間にかリクネの背後を取った。そして、ジャックが右腕を振り回すと風が起き、かまいたちとなり、斬撃と化してリクネを襲った。リクネは吹き飛ばされながら風に切り刻まれ、天高く吹っ飛ぶ頃には彼が纏っていた闇をイメージした鎧はズタボロになり、最早鎧とも服とも呼べなくなっていた。


 お陰様でリクネの裸体が露わになり黄色い声が上がった。勿論、その中にはイリーナの声もばっちり含まれていた。


「姫、喜んでていいんですか? 負けましたよ、アン・リクネ」

「そうだった! きぃぃぃ、せっかくイケメンだったのに」


「あんな姿を晒してもイケメン扱いなんですね」

「持ってるものも粗末だったしね」

 さらっとそう言うソラソラをイリーナとコトネは真顔で一度見てから視線を前に戻した。


 天高く飛ばされたアン・リクネはそのまま星にでもなったのか帰ってこなかった。それをファンキー司会者は高らかに宣言する。

「決っっっっっ着! 勝者は謎の仮面ジャック・ジャッッッック!」

 地が揺れるほどの歓声と拍手が会場中を包んだ。それでも歓声の中心のジャック・ジャックは今まで通り歓声に答えることはなかった。


「なんか段々腹立ってきたわ、あの鳥仮面」

「今頃ですか?」

 どうやらコトネはその前から苛立ってたらしい。


「さあ、さあ、次行きましょうか。続きまして準決勝第二試合! 赤コーナー、女性人気ナンバー1、光の剣士セイ・リオ!」

 コールと共に愛想よく観客に手を振りながらセイ・リオが入場してきた。嫌いなタイプだと呆れるコトネの隣で、イリーナも幸せそうな顔で手を振り返していた。


「続きまして、青コーナー、冒険者界の問題児、女は守る男は殴る、ダブルシールド・ブリギッタ・ギーーーーータ!!」

 入場してきたブリギッタは愛想よく手を振ってるかと思えば急に睨みつけたりと忙しそうであった。どうやら律義に女性には笑顔で手を振り男は睨みつけているようだ。


 やがてイリーナたちを見つけると最高の笑顔で手を振るが誰も手を振り返すことはなかった。それどころが目をそらした。

 しかし、そんな些細なことはブリギッタは気にしない。笑顔を崩さず他の女の子を見つけてはぐへへと笑いながら手を振り続けて壇上した。そして、壇上のセイ・リオの目の前まで来ると空気を一変させる。獲物を見つけた猛獣のようにありもしない牙を立てセイ・リオを睨みつけ、今にも襲い掛かりそうであった。一方、セイ・リオはニコニコと笑顔を崩さなかった。


 そんなブリギッタの態度にファンキー司会者は心から感謝した。

「いいね、いいね、これから対決する二人はこうでなくちゃ! 火花が散ったところで参りましょうか」

 それを合図にブリギッタとセイ・リオは構えた。


 そしてゴングが鳴り響く。


 と、同時に光の速さ……とまではいかないが高速でブリギッタに斬りかかった。直後、キンキンと甲高い音が鳴り響いた。ブリギッタのダブルシールドがセイ・リオの剣を弾いた音だ。


「さすがはダブルシールド、僕の初撃をこうもあっさり。受け止めるとは。でも次の攻撃はどうかな? ライト・アタック!」

 リオは自身満々に叫んだ。


「「ダサっ」」

 コトネとソラソラが思わずハモる。対照的にはイリーナはきゃーと興奮していた。

 さて、ライト・アタックとはどんな技なのか。

 眩い光がセイ・リオを包み込んでいた。そして、構える、突きの構え。段々とセイ・リオを包む光は強くなる。


「一撃必殺の突きね、簡単に言えばがと……」

「姫、それ以上は言わないでくださいね」

 直後、セイ・リオが凄い勢いでブリギッタに突っ込んでいった。


「馬鹿ね、イケメンだけど」「ですね」「えっ、何が?」

 突然偉そうに評する二人に驚きながらソラソラは突っ込む。

 そんな話を終えてか終えてないかのうちにセイ・リオの一閃はブリギッタの盾を突いたように見えた。しかし、現実は違った。


「なっ、なんで?」

 セイ・リオは間抜けな顔になっていた。その顔はばっちり黄色い声を上げていた女性たちに見られ幻滅させた。

 結局、何が起きたかといえばセイ・リオの剣がブリギッタの盾に届く前にぽっきりと折れてしまったのだ。


「なんでなんで? どういうこと?」

「つまり、最初の一撃で彼の剣は折られてたんですよ」

 小手調べで放ったつもりの初撃で決着は着いていたのだ。


 武器を失ったセイ・リオはあたふたするしかなかった。その隙をブリギッタは見逃さずじりじりと距離を詰める。しかし、ブリギッタが持っているのは相変わらず盾だけであった。


「薄々感じてたけど、やっぱりあいつの攻撃方法って……」

「まあ、そういうことでしょうね」

 二人の予想通りブリギッタの盾がセイ・リオの顔面にぶち込まれた。セイ・リオは「ぶっ」と不細工なリアクションを晒す。それでもブリギッタの攻撃は止まらない。両腕の盾でラッシュが始まる。


「ブリブリブリブリブリブリブリーーーー、ギッタギッターーーー」

 ターーとともにセイ・リオは遥か彼方に吹っ飛ばされ星となった。


「掛け声ダサ」「普通自分の名前でラッシュしますかね」「あだ名ブリブリで良かったかな、でもやっぱり……」

 ソラソラはリギリギからブリブリにしようか真剣に悩み始めた。


「決まったーーーー、これまた圧勝、成す術なく光の戦士セイ・リオは天の彼方に!! 勝者ブリギッタ・ギーーーータ!」


 ブリギッタは二つの盾を掲げガッツポーズした。しかし、盾のせいでブリギッタの姿が観客から見えていない状態であった。そのせいか、観客の声援はややまばらであった。しかし、次の瞬間、ダブルシールドは所詮同様小手に戻った。現れたブリギッタの顔は腹立たしいほどのどや顔だ。その上、ブリギッタのパフォーマンスは今回はそれだけでは終わらない。


 小手になったブリギッタのシールドがロケットパンチとなり飛びまわる。小手が残した煙がハートマークを描いてからブリギッタの両腕に舞い戻った。と、同時に観客は総立ちで拍手を送った。そして、このブリギッタの派手なパフォーマンスはイリーナへのウインクで締めくくられた。


 こんな素晴らしい演出を受けたイリーナはげんなりしていた。

「凄い嫌そうな顔ですね」

「そりゃ、そうよ。こんなの女から貰っても嬉しくない。あー、全く同じことをセイ・リオがしてくれたら良かったのに」


「演出自体は気に入ってるんですね」「イリイリ、ロマンティック」



 決勝進出者は出揃った。決勝のカードは謎の鳥仮面ジャック・ジャックVS女体好きの変態ブリギッタである。コトネとソラソラはとりあえずブリギッタが決勝まで進出してくれたことに胸を撫で下ろした。

 しかし、イリーナにとってはそんなことはどうでもいい。イリーナの願いはただひとつジャック・ジャックの仮面の下に超美男子が隠れているということだけであった。


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