探偵の夢絶たれたり・・・
「よし、まずはカジノエリアから行くぞ!」
「ねぇガル?」
先を急ぐガルを、スタンダスタは呼び止めた。
「ん?どうした?」
「あのさ、、、お腹減らない?」
「それもそうだな・・・なんて言うと思ったか!?少しは我慢しろ!!」
ガルに一喝され、少し気が緩んでいたスタンダスタも我に返った。
飯も食べさせてくれないのかよ!とスタンダスタは思っていたが、ガルが一喝した直後何やら丸いものを投げてきた。
「走りながら、それでも食べてろ!」
それは、ワームガルダのホテルのルームサービスでもらったフランスパンだった。驚きながらもスタンダスタはフランスパンをキャッチした。
「あ、ありがとー!!」
スタンダスタが大声で感謝の言葉を伝えなければいけないほど、すでにガルは遠くを走っていた。
なんとか全力で走って、ガルに追い付いた頃にはカジノエリアの周辺にたどり着いていた。
「やっと追い付いたか。」
「ガル、、、少しは後ろを気にしてよ、、、、」
スタンダスタは、膝に手を付き息を整えていた。
「今は一刻を争うんだよ!今、こうしている間にもリオや船長さんみたいに被害を受ける人が増えるかもしれないんだ。」
ガルの言葉にぐうの音も出なかった。なんだか軽く考えていた自分が恥ずかしくなった。
「ごめん、自分に甘かったよ。そうだね、これ以上悲しくなる人が増えないためにも、僕らが頑張らないとだよね!」
「そうだ!その意気だスタン!!いいか、この扉の向こうがカジノエリアだ!!さぁ行くぜ!!」
ガルは両手で、大きな扉を開けた。扉はまるで大きな車を押してるかの様な重さであった。
「うわっなんだこれは、、、」
あまりの眩しさにガルは、声を出して驚いた。天井には数えきれないくらいのシャンデリア。そして壁中に敷き詰められた煌びやかな装飾。眩しすぎて、目が慣れるのに少しの時間を要した。
「それにしてもすごいね。これが大人の世界っていうのかな。」
「大人と言ってもごく一部の大人だけだと思うけどな」
スロットからポーカー、ブラックジャックなど、、、賭け事全般を行う場所・・・それがカジノ。そこにはいろんな人が居る。
笑顔な人。悔しがる人、ポーカーだけにポーカーフェイスの人、、、でも、そこに居る全ての人は、必ず二択に分けられる。
賭けに「勝つ」か「負ける」かだ。
そして、勝っても負けてもその後の人生を大きく揺さぶられる。
・・・説明が長くなるので、簡単に言うとここには、ろくでもない人しか居なかった。
「ガル、ボクさぁ大人になってもカジノには行かないや。」
「そうしておけ」
いち早くこの場から離れたかった二人は、船長からもらった船員リストを頼りに奥へと進んでいく。
しばらくカジノをうろつくと、青いバッチを所有している船員が居る場所に着いた。そこは、カジノエリアに併設されている云わば「換金所」。そこがまさに青いバッチを所有している「ククリ・ペンテスト」さんの持ち場である。
そこには一人の「男性」が居た。それを見たガルは、一目散に男性のもとへ駆け寄った。
「お前は・・・何者だ」
「私は、ここの担当の者です」
「嘘をつけ!!お前の名前を言ってみろ!」
「私はククリ・ペンテスト」
「そうか、、、ククリさん、、、いや、アンタは本当バカだな」
「初対面の人に向かってバカとは随分と非常識な人ですね。」
「バカなやつにバカと言って何が悪い。いいか良く聞け、ククリさんは・・・女性なんだよ!!というか、青いバッチは女性しか着けていないんだよ!!」
確信をつく一言を聞いてなお、男性は至って落ち着いていた。
「そうだったのですね。まさか青いバッチは女性しか着けていないとはね。さすがに、この顔、この声で「私は女です」とシラを切れるとは思っておりません。確かに私は、ククリ・ペンテストではありません。ですが、正体を暴いたところで私をどうにかしなければ、解決しない!!」
男は、ベルトに隠してあったナイフを取りだし、ガルに向かってナイフを振りかざした。
ガルは華麗に避け、男の腕を軽く叩き、ナイフを落としたことを確認した後・・・男の股間を豪快に蹴りあげた。
「うっ」
男は踞り、しばらくして動かなくなった。どうやら気絶したようだ。
「スタン、間違いない。こいつは男だ。」
「あんな場所思いきり蹴られたら誰だって気絶しちゃうよ!悪い奴だってのはわかるんだけど、、、なんだか可哀想」
「こんなやつに同情してんじゃねぇよ!!これじゃ物足りないくらいだ!!・・・まぁいいや。スタン、近くに居るディーラーさんを呼んできてくれ。」
