燃えた両腕と遠隔殺人
すると窓が急に明るくなった。柊は窓から外に出て異変を探す。
「森か」
柊たちは窓の外にある森を駆け抜ける。その時悲鳴が聞こえた。悲鳴の方向からは煙が見える。
「うわぁ」
吊り橋の前には尾形雷助が立っていた。雷助の右腕からはオイルの匂いがする。
「雷助さん。何があった」
「て」
雷助は緊張状態で思うように声が出ない。
「うわぁ」
炎は雷助の左腕にも燃え移る。柊は上着を脱ぎ、炎を消そうとしたが、炎は異常なほど大きいため消すことができない。
そのタイミングで瞳たち六人が遅れてきた。
「柊さん。これはどういうことですか」
「まだ分かりません」
雷助は両腕に燃え広がった炎に驚き吊り橋の上で倒れた。炎は吊り橋に引火。雷助は燃え落ちた吊り橋とともに奈落へと落ちた。
目の前で人が死んだというショックで葵は倒れた。
こうして風雷館は陸の孤島となった。
「とにかく館に戻った方がいいだろう」
柊の指示を聞き尾形瞳たち六人は館へと戻った。残った柊と夏海は森の中を物色する。
「柊さん。これから連続殺人事件が始まるのではありませんか」
「推理小説の読みすぎだ。まあ警察は中々来ないことに変わりはない。ここは事件の真相を調査するか」
柊は雷助が落ちた崖を覗き込む。辺りを照らすと業務用の青いごみ箱が落ちていた。地面からもオイルの匂いがする。まさかと思い柊は夏海に指示を出す。
「夏海君。その辺に何かを転がしたような跡がないか」
夏海は辺りを見渡す。そこには何かが倒れたような跡が残っている。
「ありました。でもそれで何が分かるのですか」
「なぜ吊り橋が落ちたのかが分かる」
柊と夏海は館の方角へ歩きだす。柊は隣にいる夏海に推理を話した。
「おそらく犯人は雷助さんを吊り橋の前に呼び出した。彼が到着する前に業務用の青いゴミ箱に入れておいたオイルを吊り橋の前で倒して地面と吊り橋をオイル塗れにしたのだろう。ゴミ箱を崖下に落とせば証拠は消えるからな」
夏海はその推理に納得しない。
「なるほど。そうすれば吊り橋の前で倒れた雷助さんの両腕に燃え広がった炎がオイル塗れになった吊り橋に引火して確実に吊り橋を落とすことができるということですか。でも二つ分からないことがありますよね。一つはなぜ犯人はこんな回りくどい方法で吊り橋を落としたのか。あの吊り橋は木製。態々オイル塗れにしなくてもライターか何かで燃やすことはできたはず。もう一つはなぜ雷助さんの両腕だけが燃えたのか」
夏海が疑問点を指摘した時柊は風雷館の玄関で立ち止まった。
「でもこれは分かるだろう。犯人は遠隔殺人を成功させた。男や女。アリバイがある人とない人。これは誰にでも犯行が可能な殺人事件だ」