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罪悪汚染のイミテーション《改稿中》  作者: shino
罪とその後の良好な関係
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#6

 僕たちのパーティは群を抜いている。同級生の中じゃ一番だ。基本的に卑屈な僕だけど、これについては自信を持って言える。


 世界各国から学業の徒が集まるこのディルセリア魔法学園において、ひと学年の人数は三千人にも達する。その中で冒険者を志しているのは、千人ちょっと。五年生から八年生だ。従って、同学年にはやく二五〇人の冒険者兼学生がいることになる。


 四人一組で冒険者として仕事を請け負っていくのが学生パーティの習わしで、僕たちのパーティには化け物が三人いた。


 一人目は、エドワード・ノエル。


 僕たちの同級生で、単純な戦闘能力なら学年で一番の剣士。魔法の腕も優れていて、身体能力も高く、なにより勝負強い。現役の討伐者も一目置く、ルディアの冒険者界隈でもっとも噂されている期待の新人。


 二人目は、メディ・ケイトルート。


 彼女には似通った使用者のいない魔法を使えるという特殊な事情がある。かつてドラキアとだけ呼ばれた魔女が使った、爆発による破壊のみを極めた魔法だ。この魔法によって、彼女はディルセリア魔法学園屈指の破壊力を誇る魔法使いと言われている。


 三人目は、アイラ・ロックハート。


 弓の名手で、魔法による補助を加えればその有効射程は二百ハルツに及ぶ、超距離攻撃手段を持つ。また、アイラの魔法は応用性が高く、エドやメディでは対応できない相手に対応できることが多い。「水系は多彩」を体現している人物だ。


 そんな三人に囲まれて、なぜか僕がパーティに加わっているのは、単純に僕がアイラやエドと仲がいいからというだけの理由にすぎない。


 実際問題、僕たちパーティの特性は、個々の強さより連携の上手さにある。もちろん、得意とする分野がばらついているという理由も大きいのだろうけれど。


 そんな僕たち四人は、馬車に揺られてポラリア荒野の最寄にある村、ハックスフッズに出向いているところだった。


「ポラリア荒野かー。なんか名前からして気が抜けそうだよな」


 エドが間の抜けたことを言う。


「エド、そんなこと言わないの。緊張感ないんだから」


 それをアイラが嗜める。


「あ、私もそれ思う! エドには緊張感が足りないと思います! 強いからって調子のったら駄目だって! ていうな調子のんな!」


 メディが混ぜっ返す。


「……メディも人のこと言えないよね? 自重しようね?」


 僕が一言添える。


 なんというか、緊張感がないのは多分、僕たち全員だろう。とはいえ、まだポラリア荒野は遠い。学園のあるルディアからポラリア荒野に近いハックスフッズに向かうには、ウォーガン山脈を越えなければならない。とはいえ、半日もあればたどり着く。まだ日が昇ってすぐの時間で、昼過ぎには到着するスケジュールだった。


 普通の馬車だったらここまで早くはないのだが、この馬車は骨模様の馬(スカルノーツ・ホース)という特殊な種類の馬が引いていて、恐ろしく早い。長距離走に優れた馬なのだそうだ。ただ、人が乗れるほど大人しくないという。


「んー、駄目だ! 暇だ! おいロイ、なんか面白い話きかせろよ」


 エドは暇なのが苦手だ。暇さえあれば剣を振ってるか、飯食ってるか寝てる。こうやって馬車に乗ると、本当に騒がしい。寝てれば良いのに。


「なんだ面白い話って……。この間どっかの馬鹿がヘマして、せっかく採取した識者の花(ラプラス・リリディ)を焼いた話とか?」


「人の! 失敗を! 掘り返すな! この陰気野郎!」


 エドが先月のことを思い出してあたまを抱える。


「黙れよ脳筋」


「そうよ脳筋! 黙りなさいよ! あんたのおかげであの時は大変だったんだからね!」


 僕とメディが追撃する。


「しかたねーだろ! ああでもしないと悪食蜥蜴(グールド・ラガン)には対応できなかったんだって!」


「ちょっと、三人ともうるさい。ロイも一緒に騒いだら手がつけれないから、静かにして」


 アイラがぴしゃりと言い放つ。ちょっと声に怒気が含まれている。


 怖い。


「わかったよ……。そうだな、んー、確かに暇だし。じゃあ、ポラリア荒野について予習でもしとく?」


 アイラには不要だろうけど、という言葉は飲み込んだ。優等生タイプのアイラは、こういう依頼の時は下調べを済ませていることが多い。時間のないときはその限りではないが。


 それとは対照的に、エドとメディは出たとこ勝負というか、他人任せというか、地味な下調べを嫌う。


 いつか痛い目を見ると思うが、おそらく五年生のうちにそういったことはないだろう。当然だけど、八年生に近づくにつれて、依頼の難易度は上がっていく。五年生に回される依頼なんて、ほとんどはただのお使いだ。


