桃太郎early ends
<#1>
昔々ある所、岡山の内陸地方にある中国山地近辺の山間の小さな農村の一軒家に、お爺さんとお婆さんが住んでおりました。その暮らしは決して裕福なものではありませんでしたが、二人は醜い欲望に駆られることもなく、その日々の暮らしに幸せを感じておりました。ラヴラヴハッピィな暮らしをしておりました。
「では、行っでくる。今日も愛すてるだ、ハニー」
「わたすもですよ、ダーリン」
そんなある日、いつものようにお爺さんは山へ芝刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行きました。お婆さんがお爺さんの尿漏れパンツをゴシゴシと洗っていると、川上の方から人智を逸した程の大きな桃が、どんぶらこーどんぶらこーと流れてきました。
普通の桃の大きさがソフトボールよりちょっと大きいくらいとしたならば、流れてくる桃の大きさは縦横高さ全てがその10倍はありそうでした。質量ではどのくらいになるのか見当もつきません。
な、な、なんじゃこりゃぁああああっ!
そう思いながらも、お婆さんは黙ってその桃を見据えます。が、何やら気味が悪いので、お婆さんは見なかったことにしました。
<#2>
お婆さんはやってくる桃を真っ直ぐ見据えました。あれは不気味な存在だ。だが、非常にレアなものに違いない。あれを手に入れることが出来たならば、ウハウハだぜ。そう欲望を抱いたお婆さんは、目を¥マークにしながら川の中へと足を踏み入れます。
お婆さんはその皺が刻まれた両腕を大きく広げ、流れてくる桃と対峙しました。
「よぉし、ががってこいやぁっ!」
某プロレスラーTのような気合いの入った声を上げ、お婆さんは大きな桃へと向かいました。しかし、残念ながらお婆さんはお婆さん。力の入らぬその細腕では、桃と戦える力はありませんでした。そして力の衰えたその細い足では、川の中でバランスを維持するのもまた難しくなっておりました。
「ぐはっ!」
お婆さんに激突したその大きな桃は、流れるスピードを殺されることもないまま、そのまま川下の方へと流れていってしまいました。
<#3>
お婆さんは大きな桃を家に持って帰りました。それからお爺さんの帰りを待って、二人でその桃をムシャムシャと食べようと思っていました。
見せ物にして金を稼ごうか。それとも何処かに高値で売り払おうか。少しそう考えもしましたが、見せ物にしたところでこんなド田舎では客足は見込めず、売り払うにしてもその当てはない。そして、考え続けては腐らせてしまう。そう考えての決断でした。
「今ぁ、帰ったべさ」
お婆さんがそう結論を出してすぐ、お爺さんは家に帰ってきました。お婆さんはお爺さんを手招きして、その大きな桃を見せます。その桃の余りに非常識な大きさに、お爺さんは腰が抜けるほど驚きました。しかし、すぐに気持ちを切り替えてお婆さんの誘いに乗って、その桃を二人で食べることにしたのです。
お爺さんは腕組みしながら桃をぐるりと見渡します。とても大きいので、これでは台所にある普通の包丁ではリーチが足りなくてとても切れそうにありません。少しお爺さんは考えた後、納屋に以前お侍さんから頂いた太刀がある事を思い出しました。お爺さんの自称・鹿島新當流の腕が輝く時、それはきっと今。
お爺さんは太刀を持ってきて、上段に構えて、桃に向けて大きく振り下ろしました。
「ちぇすとー!」
ザシュッ! ゴリゴリゴリゴリッ!
