魔法少女の正体は実はサラリーマン♂(30歳)だった件について
この作品は鑑定サラリーマンの番外編ということで、鑑定サラリーマンの主人公「高橋」も登場致します。彼は「鑑定」の特殊能力を持っている事を世間に隠しながら生活している能力者で、鑑定を使って番外編の主人公の能力を調べるという描写を含みます。(相変わらず誰得なんだろう)
世の中の不思議な事が大体科学で片付くようになってきた現代。
お化けだとか幽霊だとか超常的な事を口にすると頭がおかしいと言われる現代。
そんな現代において“魔法少女”なるこれまた非科学的なモノが存在するとすれば、それはテレビの中だけであろう。そう、子供向けのアニメだ。
そもそも魔法少女とは読んで字のごとく魔法を使う少女の事である。さらに言えば“美少女”であることが必須条件のように思える。アニメで放映される魔法少女の一般的なストーリーは、一般人である少女が悪の組織と戦い、仲間との友情や少女特有の甘酸っぱい恋なんかのエピソードを経て悪の組織を壊滅させてハッピーエンド。一部の“血なまぐさい魔法少女”を除いて勧善懲悪が根幹に事が多い気がする。
その“魔法少女”なる存在はアニメにおいて幾つかのパターンが設けられているのだが、そこは省略させてもらうとして、大体において基本は同じである。
①魔法少女、と言われるだけあってその正体は未成年の少女である。
②主人公は一般人であったが、何かをきっかけに魔法少女になったというエピソードがある。
③悪の組織が存在し、そんな存在と戦っている。
④魔法のステッキだとか変身セットだとか大人の事情で商品化出来そうなアイテムを(ゲフンゲフン
)………とにかく、そういったアイテムを使って変身を行う。
まぁ、異論もあるだろうが少なくとも俺の知ってる“魔法少女”ってのはこんな感じだ。
ところで、なんでこんな話をしてるかと言うとね……
なっちゃったんだよ。魔法少女に。
しがない商社のサラリーマンをやってる熊野吾郎(30歳)♂が……魔法少女に……
「ウゾダドンドコドォーン!!」
少女特有の甲高い声で意味不明な言語が口から吐き出され、それは辺りに響き渡った。
―――――
遡ること1時間前。
何が起こったのかを簡潔に説明しよう。
①歩いて5分くらいの位置にあるコンビニに夜中買い物に行った。
②帰りに横断歩道を渡ろうとした瞬間、猛スピードで突っ込んできた乗用車に撥ねられた。
③吹っ飛ばされてスローモーション中に脳内で助かりたかったら魔法少女になって悪の組織と戦えっていう不思議な声が聞こえてきた。
④なるから助けてって脳内で思ったら、気づいた瞬間に道路に何事もなく立っていた。
⑤おめでとう君は魔法少女になった!という声が脳内に聞こえてきたが、特にその後なにも起こらなかった。
⑥夢だと思ってそのままアパートに帰って酒盛りしてたら、何となく脳内に変な言葉が浮かんできたのでその言葉を口から吐き出したら突然ステッキが現れて魔法少女になった←今ここ
というか、どうやって戻るんだこれ!あれは夢じゃなかったのか!?
いや、それよりも大事なことがあったぞ!明日仕事だ!こんな姿で会社になんか行けないわ!
