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誕生日会での誓い

パラパラと舞い落ちる雪が、周りを煌びやかに演出している。寒いのはあまり好きではないけど、この時期、この雰囲気は嫌いではない。今日は12月24日クリスマスイブ、そして「スタンダスタ・クルール」の16回目の「誕生日」。


今、彼の家では友達一同が集まってバースデーパーティーを催していた。2階建ての一軒家のリビングで、テーブル一杯の料理と共にスタンダスタは盛大に祝ってもらっていた。


普段、誕生日と言われても精々「おめでとう」と言われるくらいで、わざわざ催しものを開いて祝ってもらうまでの大々的なことはしたことが無かった。・・・生まれたまさにその日その事実に意味があるわけであって、わざわざ1年ごとに祝うという事に正直疑問を抱いている位なんだけど。それでも今回の誕生日は、普段とは違うとある「節目」の誕生日なのである。


「スタンダスタ、おめでとう!!!」


・・・おそらく、いや間違いなく近所迷惑になる位の声とクラッカーの音が響き渡った。何かと皆で集まれば、テンションは上がるもの。料理を作っているスタンダスタの母も、「やれやれ」と思いながらも温かい目で彼らを眺めていた。


パーティーは続く、そして本来の目的であるスタンダスタの誕生日を祝うことなど忘れ、ゲームをする奴もいれば少数グループを作り、スタンダスタの母が作った料理を口にしながらおしゃべりに花を咲かせる女の子たちがちらほらと出始めた。以上の子たちは、たまたまスタンダスタの誕生日にお呼ばれはされたものの、実はそこまでスタンダスタとは仲が良くない人たち・・・というのも、スタンダスタ自身本当は仲の良い人たちだけでパーティーをしようと考えていたのだけど、何せ彼が住む村は、住民全員と顔見知りなくらい小さな村―ゼル村―なので、仮にスタンダスタが特定の人だけを招待してパーティーをした場合


「アイツ、俺を招待しなかった・・・」


「私、呼ばれてないんだけど・・・」


などと、よからぬ情報がすぐ村全体に広がってしまう。だからと言って、一緒に居て何かするかと言われたら・・・と、まぁ最近の少年少女事情は複雑なわけで表面上だけでも良好な関係にしとこうと、とりあえず知り合い全員に声はかけたのだった。


その結果、目的が「騒ぎたい、遊びたい、おしゃべりしたい」という子たちが、目立つ形となったのだ。しかし、スタンダスタはこの状況になることは粗方予想はついていたし、そちらはそちらでどうぞご勝手に・・・と思いながら、自分は別の場所で「本当」に仲が良い人と楽しくしていた。


「ねぇ、何であの人たち呼んだの?てか、よく人ん家で好き勝手できるわよね・・・」


今回の主役であるスタンダスタを差し置いて仲間内で集まってる奴らを見て、スタンダスタの親友の一人「リオ・キャスバイン」は少し怒りを覚えていた。


「あの人たちがテーブル占領してるから、料理取りに行けないのよね!!!」


「そんなの気にせず取りに行けばいいじゃん?」


スタンダスタは知っていた、リオが今回来てる奴らの事が嫌いなことを。そんなリオを奴らが居るテーブルに行かせたらどうなるだろうかと、面白半分で言ってみた。


「別に、行ってもいいけどこの家がどうなるか知らないわよ?」


冗談なのか本気なのか・・・とにかく、リオを怒らせるような言動は二度としないとスタンダスタは心に誓った。


「ごめんごめん、冗談だよ冗談!ボクが取りに行ってくるよ」


今日は誰の誕生日だっけ?と心の中で呟き、ひとまずリオの機嫌を取ることに専念し、スタンダスタは急いでテーブルにある料理を取りに行った。料理を持って戻ると、リオは待ってました!と言わんばかりに、目を輝かせ、そしてスタンダスタの左手に持ったフライドチキンに手を伸ばした。


「いっただきま~す!」


無邪気な声で、そう言うとリオはフライドチキンを食べ始めた。・・・もう怒ってないね。良かったと、スタンダスタは胸を撫で下ろした。


「そういえば、ガルは来てないの?」


チキンを食べながら、リオは不思議そうに呟いた。


ガル・・・「ガル・ストレイナ―」は、いつもスタンダスタと一緒に居る1番の親友である。むしろ、一緒に居ない時に周りから心配されるくらいで、まさに今「心配された」のだった。


