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暗闇の訪問者

目覚ましをかけるとする。その時、家を出る何分前に目覚ましを設定するのかは人それぞれである。


起きてから準備をしたり、家を出る時間までまったりと過ごしたい人は一時間前とか、中には2時間前とかに目覚ましをかける人も居るだろう。


逆に、寝る時間を少しでも多く取りたい人は30分前とかもっとギリギリに設定する人もいるだろう。


スタンダスタは後者の人間だった。


サスラダバータ行きのフェリーが本日早朝3時発の便しか出ない為、それに間に合うようにホテルを出なければならない。


しかし、ホテルから港までは歩いて3分もかからない距離にあるため、スタンダスタはギリギリまで寝られると思い、目覚ましを2時30分に設定していた。




ただいまの時刻午前2時。すでにスタンダスタは起きていた。


「ボクさぁ仰向けだったわけで・・・その上に乗るのはダメでしょ!!」


「だってあたしが起きたときに、スタン寝てたんだもの。だから起こしてあげたの。言ったでしょ?時間になっても起きてなかったら飛び乗って起こしてあげるって」


スタンダスタは思い出した。リオがめちゃくちゃ早起きだということを。リオに飛び乗られないようにするために目覚ましをかけたのに、リオより先に起きなければ意味がない。スタンダスタは自身の甘さを反省した。


二人が話をしていると、部屋のドアが開いた。


「あれ?カギ開いてんじゃん。お邪魔するぜー。」


隣の部屋で寝ていたガルが、二人の部屋へとやってきた。


3人揃えば、話が盛り上がる・・・のだが、時刻は夜中の2時過ぎ。他の宿泊客の迷惑にならないように、ガルは静かに話の輪の中へと入っていった。


「なになに?何の話してたんだよー?」


「ガル聞いてよ!!リオがボクのお腹の上にいきなり飛び乗ってきたんだよ?もう死ぬかと思ったよ、、、」


「楽しそうだな!」


「どこがだよ!!」


スタンダスタはお腹の上に乗られたときの痛みを全身で表現した。こんなことされてるのに、何が楽しいんだと。そんなスタンダスタをよそ目に、ガルはリオと話しを始めた。いつか、同じものを食らわしてやるとスタンダスタは心に誓った。


「リオは今日何時に起きた?」


「あたし?1時半よ。」


「お!俺もそんくらいには起きてたんだよ!」


スタンダスタにとって別次元の話を、二人は繰り広げていた。


「スタンは相変わらずお寝坊さんなのよね」


リオは呆れた顔でスタンダスタを見た。リオの喋り声が聞こえなかったスタンダスタは、なぜリオがこちらを見たのかがイマイチ分からなかった。


「ん?リオ?どうしたの?」


「早く準備なさい!アタシとガルはもう準備出来てるんだからね!」


「そうだぞ!早くしろよ!!」


リオに続きガルも、スタンダスタに準備を促した。


「はいはーい」


眠い目を擦り、大きなあくびをかいてスタンダスタは立ち上がり、洗面所へと向かった。


荷物はまとまっていたため、スタンダスタの準備は歯磨きをして終了。


おおよそ5分、いつもより少しだけ丁寧に歯磨きを済ませたスタンダスタがシャワールームから戻ってきた。


「お待たせ!さぁ行こうか!」


「おいスタン、それで行くのか・・・?」


ガルはシャワールームから出てきたスタンダスタを見て驚いた。普段からスタンダスタは寝癖が悪い。当然今日も起きたとき、素晴らしい位髪がボサボサだったのだがそれを全く直さずに出てきたのだ。


「うん。それが?」


「あ、いや。歯磨きも大事だけど、髪の毛凄いことになってるぞ?」


「ガル・・・君がゼル村を出てから、随分とトレンドが変わったんだよ。」


「んな訳あるか!・・・まぁスタンが良いというなら良いんだけどさ」


「良い訳ないでしょ!!」


髪を解くための櫛を片手に、リオはスタンの元へ向かった。


「イタタタタ!!痛いよリオー!」


スタンダスタの後ろに付き、リオはスタンダスタの髪を櫛で解き始めた。ボサボサの髪の毛は、途中で引っ掛かったがそんなものはお構いなしで、リオは解かすのを止めない。どこか、痛がっているスタンダスタを見て笑っているようにも見えた。


