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おこしやす~オカルトの世界へ  作者: ゆさゆさ
5/18

彼が変わったわけ その2

 花蓮と付き合うようになって一カ月が過ぎ、そろそろ身の危険を感じるようになってきた。

 男として情けない話であるが、いやほんとに冗談ではなく。


 付き合いだした頃はそうでもなかったのだが、花蓮が意味深な目を春火に向けるようになった。

 お嬢様である花蓮の都合で、デートするのはもっぱら平日となっている。一日中連れまわされることがないのはせめてもの幸運だというべきか、しかし、それでも過ごす時間は放課後だけとはいえ、平日のほうが圧倒的に時間が多い。そして放課後から夜の門限(何故か花蓮より春火のほうが早かった)ギリギリまで付き合わされ、カップルがよく集まるという有名スポットへと連れて行かれる回数が徐々に多くなっていた。


 花蓮が他のカップルと春火を交互にちらちらと忙しなく視線を動かし、無言のプレッシャーを放つのだが、なんとか苦労しつつも回避した。

 しかしそれももう難しいのかもしれない。ただ一緒にいるだけで、恋人らしいことはほとんどしていないのだ。最近は眉間に皺を寄せる回数が多くなっている気がする。そろそろ花蓮の我慢も限界なのかもしれないと戦々恐々としていた。


 そんなある日。


 よく晴れた土曜日。

 いつもより長く一緒にいられるからか、花蓮は張り切っていた。

 無邪気に喜んでいるように見えて、時折ギラついた目で春火を見ているのが怖い。その時点で帰りたくなった――が、そんなこと言えるはずもなく、いつものように花蓮に腕を引っ張られた。


 連れて行かれたのは都内にあるカップルの定番として有名な某遊園地。

 夜になったら見れる夜景が人気だそうだ。だが、門限の都合で夜景が見れる時間まではいられない。ようやく太陽が天辺を通り過ぎるという明るい時間ならムードもへったくれもない。まだカップル率の高い公園よりはマシかな、と春火は呑気に考えていた。


 そして今日こそは、と春火は力んでいた。いい加減花蓮と別れたいのだ。今まで強く反抗することもなく付き合っていたが、やはりこれ以上は無理だ。なんとか隙を見つけ、返事をしよう、そう強く決心した。


 そして、花蓮が望むままに乗り物に乗り、カフェでカップルで食べあうという特製パフェを食べさせられ、精神的な疲労が限界を超えそうになっていたとき、花蓮に親から電話が入り、急きょ夕方には帰らなくてはならなくなった。

 嬉しいが、まだ告白の返事ができていない。春火はどこか二人っきりになれる場所はないか急いで探した。しかし土曜ということで人が多く、人気のない場所などそうそう見つかるものではない。焦っていると、


「帰る前にあれに乗りたい」


 花蓮があるものを指差した。

 観覧車だ。


 二人っきりになれる場所ということで真っ先に候補に上がっていたが、密室だったので避けていた。だが、花蓮が乗りたいと言っているし、時間もない。しかたないか、と観覧車へと向かった。


 割とすんなりと観覧車に乗れた。一周するまでそんなに時間がかからないことから急いで返事をしなければならない。しかし、早くしてしまうと残った時間ずっと気まずい思いをしなければならない。