「あれ?知らないの?ガルは、村から出てったよ」


スタンダスタは驚き交じりに答えた。てっきり知っているものだと思っていたからだ。


「嘘!?ついこの前誕生日迎えたばかりじゃない!!ガルんところのおばさん、よく行かせるの認めてくれたわね・・・」


リオはいろんな意味で驚きを隠せなかった。まずは、ガルが誕生日を迎えてすぐに、村から出ていった事。そして、出ていった事をガルの母親が「認めた」こと。実は、ガルはかなり頭が良い。それは度が付くくらいの教育熱心な母親の下、毎日のように勉強をさせられていた。しっかり勉強をした後は遊んでも良い事になっていたらしく、いつも母親から課せられる勉強のノルマを速攻終わらせてから、スタンダスタの家へ行き、遊んでいた。そんなガルは将来「教師」になることが半強制的に決まっている。教育熱心な母親の職業こそ「教師」であり、「貴方も教師になるのですよ」と言われ続けていた。その事をスタンダスタはもちろん、リオも知っている。知ってるからこそ、2人は思った


「あの母親が認めるわけがない」


「やっぱりリオもそう思う?やっぱりガルママだったら、引き止めるよね。今一番大事な時期なんだし、何よりもう「教師」になるのは決まってるんだからわざわざ、しきたりに従う必要はないんだよね。」


ゼル村には、古くからのしきたりがある。簡潔にいうと「村から出される」


というのも村から出て生活をし、様々な経験をして人として成長をする。そして、手に職をつけて村に帰る事で「一人前」のあかしとなる・・・それをみんなは「旅」に出ると言っている。

昔は16歳になった子供達はみんな村から出て旅をしていたらしいけど昔は昔。今は今。

現在「しきたり」と言われるほど、お堅いものではなくなり、行きたい人は行っても良いですよ〜と村長が口にするくらいで、例えば「すでにやりたい事が決まってる」だとか、「家業を継ぐ」だとか、「そもそも行きたくない」などと、まぁ、理由がどうあれわざわざ村から出る必要はない。そして、すでにやる事が決まってるガルは無理に行く必要がなく、母親にとってガルを村から出すメリットは何1つないのだ。


「で、少し考えたんだ。なぜガルが村から出たのか。ガルママに聞いてみれば分かることではあるんだけど、多分ガルは何も言わずに出て行ったんじゃないかな。そして教師になんかなりたくないんだと思う。迷ってるんだよ、ガルは。ボク達に相談できない位悩んでるんだよ。でもこのままにしてたら、一生ガルは悩み続ける。最終的な答えは本人が出すべきだと思うけど、助けの手を差し伸べることは出来る。だからボクはガルと一緒に旅をするよ。まぁ、まずガルを探さなきゃだけどね・・・」


常に冷静で落ち着きのあるスタンダスタも、表には出さないにしても内心は物凄くガルの事を心配していた。親友が人生最大の決断をしようとしているからだ。


スタンダスタの暑苦しく長々とした決意を聞いて、リオはあくびをし、目をこすった。「話聞いてた?」とスタンダスタの質問に対し、「聞いてたわよ」とリオが返す。「内容はほとんど覚えてないけどね」と口にはせずに・・・。


「まぁ、確かにガルは少し心配だけど・・・ていうか一緒に旅って、スタンも旅に出るの!?あたし聞いてないわよ!!」


「そりゃそうだよ、今決めたんだもの!」


当り前じゃないか、と言わんばかりに堂々と宣言したスタンダスタを見て、リオは驚きを通り越して呆れていた。そして溜息を一つ、「はぁ・・・」


リオが呆れるのも無理はない。村から出ると簡単に言うが、1歩外に出ればモンスターが蠢いている。それもあって、外へ出歩くときは必ずと言って良い位、皆「武器」を持ち歩く。そしてその武器を使い慣れるために「訓練」をする。「短剣」「刀」「手斧」「木槌」「ボウガン」ets。ゼル村には多種多様な武器があり、みんなそれぞれ何かしらの武器を持っている・・・はずなのだけど、スタンダスタはそれらしいものを持っていない。いつも持っていると言えば・・・「カメラ」である。いついつの時でも写真が撮れるように、常に首にカメラをかけている。


何か気になるものがあれば「パシャ!」


何気ない場面でも「パシャ!」


片手でカメラを支え、もう片方の手でシャッターを切る。結果両手が塞がってしまい、武器を持ち歩けない!とスタンダスタは言っていた。・・・何のために「首」にカメラをかけているのだ、、、と言いたくなるのだが、彼曰くそういった理由で武器を持たないらしい。


そう、スタンダスタは「武器」を使ったことが無いのだ。モンスターを倒すという「スキル」を持っていないので、外に出てモンスターに出くわした時、彼は何もすることが出来ない。


RPGで言う、素手で敵に立ち向かう上、パンチの仕方が分からない状態・・・


そんなスタンダスタが村から出ることを、簡単に「はいどうぞ」と言えるわけがない。


「スタンさぁ、カメラでモンスターは倒せないのよ?ナイフもろくに扱ったこと無いあなたがガルと一緒に旅に出るって言ったって、ガルに会うまでは一人で行動しなきゃいけないんだよ、分かる?」


