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それぞれの想い・・・

「姉さんのように・・・ってどういうこと?エルネスさんは、事故だったってこと?」


エルネス・・・「エルネス・キャスバイン」はリオの4つ上の姉である。とても仲の良い姉妹だったが、4年前悲劇が起きた。エルネスの急死だ。スタンダスタがエルネスに最後に会ったのはエルネスが亡くなる3日前であったが、その時は元気な姿を見せていた。そんなエルネスが急に天国へ逝ってしまった。瞬く間に、エルネスが亡くなったという悲しいニュースは村中に広まった。村の人々は皆悲しんだ。


しかし、一番悲しいのはエルネスの両親、そしてリオだ。そんなリオたちに声をかけるものも居たが、かえって心の傷が深くなるだけだった。スタンダスタとガルも、しばらくリオには会わずそっとしてあげることしか出来なかった。


しばらく経ち、リオが直接スタンダスタとガルの元を訪れた。


「あたしはもう大丈夫、・・・普段通り遊びましょうね!」


親友に心配はかけまいと、気丈に振る舞うリオ。こんな時こそ、明るくしなきゃと思ったスタンダスタとガルはこの日以降、リオとは依然と同じように遊ぶようになった。


エルネスが亡くなったという事実は無くならない。でも、少しでも悲しみを和らげるには「忘れる」ことが一番の解決策だと思い、それからというもの「エルネス」の名前を耳にする事はなかった。


そしてエルネスが亡くなって4年経った今、まさかリオの口からエルネスの話が出てくるとは思ってもみなかった。リオは淡々と話を続けた。


「この際だから、姉さんの事ちゃんと話さないとね。姉さん、亡くなる前日に急に「この村から出る!」って言いだしたの。お父さんが理由を聞いたら、シスタブルード王国の王宮騎士になるからだって。それ聞いてお父さん猛反対したの。まぁそりゃそうよね。男社会の騎士になるなんて言われたら誰だって止めるわよ。その場に居たあたしも反対した。「行かないで!」って。でも、姉さんの意志は固かった。「なんと言われようと私は行く。王国のために働きたいの。」そう言って家から出て行ったの。」


次から次へと知られざるエルネスの話を聞いてるうちに、エルネスの事をもっと知りたいと思い始めたスタンダスタはこの際だからと疑問に思ったことを聞いてみることにした。


「ちょっと待って、エルネスさんはどうして反対を押し切ってまで騎士になりたかったんだろう?エルネスさんが騎士になりたかったなんて今まで聞いた事なかったし、シスタブルードに何か思い入れでもあったの?」


「思い入れと言うか・・・姉さん小さいころシスタブルードの騎士に助けてもらったらしいの。それで騎士に憧れを抱いたんだろうって。むしろそれ以外考えられないって、姉さんが亡くなった後お父さんから聞いたの。でもどういう状況だったのか、詳しいことはお父さんも分からないんだって、、、」


リオが分からなければ、お父さんも分からない。エルネスさんは、何に巻き込まれたのか?少し偏見が混じるかもしれないが、女の子であるエルネスさんが「王宮騎士」という職業に憧れた、、、余程その騎士が、外面的にそして内面的にカッコよかったのだろうか。そんな彼女の人生までを揺るがした・・・いや「狂わせた」「事実」を知りたい。そしてエルネスさんを助けた「騎士」に是非会ってみたい。そんなことをスタンダスタは思ってしまった。


「騎士に憧れを抱き、憧れの騎士になるために家を出て、その次の日に亡くなったか・・・リオ、ボクますます旅に出たくなったよ。自分の将来の為に、そしてエルネスさんの事を知る為に。話聞いてると、気になることが多すぎるんだよね。エルネスさんの亡くなった当日の事とか、小さい頃助けてもらった時の事とかさ。すべて「たまたま」起こってしまったのならそれまでなんだけど、何かあったんじゃないかなって。うやむやにしたくないから、ボクは旅に出るよ!!真実を知るために。」