 刻々と時間が過ぎていき――春火は開き直った。

 気まずい思いぐらいいいじゃないか、どうせ今日で最後だ。思い切って口を開いた。


「あのさ、立花さん、話が――」

「ねえ、御堂くん、あたしたちってまだだよね?」

「は?」


 話を遮られた。一瞬花蓮の目が不愉快そうに見えたが、断ろうとしたのがばれたのだろうか、いや、それよりも……。


 なんだ、この雰囲気は。


 花蓮が熱っぽい目で春火を見た。


「……まだって、何が?」

「ええ? わかんない? 御堂くんて鈍いのね~。まあ、そこが可愛いんだけど」

「ハハハ……」


 ほんとに何だというのか――。

 付き合いだしてやってないって……、言いたくないけど、もしかして、


「………………えっと、キスとか?」

「それもあるけどお~、もお、わざと焦らしてるの? セックスよ、セックス!」

「せ……は?」


 ぽかんとした顔で花蓮を見る。


「ここの近くにうち系列のホテルがあるの。部屋もすぐ取れるし。ねえ、しよ?」

「セックスを?」

「うん」

「セックスを!?」

「そうよ?」


 ニッコリと花蓮が笑った。目が笑っていない。目の前のクラスメイトが捕食者へと変貌した。


「俺たち、まだ中学生だよね?」

「そうよ? でも中学生でもするわよ。好きなら」

「用事があるんじゃなかったっけ」

「そんなの連絡いれればパパなら許してくれるし、学校で用事があるからとか、言い訳ならいくらでもつくれるし。まあ、パパなら恋人と一緒にいたいって言えばすぐ許してくれると思うけど」

「へ、へえ~寛大なお父さんだね」


 予想もしなかった返答に冷や汗が流れる。春火の父だったら間違いなく八つ裂きにされるだろう――花蓮が。


「だから、ね? やろ? セックス」

「いや、だからさ――」

「ほら、私たち、もう一カ月も付き合っているのにまだじゃない? 御堂くんから誘ってくれるまで待ってるつもりだったんだけど、我慢できなくなって。はしたなくてごめんなさい。でもいいわよね? 好き合ってるんだもの。ね?」


 はじめ軽くパニックになりかけたが、だんだん頭の仲が冷えてきた。

 そもそも付き合ってるといってもお試しであって、春火は好きだとも付き合おうだとも一言も言っていない。


「あのさ、立花さん」


 急に真剣な顔をした春火に花蓮が怪訝な顔を向ける。


「俺たちって、お試しで付き合ってるんだよね?」

「……はじめはそうだったけど、でも一カ月も続いてるし――」

「立花さん、俺前から言いたかったことがあるんだ。もっと早く言えばよかったんだけど、俺――」


「は~い、お疲れ様でした~。足元に気を付けて降りてくださいね~。忘れ物はないですか~?」


 いつの間にか一周していたようだ。笑顔のスタッフが中の空気にも気付かず扉を開ける。


「……」

「……」


 突然の幕切れに二人して呆気にとられた。

 無言で外に降りる。

 花蓮は少し俯いていて、表情が見えない。


「立花さん、さっきの話の続きだけど……」

「私、帰るね」

「いや、すぐ終わるから」

「私っ、帰るからっ!」


 下を向いていた花蓮が勢いよく顔を上げた。

 笑顔だった。怖いぐらいに。

 これ以上は何を言っても無駄な気がした。


「私、帰るから。また来週、春火くん(・・・・)

「……う、うん、さよなら。気を付けて」


 花蓮から目をそらして背を向けると、背後から、


「次は絶対にしようね」


 ぞっとして振り返った。花蓮の後ろ姿が小さくなっていた。




 そして、家に帰り、


 ――どうすんだよ、俺! 


 結局言えず、頭を抱えた。

 来週言えるだろうか。かなり警戒されていた。

 いや、言わなければ。これ以上は無理だ。 


 しかし、運がいいのか、今日、彼を悩ませていた『彼氏、彼女の関係(仮)』は解消されることとなる。


 ――彼の中学校生活を代償にして。


 着替えて一息つき、部屋でごろごろするもすっきりしない。ほんとなら花蓮と別れて清々しい気持ちでいるはずだったのに……。相当なストレスが解消されぬまま燻っている。


「よし、外に出るか」


 いつもなら近場でぶらぶらするところを遠出することにし、急いで着替えた。顔を隠すための眼鏡と地味な色のキャップをかぶり、春火は家を飛び出した。


 どこに行くかで迷って、好きな本巡りにするか、と神田まで足を運んだ。面白そうな本がないか古書の店をまわり、なければそのまま大型書店をぶらぶらと歩く。そしてまた電車で移動。秋葉原まで行き、ゲームセンターを梯子していたところで喉が渇いてることに気付いた。


