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アナルシア・ベアトリスト

リオの髪飾りを盗んだ犯人を探す・・・とは言ったものの、膨大な広さのフェリーの中からしらみ潰しに情報を聞いて周るのは、現実的に無理がある。


しかしフェリーが動いている以上、犯人は必ずフェリーの中にいる。少しの可能性を信じて、ガルとスタンダスタは手がかりを探すことにした。


「ねぇ、ガル。このフェリー監視カメラたくさんあるじゃん!!だったら、それ見せてもらえば良いんじゃない?」


「一般人の俺たちに、監視カメラのデータをそう簡単に見せてくれるとは思えないな、、、第一、リオの髪飾りが盗まれた時は「停電」だったんだぞ?録画されてる可能性は低いと思うぞ、、、」


「それでも、盗まれる前後で何か怪しい行動をしてる人がいるかもしれないじゃん!!それに、監視カメラのデータは見せてくれると思うよ?だってポスターに「サービス・セキュリティー世界一を目指しております!」って書いてあったよ?そのフェリーで、窃盗があったなんて周りに知られたらエライ事じゃない?名誉のために、添乗員たちは協力してくれると思うよ」


「スタン、お前性格悪いな。ある意味脅迫だぞ。」


「・・・でもリオのためなら、手段を選んでる場合じゃないよ!」


「なんだか、スタンが頼もしく見えるな・・・よし!早速船長室に行ってみよう!」


スタンダスタを先頭に、スタンダスタとガルは船長室に向かうことにした。少しだけ大きく見えたスタンダスタの背中を見て、ガルの心の片隅にあった小さな不安が払拭された。


少しだけ歩くと、急にスタンダスタは立ち止まり振り返った。


「ん?どうした、スタン?」


「あのさ、、、船長室って・・・どこ?」


ガルの不安が一気に募った。


「はぁ、、、だろうと思ったよ。そう思って、部屋の中にあった船内の地図を持ってきた。ほれよ」


ガルはスタンダスタめがけて、丸めた地図を投げた。それをスタンダスタは見事にキャッチした。


「ありがと、ガル!えっと、船長室は・・・ここか。って、めちゃめちゃ歩くよ!!」


「確かに、俺らの部屋はフェリーの一番後ろ辺りに対して、船長室はフェリーの先辺りだからなー。純粋に2、30分かかるんじゃないか。」


「・・・フェリーの中に馬車なんかないよね」


「あるか、バカ!!」


一気にやる気をなくしたスタンダスタの腕を、ガルは強引に引っ張り「歩いて」船長室へと向かうことにした。


途中、通りすがりの観光客と何人、何十人とすれ違った。共通して、みんな笑顔であった。それは当然と言うべきだろう。子供は、見たこともない大きなフェリーに乗り、まるで冒険をしてるかのような気分になるだろう。大人たちも、普段味わうことの出来ない船旅に満足しないはずがない。


ボクらも、本来なら楽しんでいたのに・・・スタンダスタはだんだんと怒りがこみ上げてきた。ボクらの船旅を邪魔した犯人を許せない。そして何より、リオを悲しませた犯人を許さない、、、


