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おこしやす~オカルトの世界へ  作者: ゆさゆさ
8/18

チェリーさんその2

「あの時の変人君!」

 開口一番それか。





 名前知ってるくせに――文句いってやりたい。

 しかし、昨日助けて貰った恩がある。頬を引きつらせるだけですませた。


「……昨日はどうも」


 そう歳の変わらないだろう女の子と会話をするのは緊張してしまう。まともに目を合わせられず、目が泳いでしまって情けない。

 ちらりと視線を向けると、にこにこと少女は笑っていた。

 目が覚めるような美少女だ。

 昨日のことがなければおそらく卒業するまで縁のない人物だっただろう。

 こんなところを学校の奴らに見られでもしたら、何を言われるか。カツアゲしていたとか碌でもないことを言われそうだ。今更ながら春火は周りに目を向けた。


 この場でもかなり目立っているのでは――そう思ったが、先ほどと同じ、全く注目されてない。何故か自分に対する好奇心等のつまった視線を向けられることもなくなっていた。

 頭にハテナマークを浮かべていると、少女がクスリと笑った。


「どういたしまして。昨日に続いて今日も会うなんてね。こんなとこで知り合いに会うことって滅多にないんだけど、まさか変人君に会うとは思わなかったわ」


 たしかに――学校ではそう呼ばれているが、変人くんというのはやめてほしい。

 実際にヒソヒソと女子生徒たちが話しているのを聞いたときは流石に凹んだ。

 わざと言ってんじゃないよな、この人。


 春火に無言で睨まれ、さすがにまずいと思ったのか、少女は「ごめんね」と然程悪いと思っていないかのような謝罪をした。


「あたしは君のこと知ってたけど、君あたしのこと知らないわよね? 学校で話したこともないし、あたしがチェリーだってこと、どこで知ったの?」


 笑顔から一転、探るような目でじっと見つめられ、後ずさりしそうになってしまった。


「いえ、ついさっき知りました。教えてくれたのは舞妓さんですけど」

「はっ!? 舞妓? へぇ……」

 知り合いだろうか? 

 少女は納得したような顔をした。


「チェリーさん、でいいんでしたっけ?」

 この呼び名かなり恥ずかしい。

 気恥ずかしさからぼそぼそと口に出すと、

「……一応言っとくけど、本名じゃないからね? 本名は海原桜子っていうの。だからチェリーさん。ちなみにあたし高三だから。君の先輩なのだよ」

 ふふん、と胸をはってふんぞり返るチェリーさんこと、海原桜子。


 先輩だったのか。

 驚いた春火だったが、海原桜子――記憶にある名前だった。

 入学してすぐ名前だけなら聞いていた。

 主に男子生徒たちが騒いでいた気がする。しかし実物を見たのは初めてだった。クラスメイトが話していたのをたまたま聞いていて、美人で人気者だと話していたが、同学年なのか年上なのかまでは知らなかった。

 しかし、先輩と聞いて納得した。小柄だが、雰囲気がなんとなくしっかりとしたお姉さんといった感じだからだ。


「本名はまずいかな~と思って名乗ってただけだから。チェリーさんじゃなくて本名でよろしく。んで? 君は私に何か用? ひょっとして昨日の子?」

「……はい、そうです。それで、あの……先輩は占い師って聞いたんですが、幽霊とかに詳しいんですか?」

 話が早い――と春火は内心喜んだが、さっきから気になっていたことを聞いてみる。

 除霊師なら分かるが、占い師と幽霊を結びつけるのは難しい。


 どう説明したものか、桜子は頬をぽりぽりとかきながら話した。


「あたしの家ってそういう体質の人間が多いのよ。幽霊とかがね、見えるの。あと、知り合いに対処法に詳しい人もいてね。で、占うってのはちょっと違うんだけど……なんて言ったらいいかな……。そうねえ……例えば、御堂くんさ、今凄く疲れてない?」

