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ダンジョンサーガ  作者: 炎尾
森のダンジョン
18/22

17 冒険者の門番

 しっかり睡眠を取りボストロールへの対策もほぼ練り終わったタイミングでその時はきた。

 自分たちの予想した時間よりも一時間近くギルドの依頼を受けた冒険者がここに来たのだ。

 余裕をもって時間を確保できてよかったと思う。


「おや? どうやら先客がいたようだ」


 そこに来たのは男の冒険者だった。服の上からでもはっきりわかる鍛え上げられた筋肉。漂う雰囲気はまさに強者といった感じだ。そして頭は綺麗に整えられたオレンジのモヒカンであった。


 ダンジョンに一人で来ているというだけあって雰囲気は少しピリッとしていてどこか師匠を彷彿とさせていた。


「えっとなんでそんなに君たちは距離を取っているのか教えてくれるとありがたいんだけど」


 先ほどまでの雰囲気は和らぎ顔は緩み切っていた。


 何故僕たちが距離をおいているのかというとそのピリッとした雰囲気を敵と認識して行動してきたのが原因だ。

 師匠が唐突に出すこの雰囲気は不意打ちが来ることを前提にして攻撃を仕掛ける合図でもあった。


 なおリーンはこれに反応はできたが僕たちの行動の意味が分からず少しオロオロしていた。可愛い。


「すみません。ちょっと僕たちにも事情があったんです」


「そうなのかい? ならいいけど」


 僕たちは和らいだ雰囲気から対話のために近づいていく。


「とりあえず俺はギルドからの依頼で来たアドルフ・トイリーだ。アドルフでいいよ。よろしくね」

 

 その名前に全員が驚く。


「「「アドルフ!?」」」


 このアドルフという人物は七つ星セプタグラムを持っている数少ない人間の一人だ。

 『弥勒菩薩』の二つ名で知られるとんでもなく有名な男でいくつもの善行を行ったことからつけられた二つ名だ。

 例えばクランを立ち上げ、沢山の孤児を受け入れる孤児院を作り、今も運営をクランの自費で行っているといったことだ。

 その結果ギルドからの信頼も厚い人物として知られるのだが、何故こんな人物がこんなところにいるのだろうか?

 素材集めとか?


「なんで七つ星のアドルフさんがここに?」


「いや。だからギルドの依頼でね・・・・・・」


「えっ? もしかしてボストロールの討伐の依頼を受けたのって?」


「ああ。俺だね」


 あまり考えられない返答に僕たちは静まり返る。

 だってありえないもの。この依頼を受けるには二つ星ダブル以上であることが条件だったはずなのに、七つ星が出張ってくるなど考えられることではない。


「まさか一人で戦うために?」


「いやいやまさか。今回はクランメンバーの新入りの戦闘を見ようと思ってね。そしたら安全地帯に人の気配があるもんだから俺が話をしてくるって言って来たんだ」


 そういって手を挙げて合図を送ると後ろからぞろぞろと4人くらいの一つのパーティーが出てきた。


「それでえっと・・・・・・」


 ここで自分たちが名前すら言ってなかったことに気づき自己紹介をする。


「僕はシグルドっていいます」


「俺はロルフ」


「私はリーンと言います」


「シグルドとロルフとリーンだね。何しにこんなところにって聞くのは野暮かな?」


「ええ。俺たちはボストロールに挑むつもりです」


 そういうとアドルフはすぐに目が僕たちを観察する目に変わった。


「ふーん。君たち強いね。随分と鍛え上げられている」


「わかるんですか?」


「まあね。歴戦の勘ってやつかな。でも君たちも持ってるんじゃないかな? 特にシグルドとロルフはそれを感じたから俺から距離を取った。違うかい?」


 どうやら先ほど事情といって誤魔化し、距離を取ったことは見透かされているようだった。それについて最初に僕たちに尋ねたのは念のための確認ってところかな?


