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親友の夢

翌日リオは、外から聞こえた爆発音で目が覚めた。


「何よ、いきなり!うるさいわね!こっちは気持ちよく寝てたってのに!」


「んんん、おはよう、リオ。どうしたの?」


スタンダスタは、外の爆発音ではなくリオの声で起きたらしい。


「何寝ぼけたこと言ってるのよ!聞こえたでしょ?爆発音のような、ものすごくデカイ音!!」


「ものすごくデカイ声なら聞こえたよ。」


「アナタケンカ売ってるのかしら?」


「お休み、リオ」


「ちょっと外見て来て。」


ニコッとしたリオの目は明らかに笑っていない。スタンダスタはリオの言うことを素直に従い、外の様子を見に行くことにした。


ホテルを出ると、まるで街全体がお祭りモードな感じ。そして朝から花火がバンバンあがっている。リオが言ってた爆発音は恐らくこの花火だろう。


何が起こっているのか、スタンダスタは街の人に聞いてみることにした。


「あの~今日って何かあるんですか?」


「何って、年に一度の謝肉祭じゃないか!!あんたさてはワームガルダのもんじゃねぇな?ま、この日に来たのも何かの縁だ。お前さんも謝肉祭を楽しんでいきな!そういや、この後レストラン「ルドミエール」で大食い大会があるんだ。飛び入り参加もOKだから、良かったら出てみたらどうだ?」


「へー大食い大会かぁー。ちょっと気が向いたら行ってみますね。ありがとうございます!」


スタンダスタは丁寧にお辞儀をし、その場を後にした。


ホテルに戻り、先程聞いたことをリオに伝えた。


「なるほど、今はお祭りなのね。面白そうじゃない!!存分に楽しみましょ!」


「え、ガルは探さなくていいの?」


「ガルだってお祭りを満喫するはずよ!あたしたちも、楽しみながら探せば良いのよ!」


「ま、それもそうだね!あ、この後ルドミエールで大食い大会やるんだって!行ってみようよ!」


「そうね、今なら誰にも負けないくらい食べれる自信があるわ。」


「え、出るの?」


「出るわよ。スタンも出るわよね?」


「あ、うん」


全くそのつもりはなかったのだが、スタンダスタはリオと共に大食い大会に出ることとなった。


ホテルからレストランまでは歩いて5分もかからない距離にあるのだが、国内外からこの謝肉祭のために人が集まるため、どこもかしこも人混みだらけ。人の流れに身を任せ、ゆっくりとルドミエールへ歩いていった。


15分ほどかけて、ようやくルドミエールに着いた。入り口で大会のエントリーの申し込みができる様だ。二人は無事エントリーを済ませ、多くの観客がいる中大食い大会は幕を開けた。


4グループに分かれて一戦をし、各グループの上位1名が決勝戦へと進める。スタンダスタは、予選からリオと同じグループになってしまった。予選は、ワームガルダ名物「スパイシーフライドポテト」の大食いとなった。


「決勝で顔合わせしたかったけど、残念だったわねスタン。ひょろひょろなアナタに大食いで負けるつもりはさらさら無いわ。」


うでまくりをし、挑発的な言葉を放つリオ。


「ボクだって、そんな乗り気じゃなかったけどやるとなったら話は別だよ!人は見た目に寄らないってことを証明してあげるよ!」


・・・二人は今回学んだことがあった。


「上には上がいる」って事を。


決勝に進んだのは、スタンダスタでもリオでもなくもう一人の挑戦者。しかも細身の女性。まさしくダークホースだ。スタンダスタは男の意地を見せ、最後まで食らいついたが、一歩及ばず。一番やる気があったリオは制限時間の半分も経たないうちにお腹が限界を迎え、リタイアした。


