12 フードの人
ツタを上ると先ほどとはまた違った雰囲気を醸し出していた。
そこには先ほどまであったライトウィードの色も少し違う。
またモンスターの気配が先ほどよりも濃くなっていて余計に緊張感を煽っているような気がした。
「ロルフ。さっきよりモンスターの気配が多くない?」
「ああ。ここにはこの階層はモンスターが生まれ落ちる場所がさっきの階層よりも多いんだ。だから数多くのモンスターに狙われるから気を引き締めろよ」
そういって先ほどと同じようにロルフを先頭において先に進み始める。
すると先ほどと同じようにベビーアント、マンティス、それに恐らく別種で植物と同じ色で迷彩を行っているグリーンコボルトが二匹まとまって出てきた。
僕も何度か戦ってここのモンスターについて要領をえてきた。
そろそろ少し本気を出そうかな。
「ロルフ。ここは僕に任せて!」
「了解」
そういってロルフは僕の後ろにいったん下がる。
僕はその場で銃を構え、トリガーを引く。
狙いはベビーアントだ! 距離は20メートル程度。
そして狙いをつけ、いつもより派手な音が鳴りベビーアントが完全に動きを止めた。いやもう死んでいるという方が正しいだろう。
その様子を見てたロルフが口笛を吹き僕に賞賛の声をあげる。
「やるねぇ。ベビーアントは甲殻が硬いからスポットバーストショットで仕留めたのか」
スポットバーストショットは一点の場所に複数の弾丸を撃つ技術だ。
一発目は右手親指、二、三発目は逆の手で撃鉄を操作する。逆の手でハンマーを操作することをファニングといい、スポットバーストショットでは二、三発目を左手親指と薬指でハンマーを操作する。
もちろん撃った後に反動があるため同じ場所を正確に撃つのは難しい。
しかし難しい技術だって何年も練習してきたことだ。そう簡単に外しはしない。
そしてモンスターが近づいてくるうちにリロード。
次に向かってくるモンスターに先ほどと同じように構える。
今度も派手な音が鳴り響くと残り三体のモンスターすべての顔面に弾丸が当たっていた。
動きが完全に止まったのを見計らい銃を腰のホルダーにしまう。
「お疲れさん。なんだ? 随分と雑魚モンスターに大判振る舞いをするじゃないか」
そう。最後に使ったのもスポットバーストショットに近い技術を使った。
ゲットオフスリーショットという技術だ。
これはスポットバーストショットと同じくファニングを行うが銃をスライドさせながら三つの標的に当てる技術だ。
もちろんこれも相当な練習が必要だった。難しい技術だからね。
「僕もちょっと本気出して戦っておかないとね。腕が鈍っていたら問題だろ?」
「それは困るな。いつ後ろからフレンドリーファイアが飛んでくるか分かったもんじゃない」
「そうならないために自分の力は惜しみなく使わないとね」
なにせここ最近の戦いではこの技術を使っていない。
まだとっておきはあるものの使えるときに使っておかなきゃ錆びついてくるってもんだ。
「まぁここら辺のモンスターに使うには少しオーバーキルだな。もう少し上の階層で使うといい。もっと硬いモンスターも増えることだしな」
「それもそうだね」
実際ベビーアントは三発もいらなかった。前までの戦いで一発で動きが鈍くなってたんだから二発撃ちこめば倒せるだろう。
「それじゃそろそろ行くか。頼りにしてるぞ」
「任せてよ」
そういって探索を再開し始めた。
そしてこの階層を探索し始めて前の階層よりも戦闘は多くあったがそれを難なく乗り越えこの階層の中盤辺りまで来たところで少し休憩を取ることにした。
なにやら少しだけ光輝く池がある。池の底の地面が光っているらしい。
ロルフ曰くどうやらここは安全地帯らしい。
僕はドカッと地面に座り込み少し息を吐いた。
「ふぅ。とりあえず一息つける」
「ああ。この階層に来てから戦闘が格段に増えた。休憩は出来るときにしといた方がいいだろ」
実際このダンジョンに入ってからすでに6時間は経っている。外は夕刻だったために現在は22時を回ったところだろうか。
このダンジョンは全7階層ある。現在は3層であるがここから巨大樹も細くなっていくので探索する範囲は狭くなる。
よって現在このダンジョンの半分程度までは来たというところだ。
「なぁシグルド。残りMPどれくらいある?」
「さぁギルドカード見てみないと何とも言えない」
