05 倒すべき相手
目を開けるとそこは先ほどと変わらず部屋の中央に転移をするための石が置いてあるだけの部屋だった。
いや、部屋の内装が少し緑色の葉や木の枝が張り付いているうな感じがするか?
とりあえず転移の間から出てみるとそこにはロルフが待っていた。
「よう。無事着いたみたいだな。まぁ実感はないけどな」
「実際一瞬で数千キロも離れた土地に来たって実感はないかな。まぁさっきのギルドと雰囲気は違うけれどね」
「確かにそんな感じだな」
一番最初の森のダンジョンは迷宮都市バベルからなんと三千キロは離れている。
どこぞの母を訪ねるアニメの三分の一くらいだろう。
森のダンジョンも近く、近代化の進んだ迷宮都市とは雰囲気も違うものになるだろう。
「とりあえず下に行こう」
「ここで油売ってるよりかはそっちの方が有意義だな。情報収集もしたいところだ」
そして転移の間のある階から下に降りるとひときわ盛り上がっている部屋があった。
ドアも開いているので少しのぞいてみると、そこには大きなモニターを見ながら盛り上がりながらも皆モニターにかじりついている。
「いけ! そこだ! 馬鹿! なんでそっちに避ける!」
「なるほど。幾分か傷が増えて、体力が削れてくると大振りが少し増えるが、一発が重くなるんだな」
「おいおい負けるなよ? 今回俺は冒険者側が勝つ方に3000ゴルも賭けてるんだからな!」
モニターを見て盛り上がっている声は酒を飲んで盛り上がっている人や、自分たちが挑戦するときに研究をする人、賭け事をする人と実に様々だ。
盛り上がるのも当然だろう。
なぜなら今モニターに映っているのは冒険者とボストロールの命を賭けた死闘なのだから。
「ここは?」
「おっとお客さん。そこはお客が来るから立ち止まって見てないで中に入りなよ」
「ああ。すみません」
飲み物を運んでいたボーイに声を掛けられ僕たちは部屋に入る。
それと同時に質問をしてみる。
「すみません。ここは?」
最初は何を聞いているんだという顔をされたが何かを察したのかボーイは丁寧に説明を入れてくれた。
「ここはって・・・・・・ああ。転移の間でここに来たばかりの冒険者か。ここは現在ボストロールと戦っている冒険者をリアルタイムで見れる部屋だよ。見るだけならもちろんタダだから是非見ていってくれよ。そしてできるなら飲み物の一つでも頼んでくれるとありがたいな」
随分とちゃっかりしたボーイだな。
まぁせっかく教えてくれたので僕は飲み物を一つ頼むことにした。
「レーニンの実の果実ジュースで」
「俺も同じものを」
レーニンの実は少し酸味があるが飲み続けると次第に甘さを感じる不思議な果実だ。
その果実のジュースを頼み僕たちは200ゴルを出してボーイに手渡す。
「レーニンの実の果実ジュース二つね。毎度!」
ボーイは離れて飲み物を取りに行った。
「それにしてもよくこんなリアルタイムの中継なんか可能にしたよな。おかげでモニター越しでもその迫力がよく伝わる」
「ドニャンゴとかいう動画配信サービスを行っている会社の努力の賜物だろうな」
そう。少し前まではダンジョンで撮影したものをすぐに動画としてリアルタイムで配信することはできなかったのだ。
それはダンジョンに特殊な磁場が働き、撮ったものをリアルタイムで放送できる環境が整っていなかったためだ。
しかしこのドニャンゴという動画配信の会社がそれを可能にするカメラを開発した。
その不断の努力には脱帽する限りだ。
そんな不断の努力の恩恵は冒険者にとって大きくプラスになった。
冒険者はダンジョンの最奥に居るいわゆるボスモンスターを研究でき、死亡者も大きく減った。
会社としても迫力ある映像が撮れて、有料動画の会員も増える。
まさにウィンウィンの関係だ。
またリアルタイムで配信しながらもネットを通じて、コメントを流すことのできる画期的なシステムで業績はうなぎのぼりだそうだ。
「それよりもシグルド。どうみる?」
ロルフが聞いたのは現在ボストロールと戦っている冒険者のことだ。
戦闘はもう結構な時間を越えているだろうか。
「んー。これはダメかな。冒険者の息が切れていて動きに精細さを欠いてきている。ボストロール自体は傷が目立っているけどどれも浅い」