「そうです」


「俺たちはアドルフさんの漂う雰囲気からもしも戦闘になったことを考えて致命傷を負わない範囲で距離を取りました」


 そういうとアドルフは一度頷いた。


「なるほど。どうやら君たちは相当修羅場をくぐった経験があるようだね。そういった面では俺が見ようと思っていたパーティーメンバーよりも優れているみたいだ」


 アドルフが言うと後ろのパーティーの男が否定の言葉を言う。


「アドルフさん冗談でしょう? 俺たちがこの無星の冒険者よりも劣っているって」


 再びアドルフの雰囲気が変わり少しピリッとした、ものに変わる。


 俺たちは再び距離を取る。今度はリーンも一緒に距離を置いた。先ほどの雰囲気を学習したのだろう。

 しかし4人パーティーの男女は全く動く気配を見せなかった。

 僕たちの行動に理解が及ばないって顔をしている。


「君たちは一回死んだよ。俺の雰囲気の違いに気づけていない」


「一回死んだって。どういうことです?」


「不意打ちに対応できないから一回死んだって言ってるんだ。あそこにいる三人は俺の微妙な気配の変化から何かをしてくると察したんだ。だから距離を置いた」


「でっでもあいつらは無星じゃないですか!」


 そこで4人パーティーに何が足りないのかをアドルフは優しく諭し始めた。


「無星だろう。だから君たちと戦闘してもたぶん君たちが勝つ。でもね俺が言いたいのはそういうことじゃないんだよ。冒険者として一番大事なことって何だと思う?」


 4人パーティーは全員考え込むが誰も答えにたどり着けない。

 そこで僕が師匠に言われていたことを答える。


「臆病であることですか?」


「正解だ」


 ? マークを頭に浮かべているのが分かるくらいに4人パーティーが考えていたためアドルフは説明を始めた。


「冒険者は臆病であるべきだ。転移石なんてものがあるが下手をすれば不意打ち一つで転移石を使う間もなく冒険者は命を落とす。ダンジョンの雰囲気、モンスターの気配とかそういったものに少しでも違和感を感じ取ることができれば命の危険は相当に減るんだ。そういった面で俺は君たちよりも優れているって言ったんだよ」


 僕たちは師匠に勝つためにどんな汚いことをも仕掛けた。

 もちろん不意打ち同然のことも。

 しかしそれらすべてを師匠は看破した。その時にこの臆病であることの重要性を説かれたのだ。

 だから僕たちは気配とかそういったものに敏感になるようになっている。


 そう言われてようやく4人パーティーも納得がいったようだ。


「もちろん一朝一夕で身に着くことじゃない。相当訓練しなきゃ身につかない芸当だ。でも君たちもいずれできるようになる。ちゃんと修練に励めばね」


 アドルフは4人のパーティーを励ましたところで僕たちの方に向き直った。


「試すようなことをして悪かったね」


「いえ。僕たちも臆病であることの重要性を再確認できましたから」


「そういってもらえるとありがたい。それで君たちはボストロールに挑むんだろう? 俺たちはここで待ってるから行っておいで。それにダンジョンで獲物の横取りはご法度だ。君たちの獲物を取るわけにはいかない」


 アドルフさんに言われて僕たちは少し息を吐いた。

 なぜなら僕たちはアドルフさんを含めここにいる4人パーティーにすら勝てない。それだけの差があることを感じていた。

 力づくでボストロールを奪うことも出来るからだ。


「そういってくれるとありがたいです」


「ハハハ。ところで君たちはまだ無星なんだよね? 無星でここまでできる人間はそうそういない。よかったら将来的に俺のクランに来ないか?」


 まさかのスカウトだ。どうやらアドルフさんに僕たちは気に入られたらしい。


「いいえ。俺たちは師匠がいますし、そういったものは許可が下りないでしょうね。リーンは?」


「私もそういったものはいいかな」


「振られちゃったか。ところで師匠って誰なんだい? 誰にも言わないからさ」


 別に隠してるわけじゃないんだけどね。

 ロルフは耳打ちでアドルフさんに師匠の二つ名を言う。

 それを聞いた瞬間に納得した顔になった。


「どうりで。そりゃ無理だわ。これからのパーティーメンバー口説いてもダメだよな」


 どうやらこの人は師匠がなんで弟子を取ったのかという背景も知っていたようだ。


「うんうん。ならもう何も言わないよ。存分にボストロールに挑んでくるといい」


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 ロルフにならって僕とリーンもお辞儀をしてボストロールの部屋へと続く人が何人も通れるような扉を開けボスの部屋へと入っていく。