立ち上がるリオから、普段は感じられない「必死さ」が伺えた。スタンダスタ本人、その雰囲気を感じつつもなぜそこまで言われなきゃならないのか?と少し疑問を抱いた。


「そりゃそうだけど・・・ガルだって出てったばっかりだからそう遠くまで行ってないだろうし、モンスターって言ったってちょっと凶暴なだけだし、ササッと逃げれば、、、」


「簡単に言わないで!!!」


ドンとテーブルの叩く音と、少し低めのトーンでありながら迫力のある彼女の声はスタンダスタの家中に響き渡り、話に夢中になっていた周りの友達・・・いや知り合いたちの声がピタッと止まった。静寂の時間が10秒ほど続いただろうか。


「あの子急にどうしたの?なんか怖い・・・」


「前から思ってたけど、リオって怒るととんでもないよな・・・」


心配はおろか、悪口に近いひそひそ話が聞こえてきた。これほど居心地の悪い場所はないだろう。リオにとってもそうだし、むしろスタンダスタの家にいるほとんどの人がそう思っただろう。それを察したのか、一人が


「じゃあ・・・そろそろ帰ろうかな。」


よく言ってくれたと言わんばかりに、それに続き次々と


「あ、俺も」


「私も門限近いし・・・」


等と言って、皆帰り始めた。今日はスタンダスタの誕生日。帰るとき、誰一人スタンダスタに声をかけるものはいなかった。


「リオちゃん、はいオレンジジュース。少し落ち着きましょ。あの子たち汚すだけ汚して帰るんだから、たまったもんじゃないわよね!」


ただ、リオを心配して声をかけてくれた人が居た。スタンダスタの母だった。


「おばさん、言いますね」


「だってそうでしょ?あたし、決して親バカのつもりはないんだけど、仮にも今日はスタンダスタの誕生日なのよ!なのに、誰もスタンダスタを祝おうって気がないんだもの!おばさんだって怒りたくなるわよ!ぷんぷん!あと、リオちゃん!おばさん禁止!」


「自分で言ってるじゃないですか!」


「あたしは良いのよ!自覚はしてるんだから・・・せめて周りには「おねぇさん」とか言われたいじゃない?」


「んふ、アハハ・・・」


ユーモア溢れるスタンダスタの母の言葉に、思わずリオは笑い出してしまった。こんな状況を作ってしまったのは私なのに・・・そんな重い空気を変えてくれたスタンダスタの母を見て、ただただ「母親」ってすごいなぁとリオは思った。


「さぁ、誕生日会はこれからよ!リオちゃん、ゆっくりしてってね!おばさん、邪魔しちゃ悪いわよね!」


軽くリオにウィンクをすると、おばさん・・・おねぇさんはキッチンへと戻っていった。


「・・・さぁ、スタン!!食べるわよ!!」


驚きのあまり、しばらく声を出すことが出来なかったスタンダスタは何が起こったのか理解するのに時間がかかった。むしろ今現在、何がどうなったのかが分からない。


なぜ怒られた?


なぜ皆帰った?


なぜミルディアちゃん出てきた?(母親の本名はミルディア・クルール。ミルディアは息子に「~ちゃん」付けで呼ばせている)


なぜミルディアちゃんとリオが話してるの?


そして何でリオは笑ってるの?


「今日は何のパーティーしてたんだっけ?」


そもそも「今日」って何なんだ。スタンダスタは、パンク寸前の頭の中を整理してみる。・・・とりあえず、1つずつ解決していこう、そうした結果の第一声だった。


「そりゃ、スタンの誕生日会をしてたんじゃない!あなたは何言ってるのかしら!さぁ、邪魔者も居なくなったわけだし、食べれるだけ食べるわよ!!」


そうか、今日はボクの誕生日会だったのか・・・・って


「違~う!!!そうじゃない~!」


我に返り、すべてを思い出したスタンは大声をあげた。そして一息置いて、話し始めた。


「リオ、どうしてボクが旅に行くことを止めるんだよ?ガルは旅に出たっていうのに・・・」


「ガルは私が知らないうちに出てったんだから、しょうがないわよ。だしガルは、昔から剣術を習ってるからそこまで心配はしてないし・・・でも、スタンは危ないじゃない!」


ミルディアと話してから陽気な気分にまでなっていたリオも、スタンダスタが話し始めた途端、笑顔が消えた。


「確かにボクはカメラしか触ったことないし武術だって剣術だって習ったこと無いけど、ガルに会うまでの辛抱だし、いざとなればナイフ位だったらボクにだって・・・ね」


「そのちょっとした油断で、簡単に人は死んでしまうのよ・・・姉さんのように。」



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