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ダンジョンサーガ  作者: 炎尾
森のダンジョン
21/22

20 決着

「・・・・・・ッ!」


 何やら背筋に氷を入れられたかのような冷たい殺気を浴びて私は目を覚ました。

 今までボストロールから浴びせられていた威圧感とは違う、これまで感じたことのないほどの殺気だった。


「生き・・・・・・てる?」


 体が全身軋むような痛みを上げる。それでも立ち上がらなくては。

 そしてなんとか立ち上がった私がまず意識を向けなきゃいけないのは別のことである。


「シグルドは!? ロルフは!?」


 二人の安否だ。

 今の私はこの中の誰が死んでも私は嫌だった。ダンジョン内で命を助けられまた死線を潜り抜けようとともに命を張っていた仲だ。


 あの二人は信頼している。


 ふと辺りを見回すと私と同じようにこのおぞましい殺気によって目を覚ましたのかロルフが立ち上がろうと全身に力を入れているのが見えた。


 それをみて私はひとまず安心した。

 しかしそうなるとこの身の凍るような殺気を放っているのは誰なのだろうか?


 その殺気を放っている方向を見るとそこにはシグルドが立っていた。


「シグルド・・・・・・?」


 間違いなくシグルドなのだが、いつもの少しふざけた雰囲気とはまるで違う。

 容姿も少し変わっている。目は両方が澄んだ青色の目だったのに今は両目が赤い瞳がボストロールを見据えている。

 そのシグルドの前には今にも殴り掛かろうとしているボストロールの姿があった。

 それを見て今はシグルドの容姿のことを気にしている場合ではないと気づく。


「私の弓は!?」


「これだろ?」


 そういってロルフが片方の腕で私の弓を持ってくる。

 その姿はとても痛々しかった。

 ボストロールの攻撃を一番近くで受けた影響か片方の腕は血まみれになりダラんと力なく垂れている。

 体は全身傷だらけで体は痛みであまり動かないということを見せつけているようだった。


「すまない」


 弓を受け取り弓を放つ準備をする。

 その瞬間シグルドとボストロールが動き始めていた。


 何も音のしない弾丸を両足に撃ちこみその場から一瞬で離脱する。


「あれって?」


「知らん。強化弾を使ったってのはわかるんだが・・・・・・」


 気づけばボストロールの後ろに回り込みもう片方の銃に持ち替え三発分の銃声が一度に鳴り響く。

 シグルドが止まった瞬間を見ると強化弾の赤い光は足にだけその力を発揮しているようだった。

 ボストロールはこん棒を振り回し銃弾をどうにかしようと必死になっていた。


「まさか部分的に強化できるのか? でもそんなの一度も使ってなかったような・・・・・・」


「ああ。少なくとも俺も一度だって見たことがない。ギルドカードにもそんなものなかった」


 ロルフでも今のシグルドの変化ぶりはよくわからないようだ。

 いやこんな考え込んでいる暇はない!

 援護しなくては!


「待て! 今援護するのはやめとけ! あいつのあの動きの邪魔になるかもしれん」


「ッ!?」


 ロルフの言葉に矢を放つのを止める。


「今はあんな風に動いてるがあいつはもうMPも大して残っていない! だから全力で行動してるはずだ」


「だったら!」


 ロルフに私は食い掛ろうとした。

 それならなぜ止めるのかと。


「とはいえ俺たちが援護したところで弱化弾も入っていない今の防御力の高いボストロールには大してダメージを与えられない。だから待つんだ! あいつはまだ使ってないとっておきがある!」


「とっておき?」


「そうだ。その技は使うのに条件もあるし隙も大きいから使いたがらないんだ。威力はあるんだけどな」


「ということはそのとっておきを使うタイミングは?」


「恐らくMPが尽きるタイミングだ。最後の最後でそれを使ってボストロールを仕留める気だろう」


「了解した!」


 普段使っている矢を戻し、道具袋から別の矢を取り出す。

 それをつがえてタイミングを計る。


「リーンは弓を放つことに集中しろ。放つタイミングは俺が指示する」


 そうロルフが言ったことで私は集中し始める。

 恐怖は気絶したのか今は抜けている。それにスキルの効果で今ならどんなに的が離れていようと命中させることができそうだ。


 シグルドとボストロールの戦いに目を向けるとそこは熾烈な戦いが繰り広げられていた。


 強化弾の使い方を部分的な強化にすることでMPの消費を抑えているのだろう。

 そしてそれはボストロールに弱化弾を放つときにも当てはまる。

 部分的に防御力を落としてこちらの攻撃を通るようにする。攻撃が躱しきれるように部分的に弱化弾を使う。本当に上手い戦い方だ。


 そんな戦いに見とれているとシグルドが一瞬でボストロールから距離を取った。


「今だ! リーン!」


「了解だ!」


 矢に自分の弱い魔法で静電気を起こし矢じりに火をつけ、それをボストロールに放つ!


