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2話「電動車いす」

「なあ、ちょっと休憩せんか?」


足を止め、枯れ木のような体を枯れ木で支えながら、勇者アヨンは仲間たちに進言しました。


「チッ、さっきから5分刻みで同じことを…。斬っちまうかコイツ?」

「ホホッ!もう少しで『妖精の祠』に着くみたいよ。そこで休みをとれると思うから頑張りましょ!」


前を歩いていた仲間の2人、

剣士エスガルドは何度目かの彼の惰弱な言葉に呆れ苛立ち、魔女メリザはヘルパーさんが広げてくれた地図を見ながらアヨンを励まします。


シャトルバスから降車してから約4時間。厚く暗い雲に覆われた空の色からは窺い知れないものの、時はすでに黄昏の頃。

戦闘のある度全滅しながらも、ヘルパーさんに回復魔法をかけてもらい、勇者一行はだましだましの旅を続けておりました。


「あぁー、電動車いすでもあればのぅ…。

じゃがメリザの財布の紐は固いし…資金稼ぎも一戦一戦死闘を演じとる今のザマじゃあ難しかろうのぅ…。

あぁー、電動車いすがあればのぅ。ヘルパーさんもおるし電動じゃないやつでもいいんだがのぅ。」


なおも駄々をこねるアヨン。

正直車いすより先に、その寝巻みたいな装備を仕替えるとか、今の戦力で魔王を打倒する作戦とか、もっと他に考えるべきことがあると私は、思います。


「ったくあの能天気、今からこのガルジアナ天原・氷の地下通路・魔王城、3つダンジョンを越えにゃならんというときに駄々こねやがって。

もっと装備を整えるとか、今の戦力で魔王を討滅する算段とか…、考えるべきことが他にあるだろうがよ。」

「そうねぇ。でもアヨンも辛そうだし、このままじゃ足も伸びないから、どうにかしてあげたいわ。」


-------------------------------------


翌日。


「作ったぞ。電動車いす。」


「なヌ!?」


アヨンの目の前には、簡素で少し歪な形の車いすと、疲労が感じられながらも少し自慢げな様子の仲間たちの姿がありました。


「フン、これでちっとは楽に移動もできるだろ。」


「!!

うぅぅ…エスやん…メリー…わしのために…。

すまんのぅ、本に、持つべきものは良き友じゃ。わしは…こんなに…こんっなに!嬉しいことはない!」


感激したアヨンは、涙ぐみ鼻水をすすりながら2人にお礼を言います。


「勘違いするな、俺は貴様のうざってぇ弱音とさっさとおさらばしたかっただけだ!」

「ホッホー。私の魔法とエスのDIYの腕でチャチャっと作ったの!さ、さっそく使ってみて頂戴!」


「おうさ!ありがたく使わせてもらうぞい。


…これ背もたれないんじゃな。危なくなかろうか?」


「ホホッ、何せ四半日で急いでやったものだから。ちょこっとだけ粗があるのよ、ホホホ。」

「あとで余ったベニヤ板でもくっつけておくか。」


「どっこいしょ。

おおっ、座り心地はええのぉ。快適快適。」


「あら良かったわ!前に戦った時、いすにしたら丁度いいんじゃないかとは思っていたのよ~。」


「……は?何?「戦った時」?…ということはもしや…」


「ヘルパーさんにわざわざ『お化け狂いきのこ』を倒してきてもらった甲斐があったわ!」

メリザは青い顔をするアヨンを尻目に、良かったわね、とヘルパーさんを労います。


「おい待たんかい!モンスター!?!?わしの尻の下のこれモンスターの死骸か!?何でそんなもんまで使うんじゃ!」


「仕方あるまい、貴様一人の不埒に割ける金も時間もねぇ。素材のほとんどは現地調達だ。」

日頃の仕返しとばかりに意地悪く口角を上げたエスガルドの至論に、アヨンがしぶしぶ二の句を飲み込みます。


「うぅむ…。

この車輪もモンスターか?どこぞで見た記憶があるのじゃが…」


「ああ、そこの大鳴墓で沸く『ヘルホイール』だ。これも若造に調達させた。」


「戦場のジジイに墓場にある冥界行き車輪って…なんで倫理観まで経費削減するんじゃ。」


むしろ普通に嫌がらせでは?


「操作性はどうかしら?その右側のジョイスティックで方向転換と速度の調節をできるようにしたんだけれど。

傾けた方向に進路をとって、押し込んでいくとアクセルがかかると思うわ。」


「おぉ、これか。このすちっく1本で統御できるのは便利じゃな。」


気を取り直し、メリザの指先にあるジョイスティックを握るアヨン。


「…メリザ、制動と加速は全部お前任せにしちまったが、どうやってコントロールしてんだ?」

「ホホッ、実はヘルホイールに状態異常魔法をかけてるの。

スティックを傾けていないときは『スリープ』、傾けたときは『バーサク』って具合にね。」


メリザは親指を立て、得意げに胸をそらします。


「成程な。フ、そういえばお前の状態異常魔法には昔から世話になっていたな。

ここ最近のボケ具合にはヒヤヒヤさせられたが、やはり身に沁みついた呪文は簡単には忘れんか。」


「ホッホー!何言ってるの!


もちろんうろ覚えよ。」


ギュルルルルルルッ ウワッアアアアアアァァ バシャーン


「アヨン!!大変、毒沼に突っ込んじゃったわ!」

「…とんでもない勢いで急発進したぞ今。」



欠陥、セーフティサポート、不快感、諸々問題はあるものの、仲間たちから晴れて電動車いすを贈られたアヨン。

これで↓のカウンターの進み具合も少し良くなるのではないでしょうか。



魔王城まで、あと18km。

ゆるゆるっと進軍。

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