03 ギルドカードと証明写真
「それじゃいくつかの説明をするわね? まず最初に二人はこれからダンジョンに向かうと思うのだけれど何かを行うためには基本的にギルドカードが必要になるわ。転移の館しかり、ダンジョンに入るための検問といったところで必ず必要になるわ。あなたたちの身分をギルドが保証しているカードだから絶対に無くさないこと!」
「ちなみに俺たちがギルドカードをなくすとどうなるんですか?」
「再発行に10万ゴルよ」
うわっこれは痛い。
この額は僕たちがダンジョンに潜るために師匠から餞別として渡された額であり、ダンジョンに潜らないで一般的に稼げて一か月は生活に困らない程度の額である。
そりゃ強くなればダンジョンでお金は稼げるけど、まずダンジョンにすら入ることができなくなるので潜りたての初心者でこのカードをなくすことは死刑宣告に等しい。
そんな少し青い顔をした僕を見かねたのかルーナさんが説明を付け加える。
「大丈夫よ。ここでは貯まったお金を預けるシステムもあるし、最悪ギルドカードを借金して発行することも出来るから」
「そうなんですか? ならよかった」
「まぁ利子はあるし、ドロップアイテムの額をピンハネしたりはするけどね」
なにやら不穏な言葉を小さい言葉でルーナさんが言っているような気がしたが気のせいだろう。
「それで二つ目の説明は?」
「二つ目は喧嘩や決闘についてギルドは一切の関与をしないということよ。でも街中で喧嘩、決闘を行われては一般の方に迷惑になるから、戦闘を行う場は提供されているわ。もしも解決できず戦闘になる場合はギルドに来てね。それと街中で戦闘になればすぐにギルド員が飛んでいくから気を付けてね」
「もしもギルド員が来ても喧嘩を止めない場合はどうなるんですか?」
僕は疑問に思ったことを口にした。
「最悪の場合はギルドカードをはく奪ということもあるわ」
それは不味い。ダンジョンにすら入れなくなってしまう。そうなってはバベルに挑戦なんて言ってられなくなる。
気を付けよう・・・・・・
「でもそれって大丈夫なんですか? 俺たちが強くなったら簡単には止められないような?」
「確かに」
「そんなのギルドカードの効力を封印して、戦闘技術のあるただの一般人にしてから取り押さえるの。あんまり暴れるとギルド員からボコボコにされるから気を付けてね?」
ハートが飛んできそうなウインクをしながら話すルーナさん。
年は考えた方が・・・・・・
おっとこれ以上は何も考えるまい。
どうやらロルフも同じことを考えていたのか僕たちに向けてルーナさんから殺気を感じる・・・・・・
ギルドカードとは冒険者達に可能性を与えるものだ。カードにはモンスターを倒すとそのモンスターの死体を吸い取り、経験にしてくれる機能がついている。その経験が一定以上を上回ればレベルアップといって自分達の身体能力等を上昇させてくれるのだ。
一般的にギルドに登録しなければいけないのはこれが理由である。ギルドカードがなければ強くなるにも限界があるし、なによりモンスターに勝てずに死人が大量に出るのだ。
「それじゃあ三つ目。ダンジョンを踏破するとギルドカードに星が与えられるわ。星一つでシングル、星二つでダブル、星三つでトリプル、星四つでフォース、星五つでペンタグラム、星六つでヘキサグラム、星七つでセプタグラムって呼ばれるわよ。自分の強さや身分の証明になるから覚えておいてね?」
これは自分たちがいくつのダンジョンを踏破したかギルドカードを見ればわかるようにするためと強さの線引きを行うためだ。
ギルドの信頼のために依頼を達成できない人間に依頼を受けてもらっては困るのだ。
そのため出される依頼にも「ダブル以上である」といった形で線引きが行われて依頼を出すことが多いのだ。
「そして最後にギルドでは、ダンジョンに潜る冒険者達が命を落としたとしても一切の保証をしないから気を付けてね。ギルドのルールはこんなところね」
まぁ当然かなと思った。
ギルドはそれでなくともいくつものサービスを無料で行っている。
そのうえで冒険者一人一人の保障なんか行っていれば確実に経営は傾くだろう。