「なかなかやるじゃない、あの人」


「人は見た目に寄らない、、、あの女の人が証明してくれたよ。」


二人は参加賞のコーラを受付の人にもらい、観客席へと戻っていった。


順調に大会は進行していき、ついに決勝戦。まるで、大きな会場でライブをしているかの様に、観客の歓声は最高潮に達している。スタンダスタとリオは、参加賞のコーラを片手に決勝戦を観戦することにした。


大会の進行係が、決勝に進んだ人達を一人一人紹介していく。


「さて、最後にDグループの勝者を紹介しよう。ガル・ストレイナーだ!!」


驚きのあまり、二人とも飲みかけのコーラを吹き出した。


「ガル!?」


会場の歓声に答えるかのように、ガッツポーズをしながら入場するガル。今すぐにでもスタンダスタとリオは、ガルの元に駆け寄って連れ出したいのだが大会を台無しにも、しかねないので連れ出したい気持ちをここは押さえて、大会を最後まで見守ることにした。


決勝戦の食べ物は、ハンバーガー。しかも特大サイズ。溢れんばかりのレタスとトマト。その上に肉汁たっぷりのハンバーグが乗っている。


「あのハンバーガー、絶対美味しいと思うんだけどさ、、、1つで十分だよね絶対。」


「そうね、あたしたち決勝に行かなくてよかったかもしれないわ」


つい二人は、本音をこぼしてしまった。


「いよいよ、この大会の歴史に名を刻むやつが決まる!おまえら!しっかり目に焼き付けとけよ!!」


「うおぉぉぉぉぉぉ!!!!!」


「LADY GO!!」


司会のGOの合図と共に、決勝戦はスタートした。さすが、決勝に残っただけあって皆、食べるスピードが違う。そして間違いなく言えることは、、、皆味わって食べてない。


「なんか、みんなマジだよね、、、」


「さっき、受付の人に聞いたんだけどこの大会、賞金が出るらしいわ。そりゃみんなマジになるわよね。私もそれを知っていれば、もっと食べたのに・・・」


「どの口が言ってるんだよ!!・・・って、見てリオ!!ガルめっちゃ頑張ってるよ!あれ1位じゃない?」


スタンダスタが指差す方向に、ガルがいる。周りが1つ食べきった頃にはガルは二つ目の終盤に差し掛かっていた。


「ちょっと!!ガル今一番じゃない!?ガルー!!!死ぬ気で食いなさい!!勝てば100万よ100万!!!」


リオはテーブルから身を乗り出して、空のコーラの瓶をブンブン回している。


・・・直接リオには言わなかったがスタンダスタは思った。


例えガルが勝ったとしても、その100万はガルのだよ??


どうやら、リオの声がガルの所までしっかりと届いていたらしくガルはハンバーガーをお皿に置き、周りを見渡した。すると、ガルはスタンダスタと目が合った。


「スタン!!!どうしてここに!?」


ガルは試合そっちのけで、観客席にいるスタンダスタに呼び掛けた。その呼び掛けになぜかリオが間髪入れずに答えた。


「ガル!!しゃべってないで食べなさい!!あたしの100万が!!」


「いや、リオのではないから!!!!」


さすがに、今回はツッコミを入れざるを得なかった。


リオの「脅迫」とも言える声援ににビビったのか、ガルはハンバーガーを掴み大きな口を開けて、食べ始めた。


それからというもの、誰もガルが食べるスピードには追い付けず時間一杯となった。


「ターイムアップ!!!優勝はガル・ストレイナーだ!!!!」


「うおぉぉぉぉ!!!!!」


「すごい、ガル優勝しちゃったよ、、、」


「100万100万100万・・・」


それからしばらくというもの、リオは「100万」という一言だけを発し続けていた。お金って怖い・・・


そんなリオは置いておいて、スタンダスタは表彰式を終わらせたガルに会いに行った。


「ガル!!」


「スタン!!」


お互いの名を呼び、二人は固い握手を交わした。


「ビックリしたよ!!ガルの名前が呼ばれたときは!!しかも優勝しちゃうなんて・・・」


「いや~腹が減ってて死にそうになってたときに、たまたまこの大食い大会の事を聞いてさ!飯は食えたし、優勝して100万ベルもらえるし最高だよ!!その上、スタンにも会えたし!!それと・・・いるんだよな、リオも?」