 カフェに入り、コーヒーを飲んでくつろいでいると、後ろが急に騒がしくなった。

 なんだと後ろを振り向き、瞬時に顔を戻した。

 春火のすぐ後ろに立花花蓮とその取り巻きがいたのだ。


 何でこんなところに。


 そもそも春火が秋葉原にいるのは花蓮が「オタクきもいから秋葉原には絶対に行きたくない」と言っていたからだ。自分にとっての安全地帯ということで、花蓮に振り回されてストレスが溜まっては行っていた。鉢合わせしたことが一度もなかったので安心していたのだが……なんでよりにもよって今日ここにいるのか。あんなことがあった後なのでかなり気まずい。


「ちょっと~、なんであたしがこんなとこに。飲んだらすぐに出るからね」

「だって、どこも混んでたし~。一人ならともかく五人じゃあね。ここすいてるし、別にいいでしょ、たまにはさ~。ここ普通のカフェなんだし」

「花蓮アキバ嫌いだよね。あたしは今つきあってる男がアニメ好きだからたまにくるよ」

「それって、この前言ってた男? まだ続いてたんだ」

「ん~ん、もう飽きたからポイする」

「ひどっ」


 ギャハハハ。


 ほんとにいいとこの御嬢さんなのかと疑いたくなるような笑い声が春火の背中にふりかかる。花蓮の声も交じって聞こえた。


 こっちが本性か。

 普段は結構な数の猫を被っていたらしい。


 花蓮たちは春火に全く気付いていなかった。

 後ろ姿で帽子を深くかぶっていたし、私服姿で会ったことはないので分からなかったのだろう。しかし、親に呼び出されて帰ったはず。用事はもうすんで友達とショッピングに来ているのだろうか。


 頼んだコーヒーはとっくに全部飲んでしまったのだが、花蓮たちの登場に動くに動けなくなり、仕方なくじっとしていると、聞きたくもない彼女たちの会話が春火の耳に届いた。


「でさ、花蓮さっき言ってた話ほんと~? 御堂って実は貧乏?」

「知らないわよ、でもマジ使えないわ、あの男。まあ顔は好みだったから暇つぶしにはなるかな~って思ったけど、なんなのあいつ、店に入って何も買わないなんてマジありえないんだけど」


 ――はあ!?


 春火は固まった。


 自分のことだとすぐに理解した。


「顔が好みって、あんたね~。好みじゃないやつっていないんじゃない? だって御堂って超かっこいいじゃん。かっこいいっていうか、綺麗? 腹立つけどそこらへんのアイドルよか顔いいじゃん。あんたの理想ってどうなってんの? いらないんならうちに頂戴よ」

「だね。うちも狙ってたのに~。でも、隣のクラスの百瀬には笑わせてもらったわ。あいつちょっと綺麗で男に人気あるからって調子にのってさ~。知ってた? あいつ御堂のこと好きだったんだって。花蓮と御堂が付き合うことになったって聞いたとき泣いたらしいよ?」

「えっ、そうなの!? うわ~見たかった」


 ――なんだ、なんの話をしてるんだこいつらは……。


 ――そもそも付き合ってないぞ!


 怒鳴り込んでやろうか……。


 分かっていたつもりだったが、心のどこかでほんとは自分のことが好きなのかもしれないと思っている部分があった。希望にすぎなかったけど――。あいつ、立花花蓮は噂に違うことなく最低の女らしい。男の敵といったところか。一緒にいたときとのギャップがありすぎて、呆れた顔をするしかなかった。


