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第十六話『灰燼と黒狼』

 

「くそっ、こんなんだったら入間さんを土下座してでも来て貰えばよかったぜっ! ダイナマイトは好きかぁ⁉︎ 吹き飛びやがれ、クソッタレ共!」

「ジャムった。交代しろ」


「……同盟の犬共は、少しは黙れねぇのか」



 濱谷が戦闘している頃ーー他部隊。

 同盟と連合の混成部隊は、大まかに二つの行動に移っていた。


 一つは、本陣へと戻り防衛へと向く部隊。

 今回の戦線はあくまでも防衛が基本としており、百鬼の者より先に未調査区域を突破した所で益もない事も予想されている。妥当な判断だ。

 時折に発生する遺産(アイテム)もまた、魔力濃度が極めて低い為に、この場では現れている可能性は低く。危険な遺産の奪取などの必要性はありえない。


 にも関わらず、何故に百鬼は攻めてきたのか。

 その部分に疑問を抱いた者達が、百鬼の者達が敷く陣形を切り崩し、未調査区域の中心部へと突き進む。



「おい、ジジィ!

 攻めてきてんのは、千万斬(チマキ)っつー、屑集団なんだろ。じゃあ、単純にぶっ殺してーって理由なんじゃねぇのかよ」



 連合側には、守備的な側面の強い者が多い。

 同盟と連合の混成部隊と言いはするが、実際に中心部へと向かっている連合員は『灰路(はいろ) (じん)』と言う名の白髪が目立つ頭をした男だけだった。

 だが、その男こそ中心へと向かう選択を最初に決めた存在でもあった。年若い同盟所属の青年の問いへと、灰路は悪戯小僧が悪巧みするような笑みを浮かべる。



「んな訳あるか。

 てめぇらが仲良くドンパチやってんのは、百鬼(なきり)のカス共だ。このカス共が千万斬の連中と肩を組むには別の理由か報酬でもなきゃ、手伝ったりなんてする訳ねーだろうがよ」


「……鬼院のババァが死んだ。

 奴等の総大将ってか、影の首魁だ。敵の敵ってんで手でも組みたくなりそうだけどなぁ?」


「まぁ、それも含めて」



 そこまで言うと灰路は、

 隠れていた物陰から姿を晒す。


 視線の先では、アサルトライフルを抱えた蜥蜴の姿をした者達が対応するように物陰へと隠れて銃を構えた。が、即座にその身体は灰路の腕から伸びた鎖に貫かれた。

 朽ちた鉄のような鎖は、転々と火の燻りにも似た発光を生じさせ、貫かれた蜥蜴男が発火する。苦しみ悶えるが鎖が意思を持つように蜥蜴男へと巻きつき、縛り上げていく。



「確認しに、行こうじゃねぇかよ」



 灰燼。

 捕らえられた者は、悶え苦しみ。灰と化す。


 灰路の鎖は、炎のように一瞬で灼き殺すような威力がない一方で、鎖としての捕縛能力とそれに伴う殺傷能力は非常に高い側面を持っている。

 そして、そんな鎖がまるで生き物の如く操る灰路は、連合内でも高い実力を持っている事が窺えた。


 実力主義を重んじ、血に飢えた若き同盟員達は、その勢いに乗るように活気付き。更に進行速度を上げて、次々と暗がりから這い出る百鬼の陣形を切り崩す。

 中心部へと近いという事もあり、更に勢いは増していく。


 その姿に、どこか。

 焦りにも似た色を、滲ませて。



 ◇◆◇◆



 旧千日越町の中心部。

 元は学校校舎の体育館があった筈の場所は、まるで、そこだけ切り取られたかのような真っ黒な大地が広がっていた。興味深げに多種多様な見目をした妖怪達がその上で犇いている。


 人類の敵。文明の破壊者。貪る者。

 妖魔達が決起し、集った妖魔衆ーー百鬼(なきり)の一団だ。


 そして、その中でも今いる者達は、異端だった。

 死に場所を失い。将たる主を失い。本能だけが血を求める純粋たる妖魔達。時代において行かれた殺戮の為だけに生まれたかのような殺人衝動を抱えた妖魔達が此処にいた。


 その中心に、一匹の黒い人狼が微笑む。

 それは、人狼でありながら地面にまで接触するまでダラリと肥大化した腕部を持ち。膨張した手先は、人の胴のように太かった。人狼の中でも彼の見た目は、異形と言えるだろう。


 そして、それは此の中で。

 誰よりも強く。誰よりも魔力を有していた。


【影刃狼】ヴェルテン


 その手には、今は亡き主人。

 影の首魁ーー聖夜に行われた決戦で死した鬼院 桜蘭と言う妖魔の髪束が握られていた。そして、その髪に呼応するように、地獄の釜が開くかのように地面の闇は大きな地鳴りと共に蠢き、荒れ狂う。


 その様子を、ヴェルテンは鼻で笑った。



「人に恐れられ、同族にも畏怖された貴様がまさか人間程度に遅れを取るとはな。お前が冥府に落ちて、最近はつまらなくなる一方だ。

 お前の後釜に座った小娘もハゲと小僧も、誰も血を望もうとしやしない。命を掛けた戦いこそ、魂の研鑽する唯一の手段だと言うにも関わらずーー血が足りないんだよ。鬼院」



 ヴェルテンは、髪束を握りしめる。

 その周囲へと収束した魔力が光を伴って、魔術の陣が編まれてゆく。そこに描かれるのは外道の法。自然の中ではあり得ない。あってはならない魔法。


 ーー死者蘇生(ネクロマンス)


 これもまた『四基三魔』の法に則った業であり。

 同時に余りにも、不完全と言わざる得ない術式でしかなく。死者蘇生と言うよりも死者の錬成と呼ぶべき業だった。

 だが、ヴェルテンは気にしない。

 ヴェルテンは、鬼院の人格など興味がない。


 ヴェルテンにとって、鬼院とは。

 力の象徴でしかなく。その信奉も彼女ではなく彼女の持った力にだけ向いている。だからこそ、彼女が不完全であろうと彼女の力だけが本物であれば、それでいい。



「てめぇら。誰が来ようとも駆逐しろ」



 ヴェルテンに、風は向いている。

 生物が個々に持つ魔力には色があり、単純に魔力を混ぜ合わせるだけでは魔力を他者に与える事が不可能だ。だが、此の空間中にある魔力は、黒い霧という空間干渉結界の前身となったプロトタイプの結界だ。


 その作成に最高峰の妖術師たる鬼院の魔力が使われた可能性は高いだろう。ならば、此の空間の魔力を集めれば、死した鬼院を魔力から作り直せるのではないか。または、彼女に準ずる者を生み出せるのではないか。


 魔力。精神となる部分は、既にある。

 そして、肉体の一部である。髪束も揃ってる。


 妖魔とは魔力から生まれる者もいる為に、髪束は必要ないのだが少しでも基となる物があれば、より生前の彼女に近い出来に仕上がる可能性は高いはずである。



 ーー空論の上に、成り立った空論。



 だが、鬼院が死した後に結界が崩壊し、干渉不能空間内の魔力が一点へと収束するなどと言った通常ではあり得ない現象を知り、ヴェルテンは確信にも似た直感を抱いていた。



「強かでありながら、幾重にも狡猾に逃げ道を用意するのは、如何にもあの女らしい。いや、あの女が只の人間に易々と殺される訳がそもそも無かったか。

 冥府は退屈だろう。さっさと地獄の門を開けてやろう」



 ヴェルテンは、

 独り言を呟きながら、術式を組んでゆく。



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