「そうだな。動きが速いのはおそらくレベルの影響だとは思う。といっても冒険者に技に駆け引きを感じない。もっとボストロール注意を引いて隙を作らなきゃいけないだろうな」
その後、ボーイから運ばれてきたジュースを飲みながら観戦していたが、冒険者たちが転移石を使いボストロールから逃走したことで敗北という結果になった。
戦闘が終わるとボーイに話しかけられた。
「どうでしたかお客様?」
「俺から見ると正直戦いが雑すぎて情報が少ねぇ」
「ハハッ。それは手厳しいですね」
「僕はあのボストロールの動きがやけに機敏に見えたんですけど。あのレベルで今のような冒険者がボストロールに勝てるんですか?」
その意見を聞いたボーイは驚きながらも答えてくれた。
「よく気づきましたね。今回のボストロールは相当強い。前回ボストロールが倒されてからいまだに負け知らず。冒険者にとっていわゆるハズレのボストロールです」
「「ハズレ?」」
僕たちはハズレの意味が分からず、思わず首をひねる。
その顔を見て満足げにボーイは話始めた。
「ええ。実を言うとボスモンスターには個体差があります。その傾向は前回そのボスモンスターを倒した戦力によって上下しているというのが最近言われていますね」
「そんなものがあるのか」
「ハイ。前回倒されたのは確か・・・・・・ハーフの子が一人でボストロールを倒したときですからそろそろひと月以上が立っています」
そのハーフの子はさっきルーナさんが言ってた子だろうな。
ボストロールを一人で勝つなんてそんなことやる人間は少ない。
さっきのモニターを見る限りそれは火を見るよりも明らかだ。
「つまりその子が一人という戦力でボストロールを倒しちゃったから今回のボストロールは強いということですか?」
「ええ。おそらくは。今日ここに来た冒険者様には気の毒ですが・・・・・・。先ほど戦われていたパーティーも今回ほど強いボストロールでなければ突破は可能だと思うレベルなのですが」
ボーイは少し残念そうに話す。
それにしても普段のレベルならここまで強い個体は出てこないのか。
「なぁロルフこれなら?」
「ああ。新聞一面はに載るのはきついだろうが、『特殊スキル』は狙えるだろうな。」
どうやらロルフも同じ考えには至っていたようだ。
僕たちにとって弱いボストロールでは『特殊スキル』を狙えるチャンスがあるかわからない。
だから今の強いボストロールは一種のチャンスだと考えているのだ。
「えーと・・・・・・お客様はあのボストロールに挑むおつもりで?」
「はい。そのつもりです」
「しかもお二人でですか?」
「まぁパーティーメンバーにできそうな人が居なければ俺たち二人だけでしょうね」
正直なところ師匠が遅いとか言い出す前にすべてのダンジョンを踏破するつもりだ。
だから素人や先ほどのボストロールと戦っていたパーティーのように半端な技で戦うような人材は求めていない。
森のダンジョンは素人の人間も多くいるため、僕たちのパーティーにとってあまり勧誘には向いていないのが現状だ。
「それはおそらく不可能だと思いますよ?」
ボーイの無理という言葉に僕たちは再び首をひねる。
「何故ですか?」
「失礼ですがお二人は森のダンジョンに入ったことがない初心者ですよね?」
「ええ。森のダンジョンには入ったことはありません」
まぁ有名な7つのダンジョンに限りだけどね。
「先ほど見たでしょう? あのボストロールはとんでもない強さを持っています。とてもじゃないけど二人だけで倒せるような強さではありません」
ボーイは心配してくれているのか引き留めようとしているのだ。
たった二人であのボストロールに挑むということに暴挙に対して。
「私はここで働くようになってから三年ほどが経ちます。断言してもいいでしょう。あのボストロールは今まででダントツに強い。下手な冒険者が挑めば一発殴られて死んでしまうくらいに・・・・・・」
「そんなにですか?」
「ええ。お二人も命を落としたくないのであればしっかり準備することをお勧めしますよ」
そういってボーイは仕事に戻っていった。
「なぁロルフ? どうする?」
「そうだなぁ。確かにあのボーイの言うことはもっともだな。準備が必要なのはわかる。ただどの程度の準備が必要かがわからねぇ」