「あたしは、そんなつもりで姉さんの話をしたわけじゃ・・・」


「だから!・・・だから」


リオは、スタンダスタを「止めよう」としていた。実の姉を亡くした彼女だからこそ伝えたかった。剣術を嗜んでいたエルネスでさえ道中で「亡くなってしまった」それだけ、外の世界と言うものは「危険」だという事を。これ以上身近の人間が居なくなることが「耐えられない」から・・・自然とリオの目には涙が溜まっていた。人の「死」に直面して、それでも周りには心配をかけまいと気丈に振る舞っていたが、彼女にとって「我慢」の毎日だった。「悲しい」「寂しい」そんな感情が渦巻いていたが、それを埋めてくれたのがガルやスタンダスタだった。彼女にとって家族同然の大切な存在、スタンダスタには危険な目にあってほしくなかった。だから、思い切ってエルネスの話をしたのだった。それで、スタンダスタが旅に出るのを躊躇ってくれたら。しかし、それは逆効果だった。止めるどころか、好奇心を燻らせてしまったようだ。でも、スタンダスタが何か言った・・・だから?


「リオも一緒に付いてきてほしいんだ。」


「あたしが・・・一緒に?」


「そう。ボクが危ない目に合わない様にするために、どうしたらいいか。リオがモンスターを一掃してくれればいいじゃないか!!ボクだってナイフの使い方を教えてもらって、少しはリオの手助けできるように頑張るからさ!」


目を大きくして、呆然とスタンダスタを見つめるリオ。それらしい理由を言ってる様にも聞こえるが、自分の安全のために周りを巻き込むのはどうなのかしら・・・別に旅がしたいわけではないので、たとえスタンダスタの頼みとは言え、これは断ろう・・・そう思った。


最後の言葉を聞くまでは。


「ボクは「リオ」と行きたいんだ。・・・」


視線を落とし、もじもじしているスタンダスタ。その顔は少し赤くなっている様にも見えた。リオは危険な旅に行かせたくないという思いもありながら、スタンダスタのやりたい事を応援したいという2つの思いがあり複雑な気持ちを抱いていたが、考えてみれば自分がサポートをすれば「危険」な目にも合わせずに、尚且つスタンダスタのやりたいことを応援し、手伝うことが出来る。互いの希望に沿った結果となる。第一、仮にスタンダスタを旅に行かせて自分一人村に残った所で、周りには嫌いな奴らばっかり・・・リオが村に残るメリットは無いのだ。だったら、いっその事あたしも旅に出ようかしら!リオは旅に出ることを決意した。


「そんなこと言われたら・・・嫌だなんて言えないじゃない!ずるいわよ、、、」


「じゃあ一緒に来てくれる?」


「・・・いいわよ。」


「良かったぁ~!みんなと一緒なら絶対楽しくなると思ったんだ!!あ、もちろんお遊びで行くつもりはないからね!」


「スタン、その代わり1つだけお願い聞いて」


「お願い?なに?」


「あたしはスタンのサポートをするんだけど、お互い「命は大事に」だからね!無理は禁物!何かあったら、すぐ逃げること・・・」


死んじゃ・・・嫌だからね。


「安心してよ!!ボク逃げることは得意だから!!むしろ逃げることしか出来ないまである!!」


「・・・不用意に逃げるの禁止よ。いい?今回の旅は、言わばスタンが「主人公」なのよ!逃げてばかりじゃ強くなれないでしょ?」


「いや、別に強くなりたいわけでは・・・」


「口答え禁止!!・・・は、冗談だけど。ガルに会うまでには、ナイフが人並み以上には扱えるようになってもらわないと困るから、アタシがビシバシ鍛えてあげるわよ。」


「よ、よろしくお願いします・・・」


より一層気合が入るリオ。そこまで乗り気ではなかったリオをここまで奮い立たせた原因は何だろう?見当がつかない。とはいえ、旅についてきてくれる人を見つけることが出来て、スタンダスタはホッとしていた。・・・でも、引っかかるものがある。リオは付いてきてくれるとは言ったけど、それをリオの両親は認めてくれるだろうか。彼女の生い立ちを知ってる人なら大方予想はつくはずだ。だからと言って、何も言わず出ていくのは両親に心配をかけるなんてもんではない。ガルとは訳が違いすぎる。心配したスタンダスタは、恐れつつ聞いてみた。


