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魔法学校家庭科教授と九尾  作者: おひさまびより
1/3

はじまり 1

 緑に囲まれた美しい村で、小さな命が消えようとしていた。

 静寂な村を切り裂くのは、人々の悲鳴とクラクション。

 そして、ボールを手にした幼い男の子が立っていた。

 その小さな瞳には、だんだんと迫って来る車が映っていた。

「もう間に合わない!」と誰もが目を塞いで、その時を待っている中、男――ファーストだけは冷静だった。


「――――」


 ファーストが何かを囁いた。

 瞬間、突風が吹き、周囲の木々の葉を散らす。無数の葉々は、空飛ぶ雀の群れのように宙を駆ける。

 そして、凄まじい勢いで葉々は男の子に突進する。衝撃で、男の子は道の端へと吹き飛ばされた。

 風が止み、勢いをなくした葉々はひらひらと地に落ちる。


「あああああ!」


 恐る恐る目を開けた人々が声にならない歓喜の悲鳴を上げる。ようやく止まった車の運転手は驚愕と安心で、顔を歪ませ、荒い息を吐いていた。

 真っ先に男の子の母親が、我が子に駆け寄り、抱きしめる。他の人々も親子に近づき、「奇跡だ!」「こんなことがあるなんて!」「助かってよかったな、坊や!」と安堵の笑みを浮かべる。


「葉っぱさんがね、僕を助けてくれたんだよ。まるで魔法みたいだったよ!」


 男の子が興奮した口調で言った。

 それに対し、ファーストは心の中で、


(まぁ、実際、魔法を使ったんだがな)

 と返して、再び歩みを進めた。

 ファーストは魔法使いだ。青色の、コンフェイト(金平糖)に似たネックレスが、彼が魔法使いだという証拠。


 石畳の道を挟むかのように、石造りの古い家々が並ぶ。

 そのうちの一軒――本のデザインをした看板がキィキィと揺れている本屋の前で、ファーストは足を止めた。

 埃で汚れた見世窓の向こうには、本屋なので勿論、たくさんの本が詰まった本棚が設置されている。

 ドアノブに手を伸ばそうとした時、通行人が声を掛ける。


「その本屋、もうやってないぞ。数年前、そこの親父さんが亡くなってから、店が開いているところ、見たことない」


 ファーストは通行人の言葉を無視して、店の中に入った。

 通行人は肩をすくめ、再び己の目的地へと歩く。

 薄暗く、あちこち埃被った店内。その奥に、馬に乗ってガッツポーズを決めている美青年が描かれた、大きな絵画があった。

 絵画の額縁を掴み、力を入れる。すると、扉が開くかのように絵画が動いた。

 絵画があった場所に、扉が現れ、ファーストはドアノブを回した。


 隠し部屋には、幾つもの本の山が無造作に置かれていた。この部屋も埃が充満しており、ファーストはくしゃみをした。

 スンと鼻をすすり、本の山から適当に一冊を手に取り、開いてみる。

 真っ赤なページ。やがて、文字と絵が立体的に浮かび上がる。


『「お嬢さん、この林檎を食べてごらん。これにはね、美しくなれる魔法が込められているんだよ。王子様もきっと、隣国の王女より、お嬢さんを選ぶに違いない」

 フローリアは老婆から林檎を受け取り、一口かじってしまいました』


「……!!」


 林檎を食べた、絵の女の子がドロドロに溶けた。

 絵とはいえ、あまりにも繊細に描かれていたので、ファーストは顔をしかめ、本を閉じた。


(……こんなものを買う奴の気が知れんな)


 扉が開き、賑やかしい声が入って来る。


「すまん、すまん、すっかり待たせてしまったな。実は、昼にアイスを六つ食ったから腹の調子が悪くて、トイレとお話していたんだ――」


 肩まで伸びた灰色の髪と、少し吊り上がった黄色の瞳。

 派手な色合いのくたびれた服を纏った、店の主人である青年が笑みを浮かべていた。

 彼の耳にはめられたコンフェイトに似た形の赤いピアスがきらりと光った。


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