「え? はぁ、まぁ……睡眠不足で疲れてますけど……」

 急な話に春火が目を白黒させた。


「私は人のオーラが見えるの。色がついた状態でね。色を見ればその人の精神状態がだいたい分かるの。今の御堂くんは黒っぽいオーラが見えてるわ。顔を見なくてもそんなに離れてなかったら分かるのよ。『ああ、あの人凄く気分がいいんだな~』といった具合にね。オーラ占い……っていうか。トラブルを抱えてそうな人のオーラを見て、助言するわけ。でも、誰でも助けてやるってわけじゃないよ」


 ――なんというか、随分常人離れした話だ。

 春火はまじまじと桜子を見つめた。

 誰でもってわけじゃない――それなら自分はどうなのか。


「あの……俺は助言できる範囲に入ってるんですかね?」

 春火は藁にもすがる思いで桜子を見た。

「ああ、大丈夫! ちょっとやっかいそうだけど、何とかしてあげられると思う。人を選ぶってのは、『オーラの色が悪い』と、『オカルト絡み』ってのが条件だから。ただオーラの色が悪いというだけで助けようなんてしないから、ていうかできないし」

「そ、そうですか」

 断られずにすんでよかった、と春火は息をはいた。だが、意味が分からない。


「オーラが悪いってことは、ストレスが溜まって精神的にまいってる状態のことなんだけどね。あとは、病気持ちだったり、性格に難があったり……。例えば、恋人と別れて落ち込んでる人に、『じゃあ、新しい恋人を見つけてあげます』なんて都合のいいことできないしね。病気を治すこともあたしにはできないし。オーラが黒い原因がオカルトならあたしでも助言はできるからさ。まあ、できる範囲でだけど」

 ああ、そういうこと……春火は納得した。


「君は私が見えたしね。そういう人は助言の対象に入るんだ。たまに変なのもひっかかるけど」

「はあ」

 春火が桜子を見つけたのは偶然ではなかったようだ。何か細工がしてあるらしい。興味が湧いたので聞いてみたくなったが、『変なの』と口にした途端、桜子の機嫌が悪くなった。余程嫌なことがあったようだ。自分の好奇心は無理やり押し込むことにした。


 微妙な目で自分を見つめる春火に気付き、桜子がわざとらしく咳をして、

「じゃあ、君を助けるってことで、いい? ああ、お金とか取らないから安心して。」

「えっ、無償ですか?」

 いいのかなと思いつつ、随分太っ腹だと春火は感心した。本当にどうにかできるのならそれで食べていけるんじゃないか、そう思った。


「普段なら取るんだけどね。まあ、人によりけりかな。君は学校の後輩だから特別。それに前から君に興味があったんだ~」


 嬉しそうに話す桜子。

 見惚れてしまいそうな笑顔だったが、春火は何故か蛇に睨まれた蛙になったような気がした。嫌な汗が米神を流れる。

 なんだろうか、喜ぶべきところだというのに、早まったか、と不安になってきた。

 しかし、興味があったというのはあれか、けったいな顔をした変人野郎――という意味で面白がってるんだろうか。

 好きでこんな顔してる訳じゃないというのに。

 やはり自分をからかっているのだろうか。春火の表情が硬くなり、それを見た桜子が慌ててフォローを入れた。


「こらこら、勘違いしないの! 違うって。君を初めて見たときから黒いオーラが見えてたけど、それと同時に綺麗なオーラも見えてたからさ。オーラが綺麗な人好きなんだ、私。興味があるってのはそういう意味よ」