「あ、うん。ちょっと待ってて!」
スタンダスタは、カジノエリアへと走っていった。
ガルは気絶している男の頬を叩き、強引に起こした。
「おい、リオの髪飾りと船長のパイプはどこだ!!」
ガルの質問に対し、男は無言で受付所の方向へと指をさした。
「あの上の袋の中だな。あともう一つ。ククリさんはどこだ!!」
「・・・地下のワインセラーで眠ってる。」
「分かった。今警察に連絡してるだろうから、しっかり反省しやがれ!」
ガルは男の首元を叩き、再び男は気絶した。
ガルと男の一連のやり取りが終わってすぐ、スタンダスタはディーラーを連れてきた。
「大丈夫ですか!?今、船長と警察に連絡しました。あと、ベアトリスト船長が、落ち着いたら船長室に来るようにと仰っておりました。ここは私にお任せして、一先ずご自分達のお部屋へとお戻りください。心配して、待ってる方がいらっしゃるんじゃないですか。」
「そうだな、リオに髪飾りを早く返さなきゃな!スタン、行こうぜ!」
「うん!あ、ディーラーさん!ありがとうございます!」
犯人をこらしめた二人は、とても晴れやかな気分であった。犯人の正体は、指名手配されていた窃盗団「ブラック・スターリアン」のリーダーであった。この窃盗団の特徴は「変装」。とある人になりきっては、至る場所へと侵入していたと言う。
部屋に戻る途中、不思議な形の帽子をかぶった人とすれ違った。
「君たちとはまた会いそうな気がするよ」
すれ違い様に一言。それを聞いたスタンダスタは振り返ってみるが、誰も居なかった。
「ねぇガル、今の人知ってる?」
「今の人?なんの事だよ?」
見えてなかったのか、はたまた、ただ気づかなかったのか。ガルは首をかしげた。
「、、、ごめん、ボクの勘違いだった」
そう言って、その場を後にしたがスタンダスタはしばらくその人、そして「君たちとはまた会いそうな気がするよ」という言葉が頭から離れなかった。最後にもう一度振り返ってみたが、やはり誰も居なかった。
「勘違いにしては、はっきりとしすぎてるよな、、、」
ひとまず、この事は頭の片隅に置いて急いでリオの元へと戻った。
部屋に戻り、中へ入るとリオはソファーに座り、テレビを見ていた。
「おかえり」
リオはテレビから視線を外すことはなかった。どうやら、まだ本調子ではないらしい。そんなリオにスタンダスタが声を掛けた。
「リオ、ほら。取り返してきたよ」
未だにテレビから視線は離れないが、リオの左手はスタンダスタへと差し出されていた。
「素直じゃないね。はい、どうぞ」
「・・りがと」
「ん?聞こえないな~?」
「・・・」
からかいすぎたのか、リオは黙り込んでしまった。スタンダスタは謝ろうとリオの顔を覗きこむと、リオの両目が塞がっていた。形見の髪飾りが戻ってきたことに安心したのか、眠ってしまったようだ。
「あせった、、、怒らせちゃったのかと思ったよ。」
「きっとずっと気、張ってたんだろうな。」
ガルはリオを起こさないようにそっと抱え上げ、ベッドまで運んであげた。
「さぁ、リオに髪飾りを返したことだし飯でも行くか!」
「そうだね!じゃ、ご飯食べてから船長さんところ行こっか!これも返さないとね・・・ってあれ!?なにも入ってないけど?」
スタンダスタは、犯人から取り戻した袋のなかをまさぐってみたが、袋の中にはもう何も入っていなかった。
「バカ言うなよスタン!貸してみろ!」
ガルは強引にスタンから袋を取った。自分で確認しないと気が済まなかったからだ。しかし、袋を取った時点でガルは、中に何も入っていないことを感じた。
「・・・俺たちは初歩中の初歩的なミスをしていたんだ。スタン、飯は後だ。急いで船長んところ行くぞ!」
「え、ちょっと待ってよ!!」
ガルに言われるがまま、スタンはガルと共に船長室に向かうこととなった。
初歩中の初歩とは?スタンダスタは、走りながら聞いてみた。
「ねぇ、どういうことなの!?ぼくらもう犯人見つけたよ?それより先に船長室いくなら、落とした船長のパイプを、、、」
「落としてなんかいねぇよ。そもそも船長のパイプはまだ「犯人」が持ってるはずだよ」
ガルの顔は険しかった。
「犯人って、さっきガルが捕まえたじゃん!!隠し持ってるってこと?」
「「あいつ」は持ってないよ。いいか、良く考えてみろ。船長は停電している間にパイプを盗られたと言っていた。停電は3分間だったから、その3分間でリオの髪飾りと船長のパイプは盗られた。・・・もう分かっただろ。」
「・・・え?」
