07 準備
ロルフがギルドに戻ってきてから宿に場所を移し今日集めた情報を交換していた。
そして僕は宿の部屋に入った瞬間に流れるように土下座をしている。
啖呵を切っておきながらパーティーメンバーを一人も集められなかったためだ。
「シグルド君。とりあえず言い訳を聞こうか」
「それが・・・・・・そのぅ・・・・・・」
あの後模擬戦は無事勝利した。
真正面から突っ込んで行って飛んでくる矢を躱し、フードの人が距離を置くために放った矢を僕は銃で撃ち落とすという曲芸をした。
結構危なかったとだけ言っておこう。
そしてフードの人が惚けているうちに銃を突き付けて相手を降参させた。
そこまではよかったのだ。そこまでは・・・・・・
降参したフードの人にすぐに逃げられちゃったのだ。
パーティーメンバーに誘う前にだ。
ひとまず一部始終を包み隠さず話した。
するとそこまでウンウン頷いていたロルフが目をカッと開き罵声を浴びせてくる。
「馬鹿かお前は! パーティーメンバーに誘おうとして模擬戦して逃げられてどうする!」
「相手が強くてテンションが上がってちょっと本気を出した。後悔はしていない」
「戦う前に条件付けるとかやりようはあるだろう!」
確かにと手を叩くポーズをしたらとりあえず殴られた。
ロルフはため息をつき、相手の情報を聞き始める。
「それで? その人強かったのか?」
「強いね。間合いの取り方も矢の狙いも正確だった。ありゃ結構弓を扱ったことがある人間の動きだった。あれで1レベルなら僕たちにもある程度ついてこれる即戦力だったよ」
正直な話僕の戦闘スタイルが遠中近距離全部対応できるのがおかしいだけで、通常なら一つの距離で戦えればあとはパーティーで補うのが普通だ。
「マジかよ。なんでそんな人材逃してんだよ・・・・・・」
逃げちゃったからね。
どうしようもないからしたり顔で両手を上げてわかんなーいというポーズをしたら今度は蹴りを入れられた。
「とりあえずは現状の確認をするか。お前はそのまま正座な」
勘弁してくれよ。
もう足が痺れてきてるんだよ・・・・・・
「俺は街に繰り出して情報を集めてきた」
そういってロルフは一冊の本と紙取り出す。
「森のダンジョンの生息モンスターと植物が一緒に載った本だ。モンスターはほとんど相手にしたことがあるやつらだが一応目を通しておけ」
「了解。植物の方はロルフに任せて大丈夫だよね?」
「ああ。ポーションの類も作ろうと思えば十分に作れると思う」
「それなら十分に頼りにさせてもらうよ」
とりあえず僕に痺れ回復のポーションを作って欲しいんですけど。
抗議の目線をロルフに送るのだが。そうですか、まだ正座してなきゃいけないっすか。
「んでこっちが地図だな。正確な地図はちょっと値が張るから大雑把なのを買ってきた。こっちがダンジョンエリア、こっちがダンジョンの地図だ」
ダンジョンは大きく二つに構造が分かれる。
ダンジョンエリアとダンジョンの二つだ。
ダンジョンエリアはダンジョンまでの広大な敷地の事を指す。
もちろんモンスターも出るがとにかく広さがあるためモンスターとの遭遇率は大して高くない。
基本的に外なので天候の影響などもしっかり受けるのが特徴だ。
それに対してダンジョンはダンジョンエリアの中心にある。
主に階層構造を取り、ダンジョンごとに上ったり、下ったりと様々だ。
またモンスターはダンジョンが排出されるため遭遇率も高い。
ダンジョンエリアと違い、罠はあるわモンスターは多いわ、モンスタークランなんて呼ばれる集団はあるわで難易度が大きく上がる。
よりパーティーでの戦闘を意識していかないとあっさりやられてしまうだろう。
「ダンジョンは森のダンジョンの中心にある一本の巨大樹だからわかりやすいだろう」
「なら地図を買う必要はあったのか?」
それならまっすぐに進めばいいから別に買う必要はなかった気がする。
「それがダンジョンエリアにも色々厄介な地帯があるみたいでな」
「厄介な地帯?」
「お前はキラービー種が群棲している場所を好き好んで通りたいか?」
キラービー種とは尻についている毒針で相手を攻撃してくる手のひらサイズのモンスターだ。
一度刺されるだけでも毒になるというのに、何匹も群れをなして突っ込んでくる。
サイズも小さいため攻撃を当てるのが難しく、それでやられる冒険者がそれなりにいる。