「うん、でもボクもそうだけどリオだってすごく心配してたんだからね!」


「そっか、、、悪かったな。」


「・・・リオの所行こっか。」


「そうだな。」


すぐにでも、リオを安心させよう。その思いを胸に、スタンダスタの後を付いていくガル。


途中、スタンダスタを追い越して我一番にリオへと近づく。


「リオ!」


ガルの声がレストランに響き渡る。その声に気づきリオは振り返った。


二人は目が合う。お互いゆっくりと歩きだしそして近づく。


「なんか心配かけちまったな、ごめん。」


深々と頭を下げるガル。


「何で謝るのよ。頭あげなさい」


リオに言われ、ガルは頭をあげる。すると、リオは手を差し出していた。


固い握手は友情の証し。ガルはリオと握手を交わした。リオは・・・手を払った。


「違うわよ!!」


ガルは首をかしげる。「何が違うんだ?」と。


「半分でいいわ」


「半分?何を?」」


「ベルよ!ベル!!」


スタンダスタは、リオが手を差し出した時点で薄々気付いていた。これは握手じゃない、ベルをもらう気だと。


「いやいや、リオ本気でもらう気だったの!?せっかくガルと会えたんだから、その事を喜ぼうよ!」


「アッハハハハ!!いや、いいんだスタン。どうせ一人で100万ベルなんか持ってたって、仕方ないしな!・・・ってリオ?」


気づくと、リオは会場のレストランから姿を消していた。


「多分だけどね、恥ずかしくなって出ていったんだと思うよ。リオって気が強いからさ・・・素直に言えば良いのにね、「心配したんだから!」って。・・・ホテルに戻ったと思うから、ボクらもホテルに戻ろっか。ガルも積もる話があるでしょ?」


ガルはコクリと頷き、二人はレストランを後にした。


ホテルに戻り、今まで野宿で過ごしていたガルはホテルの手続きを済ましてから、スタンダスタとリオの部屋へと向かった。


部屋に入ると案の定リオが居て、ベッドの上に寝転がりながらテレビを見ていた。


「おかえり、スタン。・・・あら、ガル。いらっしゃい。そうね、、、適当な所に座っていいわよ」


寝転がっていたリオは起き上がり、あぐらをかきながら二人を歓迎した。


スタンダスタは自分のベッドの上に行き、ガルはソファーに座った。


決して会うのは久しぶりではない。でもなんだか3人の間には微妙な空気が漂っていた。そしてしばらくの間、部屋の中は沈黙を貫いていた。その沈黙を破ったのは、リオの第一声だった。


「、、、あーもう!いいわ、私が聞く!ガル、アナタが村を出た理由は何?ガルには・・・教師という立派な夢があるじゃない!それとも、、、」


「ああ、そうさ」


話を続けようとしたリオに被せるように、ガルが口を開いた。そして、ゼル村から出た経緯を話し始めた。


「ああ、そうさ。俺は教師になることが決まっている。母親の方針でな。それは、リオもスタンも知ってるはずだ。でも、いつ俺が教師になりたいと言ったさ?なりたくもない教師になるために、やりたくもない勉強をやって、自由な時間は奪われるし。これの何が面白いんだよ?自分の夢を追うことはおろか、見させてもくれないんだぜ。村から出ることをかあちゃんに言ったが、反対された。だから、伝えた次の日に何も言わずに家から出てきた。勘当同然だな。」