 ギャハハハ。


 下品な笑い声が店内に響く。彼女たちは気付いてなかったが、周りの客も店員も迷惑そうな顔をしていた。店員からそろそろ注意が入るのではないか。


「ていうかさ、よ・れ・よ・り・も! 御堂が童貞ってマジ?」


 春火の体がびしりと固まった。


「あれは、童貞ね。間違いないわ」

「ええええええ、マジ? マジなの? へ~へ~へ~。ぶっ、あははははははは」

「ちょっと~笑っちゃ可愛そうよ~」

「だって、だって……あの顔だからとっくに卒業してるもんだと」

「でもうちらだって中学はいってすぐだったし~、ていうか、花蓮とするんでしょ? 初ものか~いいね」

「ええ~そう? 初めてってめんどくさくない? 相手が手馴れてる方がいいと思うけど」

「ま、めんどうだけど、筆おろしするってのもたまにはいいかなって」

「おお~」


 ――こ、こいつらっ。


 頭のネジが百本ぐらい飛んでいるのだろうか? 堂々と他の耳目のあるところで話すとは。それよりも、花蓮たちの貞操観念はどうなっているのか。



 気付いたら手をきつく握りしめ、拳をつくっていた。すこし震えている。これは立花花蓮に対する怒りと、分かっていたのに断りきれなかったアホな自分に対する怒りのせいだろう。


 ――あいつらをぶん殴ってやりたい。


 女を殴るなんて――といった気遣いは今の春火には微塵も残ってなかった。

 春火が怒りに耐えているなか、会話は続く。


「まあ童貞でもいいじゃない? あんな美少年喰えるんだし。貧乏だとしてもさあ、御堂を切るなんてありえないね。捨てるにはもったいないっしょ」

「だよね~。あいつのこと好きなやつ結構いるじゃん? 女どころか男にも密かに人気があるらしいよ?」

「それあたしも聞いた。まああいつの見た目じゃあね~。しかたなくない?」


 ギャハハハ。


 春火の顔からはすっかり表情が抜け落ちていた。もういいだろう、会話に夢中で花蓮たちは気付かなそうだ、と席を立とうとした。


「そうなのよね~。ほかにいい男が見つかるまでのキープってことで持っておこうかな」


 それを聞いた瞬間、ぶちりと春火の中で何かがきれた。


 カバンを掴み、ガタンと大きく音をたてて立ち上がると、ゆっくりと目的の場所まで歩を進めた。

 突然後ろから大きな音がたち、花蓮たちは迷惑そうな顔を後ろに向け、そして大きく目を開いた。


「よう、親の用事はもうすんだのか?」


 帽子を脱ぎ、眼鏡をはずし、春火は花蓮たちに顔をさらけ出した。

 突然の美少年の登場に店内は静まり返った。皆が呆気にとられた顔で春火を見る中、花蓮たちは面白いほど狼狽えていた。


「あ、あの……御堂くん……」

「御堂でいいよ。さっきそう言ってたじゃないか」


 取り巻きたちの体がびくりと動いた。花蓮も顔色が悪いが、取り巻きほどではない。じっと春火を見ていた。


「あのさ、立花さん」

「何よ……」

「さっきの会話全部聞いてたんだけど」

「盗み聞きなんて、春火くん、そんなことするんだ」

「ああ、うん、あんたらがこんな人がいる中でわざわざ大きな声で話すもんだからその気はちっともなかったのに聞こえちゃったよ」


 花蓮の目が細められた。

 ここで彼女たちが謝ってくれればよかった。なのに、


「怖い顔しないでよ。聞いてたんなら話は早いわ。次からはちゃんとあたしの言うこと聞いてね。だってあたしたち付き合ってるんだもの。あとお金も。金がないならパパかママにねだりなさいよ。そのぐらいの金あるでしょ。あたしに恥かかせないで」

「……」


 一同唖然……。ただし、花蓮とその取り巻きは除く。


 人前でこんなこと言えるなんて、自分はほんとにとんでもない女と付き合っていたようだ――お試しだけど。

 ここまで言われたらもう遠慮する必要もないだろう。春火は薄く笑った。その笑みで迫力の増した美少年になり、客はおろか、明らかに他の客の迷惑になっている花蓮たちを注意しようとしていた店員も固まった。


