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危険なのは声を発している人物ではない。なぜなら彼女は、
「──む?」
カネミツが振り返ったのと、相手が目前の人影に気づいたのは同時らしかった。
急制動をかけて立ち止まり、少女は「ふむ」と腕を組んだ。身にまとっているのは素っ気ない白のワンピースで、靴も室内履きもない素足のまま。
一本の三つ編みにした長い白髪をマフラーのように巻けば防寒具代わりになるかもしれないが、雪の降る季節に暖房器具のない廊下に出るような服装ではなかった。
少女の眉根は深刻そうに寄せられていたが、数秒の後、なにかに気づいたかのように顔をほころばせた。
「おお! レポートの提出かの? しかし、それは一階のポストだと説明したはずじゃが」
難しい問題を初めて自力で解いたあとの子供のような表情だった。
「今朝反省文書けっつったのはお前だろうが!」
「ん? ……あー、そんなことも言ったかね」
思わずツッコミを入れるカネミツだったが、今重要なのは反省文ではない。
話題の軌道を修正したのは、珍しいことにオキツグだった。
「──学長。さっき言ってた『しるべ』は〈ワシリーサのしるべ〉のことか?」
相変わらず、右目は押さえたまま。
悪ふざけの色など一切含めずに。
「なんじゃ、感じておったのか。例のカラコンの魔法かね?」
はぐらかすように言ってから、少女は肩をすくめた。
「怖い目をするでない。そこまで緊張するほどのことは起こっとらん」
「あのな、オキツグの予感と学長が外に出るのが重なったら、空から槍が降ってもおかしくねぇんだよ」
「空から槍……ふむ、地下にいれば大丈夫じゃな?」
「例えばの! 話だ!」
オキツグより質が悪い、とカネミツは辟易する。
自分の魔道を貫く魔法使いが自分のペースも貫く、というのはよくある話だが、ことこの二人に関しては極端すぎた。




