13 新たな仲間
「そんなことでいいのか?」
少し驚いた顔をするエルフのリーン。
どうやらもっと別の事をお願いされると思っていたらしい。
実際命を助けたわけだしね。
ただそんなことといった部分にロルフが反応した。
「『そんなこと』というが、俺たちのパーティーは結構ぶっ飛んだこと考えてるぞ? 普通って尺度で計ってると命なんかいくらあっても足りないかもしれん」
その言葉にリーンが多少眉をひそめる。
「例えばどんなことだ?」
「例えばまだ僕たちは初めてダンジョンに潜ってる。でもこれからボストロールに挑む気でいるとか」
「あの最強の個体に一回目のダンジョンアタックで?」
「そう一回目で。もちろんレベルは上げるけどね」
そうこのダンジョン挑戦する一つの目的は最強と言われている個体のボストロールに一戦交えることだ。
ギルドの依頼で人が来るまでに一度は挑んでおきたい。
「なるほど確かにそれは命がいくらあっても足りないかもしれないな」
しかしリーンの表情はその言葉とは裏腹に少し笑みを浮かべているように見えた。
「それでどうする?」
「私もその話に乗らせてもらおう。私にも目的があることだしな」
目的といわれて僕は少し納得した部分がある。
一人でダンジョンまで来ているという人間は圧倒的に少ない。それは大体の人間がダンジョンエリアで一人での冒険を諦めるためだ。
それこそパーティーメンバーが集まらなかったという人間や目的がある人間しかここまで来れはしないのが現状だ。
「わかった。なら俺たちはこれからパーティーだ。よろしく頼む」
そういって握手を求めロルフが手を差し出す。
しかしその握手の手を取ろうとしてリーンの手が止まる。握手をしようか迷っているという様子だ。
ここでロルフが何かを思い出したようだった。
「そういえばエルフは信頼した相手じゃないと肌を触れさせないと聞いたことがある」
そういえばそんな話を聞いたことがあったような・・・・・・
「すまない・・・・・・」
「いや。いい。いきなり会った人間に信頼しろって言う方が無理があるかもしれん」
「それもそうだね。なら今回は一回だけのパーティーかもしれないね」
「なら問題が起きないようにするか」
そういってロルフはカードケースを取り出す。
「いきなりカードケースなんて出してどうしたのさロルフ?」
「それはこうするためだ」
そういってギルドカードをリーンに差し出す。
「ああ。なるほど」
この行動でロルフが何をしようと思っていたのか理解する。
「何故私にギルドカードを渡すのだ?」
「まだ俺たちを信用できないんだろ? なら恐らく今回限りのパーティーだ。とはいえパーティー組むってのに不安要素があるのは避けたい」
「だからギルドカードを渡して経験値管理を任せるんだよ。そうすれば僕たちだけで経験値をちょろまかしてるって不安とか持たなくて済むでしょ?」
「そういうことか。そこまでしなくてもいいのだが」
少しリーンは困惑しているようだった。
そりゃ自分は相手を信用してないのにこっちは信用すべて預けるような行為をしているのだから戸惑うだろう。
「なら命の恩人のお願いってことにしておけばいいでしょ? それともリーンは恩を返すこともできないのかな?」
そう僕が言うとリーンはフッと笑ってこう返した。
「その受け答えはずるいな。わかったギルドカードを受け取ろう。ただ自分だけが得をするような不正はしない。これだけは私のプライドにかけて誓おう」
プライドの高いエルフの事だ。近いを違えるようなことはしないだろう。
こうしてダンジョンでパーティーメンバーが増えたのだった。
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しっかりMPも回復したので再びダンジョンを探索を再開した。
リーンが加わったことで近接をロルフ、遠距離をリーン、僕は遊撃という形になった。
少し探索をするとある程度開けた場所で再びモンスターが襲ってきたが予想以上にあっさりと片付いた。
それもそうだ。さっきリーンは僕たちの戦闘に即席で援護までしてきた。それだけ自分の弓の腕に自信を持っているということだ。
モンスタークランを僕たちだけでも倒すことができるのにさらに援護できる人間がいればそれだけ早く片付くの当たり前の話だった。
「やるなリーン! シグルドが認めるだけある」
「だろう?」
「なんでお前が誇らしそうにしてんだよ?」
だって模擬戦する前から目をつけてたからね。