 ニコリと笑う桜子に不覚にもドキッとしてしまった。

 恋愛的な意味ではないのは分かっていても、くらっとくる笑顔だ。

 桜子の嬉しそうな顔からして、悪い意味ではないらしい。綺麗なオーラが何を示すのかは敢えて聞かないでおいた。


「なら、お願いします」


 家族と友人以外でこんなに長く会話したのは久しぶりだ。しかも女の子。

 緊張することなくリラックスして話ができたことに春火は驚いていた。




 ◆◆◆




「ほ~、怖いね。それは」


 公園のベンチに腰かけ、春火の話を熱心に聞く桜子。

 簡単にだが春火は桜子に自分に憑いている女の子のことを説明した。

 少し迷ったが、見た目のことは伏せることにした。必要になったら話せばいいだろう。

 高校に入ってからは、父親と担任など、ごく少数の人間にしか素顔を見せていない。必要性があればともかく、親しい人間以外に素顔を見せる勇気はなかった。


「簡単に纏めると――、君は女の子の幽霊? に憑かれてて、でも、家では襲われるけど外で襲われることはないと?」

「そうだと思うんですけど……」

「でも、君に襲いかかろうとしてたわよ? 昨日。あと今も君に飛び掛かりそうになってるけど」

「えっ!?」

 慌ててきょろきょろと周りを見渡す。

 すると、


「あ……」


 いた。

 女の子が後ろに立っていた。

 かなり殺気だっているようで、ギリギリと歯を噛んでいる。桜子の言うとおり、今にも飛び掛かってきそうな雰囲気だ。



「ものすごく睨んでるわね」

 桜子の呟きに春火はうっと言葉を詰まらせた。

「…………で、でも! 見えても何もしてきませんでしたよ」

「それは、ほら、これ持ってるから」


 ムキになって反論する春火に苦笑いし、桜子が肩に下げていたショルダーバックから何かを取り出した。

 取り出したのは、小さな刀だった。

 然程大きくない桜子のバックにすっぽりと入るその刀は、はたから見ると玩具のように見える。鍔と柄の部分は黒っぽく、朱で塗られた鞘には何やら文字がかかれていた。文字を除けば普通だ。


「これお守り。多分これがあるから襲ってこないんだと思う」

「……」

 にわかには信じられなかったが、刀を取り出すと女の子が春火たちから僅かに離れた。桜子の言っていることは本当らしい。春火は渋々頷いた。


「でも、昨日のあの時までは外で見ることもなかったのに」

「あたしが近くにいるからじゃない? あたし霊感があるから。霊感の強い人間が傍にいると、その人も見えたりするんだよね」

「マジですか」

「マジですよ」

 茶目っ気たっぷりで桜子が頷いた。


 ということは。


「女の子は家の外も中も関係なくいるのよ。見えてないだけでね。それに初めて見たときだって外だったんでしょ?」

「そ、それは……そうですけど。でも、なんで……分からないなあ」

「急に見えなくなったの?」

「え? そうですね……。しばらくしたら、外では見えなくなりました。二、三日ぐらいだったような。その間は外でも見えました。ちょっと記憶があやふやですが」

「ふうん、そう」


 外で襲われたのはあれっきりだ。それからは襲われていない――多分。襲いかかってきそうなことはあったような気もするが。外で見ることもなかった。しかし、なぜ昨日は外で見たのか。

 ただのきまぐれ?


 春火が外でぐうすか寝ていたときも傍にいたのだろうか。襲わずにじっと見ていたのだろうか。

 襲われなかったのは幸いだったが、何故襲われなかったのか、全く分からなかった。

 ただ、これからは外で寝ることもできなくなった、ということだけは分かった。襲われないとしても無理だろう。あんなものにじっと見られながら寝るなんてできるわけがない。


「どうすればいいんですか……俺もう外に出れませんよ」

 途方に暮れて、顔半分を手で覆った。

「大丈夫だって! あたしが何とかしてあげる。でも、ここでどれだけ考えたってしょうがないし。だからね? 急で悪いんだけど、今から君んちに行ってもいい? 家で襲われるってのが気になるんだよね」