「いっけぇ!」


 案の定ボストロールは矢についた火によって怯んでいる。


「あとは頼むぞシグルド!」


「シグルド! 頼む!」


 私たちは願いを込めてシグルドにすべてを託す。

 シグルドを見ると準備は出来たと言わんばかりに銃を構えていた。


 その銃の引き金を引くと青い弾丸がボストロールの頭に当たる。

 青い光がボストロールを弱化したことを伝えた。


 矢の怯みから抜け出しボストロールはシグルドに肉薄する。


 シグルドはその場を動かず弱化弾を撃った銃を上に投げる。


 その間にボストロールはこん棒を振り上げあとはシグルドを潰すだけと思いニヤリと笑う。


 それに対しシグルドももう片方の銃をボストロールに向けて歯をむき出しにして笑った。狂気に染まった笑顔であった。

 

 いつもより大きい、けたたましい銃声が聞こえた時にはその勝負は終わっていた。


 ボストロールは後ろに倒れこみ既に絶命していた。

 銃弾によって頭を貫かれた痕を残して・・・・・・。


 シグルドは上に投げた銃をキャッチしてホルスターにしまい込むと糸が切れたかのように前のめりに倒れた。


「やった・・・・・・のか?」


 私はそうつぶやきシグルドの方に引き寄せられるように近づく。

 

「勝った・・・・・・! 勝ったぞ!」


 そういってロルフは座り込む。どうやら今まで立っているのがやっとだったようだ。


 そしてピクリとも動かなくなったボストロールは急に光だした。


「なんだ・・・・・・!?」


 目を開けていられず手で目を覆う。

 光が収まり先ほどまでボストロールの死体があったその場所には一つの鍵が落ちていた。

 その鍵の上部にはこの巨大樹をモチーフにした絵がある。

 どうやらこれがダンジョン踏破の証拠のようだ。


「そんなことよりシグルドだ! シグルド! 無事か!?」


 そこには生きているとも死んでいるともわからない。そんな状態のシグルドが倒れていた。

 今まであんなに動き回っていたのが嘘みたいだ。


「やばい! 早く連れて帰らないと!」


「待て! とりあえずこれを飲ませておこう」


 そういってロルフは道具袋からヘドロのような色をした液体を取り出す。


「・・・・・・一応聞くがそれは?」


「ポーションだ」


「私の知っている限りそんなポーション知らないんだが」


「俺のお手製だからな」


「なんで戦いのときに使わなかったんだ?」


「そんなの飲んだら気絶するからに決まってるだろ?」


 それはポーションではないと思う。

 新手の毒薬かなんかだと思う。


「とりあえず気絶しているなら飲ませてそいつの傷を治しながら戻ろう。んで恐らく待っているだろうアドルフさんに助けてもらう」


「アドルフさんに助けてもらうのはいいがそのポーション本当に飲ませるのか?」


「問答無用!」


 そういってロルフはヘドロみたいな色をしたポーションを無理やりシグルドに飲ませる。


「ゴッフ!」


 するとシグルドは先ほど以上に顔は青白くなり、白目を向き始め、ポーションは口から垂れるという見るも無残な状況となった。

 これは・・・・・・ポーションではないな!


 うんうん頷いて満足しているロルフを無視して私は倒れているシグルドを肩に乗せて歩き始める。


「ん? もう俺たちの事を信頼したのか?」


 随分酷い言い草だな。


「ああ。命を助けてもらって、これだけの修羅場を越えたんだ。それともなにか? ロルフはこれだけの視線を越えてもなお私は二人を信用できないプライドの高いエルフとしてみていたのか?」


「そういうわけじゃないんだがな」


 頬を掻きながら受け答えに詰まるロルフを尻目に私は歩き始めた。


「少し意地悪な言い方をしたな。まぁまずは帰ろう。シグルドはこんな状態だし私もくたびれた」


「それもそうだな」


 そう話して私たちはボストロールとの激戦を行った部屋を後にする。

 とんでもない戦いによって命を落としかけたが、私はこの戦いでエルフとしてのプライドを越えてかけがえのない仲間を手に入れることができた。


 この戦いはそれだけで満足だ。

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