種というだけあってその毒や個体の強さでいくつも種類がある。
「正直通りたくないね。命がいくつあっても足りない」
「そういう地帯がざっくり載ってるんだよ。必要だろ?」
「なるほどな。そいつは心強い」
地図だろうが何だろうが使えるものがあるなら使うべきだ。
情報はあるとないとで、生存率が大きく変わるからだ。
「あとはどれくらいポーションの作成とか時間がどれだけ掛かるかわからないからいくつか調達もしておいたダンジョンに行くならこっちの準備はほとんど済んでるぜ?」
「了解。そしたら今度はこっちの番だね」
先ほどまでギルドで集めていた情報を話す。
主にボストロールについてだけど。
あとは7レベルの相手と模擬戦したこととかもちょろっと話した。
「へー。星一つでも負けるボストロールか。そりゃギルドも討伐依頼を出すわな。新人戦とかあるし」
新人戦とは見事に星がシングルになった冒険者がダブルやトリプルといった星持ちとハンディキャップを着けて戦うというものだ。
ギルドが三か月に一回行っているいわゆるお祭りに近いイベントの事だ。
「そりゃ一か月も攻略されてなかったら参加者が集まらないからな」
「となると俺たちには二つほど選択肢があるわけだ」
「選択肢? 何の選択肢だ?」
「そりゃ強いボストロールと戦うことによって『特殊スキル』を手に入れるかルーナさんとの約束通り新聞に載るようなデカいことをやらかすかだ」
「なるほど。確かに悩みどころだ」
「おまえはどうしたい?」
「そういうロルフこそどうしたい?」
まぁ僕の考えは一応決まってはいる。
でもどっちの意見も尊重するのがパーティーだからね。
「たぶんお前と同じだと思うぞ?」
「僕もそう思うんだよね」
僕もロルフもどうやら考えてることは一緒のようだ。
そりゃ子供の頃からずっと一緒だからな。考えることくらい幾分かわかるさ。
そして顔を見合わせて同時にその言葉を言う。
「「どっちもだ!」」
やっぱりね。
「さて。お前もそういうと思って新聞にでかでかと載るための情報も集めてんだろ?」
「もちろん」
そりゃPKの部屋で二時間も閉じこもってりゃそんな情報くらい集められるさ。
僕は集めた情報を話始める。
「まず森のダンジョンの攻略におけるいくつかの記録を集めてみた」
「どんな記録だ?」
「ダンジョンの最低攻略人数記録、最低レベル攻略記録、ダンジョン最短踏破の記録、ダンジョンに潜った最低回数の記録だ」
「ダンジョンの最低攻略人数はわかってるからいい。その他は?」
「最低レベルは10。パーティーは5人だったよ。」
「なぁ? 森のダンジョンで上げられるレベルの相場はいくつかわかるか?」
レベルは上がるとモンスターから得られる経験値は減少していき、最終的には一切経験値が入らなくなる。
レベル差が2もあると経験値は入らなくなるらしい。
「森のダンジョンのモンスターの最高レベルは15。つまり17までしか上がらない」
「ちなみにボストロールのレベルは?」
「20だってさ」
「2人パーティーだと到底無理な話だな」
「スキルは狙えそうだけどね」
ボストロールは必然的にレベルが劣っている状態での戦いを強いられる。
だから特殊スキルを得るのであれば何度も挑めばそれだけ手に入る確率も増える。
「『冒険者の門番』だからな。何度も挑む前提の強さでもあるんだろうな」
ではなぜ冒険者の突破率が低いのか?
何度も戦ううちに勝てないという先入観を持って戦うようになってしまうためだ。
勝つためには何度戦っても勝とうという意思がないと勝てないのだ。
戦闘における能力、強いメンタル。冒険者に必要なこの二つを兼ね備えてなければ通してくれない。
まさに『冒険者の門番』というわけだ。
そこで自分の発言にハッとしたように何かに気づくロルフ。
僕はその表情を見てほくそ笑む。
「つまりダンジョンの最短踏破時間と潜った最低回数なら簡単に狙えるか?」
「さっすがロルフ。そこに気づくあたりさすがだね」
「お前みたいなボンクラ頭とは違うからな」
ボンクラって・・・・・・。
ロルフは僕らの間では知略担当だからいいけども少し酷いと思う。
僕はそのボンクラ発言を眉一つ動かさないように心がけながら話を進めようとする。
僕のポーカーフェイスをなめるなよ!