「家ですか……」

「うん、ちょっと、どんな感じか見てみたいの。女の子も、まあ、あんな怖い顔しちゃってるけどあたしがいるから君に手出しできないし大丈夫」

「はあ……」


 確かに、女の子は凄い殺気立っているが何もしてこない。それなら家に入っても大丈夫かもしれない。

 父は確か仕事の打ち合わせだと言っていた。帰りは遅いはず。もしかしたらそのままホテルに缶詰めになるかもしれない。


 昨日知り合ったばかりで然程親しい間柄になった訳でもないが、早く女の子から解放されたいという長年の思いが春火をあっさりと動かした。


「大丈夫ですよ。今は家に誰もいないし。父は仕事で帰りが遅くなると思いますから」

「そっか、じゃあ、今から行こうか」

 あんなに毛嫌いしていた女の子を家に入れることになろうとは、今日家を出たときには思いもしなかった。

 こんなこともあるんだな、と思いつつ春火は桜子と揃って歩き出した。




 ◆◆◆




 公園を出てバスに乗って約三十分。

 桜子は終始ニコニコしていた。

 何がそんなに楽しいのか。それほど今回のことは手間がかからないということなのだろうか。しかし、やっかいだと言っていたような。

 なんとかなるのならいいのだが。


 バスから降りてすぐのところに春火の家はあった。

 引っ越しの際、家を借りるということをせず、父はわざわざ家を建てた。

 二人暮らしには大きすぎると初めて家を見たときは思ったが、それ以外に不満はなく、今は普通に快適な生活を送っていた。勿論女の子のことを除いて、だ。


 しかし、桜子と一緒とはいえ、これからあの女の子と対峙するのかと思うと気が重い。父がいるときは諦めて入るが、そうでないときは可能な限り家の外にいた。

 門の前でまごついている春火をよそに桜子は興味深そうに春火の家を眺めていた。


「へえ――、ここが――。なるほど、御堂くんちはお金持ちか、そうなのか」


 父によると有名な建築士に設計を頼んだというこの家は、隣家に比べると随分大きく、洒落たデザインをしているので人目を引き寄せやすい。知り合いに頼んだと言っていたが、それでもそれなに金がかかっているだろう、桜子がそう思うのは無理なかった。


「まぁ、親が頑張ってくれてるんで」

「あはは、小説家だって? 御堂はるゆきって超有名作家じゃない。長者番付で見たことあるよ。本も読んだことあるし。今日は遊びに来たんじゃないから家にいなくてよかったけど、今度紹介してよ」

「はは……父に話しておきます」


 こんなにはしゃがれると、はっきり無理ですとは言いにくい。

 紹介はかなり難しい気がした。会わせでもしたら血の雨が降るかもしれない。

 仕事が忙しくて会わせられないのではなく、父は親馬鹿だから、というなんとも恥ずかしい理由だった。


 小さい頃、仲のいい女の子を連れてきたとき、父が泣き喚いたことがあった。たしか友人に向かって「女狐」と言っていた。友人は意味がわからず、きょとんとしていたが、春火はかなり慌てた。それ以来春火はクラスの女子を家に連れてきたことはない。

 今はストッパーだった母もいないし、春火一人で父を止められる自信がなかった。

 ぐるぐると考え事をしていたら桜子が「早く」と玄関のドアを開けるよう急かす。

 いつの間にそこまで行ってしまっていたのか、春火が慌てて鍵を開けて中に入った。




「うわ、こりゃすごいわ」


 声のトーンと台詞の内容からして、今一つ危機感がないように伺えたが、桜子の顔が急に引き締まった。

「足跡がべったりついてるじゃない。そこらじゅうに。玄関がこれだと、中はもっと凄いのかな。追いかけられてるってのは本当みたいね」


 足跡って――。

 そんなもんが付いてるのか。

 嘘をついているようには見えない。桜子がじっと何かを見て、目で追っているのが分かる。

 一気に気分が急降下した。


「あと、やっぱり外にも出てる。足跡が外にも向かっているし。外では見えないだけで君に纏わりついてるみたい。お父さんは気付いてないんだっけ?」

「はい、父は気付いてません」

「相談とかしないの?」

「父には見えてませんし、説明のしようがないんで」


 でも、何かあったぐらいは気付いてるかもしれない。


 ずっと黙っていても、夜中に家の中を歩き回っている息子を見ればおかしいと思うだろう。

 原稿にとりかかると他のことが一切頭から抜けてしまう父だが、息子のことを疎かにはしない。

 一度さり気に聞かれたが、何でもないと答えるとあっさり引き下がった。それでもたまに何か言いたそうな顔をしている。

 春火から話してくれるのを待ってるのかもしれない。でも話せないのだ。父にこれ以上心配を掛けたくない。早くなんとかしなければ――。


「大丈夫だって。ねっ?」

「はい」


 気を取り直して家の中へと上がった。


「おじゃましま~す」


 春火が慌ててスリッパを出すと、「ありがとう」とスリッパを履いて桜子が歩き回る。危なくない程度に下を見ながら二階に上がり、春火の部屋になんの迷いもなく着いてしまった。だがそのまま素通りし、床、壁、天井と、忙しなく視線を向けていた。