ガルに引っ張られていた腕を振り払い、スタンダスタは一人歩きだした。


「ガル、3時間で犯人見つけよう」


「バカヤロウ、、、2時間で見つけてやるよ。」


やる気がみなぎってきた二人は、前を向いていた。2時間という目標を掲げ歩いている間に、どうやら船長室の前まで来たようだ。


「ここだね、、、」


「おぉ、、、じゃあ、俺がノックするぞ」


船長さんに会うなんて思ってもみなかったことに、二人は少し緊張していた。


軽く深呼吸をし、ガルは船長室のドアをノックした。


「コンコンコン、すいませーん」


「入りなさい」


ドアの向こうからでも感じる、鈍く迫力のある低い声が聞こえてきた。


「失礼します」


分厚く重いドアを両手で開けて、二人は船長室へと入っていった。


「なんだ、うちのクルーかと思ったら随分と若い衆じゃないか。わたしに、何か用かい?」


全体的にブルーの服装に纏われ、ブルーの帽子をかぶり、帽子からはみ出た白髪に白髭を蓄え二人が想像していた「船長」像そのまんまの人が大きな椅子に座っていた。


「俺、、、いや、ボクはガル・ストレイナーと言います。そして、、、」


「あ、スタンダスタ・クルールです」


礼儀を忘れずに、二人はまずは自分の名前を伝えた。


「なるほど、、、まずは自分の名前を伝える。どうやら礼儀は弁えてるようだな。私はビーノ・カストロイドの船長をしている。「アナルシア・ベアトリスト」だ。」


見た目は威圧感があり、貫禄があり近づきがたい存在だったのだが意外と話してみると優しそうな人だと二人は思った。


「あ、あの実はボクの親友にリオ・キャスバインという女の子がいるのですが、今日の停電の最中に、何者かがボクらの部屋に忍び込んでリオの大切な髪飾りを盗んでいったんです。それで無理なお願いだということは承知の上でお伺いしますが、どうか監視カメラのデータを見せていただけないでしょうか。」


船長は、腕を組み考える・・・


「まさか、君たちも被害者だったのか」


「え、どういうことですか。」


どういうことですか、、、、とガルは言ったものの、船長の身に何が起こったのかスタンダスタには大方予想がついていた。


「実は、私の・・・」


「パイプ・・・ですか?」


「なぜ分かった。」


アナルシア船長は、ピンポイントな単語を言われて少し驚いていた。


「だって、船長と言ったらパイプをくわえてるものですよね!!なんか、船長を見て少し物足りないなぁって思ってたんです。」


「はっはっはっはっは。よく分かったな、スタンダスタ君。」


スタンダスタを誉めた後、アナルシア船長は淡々と事件の経緯を話し始めた。


「停電が起きた当時、私は船長室で夜食を食べていた。停電が起きた直後、船長である私は各持ち場にいるクルーに指示を出していた。そのせいだろうな、私の部屋に誰かが忍び込んだのに気づかなかったのは。クルー達の迅速な対応で停電はすぐに復旧した。その時気づいたんだ、私のパイプが無くなっていた事を。」


「船長。なぜ犯人はパイプを盗んだのでしょうか。リオの髪飾りには、特別なルビーが付いていました。それを見て盗んだんだと思います。船長のパイプは何か盗まれるほどの特別なものだったのでしょうか。」


疑問に思ったことを、ガルは船長にぶつけてみた。


「ふむ、一般の方には見たところでわからないだろうが、私のパイプは世界で一本しかない特注のパイプなのだ。君たちは知らないだろうが、その昔有名な鍛冶屋がいてな。その人が作ってくれたんだ。今では、その鍛冶屋が作った製品の価値が非常に上がっててな、恐らくサインを見て盗んだんだろう。」


アナルシア船長の表情が段々と、沈んだ表情へと変わっていく。誰でも、大切な物が手元から無くなれば悲しくなる。それは例えアナルシア船長であっても同じ。


「君たち、見たところ旅に慣れてるように見えるが戦術も嗜んでいるのか。」


「はい!」


ガルは、大きな声で答える。スタンダスタは自信なさげに


「は、はい」


と小さな声で答える。


ガルはそれを聞いてスタンダスタの顔を見て


「えっ」


急いで、スタンダスタはガルの元へと近づく。


「えっ、とか言わないでよ!ボクだって自覚してるから!頼りないって事くらい!」


「冗談だよ、冗談!」



「はっはっは。頼もしいじゃないか。私は船長だからこの場を離れることが出来ない。だから君たちに犯人探しを任せようと思う。えっと、監視カメラのデータだったな。ちょっと待ってなさい。」