よっぽど訓練をしなきゃ模擬戦であんな近接を寄せ付けないような戦い方はできるようにならない。
「私の弓の腕を褒められるのは悪い気はしないが・・・・・・二人と比べると見劣りしてしまうのが悔しいところだ」
まぁ相当な修羅場をくぐってるからね。
あのバカな師匠のせいでね。
「それでもだ。初見で俺たちに合わせられる人間は大していないぞ?」
その通りだ。少なくともあのギルドで見た感じ僕たちに初見で合わせられるような人材は全くいなかった。
だからパーティーの誘いはすべて断った。
足手まといをかばう余裕は僕たちにはないからね。
「私は人間ではない。エルフだ。少なくとも二人よりも長い時間を生きているからな」
そういえばそうだった。
エルフは長い寿命を持っていて且若い時期がとんでもなく長い種族だ。
それなら相当に修行する時間はあったはずだ。
「ちなみにリーンは何歳なの?」
「フフッ女性に年を聞くとはデリカシーがないな?」
「そこはシグルドだからな。勘弁してやってくれ」
「おいコラロルフ。それは一体どういう意味だ?」
「そのままの意味だろ? バカの代名詞だ」
つまり僕の名前=バカと言いたいわけだな。
「よろしいならば戦争だ」
「待て待て。そんなことで喧嘩をするな。私の年くらい言っても構わない。これでも私はまだ54と相当若輩者だ。気にするものではない」
「「おっおう・・・・・・」」
地味に54ってリアルな年齢で反応に困った。
これが100歳とかなら吹っ切れるのに。
「それにしても54ってエルフでも相当若いな。人間ならまだ15とかそこら辺と同じくらいの扱いじゃないか?」
「エルフは50で成人だからな。私は本当に若いのだぞ?」
「その割には随分と落ち着いてるよね? 僕たちが会ったことあるエルフは全然リーンとは違ったよ?」
「エルフはプライドが真っ先に来るからな。だからどうしてもどこか冷静さに欠けるきらいがあるんだ。私は・・・・・・まぁ色々あったんだ」
そういってリーンの顔に少し影が差す。
どうやらあまりいい人生を送ってきたわけではなさそうだ。
僕の見立てでは過去に助けたときのエルフよりも圧倒的にリーンの方が弓の扱いが上手い。相当に練習したのだろう。でなきゃあんな弓の扱い方になるとは思えない。
「ふーん。まぁ話したくなったら話せばいいさ。俺たちは何も聞かないからさ」
その発言にリーンは少しキョトンとした表情になったが少し柔らかい笑みを浮かべた。
「ありがとう。二人は随分と達観したものの見方ができるのだな」
「そうでもないさ」
僕たちは達観した物の見方ができるわけではない。
ただ冷めているだけだ。ダンジョンを攻略して自分たちの目標を達成することにしかあまり興味のないエゴイストなのだ。
だから他人の人生に踏み込んだりといったことはしない。
それで僕たちの攻略に支障が出るならなおさらだ。
「まぁ無駄話はこれくらいにして進もう」
そう僕が話を切るように促すと二人とも頷いた。
そして再びロルフを前にして探索を再開した。
少し先に歩き始めるとモンスターの気配がしたのだが、僕たちはここでリーンの能力の高さを思い知った。
「どうやら前方にモンスターがいるな。」
「ああ。マンティス4、グリーンコボルト3、ベビーアント3のモンスタークランか」
そのリーンの言葉に僕たちは思わず絶句する。
「えっリーン見えるの?」
「いや? 完全には見えないぞ。私は目と耳が少し良いからな、それで歩き方の音やモンスターの色合いといった部分であたりをつけているんだ」
「おいおい。少しって次元じゃねぇぞ」
そう僕たちは気配を探ってモンスターの場所や大まかな数を予想している。
これは修行しているときに徹底的に叩きこまれた技術だ。だから殺気とかそういったものにも僕たちは敏感だ。
大体僕たちの気配察知の実力は開けた場所で30~40メートルといったところだ。
しかしモンスターの種類や数なんかまで特定するのはもちろん不可能だ。
それをこのリーンというエルフはそれを平然とやってのけたのだ。
「私が先制で射撃をする。」
「二人はそれに合わせて突っ込んでくれ」
「了解」
僕たちに矢を当てるなというのは野暮だろう。
言われたとおりにモンスターに突撃していくと後ろから数回矢の風切り音が聞こえ、モンスターと相対した時には既にグリーンコボルト三体が倒されていた。
「こりゃ模擬戦で戦ったときは全然本領を発揮してなかったんだな・・・・・・」
「まぁエルフは森の民とも言われてるからな。こういう見通しの悪い場所でこそ本当の力が出せるんだろ」
