Vol.2 バレンタイン
――サイアクなバレンタインデーだった……
予想はしていたけど、木村くんは沢山の女の子からチョコレートをもらっていた。
やっぱり木村くんって、女の子にモテるんだね。
あいぽなんか、普通の女の子過ぎて、木村くんには釣り合わないよ……。
私は、徹夜で作った木村くんへのチョコレートを、私の『恋』と一緒に焼却炉に捨てて、放課後の校舎をあとにした。
――ヤダ……雨!?
まるで、私の心が泣いてるかのように、藍色の空からは雨が降ってきていた。
「あいぽ、ナニ先帰ろうとしてんだよ!」
校舎の片隅で、空を見上げ悲しみに暮れていた時だった。
少し怒ったような木村くんの声が、突然に聞こえてきた。
「あいぽの事は、ほっといてよ! 木村くんには、木村くんのコト好きな女の子がいっぱいいるじゃん。あいぽじゃダメだよ……。あいぽじゃ……」
気がついたら、私の頬は涙に濡れていた。
さよなら木村くん……。
そして、こないだは『好き』って言ってくれてありがと。
あいぽは、今日で木村くんの事は忘れます。
だって、あいぽと付き合ってたら、きっと木村くんはメーワクするよ。
…………。
…………。
どのくらい時間が流れたのだろうか?
うつ向くあいぽに口を開いたのは木村くんだった。
「……ばか。世界中の女がオレの事どんなに好きって言っても、あいぽから言われる『好き』には敵わないよ」
「木村くん……」
「さぁ、一緒に帰ろう。傘、持ってるか?」
そう言って、私の頭を撫でてくれる木村くんの眼差しは優しさに満ちていた。
「傘……!? あっ、そうだ!」
私は、ブレザーのポケットにパラソルチョコを入れていたのを思い出し、それを取り出し、木村くんを上目で見上げて微笑んだ。
「はい、木村くん。ハッピーバレンタイン。大好きだよ」
「あいぽ……!」
「木村くん……!」
私たちは、降りしきる雨の中、ぎゅっと手をつないで、歩き出した。
ぎゅっと……
ぎゅっとね!