頭をガリガリと掻きながらロルフは今後の方針を考えているようだ。
「とりあえずだ。まず俺たちが今回のダンジョンですることはなんだ?」
「まずは踏破。できるだけ早く」
「それは一番重要な事項だな。一般的な冒険者がここをどの程度の期間で攻略してるのかが知りたいところだな」
「それが一つ目だね。次に僕たちにとって必要なレベル上げ。正直いくら技を磨いてもあのボストロールには純粋な力で押しつぶされる。だからそれに対応できるようにレベル上げが必要だ」
レベルとは自分の強さに直結する指標だ。
一定のモンスターの死骸をギルドカードに吸わせることによって経験値が貯まる。
それが一定以上になるとレベルが上がり、身体能力などに補正が掛かるのだ。
「それはダンジョン内で出来る限り戦って経験値を稼ごう。モンスターパーティーやらモンスタークランを狩り続けるのが一番だろうな」
モンスターパーティーとはモンスターが徒党を組んでいる状態の事だ。
そのモンスターパーティーを相手にすることで一気に経験値を稼げるが、数がいるため上手い連携が必要となる。
初心者はこれに対応できるのが必要な技術になってくるのだ。
しかし僕たちにはモンスターパーティーなど朝飯前だ。
もっとひどいモンスタークランなんて言われるモンスターパーティーの集団のど真ん中に師匠に投げ込まれたことがあるからだ。
だから僕たちは一対多という状況なら他の冒険者に比べて圧倒的なアドバンテージがあるといっていいだろう。
「パーティーメンバーはどうする?」
「お前はここにいる人間をみてどう思う?」
「正直パーティーメンバーに入れるには力不足だと思うね。何か一芸に秀でているならわかるけどこの時間にモニターを見ている人間では研究している人達がまだ有望なんじゃないかな。」
「だろうな。まだあのボストロールに挑もうとする気概があるだけメンタル面では期待できそうだ。しかしありゃ勝つために研究してるからパーティー組んでるだろうな」
そうなんだよなぁ。
たぶん何度か挑んで勝てないのがわかってるから人集めて研究してるんだろうし。
「となるとギルド内を見て回るのが一番かな。人がいるのはそれだけだろうし」
「いなければ二人だな」
「パーティーはいいとなると・・・・・・あとは物資かな? たぶんロルフがいるなら大丈夫だろうけど」
ロルフは薬草を見極めることからポーションを作る技能まで持っている。
森のダンジョンでは基本的に薬草類はいくらでも手に入るためあまり心配する必要はないと思っている。
「器具は必要になるかもしれんが、最悪現地でどうにか出来るからそこは大丈夫だな。武器防具面のメンテナンスだけしっかりしとけばよさそうだ」
「頼りにしてるよ」
「任せとけ」
こういったことはロルフの方が向いている。
ホントに何でもできんだよね。
マジすげぇ。
「それで、この後どうする?」
「俺は町に行って情報集めてくるわ」
「なら僕はここでボストロールに挑む相手がいたら観察、それ以外はパーティーメンバー探しと情報集めかな」
「そんな感じで頼む。まぁあまり期待はしてないがな」
失敬な。
僕にコミュ力がないとでもいいたいのかね?
「フッ! 僕のコミュ力を侮るなよロルフ。パーティーメンバーの一人や二人集めて見せるさ!」
「ほほう? なら明日までに一人でもパーティーメンバーが見つかってなかったらお前のギルドカードの写真を広めるか」
ん? こいつ今なんて言った?
ギルドカードの写真を広める?
あの写真はいかん。
絶対ネタだと思われるし、社会的に笑い物にされる運命しか待っていない!
「いやちょっと待て! それは・・・・・・」
「そんじゃ行ってくるなー」
そういって軽い感じでロルフはギルドを後にした。
「おいおい。行っちまったよ」
一つも勧誘する方法も思いついてねぇぞ?
大体ギルドに依頼なんかしたら実力が足りない初心者あたりを斡旋されるぞ!
「やべぇ。どうするか・・・・・・」
まぁ勧誘は失敗してもいいか。
最悪土下座すれば勘弁してくれるよね!
「とりあえず僕もギルドの下にでも行ってみるか」
そうして僕は勧誘を考えながらギルドでの情報集めに向かった。




