10 ポーション
「なぁシグルド」
「なんだロルフ?」
ダンジョンを目指して歩いている最中立ち止まってロルフが何やらガラスに入った液体を渡してくる。
「お前さっき弾丸使ってMP消費してたろ? そいつ飲んで回復しとけ」
「おいおい? 僕は全然MP使ってないぞ?」
通常弾はMP1、強化弾はMP10ってところだ。さっきの戦闘で使ったのは大して多い量ではない。
「そいつはこのダンジョンに入る前に昨日俺が夜なべして作ったマナポーションだ。ちゃんと効き目があるか知りたい」
「夜なべって言い方やめろ。そういうのは母親が使う言葉だ。パーティーメンバーの男にそういわれると少し気持ち悪いわ」
「そういうな」
「まぁいいけどさ。これ飲んでも大丈夫なのか?」
「何がだよ」
「いや。色が・・・・・・な・・・・・・」
そう。色がやばいんだ。
なんかヘドロみたいな気持ち悪い色をしている。
「おいおい。そいつは心外だな。色がそんな色になってるのは不純物を入れてないからだ」
「だからってこんな色になるのか?」
僕が知っている通常のマナポーションはオレンジ色のポーションだ。
決してこんなヘドロみたいな色はしていなかった。
「市販の奴はそりゃ見栄えよくするように色付けてるからだろ。こいつはそういうのが入っていないからな」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ。大丈夫だ。効果は保証する」
そうかなら飲んでみるか。
もしもこれから戦闘が続いてMPが回復できなければ死んでしまうかもしれない。
万全は期すべきだろう。
「そんじゃいただいてみるよ」
僕は意を決してその液体を一気に口の中に。
「んー。ヘドロのような見た目と同じように、ドロッとしていてツンとくる酸味とえぐみのある苦み、その二つが口の中で絶妙なハーモニーを築いて・・・・・・〇×▲◆!」
そこまでこのポーションの評価を打ち切り声にならない声を出して吐き出そうとする。
しかしそれをロルフは許さなかった。
僕の顎を抑えてポーションを吐き出そうとする僕を全力で止めに掛かる。
「吐くんじゃない! 折角俺が用意したポーションだぞ! 効果も知りたいのに吐いたら意味ねぇだろ!」
「~~~~~~~〇×▲◆!」
そして僕はついにそのポーションを飲み込む。
そこで僕の意識は途絶えた。
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「ハッ! 僕は一体?」
「やっと起きたか。こんなところで一時間も寝やがって」
「はて・・・・・・僕は一体何を・・・・・・」
「ポーション飲んだんだろ?」
そのロルフの一言で僕の記憶がフラッシュバックする。
「なんだそのポーション! 修行の時によく見てた川を半分くらいまで渡りかけたぞ!」
「おいおい。そこまでの劇物じゃねぇぞ? これポーションだからな?」
「そんなポーションがあってたまるか!」
「とはいってもちゃんと効果はあったぞ」
そういって僕のギルドカードを見せてきた。
その表示を見ると見事に僕のMPは全快していた。
「あったけどさぁ・・・・・・てかロルフはこのポーションの味見をしたの?」
「してるわけないだろ! 俺は中身を知ってんだぞ! グッハ!」
その言葉を言い放ったロルフは全力で殴っておいた。
「おう、丁度体力が減ってるじゃないか? ほらポーションだぞ?」
「ちょっ何しやがっ・・・・・・! アッー!」
悪は滅びた。
そしてロルフが現世に帰ってくることを待つこと一時間。
「ハッ! ここはどこだ? そこにいる間抜け面は・・・・・・シグルド?」
「そうかそうかもう一本欲しいならそう言え」
チッ!
全然懲りてねぇな。
「ノーセンキューだ」
ったくよぉ。
手間取らせやがって!
「そんでロルフは何がしたかったのさ?」
「最初に言っただろ。俺のポーションに効果があるか確かめたかったからだよ」
「嘘はいらねぇ! どうしてこんな殺人ポーションになるのかまずそこから話してもらおうか?」
「嘘じゃねぇよ! 効果は保証するってな。効果以外は何も保証してねぇだろうが!」
「そんなもん飲ませるんじゃねぇ!」
こいつホントに僕を殺す気だったんじゃないよな?