 そして先ほどのパーティーの一人がアドルフに話しかける。


「いいんですか? あのボストロール一つ星にも勝ってるレベルですよ? 無星で勝てるんですか?」 


「まぁあの子たちも引き際くらいわきまえているだろう。だけどあの子たちならもしかしたらと期待してしまうかな?」


「それは勝つかもしれないってことですか?」


「そうだね。これは俺の歴戦の勘ってやつかな」


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 先ほどの大きい扉を越えた先にあったのは通路だった。

 そしてその通路を歩いて行くとそこにはまた大きな扉がありその先から何かの音が聞こえてくる。

 恐らくボストロールであろう。

 僕たちはその扉の前で最終確認を行っていた。


「どうやらこの先にボストロールがいるみたいだね」


「そうみたいだな」


「さてここから先は対策は立てたけどどうなるかわからない。転移石はさっき二人に渡したから本当に危なくなったら使え。命には代えられないからな」


「了解。使おうと思ったら自分のMPをこれに込めればいいんだよね?」


 僕は魔導ガンナーだしこういうことには慣れている。

 使おうと思えばいつでも使えるだろう。


「私たちはMPを扱うことができるがロルフは大丈夫なのか?」


 リーンがそういうとロルフは問題ないと答えた。


「俺は職業柄鑑定を使うことが多い。もちろんこれもMPを使う。だからそれを使う要領で転移石を使えば大丈夫だろう」


 一応どの職業にもMPはある。戦士系のジョブなどでも職業によって使える技でMPを使う機会はあるため基本的に転移石を使うことはできるのだ。


「それなら安心した」


「よし憂いもなくなったな。それじゃ行くとするか」


 そういってロルフはその扉を開ける。


 扉を開けるとそこは一寸先も見えない真っ暗な部屋であった。

 ここまではライトウィードが照らしていたのだがここにはそれがないようだ。


 その代わりに部屋の外側、天井に吊るされている巨大な松明に火が灯る。

 するとダンジョン内よりも明るい部屋になった。


 その奥にそいつは座り込んでいた。

 大人三人分はあろうかという巨躯。体にはコケがこびりつき、沢山の冒険者たちの血が染みついて色が変色しきっている巨大なこん棒。

 そして冒険者である僕たちを一点に見るの赤いまなこ


 僕は今まで見たことのあるモンスターの中ではダントツでやばいと思った。

 まだ奥に座っているだけだが、それだけでもわかる。大量の冒険者を返り討ちにしてきた強者の雰囲気。それが肌にピリピリとまとわりついて離れない。


「ハハッ!強そうだ」


「修行で戦った化け物みたいな人達より良心的な雰囲気だがな」


 僕たちが武者震いをする最中ふとリーンを見るとリーンは震えていた。


「二人ともなんでそんなに平然としていられるんだ? 私は・・・・・・・怖いぞ」


 どうやらこういう雰囲気は慣れていないようだ。

 アドルフさんと対峙した時、雰囲気の違いも察することができるくらいの能力を持っているがために恐怖をより本能的に感じてしまうのだろう。

 ただ僕たちの経験上こういうのは慣れだと思う。師匠が出す雰囲気はこれの比じゃないからね。


 こちらを見ていたボストロールが立ち上がる。


「ウオォォォォォォォォ!」


 ボストロールは体全体にビシビシと響き渡るような強烈な雄たけびを放つ。


「さて。行きますか!」


「とりあえず小手調べだな。シグルドから聞いただけじゃうまくいくか怪しいからな。頼むぞ! リーン!」


「りょ、了解だ!」


 雄たけびを皮切りに『冒険者の門番』最強個体のボストロールとの命を賭けた戦いが始まった。

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