「スタン痛いのー?我慢なさい!うふふふ」


リオは笑っていた。声を出して笑っていた。


「・・・お、俺先にチェックアウトしてくるわ。」


二人のやり取りを見ていたガルは怖くなって、逃げるように部屋を飛び出した。




チェックアウトを済ませたガルは、ホテルの外でスタンダスタとリオを待っていた。


「うわっ寒ぃ。夜中になるとこんなに冷えてんだな、、、スタンとリオ、早く来いよな、、、」


「来てやったわよ」


「うわっ!驚かすなよ!!!」


マフラーに厚手のコート、それに耳当てというかなりの重装備でリオは現れた。


「ごめんね、待たせちゃって。」


リオに「襲われた」お陰で、スタンダスタの寝癖は治りいつもの髪型に戻っていた。ガルが部屋を出てからの数分間、スタンダスタとリオが何をしていたかをガルは知らない。いや、知りたくもないだろう。


3人揃ったところで、港へと歩き出した。夜中の2時過ぎにも関わらず、眩しいくらいに街は明るい。さすが眠らない街ワームガルダ。


「分かってるの、分かってはいるんだけど念のため聞くわ・・・スタン、今何時?」


「・・・2時半だね、夜中の。」


リオの質問に対し、スタンダスタは寒くて堪らなかったが、腕をまくり腕時計をリオに見せながら答えた。


「やっぱりそうよね。・・・なんだか街の明かりが眩しいわね。でも、テンションあがる!」


眩しさに怒りを覚えているのかと思ったら、意外とリオは楽しんでるようだ。


スタンダスタとリオが話している間に、ガルは一人前を歩いていた。


「おーい!何してんだよ!早く行かないと間に合わなくなるぞー!」


「ごめーんガル!今行く!!・・・リオ行こっか。」


「、、、そうね。気分が高ぶって、つい目的を忘れてしまう所だったわ。」


リオは我に返った。そして煌めくワームガルダの街をしっかり目に焼き付ける。「次はいつ来れるかしら」・・・なんて思いを巡らせながら、港へと歩を進めた。


ガルが付けた足跡を辿りながら、スタンダスタとリオは歩いている。その為2人はずっと下を向いて歩いていたのだが、ふと気が付くとすでに港の前まで着いていたのだった。


煉瓦で作られた大きな建物の中に入ると、巨大なフェリーが一隻泊まっていた。これが今日スタンダスタ達が乗る「ビーノ・カストロイド号」だ。入り口に置いてあったパンフレットによると定員は5000人。客室は全部で2500室あり、バーとレストラン、映画館、カジノ・・・簡単に言うと、この船の中でやりたいことは、ほぼ全て出来てしまう位。


先に港へ着いていたガルが、3人分の手続きを済ませた様だ。


「おーい!部屋のカギもらったから、ひとまず荷物置いてこようぜー!」


一足先にガルはフェリーへと走り出した。


「あ、待ってよガル!!」


「ちょっと!あたしを置いていくとはいい度胸じゃない!!」


ガルに続き、スタンダスタとリオも走ってフェリーの中へ入っていった。


部屋のカギには、部屋番号の「1350」と書かれている。これを頼りに、自分達の部屋を探した。しかし余りに中が広すぎるため、ようやく部屋を見つけたときには既にフェリーに乗り始めて30分経っていた。そして探している間に出港時間の3時は過ぎ、フェリーは動き出していた。


「ちょっとガル!意気込んで入ったんだから、部屋の場所くらい把握しときなさいよ!!」


しばらく歩いて疲れたからか、リオは大分ご立腹だ。


「いや、カギに部屋番号書いてあったからそれ見つけりゃいいかなと思って、、、」


「見つけたというよりは、たまたま辿り着いた感じだよね・・・」


ガルの言い訳に、余計な一言を加えるスタンダスタ。


「、、、まぁ、部屋に着いたんだし早く入ろうぜ!なっ?」


リオを宥めるような口調でガルは話し、「どうぞどうぞ」とリオを部屋へとエスコートした。


部屋はついさっきまで泊まっていたホテルとは比べ物にならないくらい豪華だった。いや、ワームガルダのホテルも決して貧相な部屋だったわけではないのだが、ビーノ・カストロイド号が余りにも豪華なのだ。


リオはエルネスの大剣を壁に立て掛け、ソファーに座った。


スタンダスタは荷物を部屋の隅に置き、ベッドへとダイブした。


「見てよ!このベッドふかふかだよ!!」


スタンダスタの声に誰も反応しない。


「ねぇ、リオ!このベッドふかふかだよ?」


スタンダスタはリオに呼び掛けたがリオは無視をした。


「ねぇ、ガル!・・・ふかふかだよ?」


ガルはテレビに夢中だったのか、スタンダスタの呼び掛けに答えない。


「・・・ふかふかだよね?」


最終的になぜかスタンダスタは自分に問いかける。


「ん?スタン?なんか言ったか?」


「いや、何でもないよ・・・」


テレビの音に紛れ、微かにスタンダスタの声が聞こえたから今度は反応してあげたのだが、スタンダスタは拗ねてベッドの掛け布団にくるまってしまった。


「バンッ」


いきなりの出来事だった。部屋が一気に暗くなったのだ。


「えっ何よ?」


「おい、停電かよ・・・」


リオとガルは驚いてはいるものの、至って冷静だった。しばらくすると船内アナウンスが流れた。


「お客様にご連絡いたします。只今、電気系統に不具合が生じております。復旧作業及び原因究明を直ちに行っております。回復まで今しばらくお待ちくださいませ。繰り返します。只今電気系統に不具合が生じております。復旧作業及び原因究明を直ちに行っております。回復までに今しばらくお待ちくださいませ。」