「言ったろ? 不純物が入ってないって」
「確かに言ったな」
「だからポーションに必要な物しか入ってないからあんな味なんだ」
「ロルフ・・・・・・もしかして甘味成分や香料なんかもすべて不純物として扱ってたってこと?」
「その通りだ。だから市販の物よりも効果はある」
おいおい。そんなポーション作んなよ・・・・・・
少し効果落ちてもいいから飲めるものにしてくれ・・・・・・
「効果はあってもこんなの戦闘中に飲んだらそれこそ死んじゃうよ」
主に幻覚、気絶のバッドステータスでな。
「だろうな。だからこの味をどうにかするためにまた寄り道をして、ポーションの味の改善と昼飯の調達をしようと思っている」
「それは名案だ」
ダンジョンには朝早くから来たからまだ昼を回ったあたりだ。
昼時ということで腹も減ってきた。
「んで俺たちが今からダンジョンへの通り道に今度はキラービーの巣がある」
キラービーとは蜂のモンスターで群れでの行動と毒を撃ちこむ針が特徴のモンスターだ。
何度も刺されれば命に関わるモンスターだ。
また種類によって習性も毒の種類も変わるというモンスターである。
「それで?」
「森のダンジョンエリアにいるキラービーの特性はミツバチと同じで蜜を貯めるんだ。だから蜂蜜を回収してポーションの味の改善をしようというわけだ」
「なるほど」
それは名案だ。
あんなクソ不味いポーションなんか二度と飲みたくもない。
「そしてそいつの巣の近くには食べられる果実もなっている地帯がある。そこで腹ごしらえをしてダンジョンに向かう準備を整えようというわけだ」
「いいんじゃないか? でも蜂蜜回収しようとすればキラービーが大量に来るよな? それはどうするんだ?」
「それは俺に策がある」
何やらロルフはまた準備をしていたみたいだ。
コボルト避けの発煙筒とか持ってきてるみたいだし、色々準備はしてきているのだろう。
「ならそれでいいんじゃないのか? 否定する要素は見当たらないぞ」
「そうか。ならついて来い。道は覚えているからな」
そういってまたロルフの後ろをついて歩いて行く。
こういったところは本当に頼りになる男だ。
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ロルフについて歩いて行くうちに開拓されている森のダンジョンエリアの道から少し外れた。
草の根をかき分けながら進んでいくとキラービー独特の羽音が聞こえ始めてきた。
「どうやら近づいてきたみたいだね」
「ああ。少し耳を澄ませば羽音が聞こえる。近いぞ」
そしてさらに近づいていくと数匹のキラービーが目に入る。
「それで? どうやって蜂蜜を回収するの?」
正直キラービーに刺されるのはごめん被りたい。
理由? そんなの簡単だ。
・・・・・・刺されたら痛いじゃないか。
まぁ毒とかもあるし刺されないに越したことはないよね。
「ああ。策ならあるぞ。シグルドには多少危険を伴ってもらうけどな」
多少の危険程度で済むならいいんだけど。
「ふーん。それで具体的には?」
「ああ。まずお前にはキラービーをおびき寄せるオトリになってもらう」
「それで?」
「その間にシグルドがキラービーの巣から蜂蜜を取ってくる」
「なるほど・・・・・・って僕しか仕事してないじゃないか!」
あまりの僕の扱いに僕はロルフを見る。
「・・・・・・気のせいだ」
こいつ・・・・・・!露骨に視線を逸らしやがった・・・・・・!
「キラービーの大群に僕一人で突撃させる気か!」
「それ以外になんの策がある?」
正直イラっと来た。
あまりのロルフの無策っぷりに胸倉につかみかかる。
しかしロルフは何を怒っているのかわからないという顔をしていた。
そんな完全に僕を使い捨てる気だったロルフに僕はつい声が大きくなってしまった。
「ふざけんな! なんでそこまで雑な作戦立てて余裕ある顔してやがる!」
そしてそんな僕の声に反応するようにキラービーが僕たちに気づきこちらに飛んでくる。
「おいコラシグルド! お前が大きい声なんか出すから気づかれたじゃねぇか!」
「ロルフが無策なのが悪いんだろ!」
「俺の得意戦闘は近接だ! 正面突破なんかして戦えば刺されるだろうが!」
「そんな正面突破を間接戦闘が得意な僕に任せるなんて頭おかしいんじゃないのか!」
ギャーギャーと騒いでいるうちに最初にこちらに向かってきていたキラービーはどんどんこちらに迫ってくる。
更に仲間を呼んだのかすでに後ろから先ほどの倍以上の数のキラービーが迫ってき始めていた。
僕はもっと穏便に蜂蜜を回収できるものと思っていたが現実は甘くなかったようだ。
「ってこんなことしてる場合じゃねぇ! こうなったら正面突破だ!」
「最初からそのつもりだったって言え! チクショウ!」
一番手前に来ているキラービーを撃ち落とす。
しかし弾が切れ通常弾をリロードしているうちにキラービーはどんどん数を増やしこちらに迫ってきた。
「シグルド! こんな時こそ俺たちのコンビネーションを見せつける時だ!」
まず誰のせいでこんなことになっているのか反省をしてもらいたいところだが状況が状況なのでスルーしておこう。
「そうだね! こんな時こそ僕たちのコンビネーションの見せ所だよね!」
そうして僕はロルフの方をチラッと見る。
しかしそこにはいるはずのロルフの姿がない。
「ふはは! あとは任せたぞ!」
「このクソ野郎!」
ロルフの野郎!