「ここまでの説明はギルドのいたるところに張り紙で貼ってあるから忘れても問題ないけどね。それと写真を撮る準備が出来たからここから隣にある通路の突き当りの部屋で写真を撮ってきてね。ちなみに取り直しは基本的に行ってないから。取り直す場合は5万ゴル必要になるからそのつもりでね?」
なるほど。なら不格好な写真を撮られるわけにはいかないな。
「写真撮る前にひとついいですか?」
「何かしら?」
「さすがに肩を治してから写真撮っていいですか?」
こんな状態で写真を撮るわけにはいかない。一回しか取れないならなおさらだ。
「確かにバランスが悪いな。ならもう片方も外したらどうだ?」
「なるほど。そうすればバランスがとれて・・・・・・バカじゃねぇの? 普通に考えて治せばいいじゃん」
「そんなの・・・・・・お前が苦しむ姿が見たいからに決まってるだろ・・・・・・!」
とりあえず一発殴っておいた。
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肩の治療(5000ゴル)を無事終わらせて写真を撮る部屋に入った。
そこには綺麗に写真が撮れるように日光が差し込む構造になっていたが現在は少し雲がかかっているのかあまり眩しくはなかった。
「君が最後だね」
そういって頭をハゲ散らかしたおっさんが写真の準備を始める。
入った瞬間このおっさんの頭を見て吹き出し、怪訝な顔をされた。
一回しか会わないんだからと思いながらも、写真を撮るってことでキリっとした表情を心がけている。
「この写真はギルドカードに貼られるんだけど一枚しかとらないから変な顔とかしないように。あと目をつぶったりとかにも気を付けてね。自分の写真で笑われても知らないからね?」
すいません。あなたの頭が一番笑えるんですがそれはどうすればいいですか?
流石に声に出して指摘するわけにもいかずおっさんの説明を聞き流す。
「それじゃ撮るよー」
そういった瞬間、外が晴れ始めたのか日光がサンサンと降り注ぎ始めハゲ散らかしたおっさんに反射して目を開けることができなくなる。
やばい! 日光で鼻血も出てきた!
「ちょっ眩し!」
「ハイチーズ!」
そこで撮影された写真で僕は両腕で目元を隠すようにしてばっちり目をつむり、目のラクガキがばっちり映り込み鼻血を垂らしているという最悪な結果に終わった。
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「・・・・・・ッ! ・・・・・・ッ!」
現在僕は絶望に打ちひしがれギルドカードをルーナさんから受け取っていた。
受付嬢であるルーナさんは職務上大笑いするわけにもいかないのだが、机をバンバン叩き押し殺すように笑っている。
そしてロルフは僕を見て口笛を吹きながら何かを誤魔化しているそぶりをしていた。
「やり直しだ! やり直しを要求する!」
「諦めなさい。それとも5万ゴル払う?」
ぐぅぅ! 現在ギリギリ5万ゴルはある。だがこれを払うと野宿、ダンジョンに持ち込む準備が不可能になる・・・・・・!
「命には・・・・・・かえられない・・・・・・!」
正直写真に命を賭けるわけにはいかない。
納得はいかないがな・・・・・・。納得はいかないがな・・・・・・! 大事なことだから二回言った。
そんな俺を見かねてさっきまで笑っていたルーナさんがフォローしてくれた。
「少なくともその馬鹿なラクガキは落としてきなさい。ほら洗顔貸してあげるから」
「ありがとうございます・・・・・・」
その後ラクガキを落として再度ルーナさんのところに戻る。
「それじゃこれがギルドカードね」
そういってギルドカードをルーナさんは渡してくる。
「さて面白い写真を見せてもらったことだし、最後にお姉さんから二つほどアドバイスさせてもらおうかな?」
そういってルーナさんは指を立てて僕たちに話をしてくれた。
「一つ目パーティメンバーのことよ。二人でダンジョンに向かうつもり?」
「俺たちはそのつもりですけど」
「あなたたち師匠にパーティーメンバーを集めることも命令されてるんでしょ? だったら早めに集めた方がいいわよ? 星が増えるにつれてパーティーメンバーは固定で組んでる人たちが多くなるわ」
「ですよねー。僕たちもどうしようか考えていたんですけど」
