03
──ここは、世界最大の領地を有するロシア。その広いタイガ地帯の地下にある、魔法学園都市・ワシリーサの学生寮だ。
有機物、無機物を問わず、全ての物質から放たれるエネルギー・魔力を使い、魔法を発動させる術を習得する学び舎。そこに通う学生の中でも、カネミツの扱う術式は火の精密なコントロールに優れている。
発射された火球を辛うじて避け、オキツグは転がるように部屋の出口──窓へと向かう。
「コタツを武器として使用するとは……恐ろしいやつだ」
「お前の罪悪感ゼロな神経の図太さの方が恐ろしいわ!」
会話の合間に放たれた追撃はしゃがんで避ける。
一撃目、二撃目と、犠牲になったのは寮備え付けの家具だが、気にしている場合ではない。コタツのために土足厳禁となったラグの上から飛び出してブーツに足を突っ込み、オキツグは部屋の隅に駐輪した黄緑色の自転車──ライジング・フリーに手をかけた。
カネミツの術式に火が多く使われるのに対し、オキツグはよく風の術式を使う。
ライジング・フリーのボディ部分には、風の象徴たる剣と翼が描かれていた。
「逃げる気か!」
「ふ──オレとライジング・フリーの前に立ちふさがるものなどない! そう、風すらも!」
オキツグが高らかに言うと同時、風が彼の障壁──ベランダに出るガラス戸を開放した。
冷え切った外気にカネミツがひるんでいる隙に、オキツグは外へ。地上二十七階の高さから、自転車にまたがった状態で飛び降りた。
解き放たれた右目の包帯が、尾を引いて流れていく。
「今回ぐらいはその厨二発言控えろっつーのこの野郎!」
「ライジング・フリー、システム・シフト! レボリューション・ゴッド・インフニティ! オレとライジング・フリーの最速を目にとめてみせろ!」
「聞けぇえええええええええええええええええええええええ!!」
アイスの恨みによって始まった戦いは、地下都市全体を舞台にして幕を開けてしまった。