「あのさ、やっぱり君とは付き合えないな。いろいろ考え方がね、ついていけない」


 そこでやっと花蓮の顔が崩れた。まさか振られるとは思ってなかったらしい。


「何言ってるか分かってる? そんなことできると思ってんの?」

「付き合ったら別れることぐらいあるだろ。珍しいことでもないし、おかしなことでもないよ。それに仕方ないだろ? だって、君――」


 怒りで真っ赤になった顔で睨みつける花蓮を見て、少し溜飲が下がった。しかし、まだこれで終わらせるつもりはない。


「最低だから」


 その一言を春火が口にした途端、大きな音が店内に響いた。花蓮が握り拳を作ってテーブルを激しく打ち付けたのだ。取り巻きたちが花蓮の剣幕に引いている。それには目もくれず花蓮がゆっくりと立ち上がった。


「最低? はあ!? 誰が? 誰に、誰に向かって……。そんなこと言ってただですむと思ってるの? 私は、私のパパは……」


 さっきまでの余裕はどこへいったのか。常に自分が一番で、それは例え付き合ってる男であっても花蓮との立ち位置は変わらない。自分より格下扱いしてきた男が自分に逆らい、面と向かって自分を糾弾した――花蓮には許容できないことだった。

 怒りで花蓮が震えている。


「パパに言うって? 財布代わりにしてた男に最低呼ばわりされて、むかついたからパパなんとかして~って言うのか? 傑作だな。君は馬鹿か? いや、馬鹿なんだな。どうしようもない馬鹿だ」

「なっ、たっ……」

「一応いっておくか。まあ、知ってると思うけど、俺んちは君んちよりは格が下がる。でも君をどうにかすることはできるんだぜ。ああ、別に意味を理解しなくてもいい。君んちも親の権力が相当あるようだけど、俺に何かしたら君にもそれ相応の報いを受けてもらうよ。勿論、取り巻きのあんたらにもな。もう君と一緒にいた時点でいろいろ言われてるんだ。俺は何ともないけど、君は困るんじゃないか? ひょっとしたら親から何か言われるかもな」


 驚愕する花蓮と取り巻き。花蓮は春火の親戚関係までは知らなかったようだ。唖然とした顔で花蓮たちが春火を見ていた。はったりで言っているのではなく、本当のことだと春火の態度で理解しただろう。


「あ、お騒がせしてすみません。もう終わるんで」


 にこやかに春火が他の客や店員に頭を下げた。

 笑顔で言われても圧倒的なプレッシャーに首を縦にふることしかできない。

 春火が花蓮に向き直った。花蓮の足がじりっと後ろに下がる。


 春火が花蓮に頭を下げた。


「立花花蓮さん、俺と別れてください。俺あなたのことが大嫌いです。返事が遅くなってすみませんでした」


 下げていた頭を上げた。その場にそぐわない、晴れやかな顔だった。


 花蓮はぽかんと口を開けていて、少し間抜けだった。自分自身に何が起こったのか理解が追い付いていないのかもしれない。

 花蓮たちは一向に動こうとしない。固まったままだ。


「それじゃ、立花さん、俺たちは同じ学校のクラスメイトだけど、赤の他人ということでよろしく」


 春火は颯爽と店を出て行った。清々しい気持ちだった。


 そのとき花蓮が鬼のような形相で睨んでいたことに春火は気が付かなかった。





 花蓮の親がどんな人物なのかは知らないが、娘の尻拭いのためにわざわざ春火の家と対立する、なんてことはしないだろう。正確には親戚とだが。

 調べればすぐに分かることだし、暴力行為に訴えてきても、それなりに護身術やらいろいろとやらされているので鍛えられている。むしろそのようなことをされた方がいろいろと都合がいいのかもしれない。

 多少学校内での居心地が悪くなるかもしれないが、仕方ない。


 虐めになったらどうしようかな……と考えていた春火だったが、もっととんでもない目にあうとはこのとき思っていなかった。



 春火はまたもやミスを犯した。立花花蓮の性格を理解していなかった。

 立花花蓮は執念ぶかかった。自分に楯突いた人間を決して許さない。

 彼女は、親の権力でもなく、暴力でもなく、


 ――オカルトに頼ったのだった。


 そんなの予想できるはずがなかった。







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