実際僕たちもパーティメンバーは欲しい。ただ僕たちの場合は三年間も師匠に鍛え上げられ戦いのレベルが一般的なレベルではないのだ。
ダンジョンに潜る人たちは戦いにおいての素人がとんでもなく多いため、それに合わせてしまえばダンジョン攻略は遅くなってしまうのが問題になってしまう。
「そんなあなたたちにいい人材に心当たりがあるわ」
「えっほんとですか?」
「一人でダンジョンに潜ってた子なんだけど、最近シングルになっちゃったのよね」
「「一人で!?」」
それはすごい。
一番最初の森のダンジョンを一人で突破したという話は本当に時々ある程度なのだ。
「あなたたちの師匠の影響で一人でダンジョンに潜る人間は増えてたけど本当に久しぶりの快挙よ」
「でもおかしいですね? それなら新聞にでも載るんじゃないですか?」
確かに。それならギルドが発行している新聞とかに載ってもおかしくないレベルの快挙だ。
だというのにそんな情報新聞で一回だって見た記憶がない。
「その子はちょっと訳ありでね。見ていてかわいそうなのよ。強いし、性格面も問題なしの優良物件だと私は思ってるわ」
なるほど。そういうことか。
ロルフも気づいたようでルーナさんに当たりをつけるように聞き出す。
「差別・・・・・・ですね?」
現代も続く差別だ。
いわゆる別の種族同士のハーフというのは一緒に居ることを避けられる。
遥か昔にハーフの軍団が神が居るという象徴のバベルを攻撃したとかそんな理由の文献しか見つからなかった。
またバベル以外の国でも血が混ざることを忌避する宗教なんかでとんでもない扱いを受けているとか。
そういった理由でハーフは避けられているらしい。
僕たちは孤児だ。
その中にハーフも居たためそういった感情は持っていない。
ハーフの子も普通の人だった。
人に避けられ、誰にも相手にされず、僕たちの前では気丈に振舞ってはいてもその子は裏でいつも泣いていた。
「そうよ。だからあなたたちにお願いしたいの。まぁシングルになれたらの話だから今は忘れてもいいわ。ただシングルになったら一度会ってもらえないかしら?」
心配そうに聞くルーナさん。
全く。そんな顔して聞かなくても問題なんかない。
「いいですよ。その時にはまたここに来ますのでその子にも話は通しておいてくださいね?」
僕の言葉にロルフも頷く。
僕たちにとっては差別とかは正直どうでもいい。
バベルの塔に挑戦することがすべてだから。
そのためならなんだってする。
差別なんか知ったことではない。
「その子にも話を通しておくわ。本当にありがとう。」
表情を少し明るくしながら頭を下げていた。
このまま頭を下げさせておくのは少しバツが悪いので話を進めるよう促す。
「まぁそれは後の話ですから。それでもう一つのアドバイスとは?」
「ええ。もう一つはスキルのことよ」
スキルとはその人が持っている特殊な技能だったり能力のことだ。
スキルには大きく分けて二種類ある。
『職業スキル』と『特殊スキル』だ。
『職業スキル』は弓を扱う職業で弓を使い続けていると命中率が上がるスキルが習得できるといったものだ。
それに対し『特殊スキル』は一定の条件下で習得することができるスキルのことを指す。例えば何度も同じ毒を受けるとその毒が効きづらくなり、『毒耐性』というスキルを習得できるといったようなものだ。
スキルはダンジョン攻略に必須と言えるほどに重要なものだ。
ちなみに今までに習得したスキルはギルドカードで確認することができる。
「スキルは自分より格上である敵と戦うこと。つまり自分より実力の高い敵と戦うことで発現しやすくなるわ。二人なら相当に鍛え上げられてるでしょうから出来る限り強い敵と戦っていくことが近道になるんじゃないかしら?」
「なるほど。でも森のダンジョンでそこまで実力の差のある敵っているんですか?」
僕たちが向かうのは、ギルド登録を済ました人間たちが向かう一番最初のダンジョンである森のダンジョンだ。
実際のところ僕たちは師匠によって森のダンジョンに出てくるモンスターなら平然と相手に出来るくらいには強い自負があった。
「とっておきのがいるわよ?」
「そのモンスターの名は?」
「森のダンジョン最奥に佇む『冒険者の門番』、ボストロールよ」