「もうめんどくせーな!いいか!犯人は一人じゃないってことだよ!!何でこんな事に俺は気づかなかったんだ、、、探偵の夢は諦めるしか、、、」
「いやいや!探偵とか初耳だよ!というか、王宮騎士になるんでしょ!!・・・というか、というか!犯人が一人じゃない!?もう何がなんだか、、、」
スタンダスタが分かったことは、まだご飯が食べれないという事だけだった。
リオ達の部屋から船長室までは、どんなに本気で走っても5分以上はかかる。つまり、停電していた3分間でリオの髪飾りと船長のパイプを一人で盗むのは不可能・・・船長室に向かうまでに、ガルは分かりやすくスタンダスタに教えたつもりだったが、それでもスタンダスタはいまいち理解していない様だった。終いには、「頑張れば3分以内で行けたんじゃないの?足早いんだよきっと!」などと、常識をねじ曲げる発言をされて、ガルはもうお手上げだった。
それから船長室に向かうまで、二人は無言を貫き通した。
船長室の前に着き、一目散に船長の所へ行きたかったのだが、礼儀を弁えるのが男の建前。そう船長に教わったような教わってないような、、、一先ず、ドアをノックした。
「ベアトリスト船長!!ガルです!」
それでも、一大事な状況の為、ガルはノックとほぼ同時に大きな声で船長の名を叫んだ。そして応答が来る前にドアを開けた。
「おや、君たちか。クルーから話は聞いてるよ、犯人を捕まえてくれたらしいね。」
「船長!!!犯人は実は一人では・・・」
ガルは船長に事態の説明をしようとしたが、あるものがガルの視界に入ったためにガルは話すのを止めた。
それは、ベアトリスト船長の口にあったパイプだった。
「その驚き様は、なぜパイプが私の元にあるんだとでも思っているのだろう。実は君たちが出てった直後にクルーの一人から、不審者を二人捕らえたという連絡があってな。その二人が私のパイプを持っていたのだよ。それで話を聞いてると3人でこのフェリーに忍び込んだらしくて、君たちが追いかけていたのがどうやらその3人組のリーダーだったらしいね。・・・大丈夫だったかい?」
船長がくわえているパイプからは、煙がプカプカと浮かんでいる。それと同時に、船長は笑顔を浮かべた。大切なパイプが戻ってきたことが相当嬉しかったのだろう。
「この通り、ピンピンです!それより、アイツはナイフを忍ばせていましたので、被害が最小限に抑えられて良かったです。これも、一般人の僕たちに情報を提供してくれました船長のおかげです。本当にありがとうございました!・・・ほら!スタンも!」
「あ、ありがとうございました!」
ガルの合図と共に、二人は船長にお辞儀をした。
「何を言っておる。礼を言わなければならないのはこちらの方だよ。この船を守ってくれてありがとう。君たちの功績は、永遠にビーノ・カストロイド号の歴史に刻まれる事だろう。そういえば、君たちは旅をしているんだったね。今後このフェリーを使う機会があったら、いつでも私に連絡しなさい。顔パスで歓迎しようじゃないか。」
「やったね!ガル!!船長!ありがとうございます!!・・・」
・・・・・・
「ぐうぅぅ~」
一瞬静寂に包まれたかと思いきや、スタンダスタの腹の音が豪快に響き渡った。
「はっはっは。随分と元気な腹の虫が居たものだ。レストランスペースは、すぐ隣だからたくさん食べてくると良いよ」
「やったー!」
「え?」
「え?」
スタンダスタはどこから出したのか分からないが、右手にスプーン、左手にフォークを持ったまま両手を上げて喜びを表現した。それを見たガルは、一言で驚きを表現した。なぜ驚かれたのか分からず、ほぼ間隔を空けずに、スタンダスタも同じ言葉を返した。
食べることしか頭の中に無かったスタンダスタは、船長に「ありがとうございました!」とスプーンを持った手で敬礼をしながら言い放ち、船長室を後にした。
「すいません、アイツずっと腹が減ってたらしくて、、、」
「結構結構。若い証拠じゃないか。ガル君もお腹減ってるんじゃないかい?」
「ぐぅ~~」
船長の言葉に反応したかの様に、ガルのお腹が鳴り出した。
「はい、、、」
「ビーノ・カストロイド号のメニューは、どれも自信があるものばかりだからガル君も遠慮せず腹一杯食べると良いさ。」
「はい!ありがとうございました!では、失礼します」
ガルは船長に敬礼をし、船長室を後にした。スタンダスタは言わずもがな、レストランスペースに一直線だったが、ガルはリオを朝食に呼ぶために今一度部屋に戻ることにした。部屋に戻るまでのおおよそ20分間、20回ほど腹を鳴らした。