そういうとカードケースを取り出しを僕のギルドカードを確認する。
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シグルド 職業:魔導ガンナー
レベル7
■ ■ ■ ■ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □
HP 160/160
MP 156/620
特技
・強化弾 ・弱化弾
スキル
なし
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「ちょっとMP使いすぎてるな」
「安全を取って強化弾とかも使ってるからね」
HPやMPは基本的に時間経過で回復する。出血などのバッドステータスの場合を除くけども。
しかし長い警戒などによって疲労が貯まるとその回復量は比例して落ちる。
そのため長い時間休憩なしで戦うということはリスクが大きくなるので休憩は取れるときに取ったほうがいいのだ。
ロルフの判断は正しいと言える。
「そういやHPって無くなっても一応死なないんだっけ?」
思い出したように僕が話しかける。
「ああ。体は瀕死状態間違いなしだけどな。HPが無くなるとレベルが上がった分の防御力が完全に無効化されるから戦闘とか言ってられないけどな」
HPは自分の残りの生命の防御力である。
これがなくなると自分の防御能力が著しく低下し強いモンスターなどに殴られると簡単に骨は折れ、即死もあり得る危険な状態だ。
可能であればすぐに回復しなくてはいけない状態である。
「HPは壁みたいな物だってことだよね」
「そういうこった。とりあえず自然回復力を高めるために仮眠でもとってくか」
「僕はMPなきゃやれることも大きく減るからね」
「マナポーションはあるんだぞ?」
「いらんわ! あれを飲むなら仮眠した方がいいだろ」
店売りのポーションもロルフのことだから準備はしているだろうけどあれはボストロールに取っておくべきだと思う。
「気絶は仮眠だろ?」
いい笑顔でサムズアップしながらロルフ謹製マナポーションを進めてくる。
勘弁してくれ。いや近づくな! そのマナポーションを持ってこっちに来るな!
「アッー!」
気づけば僕は見覚えのある川の前に来ていた。
ここはよく師匠との修行の際に来てたっけ。その時はよく師匠にこの川に蹴り落されていたっけ・・・・・・
ん? よく見ると川の色が変だぞ?
なにやら見覚えのあるヘドロのような色なような?
「カフッ!」
「目覚めたか?」
「僕はいったいなにを・・・・・・?」
「いいから口から垂れ流しになっているマナポーションを拭け」
なんでマナポーションが垂れ流しになっているんだ? さっきロルフに飲まされたマナポーションは飲みほしたはず・・・・・・まさか!
「貴様もしや! 気絶している間にもう一本マナポーションを飲ませたな!」
「その通り。ショック療法ってよくあるやつだ」
なんて恐ろしい奴なんだ・・・・・・
気絶してる間に気絶する原因をもう一度摂取させるとか正気の沙汰じゃないぞ・・・・・・!
「まぁ起きたならいい。とりあえず耳を澄ませてみろ」
「?」
言われた通り耳を澄ませてみる。
するとかすかに戦闘を行っている音が聞こえる。
「せわしなく動き回っている音が一つ。これは冒険者かな。他にそれを追いかける音がする。なんかモンスターに襲われてるって感じだね」
「ああ。少し見に行こうと思ってな。ここに来る他の冒険者ってのを見てみたくてな」
なるほど。いくら安全地帯といえど気絶している仲間を置いていけないから目覚めさせるためにあのヘドロみたいなマナポーションをもう一本飲ませたと・・・・・・
鬼畜じゃねぇか・・・・・・
「行ってみようか。そのために起こしたみたいだし」
「決まりだな」
そうして僕たちは戦闘が行われている音の方へ向かって行く。
その戦闘の様子が見える距離まできたところで僕は声を上げた。
「あっ。模擬戦したフードの人だ」
「なに? 昨日言ってたやつか?」
「うん。動きがそうだもの」
二人で戦闘に目を向けるとどうやらフードの人は追い詰められているようだった。
見た感じ動きが疲弊しているのが見てわかる。
しかしモンスターは10匹ほどいるのが見えた。
「これは不味そうだね」
「助けに入るか?」
基本的に冒険者同士にも暗黙の了解と言われるいくつかルールがある。