こりゃやばいな。期待以上だ。
僕たちの出番が無くなるぞ。
そう考えているうちにも矢が飛んでくる。
僕たちも残りのモンスターを片付け戦闘は先ほどよりもあっけなく終わった。
そして遅れてリーンが追いかけてきてモンスターを経験値に変えていく。
「ねぇリーン一つ聞いていい?」
「なんだ?」
「ここに来るまでモンスターとの戦闘で囲まれたのって何回くらいあった?」
「それはさっき二人に助けられるまで一度もなかったぞ? あれは気づいてはいたけどモンスターの数がいてな。対処しきれないうちに囲まれていた」
やっぱりか。あれだけの能力を持っててあんなモンスターに囲まれるなんて状況が基本的には生まれるわけがない。
僕たちと会ったときは相当運が悪かったんだろう。
まぁ僕たちからすれば恩を売れたから悪いことじゃなかったけどね。だいぶゲスな考えをしてるけどね。
そんな僕たちの様子を見て少し不安になったのかリーンが聞き返してくる。
「なにか問題があったか?」
「いや。全然問題なんかない」
その返答を聞いてリーンは息を吐いていた。
「ふぅ。ならいいんだ」
その後危モンスターが出るたびにリーンの援護が加わりあっさりこの階層のゴールにたどり着いた。
次の階層でも新しく猿型のモンスターであるチンパンというモンスターが出てきた。
しかし何かする前に矢が刺さりくぐもった断末魔だけが聞こえるだけという何のために出てきたのかわからないモンスターだった。
また4階層目と同じように進み危なげなく5階層目も抜けた。
そして6階層目に来たところで安全地帯を使い休憩を挟む。
「だいぶ登ってきたな」
「ここが6階層目だからね。あと一つでボストロールの階層だ」
ここまで何事もなく順調に登ってきた・・・・・・
いやロルフによるポーションテロがあったか。
少なくともあれは順調って部類にいれてはいけない。
「そういえば二人はボストロールに挑むと言っていたが勝算はあるのか?」
そのリーンの問いかけに僕は首を振る。
「いや。いまのところ何も考えてない。弱点とかは確かに調べたけど勝ちにつながるって程じゃない感じだったし」
「それでいいのか?」
「もともとスキル狙いだからね。今回のボストロールに挑むのも興味本位って感じだし。ただ・・・・・・」
「ただ?」
どれだけ強いのか試してみたいっていうのがやっぱりある。
自分たちの強さを測る意味でも十分戦う価値はあると思うけど本心は違う。
「僕はここまでレベル上げてきて思った。勝たなきゃ僕たちは強くなれない気がする」
僕たちは強くなるためには困難に立ち向かい、それに打ち勝つことで初めて強くなれると思っている。
それを聞いてロルフが頷き僕の考えを肯定する。
「確かにそれは俺も思っていた。このダンジョンが俺たちにとっては簡単すぎる。恐らく素人でもある程度しっかり戦えるようにする練習用のダンジョンなんじゃないかって俺は思っているくらいだ。そりゃある程度までは強くなんて誰だってなれる。だけどその領域を超えるには普通じゃ駄目なんだ」
リーンはその言葉を聞いて少し神妙な雰囲気を出していた。
どうやら僕たちとは少しだけ考えが違うのかもしれない。
「とはいえボストロールに勝算はないのだろう? なのに勝つ気なのか?」
そのリーンの問いかけに僕たちは顔を合わせてこう答える。
「「もちろん」」
強くなれるのなら。その点において僕たちには妥協はない。
その言葉にリーンも息を吐き自分の考えを述べる。
「二人は先ほど命を賭けるかもしれない、普通ではないと言って私をパーティーメンバーに誘ったな?」
「そうだけど?」
その答えに首を振って何かを考えるそぶりをした後こう切り出した。
「私もそれに乗った以上その責任は果たそうと思う。二人が勝つ気でいるなら私もそれに付き添おう」
どうやら腹は決まったようだった。
決めた以上勝ちに行こう。そして新聞の記事一面を僕たちの記事にしてやる。
「ところで気になっていたんだが聞いていいか?」
「なんだ?」
「二人の目的はなんだ? 二人でダンジョンに挑んで最強の個体のボストロールに挑むくらいだ。そして普通ではいけないとも言っていた。ならしっかりとした目的がないとそんな無茶はしないだろう?」
最もな疑問だった。
普通の人間ならギルドの依頼で倒されたボストロールを見てから通常の個体のボストロールに挑むだろう。
なのになぜこんな無駄に辛い思いをしようとしているのか?
それは僕たちにも目標があるからだ。