「おい。ボンクラ発言気にしてますって顔してるぞ?」
「えっ? マジで」
そんなバカな!
僕の完璧なポーカーフェイスが!
「ああ悪い。元からだった」
「今なんっつったこの野郎!」
そして勢いよく立ち上がろうとする。
しかし今の今まで正座をさせられ続け痺れていた足では満足に立ち上がれず、思いっきり転んでしまった。
「んん? そんなところで何をしているのかね?」
そこにロルフは痺れている足に軽く蹴りを入れてくる。
「ちょっ! やめ! 痺れてるからぁ!」
その後数分間僕はこの鬼畜盗賊に蹴りを入れられ続けた。
なお正座から解放されて足の痺れも無事抜けた。
椅子に座れるって素晴らしい。
「それで? 話は逸れたが最短踏破と潜った最低回数は?」
「最短踏破は最初に潜ってから26日。その間に潜った回数は7回って書いてあった」
「ダンジョンに潜って戦闘して、帰ってきてって考えたらそんなに潜れないんじゃないか?」
「帰りは転移石ってものを使ってるらしいよ。ダンジョンに行く前にギルドの受付か、ダンジョンの入り口の管理人から受け取れるらしい」
「便利なもんがあったもんだ」
「それに道具袋も提供しているらしい。見た目以上の容量が入る袋だってさ」
「どおりで。街で冒険者が見た目何も持ってない理由はそれか」
さっきの模擬戦で戦ってたフードの人もこれを使ってたんだと思う。
じゃなきゃ普通は後ろに矢筒を背負うものだからね。
だからあのフードの人も本調子というか本気ではなかったんじゃないかな?
「つまり俺たちは行きに全力を注げばいいってことだな」
「そういうこった。だけどボストロールがギルドの依頼で討伐されるまで大して時間はないかな」
「だから挑むのであれば一回目にダンジョンに潜ったときだな」
「一回でそこまでいけるもんか?」
少なくとも最低のダンジョンに潜った回数は7回だ。
たぶん一回目からボストロールに挑むなんてことはしてないんじゃないかな?
「大丈夫だ。お前今日模擬戦でレベル7の素人には勝ってんだろ?」
そういやあのモヒカンただの口だけだったな。
あれでもレベル7なのか。
「ああ。勝ったけど相手の動きはレベル任せって感じだった」
「一応言っとくがダンジョンエリアに出てくるのはレベル7までだぞ?」
「えっ? そうなの?」
そしたら僕たちは最初からダンジョンにまっすぐ向かっても問題ないじゃん?
「そうだ。だからダンジョンエリアは速攻で抜ける」
「それで? その後は?」
「ダンジョンでレベル上げ。具体的に言えばモンスターパーティー相手にして幾分かレベル上げたらモンスターハウスに特攻。」
モンスターハウスとはダンジョンでモンスターが生まれ落ちる場所のことで、一つの場所に大量にモンスターが固まっているのが通常だ。
モンスタークランとは違い部屋での戦いになるためそれ相応の対処策や戦い方が必要になる。
そのモンスターハウスにロルフは臆面もなく特攻と言い放った。
それは対処策を講じずにで突撃すると言っているのだ。
何という脳筋発現。
「いや。そこは対策取ろうよ。疲労でボストロールに戦えないみたいな状態は嫌だよ?」
「まぁ入り口で待ち伏せしてもいいけどさ。ギルド員が討伐するまで何日って書いてあった?」
「もう依頼は受領済みで、発行は今日になってた。だから今日から三日ってところ」
「そしたら一日半戦い通してレベルを上げる。そのあと十分に休息を取る。休息が取れる場所は既に地図で見つけてある。だいたいそこまでで二日半だ。これが俺の提案する計画だがどうする?」
ハハッ。相当むちゃくちゃだ。初心者冒険者が立てる計画じゃないぞ?
僕はそう考えながらも口元を歪ませてロルフにこう答える。
「乗った。それくらいの無茶、無謀は師匠の元でやり慣れた」
あの鬼畜師匠のもとで修業するということはそれだけ命がけだった。
むしろ命がけでない日が少ないくらいには修羅場をくぐった。
おかげで何度も死にかけた。
だから僕たちはこの程度で怯むような弱いメンタルではない。
「決まりだな」
ロルフもその答えを聞いて満足したように答える。
そうして僕たちの衝撃的なダンジョンデビューが刻一刻と迫るのであった。




