目覚まし時計と第二の被害者
晩餐会が終わろうとした時だった。突然目覚まし時計の音が館中に鳴り響いたのは。
何事かと思い柊たちは館中を駆け回る。どうやら目覚まし時計が鳴っているのは尾形颯の部屋だ。
その部屋はなぜかドアが開いていた。あやしいと思った柊は三センチしかドアを開けなかった。
しかし瞳は怒りドアを完全に開ける。それに気が付いた颯は怒鳴る。
「開けるな」
その言葉が聞こえなかったように瞳はドアを開けて部屋の中に入ろうとした。
その瞬間どこからか矢が飛び颯の心臓を射抜いた。颯はベッドの上に倒れこんだ。柊は彼に近づく。颯の体は青白いチアノーゼが出ていた。もう息はない。
一方夏海はクローゼットを開ける。クローゼットにはボウガンが仕掛けられていた。
「ボウガンによる射殺だな」
だが柊は夏海の推理に反対する。
「いいや。射殺じゃない。毒殺だ。矢に毒が塗ってあったのだろう」
部屋には目覚まし時計が転がっている。さらにドアノブとクローゼットにはテグスで擦ったような跡がついていた。
(まさかあの方法で殺人をしたのか)
柊の脳裏には単純で残酷なトリックが浮かんだ。
リビングルームに戻った洋子は大粒の涙を流し、美咲を睨みつける。
「犯人はあなたでしょう。婚約していた颯を独占するために殺したんだ」
「そんなことしたって意味がないでしょう。その動機ならあなただって同じじゃない」
重たい空気がリビングルームを流れる。そろそろ喧嘩が起きてもおかしくない。そう考えた柊は仲裁に入る。
「喧嘩は止めろ。それと第二の事件で分かったことがある。犯人はこの中にいるということだ」
柊の言葉に空気はさらに重たくなる。
「外部犯じゃないのか」
「はい。その証拠は第二の事件のトリック。犯人は部屋に籠った颯さんの気を落ちつかせるために睡眠薬入りのコーヒーを飲ませた。二時間くらいで目覚めるように分量を調節して。眠った間にボウガンをクローゼットに仕掛ける。その時に矢に毒を塗ったのだろう。すぐに矢が発射されないようにクローゼットとドアノブにテグスを通しストッパーを取り付けた。後は誰かがドアを開ければテグスは飛び矢が自動的に発射される」
瞳はその推理に納得しなかった。
「そのトリックは誰かがドアを開けなければ不可能でしょう。二時間しか効力が出ない睡眠薬なんて飲ませたところで、二時間以内に誰かがドアを開けるとも限らない。まあ二時間以内に犯人がドアを開ければ犯行は可能でしょう。でも犯人がそんな回りくどい方法で墓穴を掘るわけがない。このトリックは無理があるんじゃない」
柊は首を横に振った。
「いいえ。私たちは犯人に操作されていた」