確かに言われてみればスタンダスタもリオも、ガルの母親伝いでガルが教師になるということを聞いていたがガル本人の口からは聞いたことはなかった。


「そこまで、追い詰められてたんだね。ガルごめん!親友なのに気づいてあげられなくて、、、」


「なるほどね、じゃあ聞くけどガルは将来何になりたいのかしら?」


「俺は、王宮騎士になりたい。」


ガルの口から出てきた職業の名は、スタンダスタとリオが聞き覚えのある職業だった。


「王宮騎士、、、シスタブルードの王宮騎士って事よね。姉さんがなりたかった、、、」


そう、リオの姉エルネス・キャスバインが志していた職業である。


「俺さ、一回だけシスタブルードに行ったことあるんだよ。そしたら、城の近くで泥棒に財布を取られちまってさ。でも、それを巡回してた騎士の一人が奪い返してくれたんだ。その時にちょっと考えが変わったんだよ、騎士って剣を使うイメージがあるだろ?それでモンスターを倒したり、城のためなら・・・人を殺したりもする。でもその人は剣を使わなかった。そして、騎士は厳格で怖いイメージでもあったけどその人はとても優しく接してくれた。子供ながらにすげぇなって思った。カッコいいなって思った。んで、俺もこの人みたいになりたいなって、そう思ったんだ。」


いつの間にか3人とも、真剣な顔になっていた。ガルの想いを、スタンダスタは正座をしてうんうんと頷きながら、リオはあぐらをかきながらもガルの目を見ながら話を聞いていた。


「・・・、なんか良いわね、夢があるって。あたしは応援するわ。でも、ガルのおばさんとは一回話した方が良さそうね。うやむやなままじゃ、誰も幸せにはならないわ。」


「分かってる、分かってるけどさー。こうして家を出てきてしまった以上、そう簡単にのこのこと、帰れないっての。」


「それは別に急がなくても良いんじゃないの?旅は始まったばっかりなんだからさ!今は楽しもうよ!折角一緒になれたんだから!!」


ポジティブと言うべきか、能天気と言うべきか、、、そんなスタンダスタの言葉にガルは気持ちが楽になった。


「そうね!100万ベルもあるわけだし、いろんな所行って楽しみましょ!良い?100万は、みんなのものよ!」


「主導権はリオが握ってるんだね、、、」


リオのガキ大将っぷりに、呆れるスタンダスタ。


「良いさ良いさ!そうだ、街の人に聞いたんだけどフェリーに乗って最初に向かう港町、「サスラダバータ」って所らしいんだけど、、、海の幸が有名らしいぜ!」


リオは、目を輝かせる。ここ何日か肉がほとんどだった為、魚が食べたくなる頃だったのだ。


「良い話を聞いたわ!それじゃ早速、明日の朝「サスラダバータ」に向かうわよ!!」


「よっしゃ~!!」


「楽しみだねー!」


リオの号令に、ガルとスタンダスタは掛け声をかけた。


無事、スタンダスタとリオはガルと合流することができた。そして、ガルの想いも知ることができた。


「旅」に出る中で、困難なことそして大きな決断を迫られる事もあるだろう。今まで一人で抱え込んでいた悩みを打ち明けた、これはガルにとっての大きな決断であっただろう。でもそれを乗り越えて、人は成長することが出来る。それこそが、ゼル村に代々伝わるしきたり、「村を出る」事の本当の目的なのかもしれない。


明日のサスラダバータ行きのフェリーは、早朝3時に一本だけ出る。朝が早いということで、3人は明日に備えて早く寝ることにした。ガルは今日だけ別室のため、名残惜しみながら自分の部屋へと戻っていった。


「ボク、明日起きれるかな、、、自信がない。」


「時間になっても起きてなかったら、あたしがスタンの上に飛び乗ってあげる!」


「いや、それは重い・・・」


「なんですって?」


「あ、いや。おも、、、リオの「思いやり」を感じるよ。あ、ありがと」


スタンダスタはこの日、目覚ましを3つかけた。













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