「お、それ良いな。何気に行ったこと無いし」


「サンセー。ロイ先生、お願いします」


 エドとメディが僕の提案に賛同したので、僕は頭の中からポラリア荒野についての知識を呼び起こす。父さんの本を使っても良かったが、わざわざ取り出すのも面倒だし、こういうのはすぐに思い出せるようにしておいた方が何かと便利だ。


「えっと、ポラリア荒野。約百二十年前に大きな戦闘の舞台になった場所で、そのときに焼け野原になって以来、ずっと植生がない。つまり、植物が生育していない場所だ。元々は割と綺麗な景色の見れる草原だったらしいけどね」


「あん? なんで植物がなくなったの?」


 エドが疑問を挟む。


「原因が完全にわかってるわけじゃないけど、おそらくその戦闘の時に使われた魔法が原因だ、っていう説が大きい。いや、原因というより要因というべきかな。今では禁術認定されている、ポラリア・トーツの魔法が使われたんだ」


「ポラリア系の魔法ってこと? えっと、なんだっけ、絶命魔法? だっけ? ちょっと授業で習ったよね。単に禁術って教わったっけ」


「そ、絶命魔法。具体的にどんな魔法が使われたのか僕にはわからなかったけど、黒い雨が降ってきて、それを浴びた人から倒れていったらしい。ポラリア系の魔法を使った側が、殆ど死んでる敵軍の兵士を、死んでる上から念入りに串刺しにしていったって言われてる」


「げろげろ……。えぐいことするな……」


 エドがどん引きしている。アイラとメディも。アイラなら知ってそうだと思ったけど、ここまでは調べてなかったらしい。


「で、問題はここからで。どうもポラリア系の魔法は大地に残るらしいんだ」


 僕が言ったことの意味がよくわからなかったのか、三人は一瞬沈黙する。エドが首を傾げた。


「大地に残るって、それは、んー、どういうことだ?」


「要するに、その土地そのものの生命力までも殺すんだよ。専門的にはリッチとソウルが関係するらしいんだけど、詳しく書かれた本は僕は読んだこと無い。多分、ポラリア系の魔法が禁術になったのも、それが関係すると思うよ」


「確かに、戦争に勝っても土地がぼろぼろになるんなら、意味ないね」


 アイラが嘆息する。


「ま、そうだな。戦争っていわば土地の奪い合いだし。女をかけた決闘で、女を刺し殺すようなもんだろ。バカじゃないのか、その魔法使ったヤツ」


「エドみたいな?」


「俺は馬鹿じゃねーよ!」


「静かにして」


「はい」


 アイラの絶対零度の視線に、エドが縮こまる。エドをからかったメディはそれを見てちょっと上機嫌だ。


「しっかし、そんなところになんでフィールドワークなのかねぇ」


 エドのぼやきに、僕はぼんやりと考える。


 ポラリア荒野はその筋の専門家にとっては、すでに調べ尽くされた土地だという。ポラリア系の魔法を専門に扱っていたり、リッチやソウルの研究をしている人にとっては。だとすると、別の目的を持った人が様子を知りたがっているのか、あるいはその筋の専門家の間で新しく調べたいことができたのか。


 いずれにせよ、それは僕たちには関係ないことなのだけれど。


「さあ、なんでだろうね」


 僕はエドの言葉にため息まじりに応じ、窓の外を見た。


 傾斜に差し掛かった辺りだった。これから、ウォーガン山脈に入るみたいだ。まだまだ馬車の旅は長い。

識者の花


知恵の象徴と言われる花。言葉やイメージを知識のように蓄える魔法器官を持つ植物で、根ごと持ち帰れば記憶の貯蔵ができる。

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