それぞれの動機
リビングルームに戻った柊は呼びかける。
「皆さんに質問があります。この中で尾形雷助さんを恨んでいる人はいますか」
すると尾形翔が手を挙げた。
「そういえば雷助兄さんと瞳さんは浮気をしていました。とは言っても雷助兄さんが一方的に付きまとっていたようですが」
夏海は翔の証言を本人に確認する。
「それは本当ですか」
「ええ。勝手に浮気して亡くなった主人に悪いと思った。でも美咲さんにも動機はありますよ。雷助さんは美咲さんと颯との婚約を取り消しにしようとしていたからね」
二人は美咲の顔を見る。美咲は慌てた。
「それも事実だけど殺人なんてしたら婚約は取り消しになりますよ。元も子もありません。まあ私が源洋子さんの立場なら邪魔な婚約者を追放するために濡れ衣を着せると思いますよ」
洋子は首を横に振る。
「それならちゃんとした証拠が残っているはず。だから私は犯人じゃない。一番怪しいのは翔さんでしょう。雷助さんに借金していますよね。宝探し大会に失敗してね」
話は再び翔に戻った。
「そりゃあ一番明確な動機があるのは俺だ。だが忘れていないか。一番怪しいのは千葉葵。あんただ。どこの馬の骨だか分からないあんたなら、この館にいる人間を皆殺しにして財宝を独り占めにする気かもしれない。一番怪しくない人が犯人だ」
翔の言い分なら今日初めてこの館に来た千葉葵にも動機がある。しかし柊は納得していなかった。
「千葉葵は犯人ではない。トリックはこの館とその周辺にある林について熟知していなければ不可能だ。この事件は計画性があるから犯人は何回もトリックの練習をしているはず。何回もこの館を訪れた人物にしか犯行は不可能だ」
緊迫した状況にも関わらず翔のお腹がなった。そういえば晩餐会が始まる前に雷助を捜索していたので食事を摂る暇がなかった。
「美咲さん。とりあえず食事をしないか。飲まず食わずだと一夜ももたないだろう」
翔の提案で美咲はシェフに料理を温めなおしてもらった。
三十分も経たないうちにフランス料理が食卓に並んだ。柊はこんな状態で食事が摂れるはずがないと思った。しかし千葉葵と夏海以外の四人はまるで殺人事件が夢だったかのように普通に食事を楽しんでいる。
その光景は異常としか言い表せられない。雷助を恨んでいた彼らにとっては邪魔な害虫が死んだことと彼が殺されたことが同じことのようだ。
この家族は腐っている。雷助が目の前で死んでも彼らは涙を流さなかった。それはこの四人の中に雷助を殺した犯人がいるということかもしれない。
そのようなことを考えながら柊はスープを一口飲んだ。