例えば獲物の横取りを防ぐために戦闘への加勢はしないといったことがそれにあたる。
ただ今回の状況は獲物云々以前に命に関わることだ。そういう場合には冒険者同士の了解次第で加勢することは問題ない。
このことを僕は踏まえロルフの質問に答える。
「あの人が本当に危険になったら加勢しよう」
「お前も趣味が悪いな」
「人聞きが悪いな。下手にトラブル起こさないためにだよ」
そうして戦闘に視線を戻す。
フードの人は模擬戦の時と同様距離を取りながら矢を放つ。息を切らしながらも二体ほどのモンスターを倒したところで後ろからの気配に気づいたようだ。
フードの人が後ろを確認するとそこからもモンスターが来ていて完全に囲まれている状況となった。
状況に歯噛みし、油断したのかマンティスが一気に詰め寄ってきてフードが切り裂かれ、綺麗な金髪があらわになる。
「あーあ。モンスタークランか。確かにお前が言ったように動きは悪くないがこの状況でこれはツイてないな」
「うーん。これはさすがに無理だろうね。加勢しようか」
「そうだな」
僕たちはモンスターたちに気づかれないようにある程度距離を詰める。
距離が30メートルを切ったところでロルフはフードの人の後ろにいるモンスターの方に向かい、僕は前方に見えるモンスターに早撃ちでは最も効率のいいツイストドローでモンスターを狙う。
この打ち方は手首をひねりながらワンアクションで撃つことができる。
しかし命中精度は酷いものだ。見事に外した。
ただ今回はこの撃ち方で外しても問題はない。
僕の目的は銃声が響きモンスターがこちらに注意を向けること。そうすることで別の方向からモンスターを倒しに行ったロルフの存在に気づくのを遅らせることができる。
「いいぞ。こっちにきやがれ!」
モンスターがこちらに数体向かってきたところで今度はしっかりした構えでスポットバーストショットを使いモンスターを二体倒す。
そしてリロードを始めた瞬間にこちらに向かってきたモンスターに矢が刺さる。どうやらフードの人は僕たちだけに任せないできっちり自分も戦うつもりのようだ。
「ハイハイ。そっちだけ見ててもいけないんだよなぁ!」
そしてモンスターの動きが止まった瞬間に今度はロルフがナイフで切りかかる。フードの人に後ろから迫っていたグリーンコボルトは一瞬で倒された。
どうやらこれにはモンスターも予想外だったという反応だ。
モンスターはどの相手に向かえばいいか迷いが生じる。
しかしその迷いが命取りだ。
そこから先は一方的な蹂躙劇となった。
真正面からナイフで切りかかるロルフに僕の銃弾、フードの人の矢による援護で瞬く間にモンスターは全滅することとなった。
「ざっとこんなもんだな」
ロルフはそういってナイフをしまう。
そして僕も銃をホルスターにしまい改めてフードの人を見る
端的に言えばエルフだった。長く少し先が尖った耳に金髪のショートカット。目の色は翡翠のような色をしていて人を引き付けるような美形だった。
「すまない。危ないところを助けられた」
そういってフードの人、もといエルフの人が礼を述べる。
「どうやら無事のようだね」
「あなたは・・・・・・昨日の模擬戦の?」
「はい」
どうやら覚えていてくれたようだ。
「昨日は失礼なことをした。本当に申し訳ない」
エルフの人が申し訳なさそうに言う。
「いっいえ」
ただ僕たちはその行動に少し違和感を覚えて微妙な返事をしてしまった。
僕たちが知るエルフという種族はとにかくプライドが高い。人に助けられるということで憤慨するなどはざらにあることなのだ。
師匠との修行で助けたエルフにそのような態度を取られたことがある。
だからこのように申し訳なさそうに謝るエルフというのを僕たちは見たことがないため違和感を感じた。
「私はリーン・リリ・・・・・・いや今は違うな。私はリーン。見ての通りエルフだ」
目の前のエルフはリーンというようだ。姓を名乗ろうとしたけど止めたのを聞いていてどうやら訳ありなのだろうと察する。
「俺はロルフ」
「僕はシグルド」
「本当に助けてくれて重ね重ね感謝する。できることならこの恩を返したいんだが、今は手持ちがな少なくてな・・・・・・」
その言葉を聞いて僕たちは顔を見合わせる。
そして頷きあい前に僕が言えなかったこの言葉を言う。
「なら僕たちのパーティーに入らないか?」