どうしようとアタフタしていると脳内で再び変な言葉が浮かんできたので口に出したら元の姿に戻った。
安心した俺はその場にへたり込む。
「……はぁ~……夢じゃなかったんだな」
そして安心したせいなのか変身したせいなのか疲れが一気に押し寄せてきた俺は気を失うように眠ってしまった。
――そして次の日
やはり昨日の出来事は夢だったのだと思い込むことにして頭を無理やり覚醒させる。マンション一人暮らしなので起こしてくれる人は自分以外だれも居ないのだ。そんな寂しいことを考えつつ洗面所に向かい顔を洗う。
洗面所には人を何人か殺してそうな凶悪な人相が鏡に映し出されていた。
熊野吾郎(30歳)♂
高校の時に柔道のインターハイに出場し優勝。
そんな過去を持つ俺の体格は図体がでかいの一言に尽きる。身長180cmで体重90kg。打たれ強そうな四角い面構えに潰れたような低い鼻。目は寝起きということもあって人を射殺せそうな凶悪な目つきをした短髪が正面の鏡に映っている。そんな俺は熊野という苗字も合間って名は体をあらわすと子供のときから言われてきた。
そんなまかり間違っても女に見えない男らしい俺が、何がどうなったら女になるというのだ。
昨日のことが頭をよぎり意識を振り払おうとすると、突然脳内に妙な知識があふれ出してきた。それはどうやら魔法少女についての知識のようだ。
その中の一つとして昨日は酔っ払っていたから恥ずかしげもなく言えた台詞が脳内を駆け巡ったのだが、
ソレはとてもじゃないけど素面で言えたもんじゃない台詞であった。
「何が『ミラクル☆オラクル☆クルルンルン☆ミルキーショコラ、メタモルフォーゼ!』だ、こんちくしょうが!」
そう言った瞬間、目の前にステッキが現れ俺の体がピンク色の謎の光に包まれた。
そして3秒ほど経った後に鏡に映し出された姿は、熊野吾郎の「く」の文字すらかすりもしない超絶美少女だった。
推定身長150cm、体重は知らんが少なくとも元の90kgは到底無いであろう華奢な体格。そして顔は美少女という言葉は彼女(目の前の自分)のためにあるような台詞であると確信を持って言える容貌だった。髪は男だった頃と比べるべくも無いサラサラ長髪ヘアーになり、髪は肩まで伸びていた。
ふりふりの装飾が施されたスカート、上半身はセーラー服をデフォルメしたようなデザインを着こなすその姿はまさに可憐の一言で、さらにそのセーラー服もどきの周りを天女の羽衣のような謎のベールが空中にまとわり付いている。ソレがどうやって浮遊しているのか謎ではあるのだが、男はそんな些細なことが気にならないほどのショックと喪失感を味わっていた。
それは男ではとうていありえない少女らしい僅かな胸の膨らみを感じた上に、男の証明である“モノ”が無いという感覚があるのだ。男は絶叫した。
「ぬおおおおおわああああ!!か、返せェー!!」
ナニをとは言わない………が、本来あるべき物が無くなってしまってパニックになった熊野吾郎の口から放たれたアニメ声(少女)がマンションの一室に木霊した。
―――――――――
一通りすったもんだした末に少し冷静になるとまた脳内に不思議な言葉が浮かんできたのでそれを口にする。すると鏡の前の美少女は元の冴えないおっさんの姿に退化。ひとまず安堵する。
「……もう金輪際、あんな台詞言わないからな」
昨日に引き続き二度目の変身を経験した俺はもう二度と迂闊な事をしないように誓う。そして何気なく見やった携帯を見て真っ青になった。
「7時10分!?うおおおおお!!遅刻するぅー!!!」
……迂闊な事をしないと誓った次の瞬間にその誓いを破ることになるとは思ってもいなかった。
―――――――――
電車通勤ではなく普段は自転車通勤だったので、その辺のタクシーを拾って何とか遅刻せずにギリギリ間に合ったのだが財布に大ダメージを負った。
「くそー!!朝のドタバタさえなければこんな目に遭わなかったのに……」
無事会社の朝礼に間に合ったはいいが、しなくてもいい出費が出てしまって地味にショックだ。ちょっと小洒落た美味しいランチが取れる金額だと考えると更に凹んだ。
「よぉー、なんでそんな辛気クセー顔してんだよ。一日の始まりは笑顔で迎えないと福は来ないんだぞー」
自分のデスクに座って考え事をしていたら、同僚の鈴木が鬱陶しいタイミングで現れた。