何やら硬い物に当たった気がしましたが、種だと思い構わず真っ二つにしました。
「げっ!」
すると、中には赤ん坊がまっ…(以下自主規制)
<#4>
お爺さんとお婆さんは、桃から生まれた赤ん坊に『桃太郎』と名付け、大切に育てました。それから、しばらくの時が流れました。まるで新幹線のぞみのように時の流れとは早いものです。
あ。
という間に、15年もの歳月が過ぎてしまいました。桃太郎はその間結構順調に成長し、そこそこの少年となりました。お爺さんとお婆さんも、もういつ棺桶に突っ込まれてもおかしくない年になってはいましたが、変わらず元気に過ごしておりました。そして、相変わらずラヴラヴハッピィです。
そんなある日、桃太郎は鬼の噂を耳にしました。この農村から南方の港町で時々暴れるそうです。朝が早くて大変な農林業が嫌で堪らなかった桃太郎は、ここで鬼でも退治して左うちわの生活を送ったろかー、と企み鬼退治を決意します。そうすれば、ハーレムも夢じゃねぇぜ、と心と股間を熱くします。
「爺さん! 俺は鬼退治に行くぜ! あっはっはー♪」
桃太郎は納屋から太刀を引っぱり出して、一丁前の侍気取りで直立します。本人の想像の中では勇者のイメージなんでしょうが、そこは農機具が色々と並んでいるだけの土間。馬鹿丸出しです。
「…………」
お爺さんは、鬼の噂を耳にした時から、いつかこういう日が来るのではないかと危惧しておりました。お馬鹿な桃太郎が言い出すのではないかと心配しておりました。それが今日、現実となってしまったのです。
馬鹿な桃太郎。でも、お爺さんはそんな桃太郎とは違い、何となく鬼の正体を勘付いておりました。何処にも鬼なんか出たりしない。ただその鬼の噂は、港町での治安の悪化を鬼のせいにすることによって、その町の名を落とさないように町の人が流したデタラメな噂なのです。
「桃太郎」
「何や?」
「鬼なぞおらん。あれは人が作った架空の生物だべさ」
お爺さんはそう言って、桃太郎を諭しました。何日も何日もかけて、ようやく言いくるめました。嗚呼、馬鹿のお守りは大変ですね。
<#5>
今日は桃太郎が鬼退治の旅へと出る日。桃太郎は、お婆さんからは特製の衣装ときび団子を、お爺さんからは納屋にあった太刀を貰って衣装を整えました。
そして、出発。桃太郎はとりあえず南下しました。音程無視の鼻歌を大声で歌いながら桃太郎がしばらく南下していきますと、とある林道で犬に出会いました。動物の犬です。政府の犬ではありません。
「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ」
犬は桃太郎に向かって尻尾を振っています。どうやら、腰にぶら下げているきび団子が欲しいようです。桃太郎はそのことを察知すると、ニヤッと笑って言いました。
「犬なら芸をしろ」
犬は桃太郎がどういう芸を求めているのか分からなかったので、とりあえず犬として定番な『おすわり』と『お手』をしました。しかし、桃太郎は少し不満そうな顔をします。余りにも面白みに欠ける芸だったからです。それでは駄目。芸犬失格。
「甘いな。それでは吉本やワハハや人力舎のドアは叩けん。顔洗って出直して来い」
犬は自分の至らなさを嘆き、去っていきました。芸を磨き、ピン芸犬としてR-1で活躍してやろうと思いながら……
<#6>
桃太郎は犬と共に港町への旅路を続けました。すると、その途中の山間で猿に出会いました。猿です。猿に似た人間ではありません。何処かの動物園のイケメンゴリラではもっとありません。
「ウキッ、ウキャキャキャ?」
その猿もやっぱり桃太郎のきび団子が欲しいようです。お婆さんのきび団子メッチャ大人気です。桃太郎はそのことを察知すると、ニカッと笑って言いました。
「猿は他の獣に比べて賢いと聞く。それならば、自分の知恵で何とかしろ」