この状況を僕一人に任せようと既に後ずさり始めていたな!
だがそんなことは僕が許さない!
「逃がすかぁ!」
僕はロルフ一人の逃走を許さないために自分自身に強化弾を撃つ。
絶対にあいつも道連れにする!
強化弾の効果でロルフとの距離をみるみる詰める。
「二人で逃げたら意味ねぇだろ! 蜂蜜回収できねぇじゃねぇか! それに強化弾なんて使えんだからお前がキラービーに突っ込めばいいじゃねぇか!」
「この期に及んで何言ってやがる! もとはと言えば蜂蜜が必要とか言ったのはロルフじゃないか! 責任取って肉壁くらいやりやがれ!」
「なら逃げてないで今俺たちを追ってきてるキラービーくらい撃ち落とせよ! 策も考えねぇで使えねぇ!」
「言ったな! 表出やがれ! 白黒つけてやる!」
「表に出たら日光でてめぇはまともに戦えないだろうが馬鹿が!」
ロルフに追いつき胸倉をつかんで喧嘩をしていると、気づけば追いかけてきたキラービーに周りを囲まれていた。
とはいえ逃げてきたおかげでキラービーのテリトリーからは出たのか先ほどより数は減っていた。
周りを囲うキラービーたちの羽音が響く。
「「「「ブーン」」」」
「「・・・・・・」」
少し冷静になった僕たちは怒りの矛先はキラービーへと向け始めていた。
「ブンブンうるせぇ!」
すでにリロードしていた銃をキラービーに向け発砲し撃ち落とした。
「全くだ!」
ロルフはどこからともなく出したナイフを投げキラービーを落とし、突撃を始める。
そしてナイフを振るたびにキラービーが倒される。
僕は僕でリロードが必要になるタイミングを見極め、弾数が残っていてもリロードを行う。
キラービーが必要以上に近づけないようにリロードに掛かる無駄な時間を省いて戦った。
戦闘を初めて一分も経たないうちに僕たちを囲んでいたキラービーはすべて物言わぬ骸となっていた。
「「こんなぬるい戦闘で満足できるか!」」
そしてテンションがおかしくなった僕たちはキラービーの経験値を回収しながら先ほどまで逃げてきた道を逆走し始める。
先ほどの場所に戻ると完全に臨戦態勢となっている大量のキラービーがいた。
「さっさと経験値になりやがれ!」
着いた矢先に現在の銃に込められている弾丸をすべて撃ち、キラービーを倒す。
そしてもう片方の銃で強化弾をロルフに撃ちこむ。
ロルフはキラービーの群れを自分に向かわせ、ナイフでキラービーを振り払いながら後ろで援護する僕にキラービーを一体も通さない。
むしろキラービーをものすごい勢いで倒し始めている。
「ハハッ! レベルが上がったなこりゃ! 体がさっきよりも軽いぞ!」
どうやら先ほどのキラービーの経験値でレベルが上がったようで動きが機敏な気がする。
「僕はさっきよりほんの少しだけどリロードが早くなった気がするよ!」
キラービーの群れは動きがよくなった僕たちの敵ではなかった。
修行で放り込まれた環境に比べればもとから敵ではなかったんだけどさ。
「これで最後だ!」
最後に向かってきたキラービーを撃ち落とし戦闘が終わる。
およそ数百匹はいたであろうキラービーを経験値に変えながらさらに奥に進むとそこには巣があり、そこから艶のある色の蜂蜜がしたたり落ちていた。
「これでまともに飲めるポーションが作れるんだよね?」
「ああ。あとこの蜂蜜全部回収してこう。森のダンジョンでキラービーの群れに突っ込む奴なんて少ないから結構な値がつくぞ」
「それはいいことを聞いた。それならもっと効果のあるポーションを買えるね」
「・・・・・・俺の行動が徒労に終わるからその発言はやめてほしかった」
そしてキラービーの巣の近くにある食べられる果実で腹ごしらえをしたあと、ロルフのポーションに蜂蜜を加えることによってできたロルフ謹製ポーションを僕はいの一番にロルフに飲まされた。
味は・・・・・・うん。ダメだったよ。気絶してた時間が三十分くらいになったくらいには蜂蜜に効果があったんじゃないかな?
あんな不味いものが蜂蜜加えたくらいでどうにかなるわけないだろ!