こいつは販売促進部の所属で同期だ。ついでに、今は課長の使いっぱしりでここには居ないが高橋という俺と同じ総務課の人間も居る……それと最近、超絶美人な花屋のお姉さんと恋人になったっていう裏切り者の小鳥遊って奴も同期で鈴木と同じ販売促進部にいる。リア充滅ぶべし……
「お、おい……なんでいきなりそんな怖い顔すんだよ。今のお前のその顔だけで人を殺せそうだぞ」
おっと、小鳥遊への呪詛が顔に出てしまったか(日本語がおかしい)
「いや、何でもない気にするな。それよりも何で朝っぱらから別の課のお前がここに居るんだよ」
「あぁ、ちょっと高橋に用があってさ。朝一で来たのに何故か居ないんだよ」
「あいつなら課長が今日の朝一で本社に無くちゃいけない書類をどうでもいい書類に紛れ込ませてたみたいで血相変えて出て行ったよ」
「あ、そう。いつもの課長がやらかしたのね。まぁ、また出直すわ」
そう言って鈴木は販売促進部の部屋に戻っていった。
「まったく、高橋の奴も哀れだよな。朝っぱらから大変な目に遭うなんてな」
つくづく高橋は運の無い奴だと思っていると、不思議と今朝の出費が屁でもないように思えてきた。
「おし!気持ちも持ち直したし仕事するか!」
人の不幸を見て自分はマシだと自覚するという、あるあるネタで気持ちを持ち直した俺は何事も無く昼まで順調に仕事をこなす事が出来たのであった。
……そういえば、高橋の奴、なんで一目で見ただけであそこに本社行きの書類があるって分かったんだろう?まぁ、課長と付き合い長いしそういう先読みの能力でも身についてるんだろうな……そう考えると、もはや哀れにしか思えなかった。
―――――――――
無事昼食の時間になった頃、ようやく課長の尻ぬぐいで奔走していた高橋が戻ってきた。俺は既に社食(安さだけがウリでクソまずい)をテーブルの上に置いていたので、自販機でジュースを買って今から正に昼食を取るというタイミングであった。
「お、帰ってきたのか。ご苦労さん。課長の尻ぬぐいは大変だな」
俺が戻ってきた高橋に労いの言葉をかけてやると、奴はいやそうな顔をしながら課長の愚痴を言い始める。こいつが課長の愚痴を言うと話が長くなるので半分以上聞き流していると、やつは俺の顔を凝視し始めたかと思うとさっきまで口の中に押し込んでいたお茶を俺の顔面に吹き掛けるという暴挙に出たのだ!
「ブッフォォオー!?」
「ぐわああああああああ!!キタネェェェェ!!いきなり何しやがんだテメー!!」
ゲホゲホと咳き込む高橋と顔面お茶まみれの俺。そしてたまたま通りかかった鈴木がゲラゲラと笑っている。なんだこのカオスな状況は。
「ギャハハハハハ!お茶もしたたる良い男ってか!?高橋、お前面白いことすんなよ!笑いが止まらないだろワハハハハ!」
「ゲホッゴホッグホォッ!」
「チクショー!やっぱり今日はツイてねー!」
三者三様のカオスな状況であったが、とりあえず総務課に戻ってタオルを借りて拭いた後、昼食を取った。その後、合流した裏切り者の小鳥遊と4人でモ○ハンで遊んだんだが、高橋の奴は俺と小鳥遊の奴をチラチラと見ては気色の悪い百面相を晒していた……こいつ大丈夫か?
「おい、高橋。なんか今日お前変じゃね?」
「い、いやいやいや、へ、へ、へ、変じゃないよ!?変だといえば課長の奴がまた―――」
「あー、はいはい俺が悪かった!もうその話は良いから!」
なんだか話を上手く逸らされたような気がしたが、それ以上考えるのを止めた。
―――――――
そして何だかんだで就業となり一日の仕事が終わる。
普段は自転車通勤だが、朝は遅刻を恐れてタクシーを使ったので帰りは自転車無しの徒歩だ。再びタクシーを使うなんて出費はしない。
「……はぁ、地味に長いんだよなぁ帰り道」
ため息を吐きつつ黙々と歩いていると、脳裏にまた例の魔法少女の知識が流れてきた。
――この世界には常識では計り知れない超常現象が存在する。
――人の負の感情が魔物を生み出し、生み出された魔物は人に害をなす。
――そんな存在を打ち倒せるのは魔法少女しか出来ない。
――魔法少女に変身する為には魔物を打ち倒した際に放出されるマナという物質が必要。
――もし一定期間マナが供給されない場合、今後変身しなくても良い様に体が今後一生魔法少女になる。
今後一生……魔法少女……って、おい!
