04 森のダンジョンへ
トロールとは大人二人分はある巨躯を持ち、体のいたるところにコケが張り付き、今まで立ち向かってきたであろう冒険者やモンスターの血がこびりついたこん棒を振り回すモンスターのことだ。
森のダンジョンの最奥にいるボストロールはトロールの亜種で通常のトロールよりもさらに大きな体を持つ。
このボストロールには異名がある。
それは『冒険者の門番』だ。
何故このように呼ばれるのか?
それは森のダンジョンに挑む冒険者の割合に対して踏破した人間の少なさが極めて多いためである。
森のダンジョンに挑む冒険者は時間を掛ければ大抵はボストロールまでは辿りつける。
しかしボストロールを倒してダンジョンを踏破した冒険者は5割を下回る。
そんなモンスターを相手にしないと僕たちにはスキルが習得できないのかと息を飲む。
「もちろんこれは『特殊スキル』を習得する可能性が最も高いモンスターであるだけよ。実際のところ一般的な『職業スキル』くらいならどこでも習得できるんじゃないかしら?」
その言葉を聞いて少し息を吐く。
「まぁいけそうならボストロールに挑むくらいはしてみますよ」
「俺としては職業が盗賊だから『特殊スキル』は魅力的だしな」
盗賊はアイテムを鑑定したり、相手の体力を瞬時に見切る鑑定のスキルを最初から持っている職業である。
ほかにもダンジョンにある罠を解除したり、宝箱を開けたりすることができる。
ダンジョンに潜るのであればできることが大量にあるのだが、ダンジョンを踏破するにつれ、宝箱を明けることができるアイテムを購入できるので戦士職や魔法職に取ってかわられる職業でもある。
戦闘面においては力が弱く、素早さが少しだけ高くなりやすいというだけのどちらかと言えば非戦闘職よりなのだ。
「私からのアドバイスはこんなところね。何か他に聞きたいことはある?」
ひとしきり考えてみたが僕たちはこれ以上聞きたいこともないので首を振った。
「なら行ってきなさい。ギルドの上階に行けば転移の間があるからそこからすぐ森のダンジョン近くのギルド支部に飛べるわよ」
「わかりました」
「俺たちがダンジョンの新聞に載るのを楽しみにしておいてください」
ダンジョン踏破者はギルド新聞に名前が載る。
森のダンジョンの踏破では名前程度だが、踏破したダンジョンが増えるにつれて新聞の一面を飾れるようになるのだ。
しかしルーナさんはそのロルフの発言に対し、無理難題を吹っかけた。
「それなら私は新聞一面を飾るような活躍を楽しみにしてるわよ?」
今までにないダンジョンの攻略ができなければ新聞の一面を飾ることはない。
つまりルーナさんが言っているのは、森のダンジョンにおいて他の人間がなし遂げていない『偉業』を達成しろと言っているのだ。
その言葉に僕たちは少し逡巡したが僕たちは力強く頷く。
「それくらいやらなきゃ師匠にどやされそうですし」
「世界最強目指すならそれくらい成し遂げないとな」
その言葉に満足しルーナは微笑んだ。
「ならもう言うことはないわね。行ってらっしゃい」
僕たちはギルド受付を後にした。
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ここは転移の間。
ここと同じく転移装置のある場所に一瞬で飛ぶことのできる、まるで奇跡のような装置だ。
行き先は森のダンジョン近くにあるギルド支部なのだが・・・・・・
「どれが森のダンジョン行きなのかさっぱりわからん」
「部屋の名前だけ書かれてわかるかっての!」
転移の間を目指してギルドの上階にやってきたのだが、そこに待ち受けていたのは〈菊の間〉だの〈お茶の間〉だの何を思ってつけたのか全くわからない大量の〈~の間〉という部屋が並んでいる場所であった。
「それでどれが森のダンジョンに行く転移の間だ?」
「案内板みたいのがあればいいんだが、さっぱり見当たらんな」
あたりを見渡してもあるのは〈~の間〉という部屋が並んでいるだけで結局さっぱりわからなかった。
「こういう時はとりあえず部屋を開けてみるのに限るな」
「そうだな。それじゃシグルド。あとは頼んだ」
「いや。そこはロルフも探せよ」
とりあえずどの部屋が転移の間かわからないので順番に開けていくことにした。
「失礼しまーす」
「ダブルバイセップス!」
「「「「「ダブルバイセップス!」」」」」
「失礼しましたー」
扉を開けてすぐに閉める。
「なんかむさくるしい叫び声がしたんだが?」
「うん。たぶん気にしない方がいいと思う」
僕は何も見ていない。
ブーメランパンツのリーダーらしき男が大きな掛け声でポージングの指示をしていたところなんて見ていない。
全身がオイルみたいなものでテカっていて筋骨隆々だった気がしたのも気のせいだ。
現実逃避をしていると大きな掛け声が扉の外に少しだけ漏れてきた。
「サイドチェスト!」
「「「「「サイドチェスト!」」」」」
その声がロルフに聞こえたのか、僕の肩を叩いて爽やかな笑みを浮かべてこう言った。
「混ざってこなくていいのか?」
「今すぐ死にたいか?」
僕は別に筋肉を見て喜ぶ趣味はない。
「ほら次はロルフが開けろよ」
「悪いな。俺は今ドアノブを引くと死んでしまうという病を患っているんだ・・・・・・!」
「限定的過ぎるだろ!」
こいつ! 自分が開けたくないからって全部僕に開けさせようとしているな・・・・・・・!
「チッ! ロルフが開けようとしないならここはゲームで決めようじゃないか!」
「ほう? なんのゲームだ?」
「シンプルにコイントスでどうだ?」
これなら確率は半々だが僕には必勝の策がある。
僕のイカサマでロルフ、今日こそお前に負けを見せてやる。
「コインならここにある。それで表と裏どっちだ?」
「ぅえ? う・・・・・・裏」
しまった! 主導権を握られた!