「えっ今停電してるの!?真っ暗じゃん!リオ!?ガル!?何処にいるの?大丈夫?」


アナウンスを聞いて、スタンダスタは初めて停電してることに気づいた。布団から出たスタンダスタはベッドの上で一人あたふたしている。


「落ち着けよスタン!俺たちはここに居るから!」


ガルの声を聞いて安心したのか、スタンダスタは落ち着きを取り戻した。


「ボク暗いところが苦手なんだよ・・・」


「だったら、さっき布団の中にくるまっていたお前の気持ちを教えてくれ」


「いや、暗くなることが分かってるなら大丈夫なんだけど、いきなり暗くなるとか怖いじゃん!!」


「それは単に驚かされることに耐性がないだけでは・・・」


「バチッ」


「うわっ!!ビックリした!!」


ガルとスタンダスタが話していると、どうやら復旧作業が終わった様で、部屋の電気が一斉に付いた。いきなり電気が付いたのでスタンダスタは思わず驚き、体がビクッとなった。


「お客様にお伝えします。先程復旧作業が終了致しました。順次お部屋の電気が回復致します。お客様には多大なるご迷惑をお掛け致しました事、心よりお詫び申し上げます。誠に申し訳ございませんでした。なお、今回の不具合でサスラダバータへの到着時間に変更はございません。それでは、引き続き「ビーノ・カストロイド号」でのフェリーの旅をお楽しみくださいませ」


停電直後のアナウンスと同じ添乗員の声で、復旧作業が完了したことを知らされた。そのアナウンスを聞いたあと、リオがベッドの辺りで何かを探し始めた。


「リオ?どうしたの?」


心配になったスタンダスタがリオに声をかけた。


「ない!ないのよ!!姉さんの形見が!!」


「姉さんの形見って・・・エルネスさんの剣!?」


大切な物を無くしたからかリオは焦っていた。その焦りが表情にも出ていた。


「違うわよ!!剣はあそこにあるじゃない!こんな大きい剣、誰も盗むはずないじゃない!姉さんの髪飾りよ。あたしがいつも付けてるやつ!」


リオが指差す場所・・・確かにエルネスの大剣が壁際に立て掛かっていた。そしてリオが縁起でもない言葉を口にした。


「あーあの赤い髪飾りね・・・って盗むってどういう事!?」


「やっぱり、誰か来たよなこの部屋・・・」


リオに投げ掛けたスタンダスタの質問に、ガルが思いも寄らない答えで返した。


「ちょっと!ガルもリオも落ち着いて!!何がなんだか訳がわからないよ!!」


「落ち着くのはお前だ、スタン。簡単に言うと、スタンが布団にくるまっている間に誰かがこの部屋に忍び込んだ。そして、リオの髪飾りを盗んでったって訳だ。なんで髪飾りを狙ったかは知らないが・・・」


「あの髪飾り、ルビーが付いてるの。きっと事前に目を付けてて狙ったんでしょうね。してやられたわ・・・」


「待ってよ!ボクちゃんと最後部屋に鍵したよ?しっかりと覚えてる。だからこの部屋には誰も入れないはずだよ!」


「それがな・・・このフェリーやたらいろんな所に金掛けてるけど、ドアの鍵は至って普通のタイプなんだよ。オートロックでもなければカードキーでもない。だから、簡単にピッキング出来ちまうんだよ。」


「なるほどね・・・」


ガルの見解に頷き感心するスタンダスタだったが、そんな場合ではない。リオがここまで落ち込んでいる姿を二人は見たことがない。いつもだったら怒りを原動力に、相手に倍返しをする様な子なのだが、今回は訳が違う。大切なエルネスの形見を盗まれてしまったのだ、リオが落ち込むのも無理はなかった。


サスラダバータに到着するまで12時間。やることは決まった・・・犯人探しだ。


しかし、探すのはスタンダスタとガルの二人だけ。精神的に参ってるリオには部屋で休んでもらうことにした。


「リオ、俺たちが必ず髪飾りを取り戻してやる!だからリオは休んでな。」


ガルがリオの肩をトントンと叩く。それに答えるかの様に、リオはウンと頷いた。







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