「でも、リオのパパさんママさんは村出るの許してくれるの?」


「う~ん・・・大丈夫なんじゃないかな~」


驚いた・・・というより拍子抜けした。いやいや、大丈夫じゃないでしょ!もし、ボクがリオのお父さんだったら絶対反対するよ!・・・あ、いやもしもだよ?ボクがリオのお父さんなわけないじゃないか!そんなお父さんなんて歳じゃないし、お父さんと言うよりお婿・・・って、何を考えてるんだボクは!リオはお友達、お友達、お友達・・・・・・・・


「スタン?何ぶつぶつ言ってるの?」


どうやら心の声を口に出していたらしい。恥ずかしさで顔が赤くなったスタンダスタは、ブンブンと横に顔を振った。違うんだ、違うんだ!と叫ぶスタンダスタ。何が違うの?と首をかしげるリオ。


「ごめんごめん、なんでもないんだ。でもリオさぁ、大丈夫っていうけど・・・信じていいのかな?」


「大丈夫じゃなくても、大丈夫にするから大丈夫よ」


「・・・なんか、いろいろ心配だよ。」


「私も自分で何言ってるんだろうって思ったわ・・・でも、安心なさい。お父さん、あたしに甘いからあたしの言う事なら何でも聞いてくれるはずだわ!村から出るって言ってもスタンと一緒だし、後でガルとも合流するわけだからお父さんも安心でしょう。」


リオの「安心なさい」は、なんとも心もとないが、リオの父に許しを頂かなければ話は始まらないので早速リオの家に行こう!・・・とはならなかった。今日は、スタンダスタの誕生日。家にはリオとスタンダスタとミルディアだけ。雰囲気はお開き状態ではあるが、料理はまだまだたくさんある。ただデカい声で耳障りでしかなかった「スタンダスタおめでとう!」を聞いた気がするが、あんなもので祝ったつもりだったのだろうか。感情が籠ってないのは、エスパーでなくても分かる位だ。


「だから、今すぐお父さんの所へ・・・と言いたいところだけど、せっかくおばさんが作ってくれた料理もあるわけだし、改めて誕生日会、仕切り直しよ!!許しは明日もらいに行きましょ!」


「リオちゃん!今おばさんって言ったでしょ!聞こえたわよ~!!」


キッチンから聞こえてきた、ミルディアの声。リオは、ごめんなさ~い!と一言伝えた。


「ねぇスタン、お姉さんとおばさんの境界線って何歳だと思う?」


「歳なんか、関係ないよ。自分がいつまでもお姉さんだと思うなら、その人はいつまでも「お姉さん」さ。・・・ミルディアちゃんみたいに。」


「そうね。うふふ」


リオの不敵な笑みは何を意味しているのだろうか・・・そんな彼女が年を重ね「大人の女性」になった時、皆にどうしても守ってもらいたいことが一つだけある。


「リオの事を絶対「おばさん」って呼んではいけないよ。」


それがマナーっても・の・だ・か・ら。


時計の針は、夜11時を指している。そんなことは関係なしに、二人は誕生日会を楽しんだ。そういえば・・・面と向かって言ってなかったっけ。いざ言葉にすると恥ずかしくて仕方がないけど、、、


「誕生日おめでとう、、、スタン。」


「ん?どうした?顔赤いけど・・・もしかして、この部屋暑いかな?暖炉消そっか?」


徐に歩き出したスタンダスタ。


「言われ慣れてないから、恥ずかしいな」


・・・どうやら、恥ずかしがり屋がこの家に2人居るようだ。聞こえてない振りをして、実はしっかりと「おめでとう」と聞こえていたスタンは恥ずかしさの余りその場から離れ、暖炉へ向かったのだった。


「ありがとう。リオ」


バチバチと鳴る暖炉の炎で、スタンダスタが囁いた感謝の言葉がリオの耳に届くことはなかった。男らしくないなと、我ながら感じたスタンダスタは今回の旅で自身の「内面」を変えようと決心した。皆に頼るのではなく、「頼られる」存在に。


・・・でも、まずは武器を扱えるようにならないとな。



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