船長は自分のデスクに戻り、コンピューターをいじり始めた。しばらくすると、船長は手招きをしてきた。


「これが、停電の前後30分の監視カメラのデータだよ。役に立つといいが、、、」


「とんでもございません。ありがとうございます!」


ガルがアナルシア船長に礼を言った後、敬礼をする。アナルシア船長は少し微笑み、敬礼を返した。


「最近の若者も、捨てたもんじゃないな」


アナルシア船長の独り言が二人に聞こえる事はなかった。


ひとまず、停電直後を見てみたがガルの予想通り、データは残っていなかった。


「くそっやっぱりダメだったか」


「データが途切れる前後を見てみようよ!」


停電はおよそ3分間続いた。停電になる前、停電が解消された直後の部屋付近の通路を見てみることにした。


「おいスタン!これ見てみろよ!」


ガルはデータを一旦止めた。それは停電する2分前の監視カメラの映像だった。


「ん?誰か立ち止まってるね。何してるんだろう、、、」


スタン達の部屋と隣の部屋の間の通路に、一人の男性と思われる人が何か紙を持ちながら、一歩もそこから動かない。これは・・・怪しい。


「でも、この人・・・どこかで見たんだよな」


「ガル!それホント!?」


「いや、正確には顔を見たというよりかは似たような服装を見たというか、、、」


「服装・・・?」


スタンダスタは首をかしげる。ガルは必死に思い出そうとしている。


「どれどれ、、、ちょっと見せてみたまえ」


何か、力になろうとアナルシア船長も監視カメラの映像を見てみることにした


「、、、、信じたくはないが間違いない、その服装は私たちのクルーの制服だ」


犯人はまさかの関係者、、、船長の一言にスタンダスタとガルは驚愕した。


「ただな、、、」


「ただ?どうしたんですか?」


アナルシア船長は、じーっと映像を見つめる。


「私は、、、コイツを知らない」


「知らない?だって制服を着ているなら、この船のクルーの方なんですよね?」


すかさずスタンダスタが船長に質問を投げ掛ける。


「ビーノカストロイドには丁度1500人のクルーがいる。自慢ではないが、私は全員のクルーの顔と名前を覚えている。しかし、コイツは見たことがない。絶対うちのクルーではない」


「船長、それは間違いないんですね?」


スタンダスタが念を押す。


「あぁ、間違いない。船長生命をかけても良いだろう。」


船長の余程の自信に、間違いは無いんだと二人は本能的に感じた。


「でも1500人かぁ、、、それを一人一人当たるのは相当時間かかるよな」


「いや、1500人も探す必要はない。胸の辺りを見てみなさい」


船長に言われ、二人はコンピューターの画面を凝視する。


「船長、、、バッジですか?」


ここに来て、スタンダスタが観察力を発揮した。


「そうだ。クルーそれぞれのランクごとに、付けるバッジの種類が違うんだ。そして、その青いバッジはかなり上位ランクのクルーしか付けていない。そうだな、、、10人もいないんじゃないか。えっと確かここに・・・」


船長は、本棚へと向かい1冊の本を取り出した。


「これは、クルー全員の名簿だ。そして青いバッジをつけたクルーは・・・ここだな。」


「そして、これは本日の各クルーの配置図だ。青いバッジをつけたクルーの所に行けば、犯人の正体が分かるかもしれない」


「ありがとうございます、船長。何から何まで」


「私は君たちの未来を応援するよ。立派な君たちを支えることが、今の私に出来ることだ。頑張ってくれたまえ。そして、万が一襲われたクルーがいたら助けてやってくれ」


船長の力強い言葉に二人は揃って敬礼をし、船長室を後にした。


「スタンの性格悪い作戦をわざわざ決行する必要なかったな!」


「ねぇガル、ちょっと聞いていい?」


「なんだよ、いきなり!」


「あのさ、、、鍛冶屋って何?」


「・・・犯人見つかったら教えてやる」


ガルは船長からもらったクルーの配置図のコピーの一部を片手に、走り出した。



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