てかなんでこいつはコインなんてすぐに準備してやがるんだ!
結局僕が負けて、ドアを開けることになった。
敗因? コイントスで表裏を自由に出せるロルフを相手に、先に裏と指定してしまったことかなあ。
「とりあえず今度はこのドアを開けてみてもらおうか」
「オイコラ。俺がドアを開けるからって生き生きとして指定すんな」
「まぁまぁ。とりあえず部屋の上見てみろよ。これなら大丈夫そうだろ?」
サムズアップしたロルフの表情にイラっとしながらも部屋の名前を確認する。
〈百合の間〉
「わかりきってるじゃねぇか!」
「は? 百合だぞ? 花の溢れる綺麗な部屋に決まってろだろ? ギルドだぞ?」
「えっ?」
「あー。もしかして変なこと考えてたのか? シグルド、お前は考えが最低だな」
「べっ別にそんなこと考えてねぇし!」
たっ確かに。ここはギルドだよな。そうそう変な部屋があるわけない・・・・・・よな?
「ならさっさと開けてみろよ、転移装置あるかもしれないだろ?」
「ああ。わかった」
僕は意を決してドアを開ける。
そして部屋の光景を見てそっとドアを閉めた。
「どうだった?」
「コスプレした女性が抱き合っているところを真剣な顔して写真を撮っている集団がいた」
やっぱりガチだった。
まぁ名前からしてダメだったよね。
「よし。そしたら次の部屋行こうか」
「落ち着けロルフ。どう考えてもここはおかしい。」
普通に考えてもみろ。
最初に開けたのがむさくるしい男の・・・・・・いや漢の空間。
次に開けたのが変態淑女の集まる空間だった。
「ここは、ギルドではないのかもしれない」
「ナッナンダッテェ!」
「次にドアを開けると、そこにはSM空間が広がっているかもしれない。これ以上は危険だ」
そう深刻な表情でロルフに訴えかけると思いがけない答えが返ってきた。
「まぁそうだろうな。ここ変態クランが間借りしている階層だし」
はっ?
こいつは何を言っている?
「今なんて?」
「変態クランが間借りしてる階層って言ったんだよ。街の中でこんなクランがあったらギルドの品位を疑われるらしくてな。だからここにそういうクランを全部集めてるんだとよ」
クランとは目的が同じ人員を集めて一つの集団として機能するグループの事を指す。
そこにはダンジョンを真剣に攻略する最前線クランや素材を集め、それを売りさばいて商売をするクラン、パーティーメンバーを派遣するクランなど多様なクランがある。
クランを立ち上げるにはクランメンバーを五人以上に星がトリプルを超える人間がいなくては立ち上げることができないという条件がある。
つまりここにある変態クランの中にはトリプルを超える猛者がいるということだ。
「なんでトリプルまで到達してこんなクランを立ち上げるんだ!」
僕は絶望し、手を地面につけ四つん這いの格好になりながら呻くように言葉を絞り出した。
それを見たロルフは僕の肩に手を置きフォローを入れた。
「人は欲望には勝てないんだよ。しかし人はいつの時代も欲望によって発展してきた。こういう欲望に忠実な人間たちもまた何かを生み出しているんだ」
「ロルフ・・・・・・!」
そのロルフの言葉に感動しながら僕は立ち上がる。
そしてロルフにポンと肩に手を置かれてこう言われた。
「あっちにお前の欲望を満たしそうな女装クランがあったぞ? そこでお前も新しい何かを手に入れてくると・・・・・・」
「誰が行くかっ!!」
訂正。ロルフは僕を嵌めることしか考えていない鬼畜野郎だと思う。
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僕たちは変態クランの巣窟を後にして今度こそ転移の間を目指した。
調べてみると転移の間はこのギルドの十階にあるようだった。
案内板を見る限り、ギルドの構造は一階がギルド受付、二階が依頼掲示板、三階からはクランハウスとなっていた。転移の間より上にはギルドマスターの部屋やフォース以上の星持ち勢のマンションとなっているようだ。
まぁ今は縁もゆかりもなさそうなところはどうでもいい。
とりあえず転移の間までやってきた。
ここから転移先である森のダンジョンのあるギルド支部へと行くことができる。
「ここが転移の間ねぇ」
「俺の想像とはなんか違うな。もっと近未来的なのを期待してた」
「確かに」
転移の間は部屋の中央に物々しい雰囲気のある石が一つ置いてあるだけの部屋だった。
PPや携帯といった現代の科学の進歩を考えるとここだけ随分とアナログな感じのする部屋と言ってもいいだろう。
「まぁ考えても無駄だな。さっさと行くとするか」
そういってロルフは転移装置となっている石に触れて転移に必要な言葉を紡ぐ。
「転移」
すると石が部屋全体を光で満たし目を開けていられないくらいに発光する。
次に目を開けた時には既にロルフは転移の間から姿を消していた。
どうやら無事転移できたようだ。
「よく躊躇もせずに転移できるな」
転移とは僕たちにとってやったこともない未知の技術だ。
そんなものに躊躇もせずに飛び込めるのはロルフが今まで様々な技術を習得してきていることに起因しているのだと思う。
あいつ、強くなるためにどんな技術でも飛び込んで習得してきたしな。
「まぁ考えてる時間がもったいない。僕もさっさと行こう」
これから向かう森のダンジョンにどんなものが待っているのか。
少し興奮を覚えながら言葉を紡ぐ。
「転移」
先ほどと同じように光が部屋を満たし、石が発光を止めた時にシグルドの姿はもうそこにはなかった。




