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魔法学校家庭科教授と九尾  作者: おひさまびより
2/3

はじまり 2


 青年はファーストを見るなり、目に涙を溜め、唇を噛みしめる。


「き、き、き、きょうじゅぅぅぅ!!」

「ええい! 離れろ!」


 抱き着いてきた青年を引き離すファースト。

 青年はヨレヨレの袖で涙を拭う。


「いやあ、卒業式以来だな、先生。会いたかったぜ!」


 青年の名前はマーリン・ミー。魔法使いだ。


「お前の馬鹿みたいに明るい性格は卒業しても変わっていないな」


 ファーストの悪態に、マーリンは「へへへ」と笑う。


「そういう教授の口が悪いところも、全く変わってねぇぜ。はは、何か学生に戻ったみたいぜ、変な感じ」


 魔法学校。

 魔法使いの卵が、立派な魔法使いになる為、勉学に励む所。

 ファーストは魔法学校で家庭科の教授を務めており、マーリンは数年前に学校を卒業した生徒だ。

 ちなみに、マーリンはファーストが教授になって初めて受け持ったクラスの生徒である。


「……卒業後、死んだ父の店を継いだと聞いていたが」

「ああ。父が死んで、店を人間用から魔法使い用に変えたんだ」

「魔法使い用?」

「教授は、俺が退屈を嫌っていることを知っているだろう?」

「『退屈は俺の敵だ』と馬鹿の一つ覚えみたいに言っていたな」


 マーリンはあしらうように笑い、傍の本の山に手を伸ばす。


「人間だった親父は、ただ文字がつらつら並ぶ学芸書だけしか店に置かなかった。そんな退屈な本で支配された店を継ぐなんて、絶対に嫌だった」


 ページをめくると、小さなドラゴンが本から飛び出した。

 キラキラと輝かせた目で、自分の周りを旋回するドラゴンを追いながら、マーリンは話を続ける。


「で、決心したんだ。俺は読む人を楽しませる本を売ろうってな」

 

ドラゴンが光の珠となり、ページの中に吸い込まれていく。


「今は魔法の仕掛け絵本や人間の物語を魔法でアレンジした本を売っているんだ」


 閉じた本を元あった場所に戻し、「いやぁ~」と口元を緩める。


「それにしても教授が、俺に会いに来てくれて、ほんと嬉しいぜ」

「私は会いたくなかった」

「またまた~そんな冷たいこと言って~。なら、何でここに来たんだ? まさか絵本でも買いに来たのか? あ! 教授、もしかしてパパになったのか!? だから子供に絵本を――」


「んなわけあるか!」とファーストは、ズボンのポケットから「仕掛け本屋 バーベナ くじ券」と汚い字で書かれた紙片を取り出す。


「お、そいつはくじ券。しっかし、どうして教授が持っているんだ? 常連客にしか配っていないんだが」

「マギ・リットからもらったんだ」


 マギとは、魔法学校の生徒の名前。

 一月前、マギがくじ券をあげるから課題の提出日を伸ばして欲しいと持ち掛けてきたのだ。

 当然、ファーストは却下した。ついでに、教員に取引を持ち掛けた罰として、くじ券を没収したのだった。


「――ということがあってな」

「……可哀想なマギ……また今度、くじ券をやるとしよう」


 訳を聞き、遠い目をするマーリン。


「ちょうど、この村に用事があってな。券を無駄にするのも惜しいから、店に寄ったんだ。

 さぁ、さっさとくじを引かせろ。この後も学校の用事が詰まっているんだ」


「へいへい」とマーリンはくじ箱を持ってくる。

 ファーストは丸く空いた穴に手を突っ込み、茶色い玉を取り出す。

 すると、玉から芽が生え、ぐんぐんと背を伸ばしていく。そして、ポンと弾けるような音と共に、金色の花を咲かせた。


「出ました! 一等賞!」


 パーンッと、マーリンはどこからか取り出したクラッカーを鳴らした。

 クラッカーから飛び出した小さな妖精が羽をはためかせながら、賛美歌を歌う。


「……一等賞」

「今、商品を持ってくるから、ちょいと待っててくれー」


 驚いているファーストをよそに、部屋を飛び出すマーリン。


「……一等賞か。くじで一等を引いたのは初めてだ――ええい! うるさい!」


 ハエを払うような仕草をすると、妖精は小さな悲鳴を上げて、消えた。

 やがて、黒い小箱を持ったマーリンが戻って来た。


「ほい、賞品だ。おめでとう。教授」

「ああ……ありがとう」


 渡された黒い箱を開けようとしたが、マーリンがファーストの手を掴んで止める。


「あーっと、教授! お楽しみは家に帰ってからからだぜ!」

「…………何故だ。もしや、くだらんガラクタを押し付けようとしているんじゃなかろうな」

「違う違う! すげー素晴らしい商品だ! 本当に!」


 しかし、マーリンの笑みは引きつっており、賞品がくだらないものであるとファーストは確信した。


「あ、ほら、先生! 用事が詰まっているんだろう?」


 ファーストは唸りながら腕時計を見て、踵を返した。

 部屋を出て行く直前、立ち止まり、マーリンを睨む。


「……もしもくだらぬものであったら、その時は覚悟しておけ」

「うぃっす……」


 マーリンの返事は震えていた。


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