「はぁあァァァァーー!!!そんなん聞いてないんですけどォォォオオオー!!!」
ちょっと待てェェェェ!!どういうことだってばYO!!
つまり、一定期間魔物とかいう不思議生物を倒せなかった場合、俺の体一生女体化して戻んなくなるってこと!?
「ふざけんなァアーー!責任者出て来いや!!車に引かれた時、確かに助けてって思ったけどこんな不平等な契約させるなんて理不尽すぎるだろ!契約破棄じゃー!!」
甘い話には裏がある……そんな言葉が脳裏をよぎった瞬間、目の前の路地裏から黒い物体がいきなり現れた。それは黒いもやのようなもので覆われており、人間の形に酷似していた。いわゆる影人間というヤツだろうか――ってそうじゃない!これってひょっとして魔物ってやつじゃないか!人に害をなすって聞いてるんだけどヤバくないか!?
「な、な、な、なんなんだお前は!」
とりあえず何とか時間を稼ごうと口から出た言葉がソレだった。そして辺りを見回すと、俺と変なヤツ以外は誰も居ない。なにこれ!?人払いの結界みたいな効果とかなの!?
よく分からんが漫画でしか見たことがないシチュエーションじゃないかコレ!?そんなしょうも無い事を思っていると目の前の影人間(仮称)が跳躍して襲い掛かってきた。
「にょわああああああ!!」
高校の時に柔道で鍛えた反射神経でその場を瞬時に離れると、影人間(確信)のこぶしがアスファルトにめり込む。軽いクレーターのような物が出来ていた。
「ふざけんなぁぁぁぁぁ殺す気かぁぁぁぁ!」
「……チ、シブトイヤツダ」
俺が思わず悪態を吐くとノイズが走ったような声で目の前の影人間が喋った。
どうやら意思疎通は出来るようだが、こっちを襲わないでくれという意思を相手にぶつけてもその提案が通りそうにないことは明白だ。ヤツは完全に俺の命を取りに来ている……
だがしかし!
そんな場合は、代々熊野家に伝わる秘策があるのだ。それは――
「逃げるんだよォォォォーーー!!」
「っ!!」
まさか逃げると思っていなかったのか、何とかヤツの隙をついて逃げ出すことに成功した。
―――――――
「……ぜぇ、ぜぇ……
ま、まさかこの歳になって本気のジョ○ョ走りで逃走する羽目になるとは思わなかったぜ……」
荒い息を吐きながら、無我夢中で逃げ続けていると何も無い空間なのにまるで壁に当たったかのような衝撃を頭に受けた。
「いってぇ!!って、なんだこれは!」
目の前は歩道が続いているのに、まるで目の前に透明な壁があるようにそれ以上先に進めなくなっていた。
「ほ、本当に人避けの結界でもあるのか……冗談で言ったのに、まさか本当だった……?」
それでも諦めきれずにその辺を手当たりしだいに調べるがやはり一定の間隔――ドーム状に見えない壁のような物があり逃げられなくなっていた。
「はは、マジかよ……」
このままではいずれヤツに見つかってしまう。こんな時どうすれば―――あ!あったじゃん、打開策!
「……ちくしょう、四の五の言ってる場合じゃないか……」
俺は覚悟を決めて今朝、二度と口にしないと誓った台詞を吐き出した。
『ミラクル☆オラクル☆クルルンルン☆ミルキーショコラ、メタモルフォーゼ!』
―――――――
影人間は先ほどまで襲っていた人間を探していたようだ。そして俺を見つけると影人間から口が現れニタリと笑う――うえ、気持ち悪い。
「アラワレタナ、イマワシイ、マホウショウジョヨ……ヒトヲオソエバ、アラワレルトイウノハ、ホントウダッタヨウダナ」
独特のイントネーションでノイズが入ったような声で喋るもんだから物凄く聞き取りにくい。
「何を言ってるか分かんねーけど、魔法少女になればお前を倒せるらしいからな!嫌々ながらなってやったぜ魔法少女によぉ!」
半ばヤケクソ気味に気持ちを吐き出した。好きでこんなことやってると思ったら大間違いだかんな!
