ハッと驚くトリック
「どうすればいいと思う?」
メイドの話を聞いたが、特にいい案は浮かんでこない。
「どうするも何も、既に何らかの動きがあると思われます。
なるべくバレぬ様、努力して頂くしかございませんね。」
なんで人ごとみたいに言ってるんだ?このままだとお前もヤバいよな?
既に一晩経った、もし店に騎士団がやってくればコイツを見られた時点で終わってしまう。
メイドとはいえ、流石に王女の影武者なんてしてた奴の顔なら、騎士団もわかるだろう。
「なぁ、とりあえず変装しないか?」
まずはこの豪華なドレスを着替えてもらわなければ話にならない。幸いにもココは裁縫屋だ、仕立てた服も多い。
幾らでも着替えはある。
「お前ではなく、フローラとお呼びくださいませ。」
「今は名前なんてどうでもいいだろ。兎に角これに着替えてくれよ。」
近くにあったドレッサーから洋服を手渡して、試着室へとフローラを押し込んだ。
フローラは無表情で試着室へと入っていき、ごそごそと着替え始めた。
「胸のあたりが、少々きついのですが・・・」
そんな事を言いながら、フローラは着替えを済ませて試着室から顔を出した。
手渡した緑のワンピースに着替えてはいるが、たしかに前で止めたボタンが今にもはち切れそうなほど膨らんでいる。
「すまん。合うと思ったんだが。」
まさか俺が体型を見誤るとは、どんだけ胸がでかいんだ・・・。
すかさず少し大きめの服を手渡して着替え直してもらったが、次はジャストサイズだったようだ。
脅威だ、あの細さでまさかバストが83もあるなんて。
「何故またワンピースなんです?」
「可愛いから?」
「私はズボンとシャツの方が動きやすくて良かったのですが」
「贅沢言うな!」
ぶつくさと文句を言い始めたが、今は知ったことでは無い。王国の目を誤魔化せるかどうかが肝心だ。
「でもやっぱり、服だけじゃすぐにバレるよな・・・・」
王女の影武者だけあって顔は美人さんだ。これだけ顔がいいと覚えられてる可能性が高い。それから少し考えて閃いた。
「フローラ、耳と尻尾を生やさないか?」
「耳と尻尾を、ですか?」
フローラは無表情のまま、首を傾げてよくわからないといった顔をしている。この世界では亜人なんて珍しく無い。町中どこでも見かける程だ。
母からの教えによると、その昔は人が格段に多かったそうだ。しかし、魔王によって衰退を辿った人類は、種を残すために多種族と交わりを持つ事に躊躇をしなかったそうだ。
その為、元々数の少なかった亜人と人とのハーフ、場合によっては擬人化のできる知性を持った魔物と人とのハーフ。
竜と人とのハーフなんかも生まれていったそうだ。
様々な遺伝子が混ざり合って、今の世には数多くの亜人や獣人、それらのハーフが存在する。
「一体どうやって?」
「俺は裁縫師だが、面白いことができるのさ。ココに服の素材となる獣の毛や皮が大量にある。
これを使う。」
フローラはそれらを見るがピンと来ないようだ。まぁ、そもそもこんな事をする奴はいないだろうしな。
「百聞は一見にしかずだ。見てろ?」
俺は自らの持つ裁縫師のスキルを使用して、魔力の糸と針を作り上げる。それらを使って獣の皮と毛を丁寧に縫い合わせ、獣耳を作った。
「それを、被るんですか?」
少し不安を抱いたようで、フローラの表情が曇った。ちゃんと表情は変えられるようで安心した。ずっと無表情って、顔がよくても少し怖いぞ?
「まぁ見てろって」
俺はそのまま魔力の糸を獣耳に通して、フローラの頭皮に縫い付けていく。細く鋭い魔力の針は、痛みを感じさせる事なく皮膚に縫い付ける事も出来る。
前に大怪我をした時に、自分で皮膚を縫合した事があるから実証済みだ。それに、切り傷だってこの縫合さえあればすぐに治る。
魔力で作った糸は俺の意思でしか解除する事が出来ないので、半永久的にそこに存在する事が出来る。
あっという間に獣耳を皮膚へと縫い付けて、頭だけ亜人姿が完成する。
「どうだ、すごいだろ?」
「た、たしかに本物と見分けがつかない程にリアルです。」
フローラは向かいの壁に掛けてある鏡を見て、驚きの表情を浮かべている。
しかし、驚くのはまだ早いぜ?
「それな、実はただの飾りじゃ無いんだ。
耳がもう一つあると思って、動かすように意識してみてくれ。」
「まさか、動くなんて事は・・・。」
フローラは恐る恐る偽物の獣耳に力を込めた。耳はそれに合わせてピクピクと動きだす。
「動いた!?」
「ハッと驚くトリックも、怪盗には不可欠だからな。」
まぁそうは言ってみたものの、魔力の糸を神経を筋繊維がわりに張り巡らせて、脳神経と繋ぎ合わせただけなんたけどな。
簡単なトリックだろ?
それに、フローラの髪は長い。
本物の耳をすっぽり覆う程だから、これだけ芸を凝らせばちょっとやそっとじゃバレないだろう。
「凄いです!それに、なんだか貴方様の声が必要以上にうるさく感じます!」
「そりゃあ、音も拾えるように神経と繋げたからな。」
しかし、うるさく感じるって褒め言葉には聞こえないんだが。とても良く聞き取れる、とか表現は他にもあっただろうに。
「凄い能力ですね、本当の亜人になったようです。それで・・・・。
やっぱりお尻も出さなきゃダメですかね?」
フローラは耳に驚いた後、尻尾の事を思い出して恥ずかしげに此方を見つめてくる。思ったよりも感情に富んでいるようだ。
しかし、考えてみればその通りだ。尻尾をつけるとなると女性にお尻と腰の間の微妙な位置を曝け出させなければならない。
俺も、若干恥ずかしい・・・。
「やっぱり、尻尾はやめとくか。」
「いえ・・・。命が掛かってるんですから、そんな事は言っていられません。
恥ずかしいですが、お願いします。」
俺がまだ何も準備をしていないのに、フローラは背中を向けて躊躇なく下着をずり下げた。
「全部下げなくてもいいからぁぁああ!!!」
咄嗟に横を向いたが、見るものは見てしまった。
ちゃんと説明しなかった俺も悪いかもしれないが、勢い余った彼女に非があると思うぞ?