「ウキャ?」
何をすればいいのか分からないので、猿は不思議そうな顔をしました。そんな猿に対して、桃太郎は続けて言います。
「クイズだ。俺様の出す問題に見事正解してみせよ。超絶難問だぞ。覚悟せいっ!」
「ウキャ?」
「6たす3はいくつだー?」
「ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ、ウキャ(9)」
「何、9だと? 馬鹿め。所詮は猿知恵だな。6+3=8に決まってるだろうが! はははははは!」
馬鹿な桃太郎は、そう言って大笑いします。そんな桃太郎の着物の裾を、犬は引っ張ります。
「何だ、犬? え? 6たす3は8じゃなくて9だと?」
桃太郎は両手を使い、再度計算し直しました。確かに、8ではなくて9だったようです。
「ふっふっふ。このようなハイパァ・デラックス・マキシマム・ザ・難問を解いてしまうとは、お主やるな。猿世界では天才と謳われているだろう? 神童と呼ばれるこの俺様も、相手が悪かったかな? だが、約束は約束だ。約束通りきび団子をお前にくれてやろうではないか」
桃太郎は猿にきび団子をあげました。ボケに対し、ツッコミがいないのは話として大変なものです。誰もお前の事を神童なんて言ってねー、とは言えないのですから。
<#7>
それから桃太郎&犬&猿&雉は港町に辿り着きました。何かいつの間にか連れが増えているような気もしますが、それはきっとアナタの気のせいです。そんな桃太郎達は港町で早速鬼についての聞き込みを開始しました。
「鬼? 居るぜ。ウチのカカァは鬼だ。ちと賭博でスッたからと言ってゲンコで16発も殴られちまったぜ」
「鬼? 居るわよぉ。家の姑はホント鬼よね。『ちょっと、お市さん。ここに埃がありましてよ』とか言ってグチグチと嫌味言って。あの、腐れババァ。姥捨て山連れていくぞ、くそったれ!」
「鬼? 居るよ。僕のコーチは鬼コーチさぁ。剣術の練習サボって、ちょっと女の人のケツ追っかけ回しただけで罰だもん。僕位の年齢ならちょっとストーカーかましてみるのは当然のことだろう! こんちくしょー!」
実に参考になる情報が手に入りました。そんな中で、港から少し沖合いに行ったところに鬼の棲家があるという噂を手に入れたので、桃太郎達はそこに行くことにしました。猿が船を手配します。
港に船を用意出来たと猿から聞いたので、桃太郎一行は港に行きました。そして、桃太郎はその船を見て絶句しました。
「これ、なのか?」
「ウキャ♪」
「…………」
桃太郎の視線の先にあった船は、観光地でよく見かけるアヒルさんボートでした。1時間300円だそうです。
「やり直し」
当然です。おそらく、1時間では鬼ヶ島までは行って帰って来ることは出来ません。
<#8>
大して凄くない船で、桃太郎は出航しました。目指すは鬼の棲む(噂の)島です。そんな道中で、雉はこれから対面するであろう鬼を想い描きつつ、それに対する不安を打ち明けました。多勢に無勢で、ゴツイ鬼に囲まれたら確実に殺されてしまうのではないか、と。勝ち目は無いのではないか、と。
そんな雉を見て、桃太郎は目を丸くしました。
「え? ゴツイ鬼?」
雉は肯定します。
「何ー! 鬼ってのはボン・キュ・ボンのセクシー姉ちゃんが露出度の高い着物着てねり歩いてるんじゃ
ねぇのか? 虎柄のビキニを身に纏って、言葉の末尾に『だっちゃ』が付いていたりしねぇのかよ! ゴツイ男? 嫌だ。嫌だ。そんなの見たくねぇ! 帰るぞ! 帰るぞー!」
逆ギレぎみの桃太郎は、早速船を引き返しました。
そしてその後、桃太郎は鬼のことなど忘れて、死ぬまでずっと変わらずに愚か者らしい生活を送り続け、愚か者らしい末路を迎えたのでした。
めでたくもあり、めでたくなくもある。
昔書いたものです。例の投稿でちょいと投下してみました。