「フン、ドームヲハッタトキハ、マサカニンゲンヒトリシカイナイナンテ、ゴサンダッタガ、キサマガアラワレタトイウコトハ、モクテキヲハタシタトイウコトダナ」
そう言って再び跳躍して襲い掛かってきた。って、さっきのヤツの発言を察するにドームってのはまさかさっきの壁のことか?
あれは人避けの結界じゃなくて閉じ込めるだけの効果なの?それで閉じ込めたのが1人だけとか、なんてドジな魔物なんだ。
あ、そんなヘボに捕まった俺はもっと間抜けじゃねぇか!
話は脱線したが、とにかく目の前の化物を倒せば終了だ。それに関しては、もはや何の問題も心配もなかった。何故なら今の俺は魔法少女に変身中だからだ!
もう何も怖くない!
俺は先ほど脳裏に浮かんだ台詞を口から紡いだ。
『ミラクル☆オラクル☆クルルンルン☆ マジカル☆ファイナル☆バスター!!』
呪文を言い放つや否や、俺の目の前に魔方陣が現れ、その魔方陣からビーム砲のような閃光が迸った。
その閃光は見事、影人間にぶち当たりヤツはボロボロになりながら地面に叩きつけられた。
その瞬間、パリンという音が響き渡り何となくではあるがこの辺りを覆っていた壁が無くなったということを肌で感じた。
「お、終わった……のか?」
ピクリとも動かない影人間を見て、ようやく全てが終わった気配を感じる。
俺は安堵してその場にへたり込んだ。
「……はぁ~……死ぬかと思った」
アスファルトに小さいとはいえクレーターを作るほどの威力だ。当たったら簡単に死ぬであろうことは想像に難くない。そんな危ない状況下で生き残った安堵感で胸がいっぱいになった。
「あ、そうだ。変身解かないとな」
俺は男だ――女装癖なんて無いったら無いのだから、いくら姿形が(厳密には性別まで)変わってたって、いつまでもこんなフリフリの姿で居るのは発狂物だ。へたり込んだ姿から立ち上がって変身解除の台詞を口に出す。
『ミルキーショコラ☆ドリームアウト(夢の終わり)!』
俺は視界いっぱいに広がる光に包まれて体が変化していく感覚を覚えていた。そんな中、光の外から先ほどの影人間のうなり声が聞こえてきやがった――って、生きてたのかヤツは!
いやいやいや、ちょっと待って!俺変身解いてる所だから!仮○ラ○ダーだったら、そこは攻撃しない所だから――いや、そういや一回だけその瞬間攻撃しましょうって作戦が発動された回があったっけな……ってそんな場合じゃない!
「ひょおおおおおお!」
無防備な状態で受けるであろう衝撃を思って妙な奇声が口から漏れる。
そんなこんなしている内に目の前に広がる光が収まり目の前に化け物が―――あれ?
「オエエエエエエエエエエエェェェェェ!」
なぜかこぶしを振り上げて襲い掛かる瞬間であったはずの影人間は、俺の顔をみるなり何やら口のような所から黒いモヤを際限無く吐き出していた。
「オエエエエエエエエエエエ!あんな可愛い少女からこんな気持ち悪いオッサンになるなんて!なんて反則な攻撃手段なんだァァァァァァ!」
「オォォォイ!!さっきまでの喋り方はどうしたァー!!失礼過ぎるだろうが!!」
思わず青筋を立てて怒鳴りつけるが、目の前の影人間は口から黒いモヤを吐き出し続け最後には消えてなくなってしまった。
「…………」
凄く―――とても凄くこれ以上ないほどに納得がいかないが……
どうやら俺は魔物とやらを倒したらしい。
背景、鈴木殿
貴殿は今朝、顔で人が殺せると仰っておりましたね。
でも俺の顔で殺したのは人ではなく化け物でした………なんでやねん!!
アホらしくなった俺は、何事も無くそのまま家に帰った。
だが、この時の俺は知らなかった。
これはこれから起きるドタバタ劇の始まりに過ぎなかったという事に……
~昼休みの時の高橋~
『熊野吾郎♂ 職業:会社員 副業:魔法少女』……副業魔法少女ォ!?
高橋「ブッフォォオー!?」
熊野「ぐわああああああああ!!」