単純で残酷なトリック
突然目覚まし時計が鳴り響いた。だが三十秒もしない内に音は止まった。
「忘れたか。あの時颯さんの部屋の中では目覚まし時計が鳴り響いた。普通こんな夜中に目覚まし時計が鳴ったら何事かと思って時計が鳴っている部屋に駆けつける。そうやって犯人はドアを開ける役を誰かに譲ることで犯行を犯した」
美咲は名推理を聞き拍手する。
「すばらしいです。でも三分間は目覚まし時計が鳴り響いていました。それだけ時間があったなら自分で止めますよね」
「止めるだろうな。それが犯人の仕掛けた第二の罠とも知らないで。おそらく彼は目覚まし時計が鳴ったことで目が覚めて止めるために目覚まし時計のあった場所に移動した。犯人は目覚まし時計で起きた場合のことも想定して、目覚まし時計をクローゼットの前に置いた。そうなれば至近距離で矢を命中させることができるから」
翔は息を飲んだ。
「それで犯人は誰だ」
「それは分かりません。分かったのは犯人がこの中にいるということだけだ」
翔たちはがっかりした。
だが喧嘩は起きてしまう。推理を聞き洋子と美咲が喧嘩を始めたのだ。
「二時間前といったらあなたが颯君の部屋に行った時間よね。その時に探偵さんの言ったトリックを仕掛けたんじゃない。美咲さんが」
「それならコーヒーを持って行ったあなたたちも怪しいですよ。あのコーヒーに睡眠薬が混入していれば犯行が可能でしょう」
二人は互いを睨みつける。夏海は彼女たちを無視して残った三人に質問する。
「颯さんが部屋に籠った後彼の部屋を訪れた人はいませんか」
その質問に対して瞳と翔と葵は手を挙げた。
「母親だから当たり前でしょう。息子が心配なのは。だから籠ったすぐに部屋の前で出てくるよう説得した」
「こんな時に不謹慎だと思ったがアイドルグループのDVDを返しに行った。確かその後に美咲さんが来たな」
アイドルグループの話は想定外だったが、なぜか千葉葵も彼の部屋を訪れた。この事実に柊たちは不信感を覚える。
「私は源洋子さんに同行しただけですよ。同じ高校の卒業生だという話を聞いて意気投合しました。洋子さんと私は三歳年上なので会ったことはありませんでしたが」
柊たちは納得した。これである事実が断定された。尾形雷助と颯を殺した犯人はこの五人の中にいる。