 父の仕事部屋など入れない部屋もあるので、家の中を案内しながら桜子についていく。すると、

「君の部屋に行ってもいい?」

「いいですよ」

 元来た道を引き返し、春火の部屋に入る。


「あの……いますかね?」

 見えるときもあれば、寒気がするだけで見えないときもある。常に側にいるかどうかは春火には分からない。

「うん、いる。後ろからついてきてるよ。私が傍にいるのが気に入らないみたい」

 桜子が興味深そうにきょろきょろと春火の部屋を見る。


 一通りみたあと、桜子はなんとも言えない顔でおもむろに春火の頭をなで始めた。


「あの~、なんですか? どうかしました?」

「御堂君……よくこれだけされて無事でいられたわね。こういっちゃなんだけど、普通発狂したりするんじゃない?」

「そりゃまあ、大変でしたよ。でもずっと家にいるわけじゃありませんし。たまに我慢できなくなって外で寝たりとかしてたんですよね。父も仕事で家を空けることが多かったんで、俺が家にいなくても問題ないときは外で過ごしてました」

「その顔で?」

「この顔で」

「はあ――。徹底してるんだね……」

 感心したような、呆れたような、なんとも言えない微妙な顔で桜子が言った。


 再び春火の部屋を熱心に見ていた桜子だったが、「ここにはないのか…」と呟くと、急に興味がなくなったような顔で春火に振り返った。


「何度も聞いて悪いけど、あなたに憑いてる子に見覚えない? その……振った子じゃないのよね?」

「はい、最初は似てるかな、とは思いましたが、多分知らない子だと思います。制服は俺がいた中学のものと同じだったんで、名簿とか見てみたんですが、見つかりませんでした」


「ふ~ん……なんとなくだけど、呪いの類だと思う。やっぱり、その御堂くんに振られたって子が怪しいかな。御堂くん、その子から何か受け取ったりしなかった?」

「え? 貰いものですか?」

 何故そんなことを聞くのか分からない。春火は首を傾けた。


「うん、そう。プレゼントとかね。記憶にない? まあ、歪んでいても一応好意はあったんだろうし、何かしら贈ったりしてると思うんだけど」

 それはないと思う――春火は否定した。

 そもそも花蓮は物を強請るばかりで春火に何かをあげるといったことはしていない。トラブルに巻き込まれないよう、振った子に限らず、他の子からもプレゼントの類を貰うことはしなかった。


「ない……ですね……」

「そっか……。でも、引っ越してきたんでしょ? それなのに、こうも纏わりついてるとね……。その顔になってから君への興味がなくなったんなら、こんなことする必要はないと思うんだけど。実は未だに根にもってるのかな」

「どうでしょう? でも、この顔になってからも何度か絡まれたりはしましたけど、無視してたらだんだん絡まれなくなりましたし、興味もなくなったと思うんですけど。俺に執着しているようには見えませんでした。その後、普通に他の奴と付き合ってましたよ」

 ただし、相手は頻繁にかわっていた。


「そっか……もしかして、あなたに呪いをかけたままになってること忘れてるのかな」

「ええっ!? そんな無責任な!!」

 しかし、あり得ない話ではない。

 もう何とも思ってないなら、なんとかして欲しい……。切実に思った。


 家の中をうろうろし、いろいろ確認できたところで事態は全く好転していない。

 既に夕方になろうかという時間になっていた。

 このまま解決できないと今夜も徹夜しなければならない。


「う――ん、今日中に解決は難しいかな――」

「そう、ですか……」

 がっくりと肩を落とす。


「そう気を落とさないで。考えはあるから」

「えっ!? ほんとですか?」

「任せなさいって。とりあえず、今日はあたしの家に泊まりなさい」


「……」

「……」


 桜子が何を言ったのか春火はすぐに理解できなかった。しばらくして、


「はっ?」

 春火の目が点になった。

 そんな春火を見て桜子が吹き出した。


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